第17.5話
短い話ですが、一応出す必要があるかと思って書いてみました。
それではどうぞ!
修哉が自宅で夕食を食べている頃。
「天城のバカ、天城のバカ、天城のバカ……!」
修哉に竹刀でキツイ一撃を与えた羽瀬川愛美は帰宅して早々、自室に篭って恨み言を並べていた。
「わたくしがどれだけ恥ずかしかったのかを知らずに……!」
やっとの思いで修哉に好きだと告白したにも拘らず、物凄くズレた返答によって愛美の乙女心が粉砕。それにより今の愛美はかなり憤慨している。
「もうあんな鈍感男なんか知りません! 向こうから話しかけられても無視して、それでも何か言ってきたら大嫌いと……あれ?」
今後の事を考えていた愛美だったが、何か思い出したかのような顔になった。まるで今更何か気付いたかのように。
「……わたくしはいつから天城の事を好きになったんでしょうか……?」
そう言いながら愛美は机に置いてある写真立てを見る。それには剣道着を着た愛美と修哉が両隣に立ち揃って優勝カップを持っていた。
その写真は二人が去年にあった剣道の全国大会に出場し、男女別で共に優勝して大会が終わった後に撮られた物。同時に自分と修哉しか写っていない大切な写真でもある。
「そう……あれは確かわたくしが優勝した後……」
『羽瀬川、優勝おめでとう。凄いじゃないか』
『ありがとう、天城。貴方も決勝戦に勝って必ず優勝して下さいね』
『ま、やるだけやってみるさ。けど相手は強豪の一人で、前回負けた相手だから果たして勝てるかどうか……』
『何を情けない事を言ってるんです。わたくしが優勝したのですから、貴方も優勝するに決まっているでしょう。何しろ貴方はわたくしのライバルなんですから……』
『別に羽瀬川とライバルだからって俺も必ず優勝するとは限らないんだが……。けどまぁ、お前にそこまで言われたら何が何でも優勝しないとな。もし負けたらこの先ずっとお前の小言を言われそうな気がするし』
『……天城、貴方はわたくしを何だと思っているんですの?』
『冗談だって。おっ、そろそろ時間か。じゃあ行って来る』
『必ず勝つのですよ』
『分かってる。ちゃんと羽瀬川の思いに答えるよ』
「そして天城が優勝して……」
『優勝おめでとうございます、天城。わたくしのライバルとして鼻が高いですわ』
『あんがと。正直言って負けるかと思ったが……』
『けれどあの土壇場で一気に巻き返したではありませんか。まるで息を吹き返したかのように』
『ああ、それは……負けると思った瞬間、羽瀬川の顔が突然浮かんでな』
『………へ?』
『お前の為にも絶対負けられない、必ず優勝を捧げるんだと一心で考えたら勝てた……ってどうした羽瀬川? 急に顔を赤らめているが』
『な、何でもありません!』
「あんな事を真顔で言われた途端、何故か急に胸が熱くなって………ハッ……」
中学の全国大会の出来事を思い出していた愛美であったが漸く気付いた。
「わたくし……あの頃から天城の事を意識し始めていたんだ……」
修哉はただ思った事をそのまま言っただけであったが、愛美からは一種の告白と捉えていた。
以前までは男子から告白をされても大して揺らぐ事が無かった愛美だったが、相手が修哉だと話は別のようで、全国大会後は修哉の事を考える日があった。数日経ったら元に戻っていたが、修哉と二人っきりになる展開になれば告白の事を思い出して戸惑う時もしばしば。
「最初はただのライバルだと思っていたのに、一緒にいた事によって彼の事を理解しただけでなく……好きになってしまったんですね」
恋愛なんて興味無かった筈だったんだけど、と付け加える愛美。
「………はぁっ。冷静に考えてみると、あの鈍感男には言葉だけで想いが伝わらないと言うのを今更ながら思い出しましたわ」
ただ好きと言っただけでは伝わらないから態度で示さないと、修哉に自分が異性として好きだと証明する事が出来ないと考える。
「ですが流石にアレは頭に来ましたから、何かで償わせないと気が収まりませんし……入部させるにしても、勝負に負けてしまいましたから無理ですし」
入部でチャラにしようと考えた愛美だったが、試合で負けてしまった為にもう入部させる事が出来ないのを思い出す。
しかしどうにか入部させようと必死に考えていると、
「………そう言えば試合中に天城が妙な事を言ってた気が……確か『美人な先輩に教えて貰った』って……ふ、ふふふふふふ……」
途中から黒いオーラを出して怖い笑みを浮かべ始めた。
「わたくしとした事が肝心な事を聞くのを忘れていましたわ。明日、天城が言ってた『美人な先輩』について問い詰めなければ。その先輩によって現を抜かしているのであれば強制的に入部させて、一から鍛えなおさなければいけませんわね……」
先程まで修哉に対して憤慨していたが、今は嫉妬と同時に再度入部させようと画策する愛美であった。




