第13話
あ~~~本当に話が短い。
どうにかして長くせねばいかん。
~修哉視点~
全く。錬の奴は余計な事をしてくれたもんだ。あんな応援されたら何が何でも勝たなきゃいけないだろうが!
「でやあああああ~~~~~~!!!」
バンッ! ダンッ! ババババンッ!
「……っ! ぃやあああ~~~!!」
俺の反撃に羽瀬川が少し押され気味になっているが、それでも負けじと反撃してくる。
『頑張れ修哉~~~!』
『ファイトだよ天城く~~ん!!』
おいおい、錬だけじゃなくて和人と江藤もかよ。江藤はともかく、和人にしてはあんなに大声を出して応援するのは久しぶりに見た気がする。いつも物事を冷静に見ているアイツがあんな事をするとは。
親友にあそこまで言われて負けてしまったら、後で何か言われるかもしれないな。例えば罰として合コンに付き合えとか。
まあとにかく、今は羽瀬川に勝つ!
ググググググッ!
「羽瀬川! 悪いが勝たせてもらうぞ!」
「それはこちらの台詞ですわよ天城! 美人の先輩に現を抜かしている貴方を叩き直さなければいけませんから!」
鍔迫り合いをしている最中に俺と羽瀬川はお互いに勝利宣言する。
ってか羽瀬川、俺が美人の先輩……紫苑さんに現を抜かしているって一体何の事だ? 俺はあの人にそんな風に思っていないんだが。
『頑張って羽瀬川さ~ん!』
『剣道部のエースの意地を見せろ~~!』
『部員じゃない奴に負けるな~~!』
今度は剣道部員達も錬達と同様に羽瀬川の応援を始めた。
確かにアイツ等からしてみれば、剣道部でもない俺が勝ったら面白くないだろう。だがそんなのは関係無い。俺は羽瀬川に勝つ。ただそれだけだ。
「小手ぇっ! 面っ!」
「胴っ! 小手ぇっ!」
パパパンッ! ダダンッ! パンパンッ! ダアンッ!
俺と羽瀬川はお互いに攻撃をしては防ぎ、防いでは反撃をすると言う事を繰り返している。
10分後
「「はああああ~~~~~!!」」
バババババババンッ!!!
『す、すげえ……』
『もう十分近く打ち合いをしてるぞ』
『なのにまだ続いてる……。あの羽瀬川相手にここまで続けられるなんて』
『どうりで羽瀬川さんが天城君を剣道部に入部させたい訳ね。あんなに強いなら是非とも入って欲しいわ』
剣道部員達が何か言ってるようだが俺と羽瀬川は全然聞いていない。そんなの少しでも聞いてしまったらすぐ羽瀬川に打ち込まれてしまうからな。
「はあっ……はあっ……はあっ……。やるな、羽瀬川」
「はっ……はっ……はっ……。そちらこそ」
俺とは羽瀬川は距離を取って対峙し、息を切らしながらも相手を賞賛した。
ってか本当に強いな羽瀬川は。紫苑さんには劣るが、それでも近い実力を持っている。もし羽瀬川が紫苑さんに鍛えられたら、確実に俺を追い越されてしまうかもしれない。
まあ今はそんな事より、問題はどうやって羽瀬川に勝つかを考えなきゃな。俺と羽瀬川の実力はお互いに拮抗状態だから、このまま打ち合いを続けてもただ只管長引いてしまうだけだ。
体力を無駄に使って長引かせるのは一種の作戦でもあるが、俺としてはそこまでする気は無い。恐らく羽瀬川もそう思っている筈だ。だとすれば……そろそろここいらで幕引きと行くか。
「はあっ……はあっ……。なあ羽瀬川。このままじゃ埒が明かないから、ここはいっそ次で決めないか? お前もそう考えてるんだろ?」
「はっ……はっ……。…………良いでしょう」
息を切らしながらも少し考えるように間を置いた羽瀬川は了承し、竹刀を頭上に高く振りかざして構えた。
アレは上段の構え。羽瀬川が最も得意とする構えである。
「へぇ。愛美ちゃんが大会以外でしか使わない上段の構えをするなんて珍しいわね」
審判をやってる部長さんは羽瀬川を見て少し目を見開いている。
「………ならばアレを試してみるか」
そう言って俺はそのまま中段の構えでいく。
「「…………………………」」
『…………………………』
俺と羽瀬川は互いに構えながら無言になってる事に、剣道部員達や和人達も静かになって見ている。
そして……。
「めぇ~~~~~んっ!!」
羽瀬川が先に動いて竹刀を俺の頭に打ち込もうとするが、
「はぁっ!!」
パシイィンッ!
「んなっ!」
俺が即座に竹刀で面を防ぎ、羽瀬川が驚いた直後、
「どぉおおお~~~!!!」
パアアアアンッ!
そのまま胴を……ではなく、逆胴を使って打ち込んだ。
「………ど、胴ありっ! 勝者、天城修哉!」
「よっしゃああああ~~~~~!!!」
審判の部長さんの判定に錬がいきなり雄叫びの様に声を上げた。
~和人視点~
修哉が勝った事により剣道部員の人達は驚いている最中、勝負を終えた二人は礼をした後、修哉がコッチに向かって来る。
「お疲れ、修哉。まさか逆胴を――」
「凄ぇぜ修哉! お前があの土壇場で逆胴を使うなんて予想外だったぞ!」
俺が言ってる最中、鬼灯が遮るかのように修哉に詰め寄って喜びながら賛辞を送っている。
あのね鬼灯、気持ちは分かるけど人が言ってる最中に割って入らないでくれるかな?
「まあ正直俺もあそこまで逆胴が綺麗に決まったのは予想外だったがな。アレはもうぶっつけ本番で使ったし」
そう。修哉が羽瀬川さんに使った逆胴は本来まだ未完成だ。にも拘らずあんなに上手く決まったのは俺も驚いた。姉さんから教わっているからとは言え、過去にあそこまで見事に決まった事は無い。
「何にしても天城君が勝った事に変わり無いよ。けど……」
そう言って江藤さんは負けた羽瀬川さんの方を見る。
『………部長、約束を果たせずに負けてしまい申し訳ありません……!』
『そこまで謝らなくてもいいわよ、愛美ちゃん』
案の定、防具の面をはずした羽瀬川さんは物凄く悔しい顔をしており、剣道部の部長さんに謝罪をしていた。
『確かに貴方は負けたけど、あの天城君はそれ以上に強かった。なら次は負けないようにもっと練習するように。良いわね?』
「……………はい!」
あの部長さん、最初に見た時は江藤さんみたいな人に見えたけど、ちゃんと威厳があるみたいだね。
『よろしい。ではすぐ次の試合をしてくるように』
『へ? 次の試合とは?』
『決まってるでしょう。天城君を入部出来なかった代わりに、ハートを掴むのよ♪』
『んなっ!』
部長さん、さっきまで良い事を言ってたのにちょっと台無しだよ。そんな事を修哉に聞かれたら……ってそんな心配は無いか。当の本人は鬼灯と江藤と話してて全然聞いてないし。




