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28・第陸章 闇漂人……

この章のこの部分だけ、従来通りに読みやすい、一行開けを試しました。

きっつい感じにくっつけておいたほうがよかったかもですが、ちょっと試験的に。


挿絵はオマケ、イメージ崩したくないから出さなかったんだけど……

まぁ、こんな感じってことで。



挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 禄は燃え盛る森を抜けて、目の前に広がる村の惨状に睥睨する。


「なんだ……これは……」


 咲き乱れる桜の木々や、幾多の藁葺《わらぶ》き屋根を噴き上がる炎が襲っていく。その様相は、冥府から人々を飲み込もうと巨大な魔物が顎門で、全てを喰らっているようにも見える。嘔吐催す異臭は満ちて、甲高い悲鳴と軍馬の嘶きが、天空を覆う黒雲へと鳴り響いていた。


 逃げ出す者や、命乞う娘。そして老若男女皆殺しにしようと黒靄から現れる武者が、雷鳴纏ってその全てを斬り殺していく。


 街道から何万という軍勢が蓬莱国へ攻め入っていた。



「鬼子母神退治なんかじゃない。これは……侵略だ……」



 聞いてた話とまるで違う状況に、禄の怒りが悲憤となって吐露される。

 惨憺《さんたん》たる状況に憤《いきどお》れば、統率された武者の一群から各隊に激が飛ぶ。



『焼け! 人を焼け! 抗う者は必ず殺せ! 蓬莱国府まで轢き殺せ!』



 号令一下に呼応し別の隊からも指令が飛ぶ。このまま軍勢が国府へ向かうなら神社や町も通るだろう。ここで防がなければ全てが塵芥に霧散する。禄は錬気を練り、後ろ腰の大鞘の止め具を触り抜刀――誂えた左腰の鞘から〝蓬莱″の止め具も外し、両手に収まる逆手二刀を構えて農道を歩き出した。


 東海道沿いの町村から逃げてきたのだろう民草と、逃げ惑う鉱翔の村人へ幾万の矢が黒雲の如く襲い来る。それらを薙ぐべく、太刀:蓬莱より風波を――一閃――爆風は大地の土砂を巻き上げ、降り注ぐ矢雨と軍勢の一団を天空高く弾き飛ばした。


「奈奈、降りて」


 奈奈は降り立つと、腰に備えた鉈を二刀引き抜き敵を見定める。


「ありがとう、ここで十分だ。あとは……俺の手で終わらせてくる」


「無理!? 一人じゃ確実に死ぬ。巫女の瘴気も抜いてないのに行く末見届けずに死ぬ気か?」


「つまり……茜の魂は喰われていない、って事だな」


 問いに、奈奈は静かに頷いた。


「それが聞けて安心したよ。頼む、あいつを助けてやってくれ。それで、目を覚ましたら――禄は今でも修行を続けている。もう二度と戻らない……って伝えてくれないかな」


 さらに錬気を練り続ける。

 強まる氣が体から噴出し光の蒸気となって立ち昇った。


「最後の最後で、本当に大馬鹿野郎になる気かよ……そんなの自滅じゃんか」

 心寂しげな言葉に笑顔で返し、そのまま蹂躙跋扈する軍勢を見据える。


「俺だって死にたくないさ。でも、全ては俺の無力から始まった。俺が太刀を受けた日から闇が顕れ、周囲に兇変を招き寄せてしまった気がするんだ。俺の無力……いや弱さから、茜を攫《さら》ってやる事も出来ず、凶事から遠ざけたが為にあんな事になっちまった」


「甲斐しょ――禄……それは違う。絶対に違うよ……」


「かもしれない。でも、間接的にでも俺のせいなら、ここらで終《しま》いにしたい。誰かが傷つくのは、もう耐えられない。だから……あれだけ心配してくれた師匠の制止を振り切ったんだ」


「お父は、怒ってない!」


 ――解ってる……大太刀と蓬莱に連動させた俺の練気が、それを教えてくれている。


「それに、どこに居ても連中が狙うなら、往く道全てが闇と漂う穢土《えど》での夭折《ようせつ》なら、この往き様を、俺の最後の我侭を、魑魅魍魎共に、全身全霊で叩きつけてやりたい!」


「禄!?」


「纏わり憑く、うぜぇ闇は――俺が全て祓ってやるッ!」

 二閃――漲る氣を足へ這わせ、爆発する勢いに乗せた早駆けで、禄は軍勢へと飛び込んだ。


「――無事に帰れよな、ちびジャリ師匠!」


 狙うは先陣きって軍令を発する大将首。場所の検討は予想付くが、如何せん堅牢な陣形が行く手を阻む。さらに、そこにいたのは禄の運命を狂わせた冥府の魔鬼、軍勢に混じる闇靄這わす異形の魍魎――不知《シラヌ》モノ。それがいま幾千幾万と故郷を焼こうと襲い来ている。


 ――それが、昂《たか》ぶらせる――


 過ぎる師匠の言葉。

『遠距離は避けろ』

『黒霧《こくむ》の呼びかけが始まる前に抜刀して戦え』


 それに習い、既に抜いた大太刀で、

 大将を探しつつ槍兵目掛け疾走する。


 槍林鎧音の軍勢へ黒霧で一閃――


 存在すら夢幻のように、天を穿った槍の林が落ちていく。


 そのまま地を蹴り、氣の乗る足で軍勢の真っ只中へ飛び込み邪魔な雑林《ぞうりん》を斬り倒す。並み居る武者の頭上へ降臨――兜から兜の上を旋風が立つまま直《ひた》走る。

 走ればその威力に血飛沫が上がる。


 陣形の|遊びを一足で飛び越え、雷雲渦巻き陽光失った現世を、闇に覆われし武者の野を駆け抜ける。


 嘶く軍馬の正面に黒霧を一閃――靄纏う鎧武者、軍馬と後続の兵を巻き込み、人体の上下を半紙の如く分断、血飛沫《ちしぶき》が天を穿つように噴き上がる。


 周りの兵士が振り向けば禄は既に別の場所。


 それでも号令の乱れに、軍勢は槍を捨て抜刀――存在が気づかれる。ただ、それらは未だ人の者。同士討ちを恐れ太刀に迷いが生じる。

 その隙を狙い、間髪容れず駆け抜けながら黒霧で斬り捨てた――


 兵の大多数から黒靄《もや》が漂う。


 一太刀でも浴びて逃げられるならば、斬られた箇所は傷跡として残り続ける。

 心を、氣を、『神』から『虚』へ沈め、非情となって斬り続ける。

 が、声だけは探す。次の軍令を飛ばす大将格の男の声を。


「殺せ! 歯向かう者は一人ぞ! 殺せ!」


 冥府は修羅地獄に落ちれば、このような光景かと戦慄《せんりつ》覚える阿鼻叫喚の地獄絵図。


 その舞台へ亡者率いる悪鬼の如く巨大黒馬に跨り、叫ぶ鎧の大男が軍勢の奥に見え隠れする。


 走り!

 跳ねる! 


 回転様に練り続ける錬気により風殺を四方八方の軍勢へ解き放つ。

 豆腐の如く岩をも斬り裂く不可視のカマイタチが猛威を奮う。


 有象無象の兵を襲えばバラリと音立て微塵に飛ばし、標的の居場所を狂わせ、ここぞとばかりに暴風が噴き荒れる。


 それでも――号令が轟き、仲間もろとも大量の矢雨が頭上より降り注ぐ。


 宙を舞うまま太刀筋を変え、掬い上げの〝風波″を起こし、矢と軍勢を吹き飛ばした。


 荒れ狂う竜巻に翻弄される一団の中、怒声を上げる悪鬼にも似た大男が睥睨している。


 巨大な紫闇の軍馬に括られていた大鉞を肩へ担ぎ、迫る風波を一閃――縦に裂かれた波が左右に砕け、蹈鞴を踏む兵を軒並み吹き飛ばしていく。



「見られたか――だが、見つけたぜ大将さんよッ!」



 闇靄《やみもや》撒き散らす甲冑のモノ――対するは、輝く光を身に帯びた二対長刀担う風のモノ。


 殺気渦巻く戦場で、互いが互いの存在を把握した。



「小童《ワッパ》ァァァ……ッ! 殺せ! たった一人の敵に臆するな、陣形を整えろッ、迎え撃て!」



 一際響く大声は混乱する兵士を鼓舞させる。

 乱れ始めた兵は整然と並び槍を一勢に構え、禄のみを迎え撃つ攻撃態勢で対峙――が、関係御座らん! と、風波をぶち込み人の群れを吹き飛ばす。応じる大男も稚戯とばかり、巨大な風波を自らの獲物で弾き飛ばす。

 

 紫闇《しあん》の鎧、紫闇の馬、紫闇の瘴気。


 片手で握る黒紫色の巨大鉞《マサカリ》は、刃が握りから伸びる支柱に巻きつき、蛇の如く装飾として施されている。巨大な鉈《ナタ》とも大鉞とも取れる不気味な武器。さらに一際目を引くのが、剣先の先端は鎌の如く尖り、敵の首を刈り落とす為だけに突出しているように思えた。


 尋常無い存在は意思とは裏腹に体を萎縮させる。


 しかも状況は更に悪い。


 吹き飛ばし過ぎたが為に周囲に兵がいないのだ。師匠が危惧した状況に、まんま当て嵌まる。


 矢が射られると今の状況はかなり――まずい。


 動かないと始まらないが、巨躯から放たれる異様な殺気に体の何かが反応し動けない。


 下手に動けば一刀の元に斬り裂かれると警戒の感が窮地を示す。


 ――どうする。どうすればいい?


 大男の背後に控えていた一団が大将を避け、禄に目掛けて雪崩れ込もうとする。


 が、邪魔だとばかりに大男が鉞を振るい塵芥《ちりあくた》の如く吹き飛ばした。


 その光景に息を呑む。

 が、どうせだとばかり。


 胸一杯に無理やり大気を吸い込み――禄は咆哮した。


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