序章
序章は行間あけたけど。
次からは歌ったマイク入力のまま、一応気づいた変換ミスはなおしたけど。
きにしない。
というかテストなので、いきなりやめるかもしれない。
正直、他のを呼んだほうが、ザマァ、悪訳例所、勇者PTにいたけど、俺のが凄くて俺がいないと破滅した。ざまぁ。
とかあまりに幼児すぎるので、おもっきり堅苦しく歌ってみた。
電子書籍のはばかっぽいけど。
「どれくらい前からあったんだろうな……」
雨に濡れる古びた鳥居を見上げ、竹細工で器用に拵えた古雨傘をゆっくり回す。
ここ数日降り続く風雨のせいで、お天道様は未だ雲間から拝めない。拝殿へ続く参道には火袋に炎を宿す『献燈』と彫られた燈籠が、参堂の脇へ交互に並ぶ。
ゆるりと歩けば、魔をくびり殺さんと睨みを利かす狛犬が場を制す。
「俺は悪者じゃないからな、動いてガブリはしないでくれよ」
並ぶ樹齢数百と思える巨木と化した杉の大樹。その梢の隙間から覗ける空は鈍い鉛色と化し、いつまでも泣き止まない駄々っ子のように雫を地上へと撒き散らしていた。傘に刻まれた行く筋の破れ目からは冬名残の冷雨が漏れて、容赦なく頬を濡らしていくから堪らない。
今朝から何度目か。漏れる溜息に、歩む足は自然に止まっていた。
参道から境内へ抜け出でる直前で巨大な水溜りが横たわり、街道で咲き誇る桜並木からの花弁が数枚浮かぶままに咲いている。
雨露の来訪者へ皮肉を籠めて歓迎しているようで、少し憎々しい。
ある程度の覚悟を決めて浅場を見極め飛び越えようと試みたが、苦労空しく草鞋に冷たい物が滲んでいく。悪態混じりに拝殿手前の境内へ視線を流せば、左手には御守りや破魔矢を無造作に並べるこぢんまりとした社務所が見えるのだが……。
「あんにゃろ。約束忘れたな」
無人の社に、また溜息が漏れた。
神子を宿した姫神や、連なる神々を祭る古く由緒正しい紘翔神社。そこの娘様は幼馴染であると同時に、巷で姫神の転
生とはやされる神通の力に通じる巫女という。
もっとも、長年の付き合いがある者からすれば眉唾だが。少なくとも逢瀬の約束くらいは神通とやらを使わなくても覚えられるだろうに。
禄はそこでもう一度溜息を衝いた。
拝殿に設置された賽銭箱へ銭を放り、真新しい本坪鈴を鳴らし眼を瞑り神頼み。
「とは言っても何を頼もうか。人生の転機か、地位、名誉?――違うなぁ」
どうせだ。絶対に手に入れられない願いを頼もう。せめてもの手向け、あの見てくれの可愛らしさを裏切る暴れ馬か仁王のような性格が、少しでも直るように祈ってやろう。
「めーずらしい、禄が神頼みだなんて」
唐突な声に息を飲んだ。
社務所と拝殿を繋ぐ渡り廊下から、歩いてくるのは幼馴染の巫女少女。
美しく切りそろえた長い髪を腰まで垂らし、幼さを残す目鼻の整った顔立ちは白装束赤袴の巫女衣装。明眸も艶やかな瞳や楚々とした容姿も愛らしいのに何故か、全てを払拭して立腹の様子だ。
「よ、よぉ、茜。会うたびにどんどん愛らしくなるのに……。なんだご機嫌――」
「斜めにもなるわ! 本当に可愛いなんて思う奴が、暴れ馬だの、仁王様だの、絶対に漏らさない!」
「う、声に出てたか!? ま、まぁ可愛いらしいと思ったのは本当だぞ」
「残念、そこだけ私には聞こえなかった!」
振りかぶる茜が禄に、何かを叩き付けた。
「約束の。ちゃんと私が作ったから」
咄嗟に受け止めた掌にあるもの。それは御守りだった。
――凄え不細工だな。
正直な感想。
確かに、霊験灼かで有名な紘翔社の御守りを一つ依頼してここに来たのだが
。
「お、親父さんたちは、忙しかったのか?」
俺の言葉に茜は片眉を寄せた。
「昨日、また町で……夜中に人家へ押し入って刀で斬り付ける〝障り″があったの」
「障り? シラヌモノとかいう……妖しの仕業か」
返す言葉に、茜の表情は次第に曇っていく。
幼少の頃は見えなかった。町の表通りを歩む時、ふいっと心へ語り掛けるモノがある。
歩き様に脇道へ視線を流せば異形のモノが見つめている。だがそれも束の間、人の瞳が重なると陽炎のように揺らいで消え失せた。
茜の父である紘翔神社の神主は、それを古き黄泉路から冥廟門を越えたシラヌモノと呼び、関連する騒動を〝障り″と聞かせてくれた。
「暴れるのは、いつも互いが見知る家族や親友だって。今回も駆けつけた時には……」
「ただの気を外した者の線だってあるんだろ?」
曇る茜を心配し、障りから遠ざけようと掛ける言葉に茜は頭を振る。
「数日前の祓いの最中、命を断った女の奉公人さんが事切れる前に言ったらしいの、『シラヌモノが……魂を舐めるように抜いていく』……って」
その事件は知っている。隣町の呉服問屋の女奉公人が町の中で凶刃を振るい、十人を殺害という惨い事件があった。結局、茜の父親に取り押さえられ魔を消滅。居合わせた者らが見届けたそうだ。
払いの最中に飛膜翼の紫色の蜥蜴が吐き出されたとも噂で聞く。
妖しは弱った心に語り掛けて蛮行へ誘うというが。
思案する禄に茜が続けた。
「都から障りが国伝いへ広がり始めて、朝廷からも蓬莱での祓いを父に依頼として来たの。今は御役人と休む間も無く町を巡って調伏に出てるよ……」
妖しに憑かれた者は罪にはならない。最後まで妖へ抗った者として、名に疵がつかぬようにする為だ。骸は祓われた後、寺ではなく社の裏へ丁重に葬られる。つまり障りが起これば親父殿は魔祓いだけでなく始終の全てを取り仕切らねばならないのだ。
それがどれ程大変な事か。全てを知るからこそ茜の声にも力が感じられない。
だが、固まる禄をどうみたか。顔を染め上げた茜が体当たり、幅広の賽銭箱に男一人を押し倒し、両手で無理やり押さえつけてくる。突然の行いに力が抜け、腰へ立て掛けていた古雨傘が濡れる境内に転がり落ちた。
「不細工な御守りで、ごめんね!」
「お前は謝るのに、人を押し倒すのか!?」
「それより、御守りや父様の事より、私は禄に聞きたい事があるんだけど」
怒り――というより泣き声に近い非難の声音だった。
「あのね。祝言……もう祝言挙げるって、ほんと?」
チクリ、と胸の奥に刺さる居心地の悪い感覚が懐を侵食する。
上から見下ろす茜を見つめれば、細めた目じりから一筋の雫が零れ落ちて頬を濡らした。
「その話か。相手はさ、凄いんだぜ。なんと守護役の姫様だとさ。俺なんか本来会う事も許されない存在で、顔も知らない。もちろん名前も知らない、何もかもは知らない知らない知らない尽くしを……親が勝手に決めちまった……」
緩む腕。束縛から放たれ頭を掻き毟れば、吐き捨てるような言葉が口を衝いて出る。
「教えてくれ。この状況、可愛い幼馴染としてはどう思ってくれる?」
その言葉に泣き笑い、にも似た複雑な笑みを浮かべる少女が唇を振るわせた。
「幼馴染としては、祝福したいよ。私たちの村からお偉いさんが生まれる。って、村の誇りで……村の自慢で……とても嬉しいよって。でも……」
胸元に置かれた指先が、俺の直垂へ縋るよう力となって籠められる。
「でも、その人を、大切に想ってた人の気持ちはどうなるのかな……って。子供の頃から祝言をあげて夫婦になる……そう言ってくれた言葉は……どうなるのかな……って」
雫が幾つも幾つも流れ落ちていく。嗚咽を漏らす少女に掛ける言葉は見つからなくて、せめてと濡れる頬を拭うしか出来ず唇を噛み締めた。
崩れる茜は胸の中へ顔を埋め小さく嗚咽を漏らしていく。よく見れば瞳も赤い。聞き及んでから泣き腫らしてた事など容易に想像がつく。
雨垂れの音と、風擦りで鳴る梢の囀りだけが場を支配していく。
ゆっくりと、時間だけが流れて……。
「拝殿と本殿が立て直された時ね……色々な御神体が運び込まれたの」
「え?」
「遠く都から離れたこの国も健やかに繁栄するようにって、帝様が八尺瓊勾玉を模した御神体を賜わられたんだって……それに祈ったら、私の願いも叶わないかな」
「願いなんて、当てにならないさ」
「幼少の頃にいた、禄の初恋の子が……祈っても帰ってこなかったから?」
当て付けか、人の胸元で遠慮なく涙を拭く。何か文句の一つをと口を開いた頃合を見計らわれたらしい。茜は雲間から覗く春の陽光のように温かな笑みを覗かせた。
「模造品でもいい! 霊験灼かそうだから、それでいいの! 一応、私も祓いの巫女だし、幼馴染だし、今なら、今なら禄の幸せを祈ってあげられる」
「むしろ破談になるよう願ってくれないかな」
その言葉に吹き出し、声も顕に笑う少女を見つめ、自分がいかに彼女へ惚れていたのか思い知らされる。彼女と逃げ出していれば、穏便に断る策を講じていればと、後悔だけが先に立つ。 賽銭箱から退いて、拝殿へ作法に則った祈りを捧げる少女の脇で、禄も同じ様に行く末を静かに祈っていた。
「紘翔神社に祀られし五柱の神さま、禄が……私……幸……暮らせますように……」
届く言葉と届かぬ言葉。それに興味を持ち、祈り終わった茜へ振り向くと、優しく抱きつかれ唇に柔らかな感触を重ねられていた。
鼻腔へ染み渡るのは、清純で、それでいて甘酸っぱい雪灯篭の梅香り。吐こうとしていた息は吐き出せず、しばしその余韻に浸る事になる。
「そのお守り、禄が幸せになれるように丹精篭めて作ったんだから生涯無くさないでよね」
離された唇から顕れる最初の言葉がそれだった。
「まぁ……がんばってみるさ」
「守護代って、戰が始まったら先陣きって戦うんだよね。みんなを守る為にいるんだから、無茶もするだろうし、討ち死にしやすいよね。もしかして……早めに忘れるほうが利口かな」
「おいおい知らないのか、俺はどんな状況でも生きて帰れる漢なんだぞ?」
「守護役の姫っ子のところへでしょ」
「聞いた話じゃ公家には妾ってのがあるらしいぜ。これでも俺は女性の扱いは心得た物さ。だからどうよ、後から来ないか?」
気障に髪を掻きあげれば、どこから出したのか大幣で顔を叩かれた。
「祓われる前に、さっさと帰れこの色魔!」
茜は傘も持たずに降りしきる境内を進み、中央でやおら振り返り大声で言い放った。
「私、これからも禄のこと……ずっと嫌いじゃないからね!」
「ま、回りくどいなぁ……素直に俺に惚れてるって言えよ!」
びしょ濡れになる茜は舌を出して、社務所へさっさと入ってしまう。
「ありがたい神社の御守りを頼んだのに、貰ったのはお前の気持ちと、お前の拵えてくれた生涯持ち続けなきゃならん小袋か。こいつはさぞ霊験灼かな御守りになりそうだ……」
守り袋を懐へ大事にしまい、横倒しに濡れる傘を掴んでバサリと開く。
一段と強くなってきた雨の中へ飛び込み、禄は拝殿を振り返っていた。
「神様よ……本当に存在するなら今すぐとは言わないけどさ。この話、破談にしてくれよ。望んだ女は一人だけなんだよ」
祈っていた想いは口を付き、
「それとも――それがあんたの俺に対する望みなのかい?」
唇を噛みしめ歩き出す。ボロ傘からは、相も変わらず雫が垂れて落ちていく。
境内から参道に向かう道は、窪んでしまった石畳のせいで水溜りと言うより、ちょっとした池になっていた。
「童子の頃、ここで……初恋の子と転んだっけなぁ……」
そんな事を呟きながらも、このまま歩いて行くべきか暫し迷う。
ふと空を見上げれば、春風が出始めたのか南東から野を駆ける狼の群れの如く雨雲が流れていく。その中に気配を感じ視線を流せば揺れる御神木の枝に、ぼんやりと見た事も無い巨大鷲が雨宿りと洒落込み、猛禽類特有の眼光でこちらを見つめていた。
くわばらくわばらと視線を逸らし、横たわる水溜りに溜息を投げ掛け結論を出す。
――こんな道はあきらめよう――
巨木と化した杉が立ち並ぶ参道の脇を、森の小径が街道へ抜け出るように伸びていく。
困難な眼前の道を行くよりも、そちらへ向かえば何の苦労も無いじゃないか。
禄はそれ以上迷う事も無く、心の赴くまま森の抜け小路を選ぶのだった。




