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聖女扱いの第四王子ですが、天才剣聖の少女に翻弄されています  作者: MagicFactry


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35/35

第35話 一緒に斬ろうか、世界

第35話です。

王都の中央広場。


砕けた核の残滓が、最後の抵抗のように渦を巻いていた。


黒霧は完全には消えていない。

中心を失い、散りながらも、なお街にしがみつこうとしている。


その前に、二人は立つ。


リュシアン・アストリア。

フィアナ・カルディア。


「これで最後だね」


フィアナが剣を肩に担ぐ。


「ああ」


リュシアンは細剣を静かに構える。


怒りはない。

焦りもない。

ただ、決めたという静かな強さだけがある。

黒霧が形を変える。


人の影。

ささやき声。


――選ばれたい。

――認められたい。

――奪われたくない。


消えない声。

リュシアンは目を逸らさない。


「悪意は消えない」


呟く。

フィアナが横目で見る。


「うん」


「だが」


細剣に、淡い光が宿る。


「どう在るかは選べる」


フィアナが笑う。


「じゃあさ」


一歩、前に出る。


「一緒に斬ろうか、世界」


世界。

黒霧だけではない。

嫉妬も、恐れも、弱さも。

全部ひっくるめて。

リュシアンは小さく笑った。


「随分と大きく出たな」


「大きい方が楽しいでしょ?」


黒霧が二人へ襲いかかる。

フィアナが駆ける。

銀の軌跡が、闇を裂く。

リュシアンが続く。

細剣が白い線を描き、斬撃を重ねる。

二つの光が交差する。

黒霧が悲鳴を上げる。

囁きが、最後の抵抗を試みる。


――失うぞ。

――奪われるぞ。


リュシアンは踏み込む。


「失うかもしれない」


認める。


「それでも」


フィアナと視線が合う。


「選ぶ」


二人同時に、最後の一撃を放つ。

轟音。

光が広場を満たす。

次の瞬間、黒霧は風に溶けるように散った。

空が、澄む。

王都に、静寂が降りる。

兵たちが息を呑み、やがて歓声が上がる。


だが二人は、それを遠くに聞きながら立っていた。


「終わったね」


「ああ」


フィアナがふらりと揺れる。

リュシアンが咄嗟に腕を伸ばす。

抱き寄せる。

軽い衝撃。

彼女の額が、胸に触れる。


「おっと」


「無茶をするな」


「お互いさま」


見上げる瞳。

曇りのない笑顔。

その瞬間、胸の奥が満ちる。

もう、迷わない。

リュシアンはそっと彼女を抱きしめる。

強すぎず、だが確かに。


「リュシアン?」


問いかける声。


彼はわずかに身を引き、彼女の額へ軽く唇を落とす。

触れるだけの、静かなキス。

風が二人を包む。

フィアナが目を瞬かせ、やがて顔を赤らめる。


「……いきなり」


「今度は逃げないと言った」


小さく笑う。

彼女も、くすりと笑う。


「じゃあ責任取ってよ?」


「もちろんだ」


遠く、王城の塔の上。

密偵がそっと記録を閉じる。


――聖女殿下、剣聖殿を抱擁。

――額に接吻。


報告はすぐに、三人の兄へ届くだろう。


豪快な笑い。

茶化す声。

短い忠告。


想像できる。


「兄上方に知られたら面倒だな」


「え? もう絶対バレてるよ?」


フィアナが笑う。

リュシアンも、肩をすくめる。


「だろうな」


王都の空は、青い。

悪意は消えない。

だが今は、静かだ。

リュシアンは、彼女の手を握る。

離さない。


「フィアナ」


「なに?」


「これからも選ぶ」


「うん」


「君を」


彼女は、まっすぐに笑う。


「私も」


風が吹く。


新しい空気が、王都を満たす。

聖女と呼ばれた王子は、もう偶像ではない。

剣を握り、選び、隣に立つ。


そして。


世界を斬るのではなく。

世界の中で、共に生きる。


その一歩を、踏み出したのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

これにて第1部完結です。

いかがでしたか?

感想、リアクション、評価などよろしくお願いします☺️

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