ぶち、しろ、くろ。
挿絵があります。不要な方は非表示でお読みください。
それは、大きな器だった。
全体は緑色をしている。その色にも薄いところや濃いところがある深めのお皿で、ワンポイントとして魚の絵が描いてあった。
「リン、これなぁに?」
ここは、ぼく達の住むマンションの近くにあるママさんの実家だ。ぼくとユキがママさんにくっ付いてやってくると、日当たりの良い窓際にそのお皿はあった。
人間の大人が、カレーライスや丼ものを食べるのに使いそうなサイズだ。
ぼくは「なんでここにあるんだろう?」と思った。うっかり食器棚に入れ忘れちゃったとか?
「おじいちゃんがくれたんだよ」
体は大きくなってきたのに、まだまだ子ネコのリンの応えは的外れだった。
うーん、とにかく、これはリンのもので、ここにあるんだから寝床ってことで良いのかな? 覗いてみると、小さな布も敷いてあるし。
「じゃあ、おじゃましまーす」
ママさんは両親と話をしているみたいだし……と、ぼくはそのお皿に入ってみた。日向にあるからか、ほんのり温もりがあって気持ち良い。
最初は驚いたけど、結構いいかも?
「一緒に入れて?」
すると、ユキがやってきて言った。お皿は大きくてまだスペースに余裕がある。もちろん「良いよ」と返事をすれば、ユキはぼくの上にちょこんと乗るようにして収まった。
今日は天気が良いし、くっ付いているとやっぱりあたたかいなぁ。眠たくなっちゃうよ。
「リンも、リンも!」
ところが、今度はリンが入れてと言ってきた。自分の寝床をひとに取られたくないのか、もしかすると一緒に寝ているのが羨ましくなったのかも?
「三匹も入れるかな?」
ぼくとユキが首を捻っていたら、リンは返事を聞く前に入ってきてしまった。さっきも言った通り、リンはもうぼく達を超える大きさのぶちネコだ。
それがわずかな隙間に体を押し込もうとしてきたので、ちょっと大変だった。
「あったかい!」
「……きつくない? ユキ、大丈夫?」
「うん。リンも嬉しそうだし、ナオは?」
「へーき」
潰れちゃうかと思ったけど、落ち着いてみたらそうでもなかったから、まぁいっか。
◇◇◇
「ナオ、ユキ、そろそろ帰りましょう……あら? ねぇ見て?」
「んん? 妙に静かだと思ったら……」
「あらあら」
ついつい話し込んでしまっていた私と両親は、窓際を見て揃って驚いた。
そこには、お皿の中で眠る三匹の猫の姿があった。それも、ぶち、白、黒の順で綺麗に折り重なっている。
「ふふっ」
しばらくは見守っていたけれど、私達はとうとう吹き出してしまった。
だって、あれではまるっきり猫のトーテムポールだ。しかも一番大きいリンが最上にどーんと陣取っていて、小さなユキやナオが一生懸命支えているのが……失礼ながら可笑しくてたまらなかった。
「ふふふふっ……あぁ、そうだ」
私はそっとスマホを取り出して猫達を撮影し、画像を家族に送信したのだった。
……待ち受けにもしちゃおうっと。




