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第25話 金貨十枚は諭吉十枚

 事の発端は単純だった。

 クローリが料理を手伝うと言って、自身の魔法をキュールに披露して肉を最大火力で焼いた事から始まった。

 魔法の発動は成功し、たしかに肉は焼けたのだが火力を安定させる事はできずに天井が黒く焼け焦げている。

 この惨状を目の当たりにした魔王は次第に目つきが変化していく。


「肉がない……そんな馬鹿な!」


 魔王は狼狽えた声を出すと、人一倍に肉料理を堪能していただけに、この結末は衝撃が大きい事だろう。クローリを壁際まで追い詰めると、壁を叩いて俗に言う壁ドンの立ち位置で魔王は怒りの矛先をクローリに向ける。


「どうしてこのような愚かな振る舞いをしたんだ!」

「私はキュールの手伝いをしただけよ! あんたこそ、その魔力は一体……」


 ヒスクやキュールは魔術師ではないので、魔力の感知はできないが、クローリは魔王から魔力を直に感じ取っているようだ。


「返答次第では、貴様のその肉を屠ってやる」

「何言ってんのよ。私は女同士の趣味はないわよ」


 魔王は怒りが収まらずに魔族の血が自我を失いつつあるのに対して、クローリは意味を履き違えて捉えている。

 このままではまずいと感じたヒスクは咄嗟に機転を利かせて、この場を収めようと必死になる。


「肉なら大丈夫だ。新しいのを街で買いに行くからさ」


 それを聞いた魔王はヒスクに振り向くと、こちらの財布の事情を熟知しているようだ。


「嘘つけ! そんな余裕がないのは知っているぞ」

「あんた達……肉も買う余裕がないの? それなら、私が最高級の肉をご馳走してあげるわよ」


 呆れたクローリは懐から金貨が入った袋を取り出して、魔王に金貨十枚を提示する。

 それを見た魔王はクローリの腕を握って興奮した状態で詰め寄る。


「金貨十枚って事は諭吉十枚だよな! お前……そんな金を肉に使ってもいいのか?」

「宿代だと思えば、別にいいわよ。ユキチと言うのは意味が分からないけどね」


 金貨十枚で魔王は自我を取り戻して冷静さを取り戻すと、そんな大金で夕食を豪遊してもいいのかと心配になってしまう。

 クローリは金貨十枚を魔王に渡すと、諭吉の意味は当然分かる筈もなく首を傾げる。

 とりあえず、魔王の機嫌は戻ったので安心すると、クローリは肝心の肉が売られている場所に言及する。


「でも、肉を売っている店まではこの村から遠いわよ。戻ってくる頃には夜更けになってしまうわ」

「それなら問題ない。魔法で移動するから、すぐに買って来れる」

「魔法で? あんた、長距離の移動魔法はヴィラール家の人間でも難しい高度な魔法よ。そんな簡単にできる筈が……」

「ちょっと買い出しに行って来るから、夕食の準備よろしく!」


 魔王は金貨を握り締めて、瞬間移動の魔法を唱えると一人で街まで買い出しに行ってしまった。

 普段から見慣れた光景なのでヒスクとキュールは特に驚きはしなかったが、クローリは腰を抜かしてしまった。


「な……何なのあれは!? とてつもない魔力が凝縮されたと思ったら、それをいとも簡単に制御して魔法を発現させるなんて信じられない。ヒスク、あんた達は何者なのよ!」

「えっと……どこにでもいる村娘かな」

「あんた、それ本気で言ってる? 納得できる説明をしてもらうわよ!」

「まあまあ、それより台所を片付けて夕食の準備をしよう。キュール、割れた食器はこっちに集めてくれ」


 ヒスクに疑いの目を向けるクローリだが、ヒスクは話を逸らして台所の片付けをキュールと始めた。

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