1章 守るための光
1章 〜2100/4/20-22〜
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「はぁ……はぁ……はぁ…。」
深夜の都内ビル街。1人の少女が隙間を縫いながら走り続ける。肩と足には怪我を負っていて、血が滲んでいる。しかし今ここでは止まるわけには行かなかった。百メートル程後ろでは拳銃の発砲音が鳴り響いている。
「まだ……ついてきてるの………?」
ドアの裏に身を潜めて後ろの状態を確認するとそこには四、五人の人間と狼型の人口知能物体が波のようにこちらに向かってきている。
「……おいおい。ま〜〜だ渡り鳥ちゃんは俺を困らせるのかなぁ????」
追っ手は挑発するかのように声を掛けながら、人と人工物で五十を超える数でこちらに向かってきている。相手に向き合うのは100パーセント勝機は無いだろう。
しかし少女は、ここで諦めるわけにはいかなった。
多数の敵に対して背中をむけ、痛みの走る足に鞭を打って走り続ける。
(……絶対に……負けないんだ……。何としても、あの街まで逃げ切らなきゃ…。)
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「おい…、ハワードの小娘はどうした?」
「タンサクハンイ、カラ、リダツサレ、マシタ…。」
ババン!!!!
拳銃を持った白衣の男は、人工ロボに弾丸を数発叩きつける。その後男は無線を取り出し部下と人工ロボに指示を送る。
「……何としてもあいつを見つけ出せ。計画はβ段階に進める…。絶対に生け捕りにしなさい!!」
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新しい風に乗っているこの時代では、時の流れに乗って様々な物、出来事、が変わっていく。
それによって消えて行く物、生まれてくる物がある。
それでも木々から漏れる木漏れ日の温もりは、相変わらず人の心身を温めている。
15歳の神楽遥希は部屋のベランダで外を眺めていた。
早く目が覚めたので、久々に夢に見た懐かしい記憶に想いを馳せていた。
まだ頭が半分寝ている所に木々が風に揺らされ、その隙間から心地いい光が全身を包みこんできている。
「……ふあぁー……。」
あの日の朝と同じ様な、内側から温まっていく感覚を感じながら時計を確認する。
(待ち合わせまでまだ二時間かぁ……、もう少し布団に居ようかな……。)
優しくさえずる小鳥たちの鳴き声と体の芯まで伝わる温かさは再び少年を夢の彼方へ連れて行った。
「三ツ葉ー。今日は早起きするんじゃなかったのー?」
「う…ふわぁ……。いま起きるよー。」
武智三ツ葉は布団から起き上がり、時計を確認するとまだ五時半を回ったところだった。
(朝稽古でもないのに幾ら何でも早すぎでしょ……。)
身なりを整えてからリビングに向かうと、テーブルにはスクランブルエッグとトーストにチーズ納豆を挟んだサンドイッチが用意されていた。マイペースな母親なのに、やけに用意が早い。
「今日は朝早いんだっけ??仕事か何かあるの??」
席についてグラスに注いだミルクに手をつける。
「いやー、だって三ツ葉が遥希くんに朝に呼ばれたって言うじゃない??」
「ごぶぁっっ……!なんでそんなことでこんなに早く起きてんのよ!?」
「だってぇー三ツ葉がとうとう乙女になったのかなあ、なんて思ったらうきうきしちゃってさあー。」
母親の話を聞いて咽せる三ツ葉を見ながら母親は口笛を吹きながら自分の食事を作っている。
「ただの相談だよ。望海と三人で話がしたいんだとさー。多分、今度の実験レポートとか占いのこととかだと思うからそんな浮いた話じゃ無いわよ……。」
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はるか昔から工業と自然が共栄した都市であり現在は特需特区指定を受けた《神流崎市》。
10年前、世界では資源の枯渇から生じていた『世界資源戦争』が5年の期間を経て終結した。資源を持つ国と持たない国で二分した史上最大規模の戦争は、世界人口の0.5%が戦争関連死という血みどろの争いとなった。最終的には、元凶である中東が崩壊、欧米勢力による資源管理の誓約が交わされることで収束することになる。一方、日本では、僅か開始1年で中立宣言を出して早々に資源争いからの離脱を決めたのだった。これは世界中から疑問が溢れてきたのだが、公式には、『国民の安全と平和を第一にするため』としか答えることはなかった。
しかし、実際にはここから日本という国の新たな時代『新世紀』の始まりとなったのだ。
朝8時。ここは神流崎市の北部に当たるn1学区。望海の使っている通学路は山からの吹き下ろしが通る為、春になってもまだまだ寒く感じる。この風がやってくる先には俺らが通っている学校であり、革新技術を開発、次世代に享受している《ATA》が山に沿って大きな存在感を海側に向って放っていた。その光景は、最先端科学の周りを森が囲んでいるという、想像するとあまりにミスマッチな気もするんだが、なぜかここでは共存しているかのような調和のとれた空間のように感じられる。
その校門の正面からまっすぐ、1キロ位のところで神楽遥希は待ち合わせをしている……はずだったのだが……。
「あいつ……一体いつになったら来るんだよ…。」
…今回の誘い主である神楽 遥希が待ち合わせの時刻を15分過ぎてもやってこなかったのだ。
科威 望海は、遅刻は今回だけでは無かったが、自ら指定した時間まで遅刻するというのはいささか度が過ぎてるだろ、と心なかで親友にケチをつけつつ、朝の冷えた風に身を震わせていた。
一方で、隣には望海以外に呼ばれていた、幼馴染で武闘派の武智 三ツ葉が時計をチラチラ見ながら、殺気を漂わせている。
「ゔゔあぁぁぁぁもう、ノゾミの言う通りならあいつは来たら関節技確定でいいよね??」
「あー、うん…程ほどによろしくね。殺さない程度に…。」
遥希は死亡フラグだな、と先ほどのケチは撤回…。親友の無事を願うことにして、ケータイをいじって朝のニュースをチェックする事にした。
すると、三ッ葉がさっきの勇ましい発言の直後、
「はぁ〜っ『くちゅん』。」
本人は嫌らしいのだがとんでもなくギャップのあるくしゃみをぶち込まれ、思わず吹き出すのを必死にこらえた。これは、何か話題を出さないと笑いを隠せないとおもったので、
「みっ…三ッ葉は一体いつからここにいたのさ?、あいつが遅れるのは初めてじゃないんだし。」
「先週言ってた待ち合わせの時間が思い出せなくて…7時にいれば確実かなあ、なんて思いまして…。」
道場の娘である三ツ葉は体型も女子にしては頑丈そうだが、朝方の冷え込みだとしんどいらしい。そんな三ッ葉に望渼は、
「それなら連絡くれればまた教えたのにさあ。もう前みたいにケータイないわけじゃ無いんだし。」
「あっ…たしかにそーだね…。」
三ッ葉は自前のケータイは持っていなかった。しかし、学園の四年次になると全員に電子端末が支給される。その為、連絡が出来たのだがまだ慣れてないらしく、すっかり忘れていたらしい。
「まだ二人に電話してないから時間あったらしてみるよ。」
「それなら今度は、遥希にモーニングコールしてくれるとすごく助かるかな。」
そんなやりとりをしながら、三ツ葉が指を鳴らして待っている中、遥希は眠気まなこを擦りながら、フラフラこちらに向かってきた。
「お〜ノゾミ〜い、おはよ〜うぅ…。あっ、ミツバもいるね〜ぇ…ふわぁぁ……。」
基本的に朝の思考回路はショート気味な遥希は、このような状況であっても行動と言動がマイペースだった。その結果……。
「じゃあ今日は関節決めでいきますかああ!!!」
「ふぇ???!!!うぎゃあぁぁぁ〜〜〜〜!!!」
挨拶早々、三ツ葉の関節技が遥希の肩に決まる。
「いだたたたあああっ!!!!」
「なによフワァ〜って。あんたどんだけ待たせてんのよっ、時間決めておいてあんたは何様じゃー!?」
「流石に三ッ葉も朝から一時間待ちは辛いですよねえ…。」
「ちょ…ちょっと三ッ葉、それどーゆーことだよ!?俺は8時っていわなかったっ…いだだだだっっ〜!?!?」
「遅刻下くせにしのごの言うなーっ!!」
遥希は三ッ葉の関節技に遥希が喚きながら、最後は土下座……、ここ数週間ですでに4回目で見慣れた風景になりつつある。
「ったくもう、話しがあるからって遥希が朝集めたのにどーするのよ?なんか大事な話があるからだったんじゃないの??」
「う……ん、なんか思ったよりも短く済みそうだし、あさ寝坊してしまったんで、とりあえずいつも通り昼に話すよ。場所は『サンライト』にしょっか。」
三人は入学以降、なるべくいつも昼休みを一緒に集まっているのだが、学園にはファストフードの『サンライト』、カフェの『ムーンライトカフェ』、そして定食の『星刻堂』という3つの学食がある。三人とも好みはバラバラなのだが、どうやら三ツ葉がたくさん食べるのを考え、遥希が気を使ったらしい。
遥希が起き上がると、正面に見える学園から予鈴の音が風にのりこちらまでとどいてきた。
「あのーー、そろそろ行かないと本当に遅刻になるんでいきませんかー??」
「そーだね、じゃあ次遅刻したら関節の無事は保証しないからねー。」
「ほんと…すんません…。」
「そーいや遥希、一限たしかエネルギー法則実験じゃなかった?」
「あーー、ってそれって確か最上階だったよね??」
「頂上まで200メートル坂道ダッシュってとこじゃない??」
中高大一貫のこの学園では下から上まで、およそ200メートルに及ぶ山の斜面にある。そして、三人とも四年次なので、個人時間割を組む単位制を採用しているため、ここの学生は次の教室を把握して置かないと遅刻確定なのだ。
「ってなんで知ってて教えてくれないんだよう!!」
遥希は物凄く喚きながら猛ダッシュで校門から実習室までむかって行った。
⑵
チャイム1分前、遥希は教室になんとか駆け込んで間に合って席に着くと、隣には黒須 魁斗が笑いながら話しかけた。
「おせーよ遥希、もう2週間で3回も遅刻してんのにまだするきかよ?」
「ウッセーよ魁斗、てか一週間で半分も被ってるとかもはやストーカーでしょ。」
この学園では自分達でカリキュラムに沿って自分達で時間割を作成している。そのため基本的にお互いの授業がかぶる事は少ないのだが、なぜか魁斗とは腐れ縁の如く毎日一コマ以上被っていた。
「ストーカーはないだろ…。そりゃたまたま運が悪く被っただけ。まあでも仲のいい奴が一週間の授業のうち半分も一緒なのは心強いってもんだよ。」
「まっ、まあ知らない人も結構多いもんなぁ。」
ここで、キンコンカンコンと昔から変わらない学校のチャイムが鳴り、担当の先生がやってきた。すると、前二つのテーブルをみて、
「おお、お前らまた揃って俺の授業かい??」
「「好きでここにはいないですよ!!!!」」
「そろっていわれてもなあ…、まあとにかく授業を始めるぞ。今日は、アークストーンの歴史と定義についてから入るからな。」
担当の先生が2人を茶化しながら、黒板にペンを走らせはじめた。
この学園では、10年前まで起きていた世界資源戦争の時に開発され、世界で唯一国家機密の新エネルギー変換法則《ARCH》と呼ばれる技術の最先端研究機関である。そして、その技術を次世代に繋げる教育機関の為、国家随一の設備と独自の教育体制を備えている。
まず最初に取り上げたのは、《ARCH》との歴史についてだ。それは、日本で開発された新たなエネルギー変換現象の一つであり、日本最高機密の一つである。ARCHの由来はそもそも、戦時中にある所在不明のベンチャー企業「gxs」が国と提携し《アークストーン》と呼ばれる小型空間エネルギー変換装置を発表した事からだ。それにより………。
授業の途中、突然魁斗が俺に小声で、
「なあ遥希、このgxsって会社は何者なんだろうな?」
「これも、学校では深く教えてくれないとこなんだよねー。いろいろ機密事項の多い分野みたいだし。」
この新たな技術の総称でもあるARCHにはこの専門機関でも幾つかの秘密事項が存在する。主な例としては、ARCHの現象自体の仕組みは学ぶが、アークストーンの仕組みは一切扱われず、ARCHを引き起こす唯一の装置という事が定義として学習する。ARCHの開発会社である『gxs』に関しては名前以外の全てが秘密となっている。これが国家機密の現象を教育をするという限界であり、この政策の闇の部分だと通い始めて四年目で感じるようになった。
このストーンの存在は未確認だった空間エネルギーを利用するという世界のエネルギー法則が覆される事になる。一方で、資源を他国に依存している国家にとっては非常に重要なものとなりうる可能性を秘めていた。発見は世界資源戦争において、自国にとってメリットにも、デメリットにもなり得る。その結果、この装置の存在は最先端の情報統制によって国外への流失を完璧に断絶し、戦争からも先に中立宣言を行うことに至った。ただ、このエネルギーが表に出ないまま普及した事により、世界的に日本は原因不明の成長を続けていると見られている。
「なんか歴史って言っても謎が多いままってのも不思議だなあー、って遥希聞いてないし…。」
正直遥希はわりと勉強は予習してしまうため、授業はあくびをしながらも、何故か本人は外に興味があるらしくずっと外に視線を送っていた。
「今明らかに違う何かが通ったな…。」
すると遥希は自分のバッグから一枚の紙を取り出すと一瞬、その紙が光ると手元を離れ、四つに別れて窓から抜けていった。
授業が終わり教室を出ようとした時、廊下に見慣れない金髪少女が通り過ぎた。
(外国人??この学校が受け入れるはずないよな…。)
「…おい遥希、そういや、転校生が来たって知ってるか?」
「転校生??この学校って受け入れてんのか??」
「それが、なんか学園長の娘らしくて金髪ハーフらしいんだよね〜。」
「あー、いま廊下通った子か…ってお前、まさか早速ナンパするきかよ??」
「さすがに学園長を敵に回すことはしないさ。ただ、声をかけようにも直ぐに居なくなっちまうんだよなあ。」
それはお前が悪いんじゃないかと思いつつ、とりあえず昼に2人にも聞いてみようと決めたところで、区切りよく二限を知らせるチャイムがなった。
⑶
新世紀と呼ばれるこの時代でも体力は重要な位置づけになっている。科学の発展に加え、ARCH
を発現させるには、アークストーンのエネルギー源、即ち人間の代謝が深く関わる為にこの学校では通常の学校よりも体育が多くなっている。
午前中の学園、第二グラウンドでは、春の暖かな日差しのもとに多くの生徒が体を動かしている。
「三ツ葉っち、今日はお昼空いてる??」
「あー、今日は遥希達となんだ、ごめんね。」
「ほーう、三ツ葉っちはまた男共をたぶらかしてんのかなー??」
「だから違うんだって。なんだかんだあいつら一緒じゃないと事故ばっかりおこすんだから見張っておかなきゃなんだよー。」
三ツ葉の1限は体育の陸上競技。今日は前回が雨で潰れたので、周りの女子達が文句を言いながらの体力測定。すると、短距離の測定の時に隣に金髪の女子がやって来てスタートラインに並んだ。
「よっ、よろしくお願いします!」
「おおっ、転校生ちゃんだ。手は抜かないぞー。」
そして、先生の合図を出すと、一斉にスタートする。三ツ葉がそこで抜け出せるはずだった。だが、
(この子、私についてくるの!?ここの学校じゃ、ダントツの私が!?!?)
見た目は完璧に外国人転校生な彼女は、三ツ葉に最後まで食いつき僅差でゴールした。
「あんためっちゃ早いじゃん。前の学校で何かやってたの?」
「あっ、はい。前は陸上で短距離をやってたので…」
道理で早いわけだ、とおもいつつ上から下までを見てみる。上から下まで出る所、凹むところがはっきりしている。
(女子力MAXなのに身体能力でも差がないなんて……)
「あっ…あのー……。」
「へっ、あーごめんごめん。私は武智 三ツ葉って言うんだ。三ツ葉でいいわよー」
「こ、この間、転校してきました、スバメ ハワードって言います。スバメって呼んでください!」「スバメちゃんかあ。なんか可愛い名前だねー。ハワードってことはやっぱり、学園長の…」
「はい、私のお父さんでして今回特別に転校許可がおりたんです。この学校ってみんなが時間割がバラバラだったんで挨拶できなかったんですよ。」
「でもやっぱり存在感凄いからすぐ気付いたよ。金髪はお父さんのだね?」
「これがあるから外国人と見間違えられるんですけど、お母さんは日本人ですし、生まれも育ちも日本なんですよ。」
話していくうちに盛り上がった所で隣のハンドボール投げのボールがこっちに飛んできた。
三ツ葉はこれを届けに行き、元に戻るとそこにはスバメの姿は無かった。
(もしかして、どっかの計測に行ったのかな。転校してきた訳くらい聞ければ良かったのにな。)
しかし、その後も姿が見えず、会うことはできなかった。
⑷
昼休み、三大学食の一つ「サンライト」で約束していた武智 三ツ葉は一足先に席を確保していた。昼前の授業が無かった為、朝の遥希との集合の所為で睡眠時間を削られた三ツ葉は机に突っ伏していた。
(あ〜もう、ねむいなあ〜〜〜。てか遥希はどーしてこうマイペースなんだか…。)
すると、人の視線を窓の外から感じ、外に出ると見知らぬ黒パーカーの人が学食の中を外から見張っていた。
「ちょっと、あんた何者?学園の関係者じゃないよね。」
声をかけた直後、影にいた人影はすぐに消えて草むらを覗いても誰もいなかった。
(幾ら何でもこの学校の管理システムを乗り越えて来るような人がいる訳ないよね…。)
「おっ、いたいた。三ツ葉〜。」「またせてごめんな。」
男子二人に謝られるのは、気分がいいものだと三ツ葉は少し誇らしげにしながら返事した。
「待ったのは授業が無かったからだし、気にしなくていいって。で、遥希の話って何?」
「あーそれもしたいんだけどその前に、転校生って知ってる??」
「俺らの学校に転校生なんて来たのか?」
「どうやら学園長の娘さんらしいんだけど…。」
遥希の質問に、望海は唐突な質問にぽかんとしている。転校生というのはおそらくスバメののことだろう。
「その子ならさっき話したよ。名前はスバメ ハワードっていうらしいんだよ。めっちゃくちゃ可愛い子なんだよー!!!。」
こんな感じで、かわいい子には目がない三ツ葉のテンションが勝手に上がっている様子を見て、
(三ツ葉の女子褒めっていつもキャラ崩壊招いてるんだよね…)
(なんかこの時だけ乙女キャラな三ツ葉はある意味怖さを感じる…)
「ちょっとあんたら今変な事考えたでしょ…?」
「そ、それでなんでこの学校に転校なんだ??」
「詳しい事聞こうとしたんだけど、そしたら急に居なくなっちゃったんだよね。体力測定中だったから別の計測に行っただけだと思うんだけど…」
遥希は、少し間をあけてから踏ん切りをつけたようで話を戻すことにしたようだ。
「まあそれなら仕方ないな。それで、遥希が朝に言いたかったのって??」
すると遥希はさっきまでの口調と違い、少し空気を変えるようないいまわしで話した。
「あー、詳しくは分からないんだけど今週の占いがいつもと違って、事件が近いかもだから気おつけてくれ。」
………………。
「また遥希のオカルト趣味かい…。」
「まあ…一応注意して置くよ。」
三ツ葉、望海も遥希のオカルトオタクっぷりは長年の付き合いの中で公然の秘密になっていて本人にははいつも適当に返事をしている。ただ、昔から遥希の占いの結果自体は当たることが多いのだ。まして、集めてまで伝えるほどの物というのは、過去にも人間関係がおおきく変わる時を的確に言い当てている。
ただ、武闘派の血を引く三ツ葉、科学者の血を引く望渼は素直には認めず、結局度が過ぎたオカルトオタクということにして、こんな感じのやり取りで落ち着くのだ。
しばらくご飯を食べつつ、他愛もない話を続けていると望海が手帳の画面を映し出した。
「んじゃまあそんな訳で明日はどうする??」
「私、明日はムーンシグナルがいいな。」
「えっ、あそこは確か…。」
と、望海が三ツ葉に何か言おうとしたが、にらまれたので、言おうとしたことをやめた。
「じゃあ詳しい事はメールにしようか。」
そして予鈴がなったので解散すると、入り口で再度2人にメールを送った。
「明日はみんなの弁当持ってくから、昼休みは屋上にしよっか。」
⑸
太陽も傾く放課後、空は赤くなり風情を漂わせている。懐かしさ、虚しさなどいろんな感情の混じった空間のなか、通学路は賑やかに学生の声で溢れている。
一方で、ここは校舎の日陰になっている学園の裏の実習林。学園の裏門に繋がる人通りの少ない抜け道もあるため、最後の授業が終わった直後であれば学生もいるのだが、今現在1人の女子学生が裏門に向かって歩いていた。
(正門には見張りがいるから裏門なら通れると思うんですけど…。)
すると、突然後ろの茂みから人の近づく音がした。明らかにこちらをつけている。
(いくらなんでもしつこすぎるんですよ!!!)
スバメは後ろを振り向かずに走り出した。ここ一週間、明らかに尾行、攻撃されているのに相手の方は一切姿を見せて来なかった。一昨日からは正門に待ち構えているようだったので、裏門に切り替えたのだがもう気付かれてしまったらしい。すると、前の茂みから3本の矢がこちらに向かってくる。1本目、2本目は狙いがそれていた。しかし、一つが腕をかすめてしまった。ここでスバメは左肩に痛みが走ったが止まることなく走り続けた。
(一体何者なんですかあの方たちは!?)
すると今度は、後ろからだけでなく、前からも矢が飛んできたのだ。
(さすがにもうっ…!!)
しかし、すばめには傷一つつくことはなかった。
『陰陽術、風の舞!!』
上の木から飛び降りてきた遥希が何かを小声で唱えると突如、辺り一帯に突風が吹いて矢が全て周りに落ちてしまった。
「君!!ちょっと来てくれるかい。手をしっかり持っておけよ。」
すると今度は、手で何か仕草をすると最初その場からしばらく音を立てずに歩き、そこから先はそのまま裏門まで二人で走り抜けた。尾行してきていた2人は付いてくることは無かった。
全力ダッシュで駆け抜けた2人は、無事に入り口まで来ることができた。ここまで連れてきてくれたこの男子生徒は何事も無かったような明るい笑顔でこちらの怪我を手当てしてくれた。
「右肩はかすり傷だから大丈夫そうだけど、他にけがは?」
「大丈夫…みたいです。あっ…ありがとうございます…。」
「気にすることなんてないよ。偶然見かけただけだからさ。それにしても、さっきの奴らはなんなんだ?」
「あっ…わたしもよくわからないんですよ…。でももうここまでで大丈夫です。」
「君は転校生の…。まあもしまた何かあったら声かけてね。俺は神楽 遥希って言うんだ。」
「スバメ ハワードです。それじゃあまた。」
そうして軽く会釈すると遥希と逆方向に向かって帰っていった。そこからの帰り道は何らかの温もりを感じながら、何事もなく寮に帰ることが出来たのだった。
⑹
スバメと別れた遥希は一人になると手元から人型の和紙を10枚取り出してその紙に念を込めると、一斉に町に解き放たれた。
(明らかにあの追っ手は、あの子に重症を負わせる気は無かったみたいだな。取り敢えず人払いの護符を包帯に付けといたからあの子は家までは大丈夫だろうけど…)
結局、追っ手の手がかりも見つからなかったので偵察は明日以降にすることにした。
「ただいまー。」
「あっ、ハル兄おかえりーーーー!!!!」
「少し遅くなってごめんな…って料理俺がつくったのにやってくれたんだ。」
「こうやって今は2人なんだしたまには作らせてよねー。」
今現在、遥希の自宅兼神社では一つ下の妹である琴実と2人で暮らしている。父親は国の中央で単身赴任、母親は消息不明になっている。最近になってから、兄妹二人暮らしで広い境内を管理しているのだ。「本殿の掃除もしておいたから今日は大丈夫だからねー♪」
「琴実…なんかあったの??」
「だってこうやって二人でご飯食べたりするのって楽しいじゃん。それにハル兄が遅れるのは式神に気づいたから分かってたしね。」
「あー、気づいてたのか。まあ今週辺り一悶着ありそうだから気をつけてな」
妹の琴実は俺とはまた違って、純粋に敵意に対して敏感なので学園での異変にも気付いていたみたいだ。
「うーん…なんか手伝えることある?言ってくれればやっとくよ。」
「そうだな…今日一日中学園の周りに四神結界を張って外の様子を探ってたんだけど、代わりにしてくれるかな?」
「結界ならなんとかなると思うけど、どうして今になって侵入者なんだろう??」
「さっきのいざこざは転校生のこが絡んでるみたいだから、恐らくあの子が何らかの鍵なんだと思うんだけどね…」
少しの沈黙を挟んで、
「…ねぇ、もしかしてもう動き出したってことは無いよね??」
「まだ詳しくはわからないけど、あいつらはぼくらだけに近づくメリットはまだ無いから大丈夫だと思うよ。」
「そう…だよね。じゃあ、何か異変があったら授業中とか関係なくチャットとばすからねー。」
「ありがとう。助かるよ。」
食事の後、琴実は自分の部屋に戻り、遥希は先程からの重い空気に疲れたので気分転換に外へ向かった。
ーーーーーーーー
少年は境内の手前で夜風に当たりながら大きく深呼吸をした。
最初外に出た時は薄暗く、不安を掻き立てられるようだった。
しかし、夜空には無数の星が輝いている。
入り口の方からは、ふもとの町もまるで星のように暖かな光が広がっている。
周りには夜風が木々を揺らし、虫たちが歌いあっている。
様々な自然の力が静かな林に安心感を作り出している。
『おーい、遥希がこんな時間にどうしたんだい?』
「あぁ、どうして俺らの周りにこうも悪しき流れが絡んでくるんだろうな、って今更ながら考えてたところだよ。」
『それが、天命であり、越えるべき試練として立ちはだかると言うもんだよ。』
「それなら天命を決めた奴ってのに文句を言ってみたいもんだよ。」
『…それは、遠回しの嫌味かね??』
「冗談だよ。でも、もう少し平凡な時間があったっていいよなとも思うんだよ。」
『遥希と直接話をしているかぎり、遥希が求める理想は叶わない訳だからのう…。』
「まあ、それでも今はこうする事が最善の選択だから仕方がないさ。それに、この生活も悪いことだけじゃ無いからさ、これからもよろしく頼みます。」
『何を今更いっとるんだかな…。まあ遥希のやりたいようにやって構わんよ。』
「じゃあ、俺は明日の準備があるから戻るね。」
少年が戻った後、不自然な風は境内を一周してから、まるで笑っているかのように渦を作りながら空に向かっていく。
『既に運命の元からははずれてるんだがなぁ。運命に定められし道を逆らう者だからこそ面白いというものだがな。』




