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81 草野球大作戦 その1

 今日は私、ちーちゃん、望海ちゃんの三人で妖怪たちの巨大な隠れ里との和平交渉に行ったのですが、人間嫌いのはずの族長や主要メンバーたちが『シードラゴンマスクのファン』ということで、話が非常にスムーズに進み、最低一日かかる予定が、1時間くらいであっさり終了したため、それ以降の予定が空いてしまいました。


 石川邸の他のメンバーは私たちが仕事をしている前提でそれぞれ動いてしまっていたため、私たちだけ暇になるという結末になりました。


 「ちょうどいいから、ご近所を少し散策してみようか?ちーちゃんは学校との往復以外でこの町をほとんど回ったことがないよね?」

 「そうですね♪ぜひぜひ♪」

 「私も隣町からここの中学校に通ってますから、この町自体はあまり歩いたことがないのですよね。」

 私の提案にちーちゃんも望海ちゃんも乗ってくれる。


 この町はかなり風光明媚な名所や歴史的にも面白いものがいろいろあったりするのだ。

 お昼まで三人でぶらりと散策した後、昼食をどこかで食べて、ランチしながら昼食後の計画を相談することにする。


 三人でしばし歩いていると、野球やサッカーのグランドが見えてくる。

 私たちは学校の授業でソフトボールやサッカーはやったことがあるものの、男性と違い、趣味でそういうスポーツをやったことがほとんどない。

 だから、それほど興味があるわけではないが、休日に社会人らしき人達が集まって草野球をしているのとか見ると楽しそうでいいなあ♪とほのぼの気分で彼らのプレイをそれなりに見て、去っていくくらい…おや?望海ちゃんが反応しているぞ?


 「あれ?あのメンバー、私がサバゲーによく一緒に参加させてもらった『ブルーショルダーチーム』じゃないですか?!あの人たちは多趣味でしたから…そうそう、野球も趣味だとかおっしゃってましたね。」

 ふむふむ、望海ちゃんの知り合いの人なら、望海ちゃんにちょっと挨拶をしてもらって、それから次の場所の散策に行ってもいいですね。


 「高畑さ…ん?なんか、みんなすごく困っているように見えますね?!!ちょっと行ってみます!!」

 確かに六人くらい人が集まってすごく暗い顔をして話し合っているようなんだけど、何かあったのでしょうか?



 望海ちゃんの姿を見ると彼らはビックリした後、少しだけ嬉しそうな顔になり、再び困惑した表情にに変わった。

 一体何があったんでしょうね?


 「瀬利亜さん!わかりました!チームのピッチャーとキャッチャーとライトの人が今朝になって急にひどい食中毒でとても会場に来れないそうなのです!」

 なんと!それは大変です!!……ええと、ちょうどここに三人いますが、まさかこれからの展開は…。


 「望海ちゃん!!人数合わせでいいから君たちに試合に出てもらえると助かる!!!お願いします!!!」

 「「「「「お願いします!!!」」」」」

 ええと、『ブルーショルダーチーム』の皆さんが全員で私たちに頭を下げてきます。

 うーむ、野球の試合はしたことがないのですが、せっかくですから一試合くらい体験してみましょうか?


 望海ちゃんがタブレットを使ってソフトボールと野球のルールの違いを教えてくれましたが、みんながどういうプレイをするかを見ていたら、何とかなりそうです。


 「数日前に学校の授業でソフトボールの試合があって、私がピッチャー、ちーちゃんがキャッチャーで始めたんです。

 一回が終わった時、『瀬利亜ちゃんの球が速すぎて誰も打てないから、悪いけどピッチャー変わってくれる?』て言われて交代したんですよね。」

 「へえ。よかったら投げてもらってみていい?」

 一塁手でチームの主将兼、監督兼、サバゲーチームリーダーでもおありの佐藤和則さん(三〇歳、二児のパパ)、がニコニコしながら言われるので、私も嬉しくなって投げてみます。

 野球はしたことがないので、ソフトボール同様下手投げになります。

 ムム…。ソフトボールよりも投げる距離が長いので、若干違和感を覚えますが、なんとかストライクゾーンには入っているようです。

 若干球がぶれてもちーちゃんは涼しい顔でキャッチしてくれるので助かります。

 …しかし、キャッチャーミットを被るとちーちゃんの可愛い顔が隠れるのが残念です。


 おや?佐藤さんや他の方たちが固まっているよ?

 「ソフトボールならともかく、野球だとこれくらいだと遅いですか?」

 イマイチ反応がないので、バッターボックスに立っていた佐藤さんに近寄って聞いてみる。

 「いやいや、全然遅くないから!充分ピッチャーが務まるから!!というか、ぜひやって下さい!!」


 おおっ?!!なんか、ちょうど足りなくなったピッチャーの代わりが務まるようです。さらにソフトボールの時同様ちーちゃんがキャッチャーを無難に務めてくれているので、キャッチャーもちーちゃんになるようです。


 「今、スピードガンで測定しましたが、時速一四五キロです。プロのピッチャー並みの速度が出ているようですから、草野球でも通用するレベルではないでしょうか?」

 望海ちゃんがどこからか取り出したスピードガンを眺めている。


 「いやいや!!草野球で一四〇台出すピッチャーはほとんどいないよ!!今日来るはずだった金田くんより速いから!」

 「なるほど…一応草野球で通じるレベルの球を投げているというわけなのですね。

 では、もう少し速い方がいいのですね。」

 言いながら私は右手をぶらぶらさせてみる。


 「九回を投げ切らなければいけないから、張り切りすぎたり、無理をしないで!!六~七分くらいの力で流す…くらいのペースでお願いします!!」

 私の様子を見て、佐藤さんが慌てて釘をさす。

 ふむふむ、確かに長丁場ですからね…。三時間ぶっ通しでも大丈夫なくらいのペースで投げることにしましょう。


 そんな風に話をしていると、どうやら相手チームの人たちが到着です。

 …ええと、全員が漆黒のユニフォームを着こんだ二〇代くらいの男性たちですが、揃ってオーラが黒いのが気になりますね…。


 「おや、どうしたのかな?いつものメンバーではなくて、可愛らしい女性が三人加わっているようだが?」

 相手チームのリーダーらしい背の高い男性が嫌味たらしく言ってくる。

 「それが、素晴らしい助っ人たちなのだよ。まあ、見ててもらおうか。」

 私とちーちゃんがきちんとバッテリーが務まることがわかったからか、佐藤さんの対応に余裕がある。


 「ほおお。それでは対戦を楽しみにさせていただこうか♪」

 それでも相手のリーダーは余裕のある表情を崩さない。


 そして、間もなく試合が始まった。

 審判はサバゲー仲間の別チームの人がやってくれた。

 三〇代のベテランのおじさんだ。


 「それでは、『ブルーショルダー』対『ブラックシャーク』の試合を始めます!

 一同礼!!」


 こうして我々が先攻で試合が始まった。

 ブラックシャークの先発投手は身長が一八〇くらいある細マッチョの精悍な感じの男性だ。

 自信満々にマウンドに立っている。


 なお、私たちは野球をしたことがないので、私が七番、ちーちゃんが八番、望海ちゃんが九番バッターになった。


 ソフトボールとは違い、上手投げでびゅんびゅん飛ばして投げてきます。

 むう、すごく速い球を投げますね。さっきの私以上では?


 「瀬利亜さん、時速一四八キロだそうです。むこうのチームは相当レベルが高いんですね。」

 望海ちゃんがスピードガンを確認しながら言う。

 おやおや、こちらのチームに動揺が見られます。予想より向こうのピッチャーがよかったのですね。

 「皆さま、ご安心ください。瀬利亜さんも全然負けてませんから。ほら、全く動揺されていませんよ♪」

 「そうです!大船に乗られたつもりで瀬利亜さんの任せてください♪」

 望海ちゃんとちーちゃんが自信たっぷりに言うので、ベンチのみんなの表情が和らぐ。

 うん、そういうみんなを元気づける発言は大切なのですが、私も野球は初めてなので、あまり自信をもっていろいろなことを言えないのですよね。二人とも褒めるのはほどほどくらいにしてくれない とものすごくハードルが上がるような気がします。


 一回表はこちらはあっさり三人とも三振で、攻撃は終わってしまいました。

 残念ながら幸先いいスタートとはなりませんが、その分ピッチャーとしてがんばりましょう。



 一回の裏、私はマウンドに立つと、相手ピッチャーの動きを目でトレースした通りに上手投げで投げてみます。

 おおっ!!思ったより腕の振りもうまくいって、ストライクゾーンに入ってくれました。

 ちーちゃんがニコニコしながら返球してくれます。

 ん?相手の一番バッターが固まっているようですが…。

 あれ?一塁の佐藤さんがタイムをかけて、私の方に歩いてきます。


 「…せ、瀬利亜ちゃん!相手ピッチャーが速いからといってあまり無理して速い球を投げようと思わなくていいから!!負けてもいいから、無理なく九回を投げられるくらいのペースで投げてくれる?!」

 「いえ、ご安心ください。楽に投げられるペースで上手投げに変えてみただけですから。ああ、ご心配のようなら、無理なくもう少しだけペースを上げた状態で投げてみますので、それでご判断ください。」

 私の返事に半信半疑の状態で佐藤さんは一塁に戻っていった。


 というわけで、もうちょっとだけ気合を込めてみます。やりすぎるといけないので、先ほどの『ゆるペースボール』の当社比約1.2倍くらいにセーブです。

 スパーン!!とすごくいい音がして、なかなかいい具合にちーちゃんの構えたミットに球が収まります。

 ちーちゃんはニコニコしながら返球してくれます。

 うん、快調快調♪この調子なら6時間くらい延々投げ続けても大丈夫な感じがします。


 せっかくなので、ブラックシャークのピッチャーが投げていた変化球にも挑戦します。

 なんか、ぐるっと曲がる球を投げると…おお!!大きく曲がって…残念ながらストライクゾーンからは外れましたね…。もう少しコントロールに気を付けましょう。

 それから、ストーンと落ちる球は…おおっ!!ものすごくきれいにスカッと落ちてくれます。今度はうまい具合にストライクゾーンを通ってくれたようです。

 こうやっていろいろな種類の球を投げるのもとても面白いですね♪


 とかやっているうちに全員が三振して、二回表になります。

 私たちはベンチに引き揚げていきます。

 …それにしてもみなさんバットを振ろうとされないのはどうしてなのでしょうか?


 「監督、相手チームの皆さんずい分おとなしいようですが、何かあったんでしょうかね?」

 ブラックシャークの皆さんは試合開始前にはずい分自信満々だったようなのですが、私が投げた時は三人ともものすごく大人しく打席に付いておられたのが不思議でならないのです。

 その疑問を佐藤さんにぶつけてみたのですが…。


 「…ええと…あれだけの剛速球がびゅんびゅん飛んできたら、手の出しようがないと思う…。

 それからどうして、カーブがあんなに曲がって、フォークが想像を絶するほど落ちるの?!!瀬利亜ちゃん、本当に野球初心者?!」

 佐藤さんが何やら取り乱しておられるのですが…。


 「…瀬利亜さん、ちょっとヤバいです。…」

 望海ちゃんが手招きするのが近づいていくと…。


 「こっそり計測しましたが、最初の時点で球速が一五〇キロ超えで、その後が時速一八〇キロを超えています。一八〇キロはプロ野球どころか、大リーグ記録も超えてしまってます。

 もしかして、最初の時点で『当社比約1.2倍くらいにしよう』とか思われたんじゃないですよね?」

 「…すごいわ。望海ちゃん、よくわかったわね!!」

 「…ええと、それから変化球がやたら曲がったり落ちたりするのは瀬利亜さんがボールを握る力がすごく強いせいだと思います。

 変化球はボールに特殊な回転を掛けることで球を変化させるのですが、瀬利亜さん、下手すると球が潰れかねないくらいの強さでボールを握っておられますよね?!

 普通ならそんなことをしたらボールのコントロールなんかまともにできないはずですが、瀬利亜さんの抜群の身体感覚でストライクゾーンぎりぎりに入ってしまうという『超常現象』が起こってしまっています。

 本来であれば目立ちすぎてヤバイのですが、ここまでやってしまった以上はそのまま行ってしまいましょう。

 最悪の場合は『今日の試合自体が夢でした』でごまかせるようアルテアさんに頼むという最終手段を使うということで♪」


 なんてこったい!!私が野球というものがよくわからないがために『常識はずれのプレイ』をしてしまったのですね?!!!

 …これは、ちょっとだけセーブして、みんなが試合を楽しめるように持っていかないと?!!



 そんなことを思っていた時期が私にもありました…。

 気が付くと、2回の裏まで両投手がびゅんびゅん飛ばして全員三振で終了です。

 草野球の投手戦は見ている方がいまいち…という話を後で聞きましたが……気が付くとそのころには野球場の周りがすごい人だかりになってきています。

 その時は理由がよくわかりませんでしたが、私が調子に乗っていろいろな変化球を試したことが大きな原因で、『ものすごい試合をしている』という情報がSNSを通じて拡散したらしいです。

 情報時代は怖いですね…。


 とか言っているうちに今度は私がバッターボックスに入ります。

 ソフトボールと違って球がずいぶんと小さいですが、果たしてうまくバットに当てることができるでしょうか?


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