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異世界突撃部隊 ゼロゼロワンワン  作者: 拝 印篭
第三章 【下街出張所】 准尉
42/42

42. 加速する世界情勢!

 お待たせして申し訳ありません。

「ふん。成り上がりのあんな小娘ごときが今度は大将軍閣下だと? しかも、副将軍には子飼いのあんなドチビを付けるなど、我がエースコック帝国の将軍職も随分と安くなったものだわ」


「然り。将軍ともなれば、一軍の士気を高める為にも一騎打ちでも勝てる屈強な者が治まるべき。それをあんな豆粒みたいな黒とピンクの小娘、小僧では勝てる戦も勝てなくなるわ」


 そのような会話をしている二人の将軍職。しかし、一年前に彼ら主導で莫大な被害を出す惨敗を喫したという事は問題の埒外であるようだ。


「確かに、小娘の方は小ぶり過ぎるが顔だちはすこぶる上物。傾世(ワールドエンド)の異名も納得のいく程の器量良し。それこそ後宮か我が情人とでもなっておれば、可愛げもあろうというのに、何を血迷ったものか、陛下もあんな連中に軍権を与えるなど」


「しっ! 陛下がお目見えですぞ」


 流石に目の前での皇帝批判などする気概も無い老害軍人たちは、そこで口を閉め、皇帝に礼をする。


「皇帝陛下のお成りである。一同拝礼せよ!」


 既に米寿を超えた老境の皇帝は、孫といっても若過ぎる二人の将軍に先導され、軍議室に入場してきた。


 かたや、全身黒一色の小柄なオーク。パークシャー種としても、小柄過ぎる彼女は、自身の数倍はあろうかというデュロック種の左右両将軍に剣呑な目つきで射られても平然とした面持ちで自らの指定された席に着座する。当然の如く彼らの上座に。


 こなた、全身桜色のおどおどした中ヨークシャー種の少年。正に少年兵のようにこの場では場違いに思える程卑屈な笑みを張り付けた少年は、こちらも、老将軍よりも上座、黒い少女の隣に座る。


「それでは軍議を始める。先ずは、論功行賞。【黒雪の君】」


「は」


 皇帝の隣に侍る政務官から名を呼ばれた黒い少女は、立ち上がり拝礼すると、左右両将軍は、苦虫を噛みしめたような顔になる。


「貴公は、北方諸島でのランドレースの反乱においてその鎮圧に功績大と認め、大紫鳳樹勲章を授けるものとする。併せて【ハス】の家名と黒蓮の紋章を与える」


 この褒賞に驚愕の声が上がる。無理もない。【ハス】家は、帝国開闢以来の伯爵家でありながら、200年前に断絶していた家系で、久しく後継の者が絶えていた。その為、かの家の領地は長く皇帝直轄の地になっていた。つまり、その領地も含めて彼女に与えられるという事である。領土の増えない内乱の褒賞としては考えうる限り最大の栄誉である。


「過分な栄誉、感謝に絶えません。この上は、一層の忠誠を以って更なる帝国の発展に貢献すべく努めます所存」



◇◆◇◆



「ハルユキ君、すまないな。今回は君に対する褒賞まで私が受け取ってしまった」


「気にすることなどありませんよ、先輩。僕はただ先輩に尽くすのみですから」


「それでは私の気持ちが治まらない。何か、無いのか?」


「先ずは先輩がこの国の高みに昇りつめてからの話ですよ。僕たちに残された時間は余りにも少ない……」


「……確かにな。あと、五年か……」


 そのタイムリミットは、図らずも、かつてショウワン王国の王が口にした期間と同じである。


「この危機を超えるには、我等エースコックの民だけでは最早手に余るのだ。より多くの賛同者を集めなければ」


 そう言って窓から見える月を見上げる黒き姫騎士の姿をハルユキは美しいと思った。


「さあ、前線に戻りましょう。みんなが待っていますよ」

「そうだな。こんな茶番じみた『終末戦争ごっこ』は早めに切り上げて真の敵に備えなければな」


 そうして、二人は歩き始める。


「それにしても、『殺人帝国』の次の一手は何を狙っているんでしょうね?」


 それは、豚鼻の二人にもかぎ分けることができなかった。




◇◆◇◆




 あれから二週間。


 結局、爆弾を仕込まれた障害者が14人も発見され、摘出手術も成功し、ある程度この件は解決と上層部が判断を下したらしい。


 ついでに、例の障害者を雇っていた企業のオーナーら数人が補助金詐欺の容疑で逮捕された。


 ただ、結果として、彼らに反政府組織のようなものとの繋がりは見つからないとの事で、そちらの捜査に関しては振り出しに戻ってしまった。爆弾を埋め込んだ手術をした者達も依然として不明なまま。


 なんとも、不完全燃焼なまま幕となりそうな雰囲気になってきている。

 まあ、いくらぼやいたとしても、俺一人の手で捜査するわけにもいかず、まして解決に至る方法も無いとくれば、こんなものなのかもしれないが。


 こうして、俺を含めたあらゆる人が不完全燃焼にもやっとしたまま、明日にはいよいよ「軍事パレード」本番を迎える。


 この「軍事パレード」というイベント。国威発揚を目的とした催しであることは、北朝鮮なんかのそれと同じである。しかし、その内容はかなり違っていて、もっとエンタメ然とした大人も子供も「参加」できるイベントとして定着している年に一度のお祭りで、どちらかというと、阿波踊りやよさこい、リオのカーニバルに近い。ぶっちゃけ、パレードの内容も、毎年お堅い軍人さんがはっちゃけて仮装して練り歩くのである。中には女性軍人のビキニアーマー姿だとか、独り者軍人が「嫁さん募集」なんてプラカードをぶら下げて行進するとか、マッチョ軍団がビキニパンツ一丁でうろつくとか、ほとんどカオスである。


 当然、見る方もなんらかのコスプレをして参加したり、近所の商店街は振る舞い酒をしたり、別枠では美人コンテストなども開かれるという毎年30万人以上を集める一大イベントである。


 そして、その裏通りでひっそりと行われるのが、「母と子の反戦集会」である。例の事件以降、当日の参加を取りやめた障害者一家が相次いでおり、当初予想の三万人を大幅に下回るという予想がされている。お目付け役の黒服もほぼ絶滅状態であろうし。


 本日は、明日の本番を控えて現地での事前準備である。通路上に危険物や邪魔な物品がないか調べ撤去するのだ。地味かつ重要なしごとだが、所詮裏街道の祭である。俺を含めモチベーションは低い。


「よぉ! 差し入れだ! みんなで喰ってくれ」


 おやっさんが焼き鳥を大量に差し入れしてくれたので、部下達に休憩を指示し、皆でいただかせていただく。現金なもので、部下達の下がりきっていたモチベーションが上向きになったのをあきれ半分で見つつ、好物の鳥レバーを先ずはいただいた。


「初めてにしちゃ随分とそつなくこなしてるって? ロジャヲが褒めてたぜ!」

「恐縮です。以前似たようなバイトをした経験があったんで実は慣れてるんですよ」

「それにしちゃ、随分と浮かない顔してねぇか?」


 ズバリ、言い当てられた。


「はぁ、実の所、色々と迷うことがありまして」

「ふん。聞かせてみろや。歳の甲程度には役に立つかもしれねぇぜ」


 一瞬、逡巡したが、相手は歴戦の大将閣下だ。俺ごときの悩みなどとっくに超越しているだろうし、聞いてみようと思う。


「実は、例の爆弾事件に関連して、こんな出会いがありまして……」


 タローのこと、彼らの雇い主のこと、補助金を受けて暮らしを守るべき人々が蔑ろにされてそこから搾取する人だけが潤っていること。一方で、こんな反戦集会みたいな事があって、守るべき人から軍人が必要ないみたいに言われなきゃならないこと。


「俺達が守るべき『国民』って、何なのか分からなくなってしまって。大将閣下はどう、この気持ちを克服してきたんですか?」


 おやっさんは、一瞬、俺を憐れむような顔をしたが、表情を一瞬で消して、叱るように言った。


「バカ野郎! んなもん俺だって克服なんかしてねーよ! 俺の場合は部下達の遺族から直接言われんだよ。勝っても負けても、『人殺し!』ってな。そのたんびにどれだけ切ない思いをしてきたか、お前に分かるか!? でもよ、結局のところ、俺達の仕事は、そういう奴らが自由に俺らを罵れる環境を守る事、なんじゃないのか?」


 !


「所詮は血塗られたウエットワークよ。そりゃあ、堅気の人達から見りゃ『化物』に見えるだろうぜ! 俺達はみんな、な。お前はまだ戦場に出た事が無いから分からねぇだろうが、一度あれを体験しちまったら、正直、堅気の衆に会わせる顔がなくなっちまう。でもな、それでも、俺達が帰って来て生活する場所は結局ここしかないんだ! 明日の軍事パレードだってそうさ。皆あんなおちゃらけた姿をさらして堅気の衆に見せてるんだぜ。『俺達を仲間に入れて下さい』ってな。こちらから歩み寄らない限り、誰も俺達の気持ちなんてわかっちゃくれないんだよ。世の中ってのは、そんなに優しくはできてねぇ!」


「そう、ですよね」


「だから、よ」


 おやっさんは、いつもの店主の顔に戻って


「お前はお前で自分の目的に忠実でいりゃいいんだ。その上で『仲間に入れて』っていう権利くらいは残ってる。それでも、愚痴りたい時は店に来て飲め! おめぇの戯言くらい酒の肴にしてやるよ」


 そう言われて、何かすっごい重たいものが取れた気がした。


「そんで、今度、英雄様を連れてこいや。サインと引き換えにたっぷりと御馳走してやるぜ!」

「実はそれ、頼むのを狙ってたでしょう?」

「バレたか」


 呵呵大笑しながら、おやっさんは手を振り帰って行った。ものっそいでっかいバイク転がして。

 ありゃ、ハーレー、いや、陸王並のバイクか? いいなぁ。


 そして、軍事パレードの本番を迎える。


 

アクセルではなくてあくちぇるの方です。



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