28. 戦闘訓練の日々!
<王国歴936年5月30日>
「それでは、実戦形式乱取り、はじめっ!」
そう、教官が言った瞬間、周囲に居た10人程の男達が一斉に俺に向かって突撃してきた。
うわぁ。またかよ! いい加減うんざりしている。
この実戦形式乱取りという訓練、基本、周囲にいる人間同士が特に相手を取り決めせずに1VS1の軍隊格闘技の形式での乱取りをするものである。あるのだが、何故か? 俺の周りにいる奴らは一斉に俺に向かって仕掛けてくる。一斉に俺と闘おうとしているだけで徒党を組んで襲っている訳ではないので問題にはならないという事らしい。まぁ、俺自身もこの人数なら問題になっていないので、一丁揉んでやろうかい! ってなもんだが。
そもそも襲ってきている連中も新兵である。同じ新兵同士でも、俺は既にLV4。この時期新兵として入ってくる奴らはLV1、2の連中が大半である。そもそも、地の部分で大差がついているにも関わらず更にスキル面でも圧倒的格差がある。
かつて、プロレスラーが素人に喧嘩を売られたという話は結構あった。その時のノルマというのが、
「10人相手で3分以内」
である。そして、現在ほぼ確実にそれを履行できる実力を手に入れた。
『『『『『死にさらせぇぇぇぇっ!』』』』』
ほぼハモって襲い掛かってくる有象無象は、バカの一つ覚えそのもので顔面めがけての一斉パンチを放ってくる。が、その軌道をいち早く読んだ俺は、その中のリーダー格のアフガンハウンドっぽい顔の奴を捕まえるとそいつの腕を掴むや、思いっきりぶん回す。当然、わかりやすい位置に集合してしまった奴らは、アフガンもとい、ぶよぶよと太った醜い体形の豚野郎を喰らって纏めて退治された。
「ぢぐしょう! どこへ行きやがった?」
と、立ち上がる間もなく喚いている豚野郎の両足を捕まえると、奴のシャツを引っぺがし背中を露わにさせた。にやり。おしおきタイムだべぇ~。
「炎の人力車!」
「ぎぃーやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺は、「豚野郎」の露出させた背中を床面にこすりつけながら市中引き回しの刑に処する。床は木製の板張りであるが、当然豚野郎の背中をつけたまま引きずり回せば摩擦熱が生じる。当然背中はむけむけの火傷だらけである。
これぞ、かのIQレスラー、桜庭和志が考案した拷問技「炎の人力車」である。
「あっち! あっち! おーたーすーけー!!」
この訓練始めてから二週間。毎日のようにこれを喰らう「豚野郎」の背中はすでに多数の擦り傷でまっかっかで体液があちこちから滲んでいる。よせばいいのにそのことが奴のプライドやら憎悪を更に集中させ、結果、襲撃方法が更に単調に、雑になっいてく。ほんと、こいつ軍人に向かないよなぁ。貴族というだけで軍に入隊したこいつの境遇には同情するが、メロンを取られたとか言いながら毎日襲ってくるのは、ほんと、はた迷惑である。
一緒に襲い掛かった取り巻きどもも、今やこの展開になるともはや戦意喪失して、襲ってこない。もっとも、襲ってきたとしても、「豚野郎」の巻き添えを喰らうだけだと学習した結果ではあるが。
「それまでっ! 今、ノーラ以外と闘っていない連中は、さぼりとみなし、グラウンド10周!」
教官による「豚野郎」軍団に対するペナルティーも、最早お約束の域に達している。
そんな奴らばかりかというと、さに非ず。中には、真面目に強くなる為に俺と一戦交えたい奴もいる。
そういう奴らは、訓練終了後に、集まってちょろっと模擬戦したり、俺の講習を聞いたりしている。
もっとも、今季数十人いる初等教導志願者のうち僅か四人のみの変わり者達である。早くも、俺を含めたこの五人を「ノーラ組」と呼ぶ者もいる。
「おつかれ、ノーラ。この後、俺とも一戦してくれよ」
と、声を掛けて来たのが、サイトって奴だ。テリアっぽい人懐っこい雰囲気のいい奴である。実は、こいつも俺同様、どちらかというと嫉妬される側にいる。こいつも平民で彼女持ちで、やはり貴族の御令嬢だとか。愛用の剣は、何らかの魔法剣らしいのだが、詳細は教えてくれなんだ。
「今日はルイ○嬢はお見えでないのかい? 寂しい限りじゃないか。ノーラもそう思うだろ?」
そう俺に振ってきた軽い野郎は、キャンキャン吠えるスピッツ野郎。アファム。こちらは貴族で、俺に味方した所為で散々怖い思いをしながらも、男三人程度は守れる程度の財産と器量をお持ちのようだ。まぁ、守れる範囲は俺とサイトで守ってやるつもりだが。
一方、守る必要すらない程強い女丈夫二人も何が気に入ったのか俺達に付いてまわっている。
こなた、純オオカミ族のシロ。白い髪色の綺麗系なのに、ゴザル言葉の残念美女。なんかレイジィとかぶってんな? キャラ。とてつもない身体能力の持ち主で、身体系のアクティブを解放した俺と互角程度。ハイジャンプしてのライダーキックを更に上にジャンプして迎撃したりとか。こっちも更に反転してV3キックしたらすんげー喜んでたっけ。
かなた、チャウチャウっぽいパーマな女、ハカセ。瓶底眼鏡のもっさい女。知識量がはんぱなく、色々な場面で助けて貰っている。こちらの知る格闘技の知識を欲して俺についてくるようになった。怖いのは、こいつ、乾いたスポンジの如く一度見た技はメカニズムまで模倣して再現しやがる。従って俺の持つ技術を全部盗んで行こうと虎視眈々と観察されているのである。
まあ、0011小隊から離されてどうなるかと思っていたが、新たな出会いもあったのだ。案外どこでもなんとかなるんじゃないか? と思い始めた自分がいる。
実戦訓練はあんなものであるが、むしろ、俺としては座学の方が為になっている。ここまで集中して物を学ぶことは、今まで無かった俺だ。たとえそれが人を殺す為の技術であっても。
<王国歴936年5月31日>
こうして、二週間ほどは、あっという間に過ぎてしまった。メロンのことは気にならないか? と言えば嘘になるが、彼女の傍に居る為にも今覚えている技術は生かせる筈だ。かつてない手ごたえを感じるまま、三週間目が始まった日、教官が俺達に言った。
「それでは、今日はこれから全員で殺し合いをしてもらいます」




