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第2話 ブルー・ブラック・ピンク

 


 まあ、基本的には、そんな感じなのですが、だからといって、楽しみが全くないのかと言えば、そうでもなく。……というか、こんな思いをしている上に、楽しいことも何もないなんて、死んじゃいます。というか、死んだ方がいいと思います。

 いや、ほんとに。冗談抜きで、自殺者が大量発生しているはずです。


 で、何が楽しみなのかは、人それぞれ。

 毎週、放送されるアニメを見ることだとか、毎日、一通、奥さんが送ってくれる、息子さんの写メと奥さんの近状報告だったり。

 先に述べたように、ほとんど外出をしないので、みんな、インドアで些細な……小さな楽しみばかり。




 そして、私の些細な楽しみは、不定期に、だいたい、週に三日か四日は訪れます。



 こつんこつん、と、まずは、ドアがノックされます。


 私の居場所は本拠地の入り口前です。だって、ドアを開けて、一番に目に飛び込んできたのが歪な形をした格好の、いかつい人外っぽいもの、だったら、びっくりするじゃないですか。だから、お客様をお迎えするのは、私の役目です。その関係上、私の自室は、玄関からすぐそこ。


 ドアをじぃっと見つめていると、ドアの下の隙間から、私があの子にあげた、ピンクの、リボンをモチーフにしたメッセージカードが差し込まれます。

 それのおかげで、ドアの向こうにいるのは、あの子だと確信できた私は、安心してドアを開けることができる、というわけです。

 ドアを開けると、そこにいたのは、156センチという女子の平均的な身長の私(プラス、ブーツのヒールが8センチ)より頭ふたつ分は小さいであろう、女の子がいました。


 彼女こそが、ヒーロー側にいるメインキャラで唯一の女の子──いわば、この物語のヒロインちゃんです。



 制作側にどんな思惑があるのかわかりませんが、爆乳、露出狂女(SMの女王をイメージしてつくられたらしいですが、私には、どう足掻いたって無理です。無茶ぶりしすぎにも程があります)の次は、ペチャパイ、童顔のロリっ子。見た目は中学生(下手すれば、小学生)に見られかねませんが、これでも大学生という設定です。

 メインキャラの女性は私たち二人だけなのですが、あまりにも極端すぎるというか、どうして、このようになったか、理解に苦しみます。


 ……というか、何度も言うように、コレ、子ども向け番組!



「メアリちゃん、お久しぶりー」

「…………ま、上がれば?」

「お邪魔しまーす!」



 ドアが開いてる状況では、誰に見られてるかわからないから、頑張ってデフォルトとして設定されているキャラクターを演じなければならない。


 そして、ヒロインちゃん──というか、彼女は、アンチヒロインなんだけど、──いえ、華音かのんちゃんがドアを閉めるなり、私は大きく息をついた。

 ヒロインって、それだけで可愛い名前をもらえるんですから、羨ましい限りですよ、まったく。


「メアリちゃんも大変だねー」

「ほんとに」

「あ、これクッキー。どうぞ」

「わあ! わざわざ、ありがとうございます! 私の部屋で紅茶入れますね。一緒に食べましょう」

「うん!」


 私は頑張って悪の怪人を(というか、女王様を)演じているのに、華音ちゃんは、これが素です。せめて、私も素が女王様気質だったら、もっと楽だったろうに……と思いますが、自分の性格にケチをつけたってどうにもなりません。


 私は、華音ちゃんを素早く部屋へと押し込む。

 いくら仲がいいとはいえ、台本上では敵同士……というのは、実は、関係なかったりします。しかし、私たちの本拠地に華音ちゃんがいることが知れたら、みんなを混乱させてしまうのは確かでしょう。

 ……こんなことを言うと、イメージが崩れてしまうかもしれませんが、敵対しているのは台本上だけであって、実際の私たちはお互いに興味などあまりないのです。……というか、私たちにとっての敵(“敵”は言い過ぎかもしれませんが)は制作側であり、我々は常に、自分のコンプレックスの為に戦うことに必死なのです(あ、この言い方、カッコイイ!)。よって、他に意識をさく余裕などありません。

 なので、見つかったとしても、大きな問題はないっちゃないのですが……、我々はコンプレックスの塊。彼女を含めたヒーローたちは、羨ましいを通り越して、まぶしすぎる存在、というイメージが強すぎて、どう接したらいいかわからず、みんなが困惑し、あたふたとしながらも彼女に最高のおもてなしをしようとして、大いに空回り、大失態をおかし、あげくの果てには、彼女を困惑させてしまう図が容易に想像できてしまうのだ。

 ……ちなみに、毎週の撮影じゃ、ヒーローが通るたびに“あ、お疲れさまっす”と緊張を隠すように、小さくつぶやいて(頑張ってるのはわかりますが、感じ悪い人になってますよ)、軽く会釈をしたりだとか、戦闘シーンの後、気を遣って飲み物を手渡してくれたヒーロー(時にヒロインこと華音ちゃん)に、ビビった悪の怪人のオーバーリアクションにより、飲み物をこぼすなんて日常茶飯事。なぜか、受け渡しに失敗し、コップを落とすのもよく見かける。あの人たち、自分がお面やマスクをしてることが頭から抜けているのか(自分の体の一部と化しているのかもしれませんね)、“まぶしくて目が眩んじまう。サングラスかゴーグルが必要だな”と、バカな発言までしていた。

 ……そういえば、撮影前日の会議で“ヒーローたちは、なぜ、あんなにまぶしいのか”という話も出て、その結果、“我々は我々なりに、自分たちのペースで理想へと向かっていこう”と締めくくられた気がする。みんな、目をキラキラさせて、決意を新たにしていたけど、私はついていけなかった。


 悪の怪人とは言え、元は人間……なのかどうかわかりませんが、少なくとも、人間にほど近いものたちであることは確か。悪い人ばかりではないのです。

 ただ、この仕打ち(コンプレックスもありますが、外を歩くと子どもたちに後ろ指をさされたり、物を投げつけられたり)のため、色々とおかしくなってしまっているというか、みなさん、限界を超えて頑張っていらっしゃる方も少なくなく、みんながみんな、初めから、こんな痛々しかったわけではありません。自分を取り囲む状況は、時に人を変えるのです。恐ろしいことです。



 さて、それは一度、頭の片隅にでも置いておきましょう!

 なんていったって、今は、華音ちゃんが私の部屋に来てくれているのですから!

 わざわざ、人里から離れた不気味で暗い地下なんかに来てくれたのですから!


 ……別に、不気味な所も暗いのも好きじゃありません。むしろ、嫌いです。ここへ来てしばらくは、あまりの恐怖に眠れなかったくらいです。でも、ここに住めと制作側から言い渡されたので、仕方ありません。

 しかし、ですよ。こんなに健気に頑張って、寝不足にも関わらず撮影に行けば、“目の下にクマなんかつくっちゃって! ダメじゃない。夜更かしなんてしちゃ”と怒られる始末。理不尽すぎる。


 ……ああ、また、愚痴っぽくなってしまって、すみません。




 華音ちゃんは、慣れた様子で、ベッドに腰掛け、足をブラブラさせ、くつろいでいます。

 未だに、部屋の明かりを全部点けておかないと眠ることすらできない(地下であるため、電気ないと真っ暗なんです。この部屋には、天井からぶら下がっている電球と、ベッドサイドにスタンド、テーブルにも申し訳程度の小さなスタンド、懐中電灯は三本常備です)私なんかより、ずいぶんとこの部屋に馴染んでしまっていて、なんだか複雑な気分です。


 私は、自分の好物でもある紅茶(今日はアールグレイにしてみました)と一緒に、クッキーをお皿に盛り付け、華音ちゃんに声をかけます。ベッドで食べるなんて、お行儀悪いですから。


「はーい」


 元気な返事をくれた華音ちゃんは、ぴょこん、と飛び降り、こちらへとやってくる。


 華音ちゃんと、大好きな紅茶を飲みながら、時に、お菓子を食べながら、華音ちゃんとお喋りをすることが、私の唯一の楽しみ。

 この日のために、お菓子を作ったり、おいしそうなものを見つけたら買ってみたり……そんなことさえ楽しかったりするのです。




 ちなみに、きっかけは、華音ちゃんから話しかけてくれたことでした。

 華音ちゃんにもコンプレックスがあって、それは、大学生になっても、中学生(時に、小学生)に間違われる容姿。そして、私は、体型だけで言えば、いやらしすぎて実年齢より上に見られたことはあっても、下に見られたことなどありません。華音ちゃんにとっては、こんな体型でも、下には間違っても見られないということが羨ましかったらしく、ハニカミながら、“憧れる”なんて言ってくれたのです。

 それから、急速に仲良くなり、外で会うのは目立ちすぎるし、だからと言って、華音ちゃんは本拠地ではプライベートもクソもないと言うことで(どうやら、ヒーローたちが勝手に部屋に入ってくるようなのです)、ここが密会の地に選ばれた、というわけです。



「今回も衣装案、ボツったの?」

「ええ。いつものごとく、同じ結果です。そろそろ、こちらとしてもネタ切れなのですが……」

「あー……がんばってるもんねぇ。……ようはさ、その露出度がどうにかなればいいんでしょ?」

「はい。せめて、上はおへそを出すくらいの長さまで欲しいですし、スカートもあと5センチでいいので、伸ばして欲しいんです」

「あー、なるほど」



 衣装案は、毎週、がんばって描いて、制作側の方をつかまえて見ていただくのですが、ちらりと見ただけで、“今の方がいいよ。そのままで十分可愛いから、大丈夫。それ、すごくウケがいいんだよ”と言われてしまいます。そして、その後は、いくら粘っても取り合ってくれません。

 毎週毎週、描いては消して、描いては消してを繰り返し、必死で衣装案を描き続けた結果、画力は格段にアップし、絵を描くのは上手くなりましたが、それだけです。なんの成果もあがってません。絵が上手くなりたかったわけじゃないのですが……。


 というか。何度も言いますが、これ、子ども向け番組なんですよ!?

 ウケって……なんのウケですか。何を狙ってるんですか。誰をターゲットにしてるんですか。おかしいでしょう。そもそも、親からクレームなどきてるんじゃないでしょうか。ほんと、何を考えてるんでしょうか。


「もうさ、絵じゃなくて、上着はへそ出しより長く、スカートは5センチ以上長く、って字にして抗議してみれば?」

「初めて提出した時はそうしたんだけど、“例えばどんなのがいいの?”なんて言われて……」

「今まで提出した中のものを見てくださいって言うの!」

「なるほど。ナイスアイデアです。それでいきます」


 すると、自分の案が採用されて嬉しいらしい華音ちゃんが、はにかむ。ああ……ほんとに可愛らしい。癒される。マイナスイオンが……。私、この時間があるから、こんな理不尽な世の中でも、必死にふんばっていられるんです!




 だが、しかし、です。そんな至福の一時は、この数分後、壊されることとなりました。



「ねぇ、メアリちゃん。なんか、外が騒がしくない?」


「……いえ。そんなことはありません」



 どうしても、この時間を終わりにしたくなかった私は、聞こえないフリをしますが、華音ちゃんは、カップをおいて、ドアに耳をくっつけて、外の様子をうかがっています。


 ……なんか、嫌な予感がするんですよ。だいたい、こういう勘って当たるんですよね。私だけですかね。そして、これは、避けようのない出来事であると思うのです。なので、無駄なあがきこそしませんが、心の準備をすることぐらいは許されるでしょう。

 私は、紅茶をゆっくり飲みながら、その時を待ちます。まるで、刑の執行を待つ囚人のよう……。



 がつんっ


「ぎゃぶっ」


「か華音ちゃん!?」



 ものすごく痛そうな音しましたよ。華音ちゃんは大丈夫でしょうか。華音ちゃんは、おでこを押さえて部屋の入口でうずくまっています。この部屋のドアは内開きなので、ドアに耳をつけている華音ちゃんに開いたドアがもろに直撃してしまったのです。


「お前、大丈夫か!?」


 …………なぜでしょう。なぜ、彼がこんなところにいるのでしょう。

 彼は、ヒーロー戦隊の一員。色は青です。

 これも制作側のなんらかの目論みなのでしょう。クール系イメージの強い青ですが、彼は、いわゆる肉食系男子で、人をいじめるのが好きです。


 その他、もろもろ、ヒーロー側の色、性格、立場などの設定もなんだかおかしな事になっているのですが、そこも機会があれば、お話させていただきましょう。


 なんでこんなことになっているのか、よくわかっていないのですが、彼は、私のことを睨みつけています。

 ……はて。嫌な予感しかしないのですが、私は、一体、何をやらかしてしまったというのでしょう。


「お前、華音に何しやがった」

「え、これは、あなたが……あ、いえ――あんたのせいじゃん」


 危ない危ない。私のキャラクターが崩壊してしまうところでした。女王様って苦手なんですよね。はやく帰ってくれないかな。


「華音をいじめていいのは、俺だけなんだよ」

「…………」


 あなたは、いじめるんですね。わけがわかりません。矛盾しています。

 華音ちゃん、あなたは、仲間からどういう仕打ちを受けているんですか。つらかったら、うちにいていいんですよ……!

 華音ちゃんをそんな目で見てると、華音ちゃんは、いつものことなのか、苦笑いをしてみせたのだった。


「直人、メアリちゃんは何も悪くなくてね、色々と勘違いを」

「は? “メアリちゃん”? 何それ。もしかして、こいつのことかよ。最初の一文字しか合ってねぇじゃねぇかよ」


 青は、私を見ながら、バカにするようにニヤニヤしています。……だから、男の子って苦手なんですよ。


「メデューサとメアリちゃんって……なぁ。ムリありすぎんだろ」

「ちょ、直人! そんなこと言わないで!」


 ……私には、女の子っぽい名前なんて似合わないって言うんですか。呼び名くらい可愛くたってバチは当たらないと思うんですよ。

 そもそも、“メデューサ”なんて名前つけるなんて、頭わいてんのかって話じゃないですか! メデューサって、ゴルゴン姉妹だかなんだか知りませんが、化け物ですよ!? 頭で蛇を大量に飼っちゃってるんですよ!?

 メデューサの語源って、“女王”の意味も持つ英単語なんですよ!?

 …………もしかして、この名前になってしまったのは、単純にそれが理由なのかなー、なんて思ったり。ええ。ネットでメデューサについて、そう説明されてるのを見た時、ちょっぴり泣いてしまいましたよ。


 私は、女王様なんてガラじゃないし、台本がなきゃ、とてもじゃないけど、女王様、なんてキャラはやりきれません。

 しかも、この人、ひどいし。口悪いし。私の傷口をしつこいぐらいえぐるし。どうしよう、私、この人をどうしたらいいんだろうか。


 教室のど真ん中で、他のクラスメートたちもいるのに、いじめられているのを見て見ぬフリをされるいじめられっこの気持ちは、こんな感じなのでしょうか。



「メアリちゃんをいじめないで!」



 いえ。私には、最強な可愛さを誇る味方がいました! 天使です! 華音ちゃん、ほんと、天使!


 天使の輪ができてる! その頭、なでくりまわしたい!

 ……失礼しました。つい、本音が。



 最強な可愛さを誇る華音ちゃんがせっかく、私をかばうように前に出てくれているのですが、青は、面倒くさそうに顔をしかめて、華音ちゃんをあっさりとどかすと、私の目の前に立って、ジロジロと眺めまわされます。……なんなんでしょう。気色悪い。


 でも、ここは、女王様でなくてはならない私、がんばります。その視線に負けじと仁王立ちして、受けて立ちます。



「ふっ」



 え、なに? なんで、今、鼻で笑われたんですか!?

 いえ、しかしですね、今、私がこんなところで動揺なんてするわけには、ですね……。



「ひぅんっ!?」



 自分の口から出たとは思えぬ声にびっくりして、両手で口をおさえます。

 あろうことか、青は、私のおっぱいを、下から持ち上げるように触ってるんです! ってか、小刻みに揺らさないで! しかも、下着無着用です! 直に触られてるんです!


「あ? 触ってほしいから、さらしてんだろ」 

「は、はなっ……!」

「もしかして、そんなナリしといて、犯されたい願望とかあるわけ? えっろいなぁ」

「……っん、やめ」

「華音さらってまで挑発してきやがってよぉ」


 さらっ……!? え、いつの間に、そんなことになっていたんですか!? 私は、華音ちゃんとは、お友達で、私にとって、最強の癒しで…………――でも、もしかして、華音ちゃんは、迷惑だった?

 ……なんだか、何も信用できなくなりそう。私、泣いてもいいですか。


 もう、この際、キャラがなんです。崩壊したければ、勝手に崩壊すればいい。そもそも、私には、無茶だったんですよ。



「んぁっ」



 え、なに、この人、信じられません……! 容赦なく、服の中に手を突っ込んできましたよ!? おっぱい、鷲掴みにしてますよ!? ち、乳首、触っちゃってるんですけど!?




「ふぅぅ……」


「はっ、しっかり感じて、」


「ふえぇぇえぇええぇ……!」


「は?」


「えぐっ……えっぐ……なんで、私ばっかりこんな……好きでこんな格好してるわけでも……こんな名前なわけでもないのにぃぃい……うぅぅぅ……ひっぐ、もう、お嫁さんに行けないよぉぉぉお」


「…………」


「わわわっ! メ、メアリちゃん、泣かないで! 私がもらってあげるから! ね? そこらの男より優しいよ、私」




 必死で華音ちゃんが慰めてくれているのはわかりますし、むしろ、私が華音ちゃんをお嫁さんにほしいぐらいですが、今は、そんな問題じゃないんですよ。もっと、問題は別のところにあるんですよ!

 っていうか、いい加減、おっぱい解放してください!


「そ、それにぃ……華音ちゃんはお友達だとっ……わたじはっ……」

「わ、私も思ってるよ! メアリちゃんは、私の大事なお友達だよ!

 ちょっと、直人! メアリちゃん、繊細な女の子なんだから、余計なこと言わないで! 変なこと信じちゃうじゃん!」

「いや……は?」

「は? じゃなくて――っていうか、いつまでメアリちゃんのおっぱい触ってるの」


 華音ちゃん、よくぞ言ってくださいました!

 感動して華音ちゃんを見つめると、にっこりと笑みを返してくださいます。メアリ、涙ちょちょぎれそうです! ……え、もしかして、これって死語ですか?


 もみもみもみもみ


「ひぅっ」

「……俺、よく意味がわかんねぇんだけど」

「なに、もんでんのよ! 私だって、そんなことしたことないのに! メアリちゃんのコンプレックスなんだからね、それ! ……だから、私も我慢してたのに」


 ……え? 華音ちゃん、なんですか、最後の一言。私、初耳なんですが。まさか、華音ちゃんがそんなことを思っていようなんて思いもしなかったんですが。でも、華音ちゃんになら…………


 いやいやいやいや!

 これ、そうあっさりと他人に触らせていものじゃないと思うわけですよ、私は!


「ほら、どこがコンプレックスだよ。喜んでるじゃねぇか。足ガクガクさせて。きっと、下は……」

「ちょ、直人、やめなさい!」

「ふえぇぇえぇええぇん! もう、やだ! たすげでぇっ」


 その時です。騒がしいくらいの足音と共に、彼がさっそうと部屋の中に飛び込んできたのです。



「出たな! 悪の怪人・ミナ☆ゴロシー!

 今日こそ、決着をつけてやる!」



 しん…………

 一気に、この部屋の温度が下がりました。彼との温度差は、いつもながらひどい。


 彼は、ヒーロー戦隊のリーダー、ブラック。ブラックなのに、リーダーです。

 彼の元々の設定は冷酷無慈悲な司令塔だったらしいのですが、素がこの通り、イタいまでにヒーローオタクで、いつもノリノリでヒーローをやってます。この彼を見た制作さんが、これは面白い、と。熱血で暴走癖のあるトラブルメーカーな存在に設定を変更したのだと言います。

 彼は、物語と現実の境が度々わからなくなるらしく、稀にうちの人に被害が出ます。悪い人ではないのですが。


 彼は、この光景を見て、状況が把握できないらしく、首をかしげています。そうでしょうね。助けを求めたのが悪であるはずの私で、涙やその他もろもろでぐちゃぐちゃな顔して、ヒーローに体を弄ばれているのですから。


 ブラックに続いて、もうひとつ、足音が近づいてきます。……今度は、誰が来るというのでしょうか。


「…………え、直人、何やらかしてんの?」


 ……ああ、面倒なのがきた。

 彼は、ピンクです。男なのに、ピンク。脳内もいつもピンク。


「確かに、その大きい胸とか、その服装とか誘ってんのかって思わないこともないけどね、それ、衣装で着せられてるだけだし。気持ちはわかるけどさぁ。襲っちゃダメだと思うなー」


 そうです! その通りなんです! 脳内ピンクなとんでもない男だとか思っちゃっててごめんなさい! 意外とわかってくださっているじゃないですか!


「ふふっ……そんな、うるうるした瞳で見つめないでよー。意外と可愛いんだね。いっつも、あんなセリフばっか言わされてるから、誤解しちゃってたみたい。…………興奮するなぁ。その可愛い泣き顔」


「ひぃっ!」


「ちょっと、颯人はやと! メアリちゃんおびえてる! ってか、直人もおっぱいもむのやめなさい!」


 ……ちなみに、颯人・直人は兄弟です。タチ悪いところとかそっくりです。もうひとつ言っておくと、颯人が兄。


「直人、ずるーい。じゃあ、俺はお尻かな?」

「ひっ! ……や、やだっ」

「怖がらないでー。優しくしてあげる。……あれ? 足、生まれたての小鹿みたいにガクガクしてるよ? もしかして、直人に無理やりおっぱいイジられちゃって感じてるの? 可愛いなぁ」

「ふぅぅっ……ふぅえぇぇぇえええ!」



 ばっちーんっ



「いぃってぇえ!」

「うわー……いたそー」

「自業自得よ」

「もう、やらぁ!」



 とうとう、我慢できなくなって、人生初めて、人のほっぺに平手打ちというものをしてしまいました。

 青は、私を思いっきり睨むけど、あなたが悪いんじゃないですか! それに、私は、こんな大勢の前で、あんな……辱めを受けて。 これじゃあ、お嫁さんに行くどころか……!



「私、もう、生きられません!

 飛び降りてやるーっ!」


「メアリちゃん、ここ、地下だからね! とりあえず、落ち着いて!」


「ビルの屋上から飛び降りてやりますぅーっ!」



 私は、捨てゼリフを吐いて、全力疾走で自分の部屋から逃走します。苦痛すぎて、ここには、もういれません。



「ちょ、メアリちゃーん! どこ行くのー!?」


「西町のウェルカムビルの屋上ですぅぅー!」



「……あいつ、行き先暴露したし。バカだろ」

「直人のせいなんだからね! ほら、追っかけて!」

「やだね」



「誰かーっ! メアリちゃんを止めてくださーいっ!

 ほら、直人も颯人も行くよ! メアリちゃん死んじゃったらどうするの!」








*メアリちゃんの厄日*終


これにてメアリちゃんの厄日は終了。

また、ネタが固まり次第投稿していきます。


お付き合いくださり、ありがとうございました。

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