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異世界旅行は落ち着かない  作者: 多真樹
第二部 少年時代 一章 大平原の獣人
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第5話 獣人たちの日常

 朝食後、俺は犬耳少女のマリノアを交え、獣人のリーダー格と話し合った。

 当面は戦闘奴隷だった獣人たちを従え、彼らの所属する軍に戻れるように協力することになる。


 奴隷は主人の許可なく行動の自由を与えられていないが、行動に制限をかけられていないときは、速やかに主人の元に戻ることとする、という制約がある。


 猫ちゃんは主人のもとに戻りたがる素振りを一度も見せていないが、単に金品を集めてくるように命令されているから、戦場近くなら制限が緩いのだろう。


 彼らに尽力することに、今のところ問題なかった。

 時間を消費してしまう、という一点に不都合があるだけだ。

 本当ならさっさと西に向かうべきだが、猫ちゃんをこのまま放って置くのも気が引ける。


 話を聞く限りでは、彼らは戦争を有利に進めている東国軍だった。

 東の獣人奴隷を従えた軍が、俺の祖国となる西の軍を次々に打ち破り、追撃を繰り返しているのだ。

 その一部隊にマリノアたちも所属しており、アースドラゴンとかち合ってしまったために、被害を食い止めるための捨て駒として選ばれてしまったという。

 一個中隊は敵前逃亡しないように見張る監視役だったようだ。

 ひどい話だ。


 本隊を逃がすための時間稼ぎだったにしても、もっと戦い方はあっただろうに。

 傍目から見ても、獣人奴隷と騎兵・歩兵が連携しているようには見えなかった。

 中隊は遠巻きにぱらぱらと矢を射かける程度で、獣人たちがほぼアースドラゴンと戦っていたように思う。


 時々広範囲の攻撃が中隊の一部を巻き込んだくらいで、兵士の被害は軽微だったのだ。

 むしろ俺が放った雷撃が、一番の被害だったように思う。

 騎兵が馬を捨てて走って逃げていたし。


 俺はどうやら兵士たちに治療を行わなくて正解だったみたいだ。

 全員治療をしてしまったら、ここまで獣人たちの理解を得なかったと思う。

 それに、猫ちゃんを連れていたこともプラスに働いていた。

 彼らの中に猫ちゃんを知るものがいて、この猫耳幼女がここまで懐く人間は初めてだと驚いていた。


 猫ちゃんの耳をカリカリ掻いてやると、気持ち良さそうに目を閉じて寄りかかってくる。

 膝の上に乗せて、猫っ毛に顔を埋められるまでに仲良くなった。

 ここまで手懐けるのにそりゃあ苦労しましたよ。

 実力を示して、優しく接して、餌付けして、可愛がった結果だ。


 マリノアが羨ましそうに見ていたので、「同じようにしようか」と持ち掛けたら、他人行儀に遠慮された。

 まぁ、それが普通だよね。

 べ、別に凹んでなんかないやい。

「い、嫌というわけではないんですが……」と申し訳なさそうにフォローを入れられたのが、またダメージだった。


 行軍中、猫ちゃんは気ままな猫らしく、常にそばにいるわけではない。

 すぐ興味を惹かれたところに行こうとするので、お守りが大変だ。

 猫系獣人は割とそんな感じらしく、戦闘奴隷の中にいた猫系獣人も、斥候や単独の狩りなど、単身で動くことが多かった。


 逆に犬系獣人は統率を第一とし、行軍速度にも拘ったし、誰がどこにいるという所在がはっきりしていないと不満そうだった。

 マリノアは、俺と獣人たちの通訳を任されてから、俺に四六時中ぴったり付き添っている。

 名誉な仕事を与えられたと言わんばかりに肩に力が漲っていた。


 他にも少数だが、牛系・熊系・馬系といる。

 熊系は割とおおらかでどっしり構えており、周りからも一目置かれている雰囲気だ。

 この獣人集団のリーダーでもある。

 愛称は「熊さん」だろう。

 牛馬系は命令があればそれに従う感じだ。

 草食動物らしく、群れのリーダーに意向に従うというスタンスもわかりやすい。


 猫ちゃん、俺、マリノアの順に若く、マリノアにしても十一歳だ。

 他の獣人たちは成人しており、リーダーの熊さんは三十代の後半に見える。

 移動中の陣形は、その幼い三人を囲むように他の獣人が展開して周囲に備えていた。


 俺とマリノアが並んで歩いている以外は、数メートルないし、数十メートルの間隔をあけて、前後左右に広がっているのだ。

 猫系獣人は斥候で広い範囲に散り、犬系獣人は核である俺を中心に護衛のように付かず離れずを保っていた。


 猫ちゃんはというと、ひとりでふらふら他の獣人のところへ行き、「構って構って」とじゃれている。

 犬系獣人はまったく遊んでくれないが、同じ猫系や熊系、少数派は比較的相手をしてくれている。


『まったく、規律を守ってもらわないと……』


 マリノアは自由奔放な猫ちゃんの様子が気に入らないのか、ぶつぶつ独り言を呟いている。

 獣人語なので聞き取れない。


 昼間は奔放に駆け回る猫ちゃんも、ふとしたときや食事時になると、傍に寄ってきて頭を擦り付けてきた。

 頭を撫でてやったり耳を掻いてやったりすると、満足してまた何処かに行ってしまう。


「ミィナ、不安になると、アル様を確認しに来るんです」


 マリノアは微笑ましいものを見る目で言った。


「そんなに好かれるとは思わなかったな」

「強く守ってくれる者に従うのは、我々にとって当たり前のことです」

「本当に守ってあげられるかもわからないのに」

「わかります。本能です。嘘をついていないことも、臭いでわかります」

「ときどき頭を擦り付けてくるのは?」

「ミィナは好意、示しています」


 そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうよ。

 気になったことをマリノアに聞けば、すぐに答えが返ってきた。打てば響く、といった感じだ。


「頭を撫でてあげる以外に、猫ちゃんが他に喜びそうなことってなんだと思う?」

「確認してきます」


 マリノアとあっという間に駆け出していき、しばらくして戻ってくる。

 自分でわからないことは、すぐさま他の獣人に確認を取って答えるという一連の流れができていた。


「聞いてきました。背中や首の後ろを撫でてあげるといいらしいです」

「それはマリノアも?」

「……は、はい。わたしは、耳の後ろが好きです」


 顔を逸らしながらも、生真面目に頷いている。


「そっか。今度やってあげるね」

「……い、いえ、おかまいなく……」


 マリノアのいいところは、知らないことを知らないと言わず、また適当に誤魔化すこともなく、正確だと思える情報を伝えてくれることだ。

 こっちとしても、情報にわずかなりとも信憑性を得られるのはありがたい。


 そうやって話していると、マリノアの人間語が徐々に上達してい久野がわかる。

 代わりに俺は、歩きながら獣人語をマリノアから学んでいった。

 気紛れの猫ちゃんがそばにいるときは、マリノアを通訳にしていろいろ聞いてみたりした。


「何歳なの?」

『うーんと……八歳』

「八歳だそうです」

「じゃあ俺と同い年だね。小さいから年下だと思った」


 まあステータス見て知ってるんだけどね。

 話のネタにね。


『アル様と同じ年だそうです。小さいので年下だと思っていたみたいです』

『ミィニャもアルはお兄ちゃんだと思ったー』

「彼女はアル様が年上だと思ってたみたいです。わたしも大人びてるなとは思ってました」


 三人での会話は和気藹々としていて、言葉の壁を苦ともせず楽しむことができた。

 可愛らしい女の子と話せるだけで、精神年齢がおじさんな俺は楽しいんだけどね。

 転生前の世界では、女の子と話すためにお金を払うお店だってあったのだし。

 おっさんにとって、若い女の子は清涼剤だね。


 丸一日、移動で歩き続けた。

 魔物の群れには何度も遭遇した。

 そのたびに獣人たちが奇声を発し……失礼、雄叫びを上げて突撃していった。

 マリノアも狩りに参加したそうな顔でうずうずしていた。

 尻尾や耳が、ぴくぴく反応しているのだ。


「もう行きなよ、見ててこっちまでうずうずするよ」

「そうですか? いいんですか? すみません! 行ってきます!」


 ゴーサインを出した途端に弾かれたように飛んでいった。

 尻尾がぶんぶん振られていた。


「犬だな……」


 喜びを全身で表しながらボールを追いかける犬を、マリノアの後ろ姿に見た気がした。


「にゃ?」


 トコトコと遊びから戻ってきた猫ちゃんが、マリノアの後ろ姿を目で追いながら、不思議そうな顔をしていた。


「猫ちゃんは行かないの?」

「ふみゅ?」


 小首を傾げられた。

 仕草が愛くるしく、猫ちゃんに思わず抱き付いて頬ずりした。


「あー、超可愛いよ猫ちゃん!」

「ふむ~」


 逃げずにされるがままになっている猫ちゃんも可愛い!

 俺が猫ちゃんを愛でている間に、ホクホク顔のマリノアが戻ってきた。


「取ってきました! わたし、足、もらってきました!」


 マリノアが顔を輝かせながら、魔物の片足を高々と掲げていた。

 返り血でべったりと顔まで汚していても気にならないようだ。


「おーう……」


 俺が複雑な顔をしているのも気にせず、マリノアは嬉しそうだ。

 猫ちゃんが腕の中から抜け出し、マリノアの周りを嬉しそうに飛び跳ねている。

 猫ちゃん的にも返り血とか足だけとか、問題ないらしい。

 狩りの成果を羨ましそうに見ている。

 獣人って獣寄りかもと思った出来事だった。


 他にも、平原では魔物以外の生き物にも遭遇する。


「あ、死体漁りだ」


 人族が馬のような魔物を駆って、集団で移動しているところに出くわした。

 俺は彼らの姿に見覚えがある。

 念のためステータスを見てみるが、やはりである。


 戦場を飛び回る死体漁り専門の盗賊集団だ。

 顔や頭を布で巻いて隠していて、ひとりひとりの特徴は把握できないが、手に短弓と呼ばれる小型の弓を持っている。


 猫ちゃんが流れ矢でやられたのを、嫌でも思い出す。

 俺が複雑な面持ちでその姿を眺めていると、獣人たちが雄叫びを上げて駆けていった。


「え? え? 獲物? 人なんだけど?」

「うずうず……」

「いや、今回はやめて……」

「しゅん……」


 マリノアは耳まで項垂れていたが、当たり前だろう。

 人族の足だけ持って「獲ってきました!」とかは勘弁してほしい。

 マリノアを制止している間に、猫ちゃんが止める間もなく駆け出していってしまう。

 しばらくして戻ってきたが、獣人たちは人族を食用にはしなかったようで、ほとんどが手ぶらだった。

 精神衛生的にひと安心である。


「何してきたの?」


 俺はマリノアに頼んで、盗賊団を襲いに行った獣人から話を聞いた。


「あいつらは倒せと言われている、らしいです。盗みを働く悪い連中、だそうです」

「ああ、なるほど」


 盗賊団に戦場で死体漁りをさせて、彼らに遭遇したときその収益物を戦闘奴隷である獣人たちに奪わせるという算段なのだ。

 平原は強い者が勝つというシンプルな数式で成り立っている。

 憐れとは言うまい。


 猫ちゃんもホクホク顔で戻ってきた。

 常に肩に提げている襤褸の荷物入れは、前見たときより一回り膨らんでいた。

 盗賊団が溜め込んだ収穫物をがめてきたのだろう。


 その荷物入れは、絶対に誰にも触らせなかった。

 懐き始めている俺でもダメだった。

 おそらく、誰にも触らせてはいけないという命令を受けているのだろう。


 とりあえず、狩りに出向くたびに俺は彼らに浄化を掛けて、変な黴菌が付かないようにした。

 死体漁りとか、返り血とか、不衛生極まりない。

 そのくせ平気で手も洗わずに食事をするから、いつ病気になってもおかしくないのだ。

 病気にかかって死んでも、それはそいつが病気に負けるほど弱かったからとか言い始めそうだ。

 体内を鍛えるのは無理だと思うんだ、俺は……。


 その日も地平線の向こうに日が沈むのを見つめながら、一日が終わった。

 俺は特に彼らが進む方向に指図をしていない。

 マリノアが言うには、東国軍の拠点を目指しているとのこと。


 俺は一応西国国民なので、ノコノコ出て行ったら捕虜になってしまうかもしれない。

 それを告げると、マリノアやリーダーの熊さんはひどく悲しんだ。

 実は敵国同士なのだ。

 戦争に直接思い入れのない戦闘奴隷と、巻き込まれただけの俺だから成り立っている関係だった。


「奴隷の身分は納得してるの?」


 夜、焚火を囲みながら、俺は彼らに疑問をぶつけてみた。

 自分がつい昨日まで奴隷のような扱いに甘んじていたとは思えないようなセリフだが、気にはなる。


「負けてしまいましたから」


 彼らを代表したマリノアの返答はあっさりしていた。


「強いか弱いか、だけです。わたしの一族はみんなで戦って、人族に負けたと聞きました」

「マリノアは戦いには参加しなかったんだね?」

「はい。わたしが生まれた後のことです」


 直後ってことかな。

 生まれて間もない頃なら、そりゃ参加できないわな。


「猫ちゃんも?」

「いえ、ミィナの種族の青豹族は、まだ森にいると思います。戦うより逃げた種族もいます」


 血気盛んな種族は負けて奴隷になり、戦わずに逃げた種族は細々と生きている、ということか。

 ならば猫ちゃんは、なぜ奴隷なのか。


「攫われてきたのだと思います。そういう子は、少なくないです」


 攫われてきたのか。

 ひどい話だ。

 戦いで敗北して納得の上で奴隷になっているのと、商売のために攫われて売られ、奴隷になったのでは意味が違う。


 猫ちゃんを見ても、別段奴隷という身分に辛いものを感じている様子はない。

 ただそれは、その考えに至っていないだけなのかもしれない。

 考える頭がないとは、口が裂けても言うまい。


 翌朝になり、また行軍になる。

 俺と猫ちゃんとマリノアは、やはりただ歩いているだけだ。

 他の獣人が広がって、警戒してくれている。


 東国軍の拠点近くまで彼らを送ったら、反転してその足で一路西を目指そうと思っていたが、なんだか彼らと話をして、モヤモヤが残っていた。

 彼らと別れ、魔力のある限り飛んで行けば、日がくれる頃までには紛争地の平原からは抜けられるはずだ。

 半月も移動すれば、西端に付けるだろう。

 ひと月もせずに妹と再会できるなら、それに越したことはないのだ。

 しかし……。


 気にかかることがあるとすれば、やはり猫ちゃんだろう。

 猫ちゃんが大人しく主人のところに戻るだろうか。

 すんなり、「ん? じゃねー」と別れても、ここまで懐かせるのに必死だった俺が傷つくし、別れが惜しまれるようなものだと後味が悪い。

 どうしようか。

 いざお別れってときまで、どうなるかわからないか。

 ただ保留にしていることはわかっていても、まだ結論を出せずにいた。


 一日歩き通して日も暮れ、晩飯の後、猫ちゃんと手持ち無沙汰になった。

 後片付けも自然と当番制になりつつある。

 手の空いた獣人さんは歩哨か斥候に出ている。


 俺と猫ちゃんだけ、警備の方に参加させてもらえないのだ。

 マリノアはまだ十一歳なのに、自主的に参加を志願して許可されているというのに。

 なぜだ。


 というかマリノアってすごく働き者だな。

 俺の通訳をしていないときは、大抵誰か大人の獣人について、狩りなり歩哨なりに立っている。

 将来はバリバリ働く仕事のできる女になりそうだ。

 恋愛より仕事を優先しそうだな。

 そしたら家庭とは無縁の人生を送り、気づいたらいい年になっているのだ。

 転生前の人生観だから、こっちの世界ではまた違っているのだろうが。

 成長したら、方々から求婚されそうだな。

 マリノアは綺麗になる素養を持っている。


 それにしても、キリっとした眼差しだから、黒パンストに細眼鏡が似合うだろうなあ。

 頭に生える耳と、お尻からふさっと生える尻尾がとても良いアクセントになっている。

 そんなどうでもいいことをぼけっと考えるくらいには俺たちは暇を持て余しており、猫ちゃんは座る俺の肩に足をかけて登ってくる。

 人間山頂を登山。

 体格が似たような俺ではなく、小山のようなリーダーの熊さん相手にやってくれ。


「猫ちゃん危ないぞー」

「×〇□!」


 返答が何言ってるかわかりません。

 語調からして「余裕余裕!」とかだろうか。


 人間山頂といえば、二つのエベレストを牛系獣人のミルさんがお持ちだ。

 牛系らしくおっとりしており、戦闘向きではないのだが、いざ戦いになると槍を自在に操るテクニカルな女性だ。

 ただ歩いているだけで、薄い衣類の上からでもわかる乳房がぼよんぼよん跳ねるのだ。

 俺もいずれこの手で登頂したいものだ。

 おっさん臭いか。

 まあいいか。暇だし。


 平原の向こうに野生の馬らしきシルエットが群れを作って、砂塵を上げながら疾駆していた。

 車並みに速いのは、この世界では常識なのだろうか。

 よく見れば頭のところに角らしきものが見えるし。


 一角獣……ユニコーンというやつだ。

 初めて見た。

 追いかけても獣人たちは捕えられないだろうな。

 俺は、頑張れば一頭くらい捕まえられるかもしれない。

 やろうとは思わないけど。

 マリノアがいたらうずうずしているだろうか。

 さすがにあの足には追いつけないだろう。


 猫ちゃんは俺の肩に足をかけて立ち上がろうとしたが、滑って落ちてきた。

 咄嗟に広げた腕の中にすっぽりと嵌り、猫ちゃんと目が合った。


「仮にも猫を名乗るなら背中から落ちたらダメでしょ」

「にゃん?」


 つぶらな瞳で見上げてくる。

 あら可愛い。

 お持ち帰りぃ~! そんな言葉が頭に木霊した。


 俺は猫ちゃんをお姫様抱っこしたまま立ち上がった。

 いや、持ち帰らないよ? 持ち帰る家がないし。

 そういうことじゃないか。

 ブースト状態の俺は、猫ちゃんの重さも羽の重さと変わらない。


「どっせぇい!」


 猫ちゃんの体を、夕暮れの群青へ放り投げた。


「にゃはぁぁおおぉぉ!」


 すごい声を上げているが、空中で足をバタつかせながら五メートルくらいの高さで止まり、落ちてきた猫ちゃんを受け止める。

 泣いているのかと思って顔を見てみると、ケタケタと腹が捩れるほど笑っていた。


 袖をつかんで揺すってくる。

 何か喋っている。

 たぶん「もう一度!」とかそんなことを言っている。

 目がキラキラと輝いてますもん。

 猫ちゃんがまた、五メートルほど空を飛んだ。


「おおおぉぉぉぉぉっ!」


 落ちてきた猫ちゃんはとても嬉しそうだ。

 また腕にしがみつかれた。

 やってやってと。

 無限ループだ。


「そぉら高い高い!」

「にゃははははー!」


 日が暮れて視界が完全に悪くなるまで、猫ちゃんは空を舞っていた。

 腕が疲れた。

 猫ちゃんは尻尾を揺らし、寝るまでご機嫌だった。

 そんな顔をされたら、付き合ってあげてよかったなと思うから不思議だ。


 夜が明けて、また移動する。

 戦闘奴隷の一団は野営を更に二回ほど行い、とある丘の手前で立ち止まった。

 マリノアが言うには、臭いが近いとのこと。

 それは短い旅の終わりと、別れを意味していた。

楽しいことは早く過ぎ、

あっという間に終わりがやってくる。

そんな哀愁回。

…そう思ってるのは自分だけか。

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