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異世界旅行は落ち着かない  作者: 多真樹
第一部 幼年時代
32/204

第32話 剣の申し子

 気づけば陽も傾いている。

 村に戻ると、俺は真っ直ぐに納屋に帰った。

 しかしそこには誰もいない。

 ムダニの家もこっそりと覗いたが、エド神官はおろかリエラの姿も見られない。


「おい、奴隷。なにこそこそしてんだよ」


 背中から甲高い少年の声が聞こえてきた。

 俺はゆっくりと振り返る。

 そこには大怪我で寝たきりになっていたイランがいるではないか。


「完治されたんですね。おめでとうございます」


 胸に手を添えて頭を下げる。


「ふん、思ってもねえことを言うんじゃねえ」


 イランは手に剣を下げていた。

 練習用の木剣だ。

 それを俺に向けてくる。


「元気になったそうそう運動ですか? 懲りないですね、ほんと」


 憎々しげに睨んできたイランは、ふっと表情を和らげる。


「その荷物は何だ? 中身を見せてみろ」

「えっと……」


 イランが近づいてきて、肩にかけた荷物をひったくる。

 中身を見て、イランは驚いたようだ。

 そりゃそうだ。

 血の付いた角や、明らかに上質な毛皮、それらが詰まっているのだから。


「てめえはやっぱり嘘つきだ。この素材、明らかに大森林の物じゃねえか! この辺の雑魚の魔物じゃねえよ!」

「えっと、そこで拾いまして……」

「バレバレのウソつくんじゃねえよ!」


 ですよねー。


「没収だ!」

「えー」

「なんか文句でもあんのか?」

「いえ別にー」


 素材なら納屋に作った秘密の地下室にたんまり溜めてある。

 そこにはリエラに買った絵本や人形専用の棚もある。

 俺とリエラの内緒の部屋だ。

 だから、いまさら手に入れてきたものを取られても、痛くも痒くもない。


「この村に魔術師がいたことがないのが幸いして、いままでてめえの腕がどれほどのものかわからなかった。だけどな、オレに魔術師の教師が付いたんだよ。そいつが教えてくれたさ。あの女が着ているてめえが縫った服は、魔力が込められて防御力を上げているそうじゃねえか」


 俺は舌打ちしたいのを堪え、笑顔を貼り付けたまま驚いた顔をした。

 宮廷魔術師――。

 彼には妹の着ている対ムダニ用の防御服が見抜かれているわけだ。

 夜なべして魔力を織り込んで作った自信作。

 そういうところから、俺の実力を推し量られている。


「そうなんですか? あれはただ、妹のために服を縫っただけなんですけどね」

「よくよく考えてみれば、針も糸も親父はてめえなんかに与えねえよな。どこから持ってきた」

「それは、村の優しい人に譲ってもらいまして――」

「ないな。親父はクソだが、てめえの扱いに関しちゃ間違ってねえ。村人全員にてめえへの施しを禁じているからな」


 村八分じゃんそれ。

 まあ、思い当たるところがないわけではないので驚きはしないが。

 針は土魔術で作り、糸は要らなくなった布を解して魔力を流して撚って使っていた。

 涙ぐましい努力がそこにはあるわけよ。

 しかし、ただそれだけのことで、鬼の首を取ったような顔をされてもねえ……。


「そうなんですか? 旦那様がどうしてぼくたちにそこまで厳しいのか理解できませんが」

「てめえらが図に乗るからだろうが」


 君らの方が図に乗ってますよー?

 たかが七歳児を貶めるために力を入れ過ぎでないー?

 まったくいい根性しているよな、ムダニもイランも。

 そこまで人を嫌いになれるものなのかな。

 俺にとっての彼らは、憎いというより消えてほしいだけの、視界に入らなければどうでもいい存在だ。

 好きになれという方が無理な話だ。

 催眠術をかけられたとしても細胞レベルで彼らを拒絶する自信がある。


「図に乗る、ですか。難しい言葉をご存じなんですね。坊ちゃまも立派になられましたね」

「その上から目線をやめろや!」


 イランの怒りが膨れ上がった。

 そのときだった。

 窓からムダニが顔を覗かせた。


「何を騒いでいるんだ? また奴隷が何かしたか、イラン?」

「……チッ、親父には関係ねえよ」


 気勢が削がれたようだが、苛立ちは薄れていないようだ。

 イランは顎で指図してくる。

 いつもの丘に行くぞ、ということである。

 俺をタコ殴りにするだけの練習場だ。


「イラン、そいつがまた何か悪さしたなら殴ってやるぞ?」

「余計なお世話だ。これはオレの問題だ。おい、行くぞ」


 イランは俺の方を見ずに歩き出す。

 俺はムダニに丁寧に頭を下げてから、イランを追った。

 丘に着くなり、イランが剣を振りかぶる。

 俺はイランの剣の軌道を見た上で避けた。

 イランは直情的だが、剣の動きはそうではない。

 剣の天才と誉めそやされるくらいには、変幻自在に使いこなしている。


「てめえはそもそもいらねえんだよ! 妹だけ遺して死ね! あれはオレの奴隷にしてやるからよ!」


 ムダニによって横やりが入った先ほどの続きを、改めて再開する。


「リエラを遺して死ねませんね。それに、ぼくは坊ちゃまの奴隷ではありません」

「奴隷だよ、てめえは! 薄汚いクソ野郎だ!」

「言葉遣いに気を付けないと、将来が大変ですよ?」

「その態度も気に食わないんだよ!」


 剣筋を見切って避ける。

 風が耳元で渦巻いている。

 イランはぐんぐんと腕を上げていた。

 しかし攻撃は当たらない。

 イコールイランが弱いというわけではなかった。

 俺は魔力を纏い、身体強化を行っている。

 ついでに目に魔力を集めて、動体視力も二倍以上に上げている。

 同時運用はかなり酷だが、できないわけではない。

 ただそれだと大雑把に纏っているだけなので、燃費の面からはかなり勿体ないことをしている。


「ウチの妹を手元に置いてどうするつもりなんですか?」

「性奴隷に決まってんだろ」


 さすがにカチンときた。


「……お戯れを」

「なに……!」


 木剣をいなし、距離を詰めた。

 まさか反撃してくると思っていなかったのか、がら空きのイランの顔にパンチをお見舞い……する寸前で寸止めして、そのまま交錯し、お互いの位置を入れ替える。

 イランは間違いなく、殴られていたヴィジョンを見た。

 俺が手を抜いてイランの相手をしているものと勘違いされるかもしれないが、そうではない。

 ただイランの思わぬ間隙を突いただけだ。

 次からイランの踏み込みも慎重になるだろうから、二度は成功しないだろう。


「すみません。妹のこととなるとどうにも感情が抑えられなくて。でも坊ちゃま。言って良いことと悪いことがありますよ」


 そもそも妹に手を出す人間は、すべからく死んでいいと思っている。

 五歳の頃から今日まで二年間、親の代わりに手塩にかけて俺が育ててきたのだ。

 情が湧かないはずがない。

 きっと娘がいたらこんな感じになるのだろうなと思った。

 子煩悩なエド神官のことは笑えないな。


 俺は生前、結婚まで行かなかった。

 最愛の相手を見つけることすらできなかった。

 子供を持った親の気持ちなんてわかるわけもない。

 だが、親泣かせという自覚はある。

 人間としてなら最下層のクズに位置するだろう。

 歳を取ったところで、変わらないものは変わらない。

 人は成長せずとも歳だけは重ねるからな。

 みんな注意しろよ。

 下心たっぷりに女を求めることが、なんだか下品に思えてしまったDTのなれの果てが、この俺である。


 だが。

 だがそれでも。

 そんな救えない人間がひとりの少女を娘のように可愛がったっていいだろう。

 父性愛をダダ漏れにさせる滑稽なクソ野郎だとしても、それを誰かに茶化されたくはない。


 イランは冷や汗を拭っているようだ。

 俺の実力を測りかねているのだろう。

 こちらとしては好都合だ。

 近づいてこなければ迎撃しなくて済む。


「あいつは顔がそこそこいいから、治癒魔術を使えるように神官に言っておいたぜ。いずれオレの下でオレという存在を癒すための奴隷になるんだ」

「坊ちゃまの頭の中はとてもお花畑ですね。羨ましいです。ぼくがそんなこと許すはずないじゃないですか」


 人生という道程を童貞のまま歩き切ってしまい、何の因果か気づけば生まれ変わって、魔法使いになっている始末の俺が言えた義理ではないが。

 俺は最初、屋敷でちょっと羽目を外した。

 屋敷で一番の美少女だったナルシェを専属にして悪戯した俺の輝かしい黄金時代は、永遠に胸の内の思い出アルバムにしまわれて色褪せない。


 五歳にしてハーレム主人公を目指した時期が俺にもありましたー。

 横槍が入って最初の一人目でご破算になったけどね。

 だからイランのことは笑えない。

 笑うつもりもない。


 「オレ、フレアを性奴隷にしようと思うんだけどよ」とたとえばイランから相談されたとしても、俺は驚かない。

 「じゃあまずは心の底から惚れさせることですね。なんでも言うことを聞く人形にしてしまいましょう」とすぐさま切り返す自信がある。

 だが妹はダメだ。

 それだけは許せない。


 ハーレム? どうぞご自由に。

 でも妹はダメ、絶対。


 イランを見ていると、かつて浮かれていた自分を見ているようだ。

 だからいますぐぶち殺してやりたい衝動に、駆られないこともない。


「てめえの許しなんかいらねえんだよ! てめえは黙って床でも舐めてろ!」

「ぼくが舐めた後の床を旦那様に歩かせるわけにはいきませんよ。やれと言われたら、まあちょっと悩みますがやらなくもないですね」

「てめえ、何様なんだよ! 選ぶ権利なんてねえんだよ!」


 貴族生活が一転してからは、かなりストイックに生きてきたつもりだ。

 他の魅力的な横道には目もくれないで突っ走るボクサーのように。

 いい大人が女と酒と煙草を絶つようなものだ。

 俺はクズだったので、女には縁がないし下戸だし煙草むせるしで絶つ以前の話だったが。


 しかしいまはどうだろう。

 生前のフリーター生活から鑑みれば、毎日汗水流して真面目に働く自分がいた。

 魔術を独学で研鑽し、師匠を見つけて無理やり弟子入りもした。

 悟りが開けてしまいそうだ。


 妹の面倒を投げ出さず見てきたのだ。

 それこそパンツを穿かせて髪を梳かすまでやってきた。

 すっぽんぽんの妹を何度見たことか。

 無防備な妹に、ナルシェにしていたようなエッチな悪戯をしようなんて欠片も思わなかった自分を称賛したい。

 リエラも、ふたりでひとりであるかのように全幅の信頼を寄せてきたし。


 たらればの話だが、あのまま屋敷で暮らしていたら、妹とは少しずつ疎遠になったはずだ。

 お互いにいつしか自分の道を歩くようになり、互いに居場所を作っていたはずだ。

 相手の動向はなんとなくわかる癖に、近寄ろうともしない関係が出来上がっていたと思う。


「妹はあげません。別の子を探してください。フレアとか」


 村でイランに気のある女の子の名前を挙げる。

 彼女はイランが重傷を負ってから、毎日欠かさずお見舞いに来ていたはずだ。

 それをイランが鬱陶しく思っていたことも知っている。


「あんなどこにでもいる女はいらねえ。イモくせえ」


 イモ臭いってあなた……。

 それは都心部の人間が田舎者をなじる蔑称でしょうに。

 王都にも行ったことのないような村長の息子が何吹いてるんだか……。


「あーあ、それ言っちゃいますか。ウチの妹なんて根暗で臆病ものですよ? イモ臭いのと何が違うんですか」

「バカ言うな。てめえの妹なんだろ? それで十分だよ。てめえから何かを奪う、ただそれだけでオレは満足だよ!」


 口と同時に手も動き、木剣で突きを放ってくる。

 俺はいまのところ、一度もイランの木剣をまともに受けていない。

 やばそうな奴は掌底で弾いている。

 そうするとイランは更に不機嫌になり、剣速は更に速くなった。

 たぶん、敵が強くなるに比例して強さを発揮するタイプだ。

 面倒くさい。


「過信しすぎじゃありませんか? 坊ちゃまからそこまで熱烈な信頼を寄せていただくと、正直照れますが」


 吐き気を伴うけどね。


「誰がてめえなんかを信頼するかよ! 反吐が出る!」


 そこらへんはお互い様でしょうね。

 俺はふと考える。

 イランから疑いの眼差しを向けられているのなら、それをどこかに逸らしてしまえばいいのではないか。


「強さの正体、気になりますか?」

「なに?」

「大霊峰ですよ」

「大霊峰?」


 俺は裏山のはるか向こうを指さした。

 そこに連なる一枚絵の背景にも似た山々。


「あそこで拾った石のおかげで、ぼくの運気はぐんぐん上昇しました」

「……それがてめえの強さの正体か? なるほどな」


 納得しちゃったよ。

 通販で購入できるような眉唾なパワーストーンで強くなれたら苦労はしないよ。

 でもこの世界、そういうの本当にありそうなんだよな。

 ……。


「でも、修行方法とてめえを叩きのめすのは別の話だ」


 どうやら誤魔化せなかったようだ。

 結果とは裏腹に、安心している俺がいる。

 鵜呑みにされても困る。

 本当に実在するのかと俺の方が思っちゃうではないか。

 大霊峰はそれほど霊験あらたかなのだ。


 ひとが近づいてきた。

 俺もイランも気配には気づいていた。

 丘を登る姦しいふたりの少女の声が聞こえてくれば、そりゃあ気づく。

 イランが憮然とした顔で、剣を引いた。

 水を差されて不機嫌になっている。


「おーい! アル! 探したぞ」


 エド神官が先頭になって手を振っていた。

 エド神官の後ろにリエラとファビエンヌが並んでついてきている。

 何やら笑い合っており、仲良くなれたようだ。

 うら若き少女たちがキャッキャッする様子は見ていて和むね。


「話が付いたぞ、アル」


 イランに目を向けながら、エド神官が横に立った。


「話ってなんですか?」

「私はしばらくここに逗留することになった。怪我人の治療をしていくつもりだ。そのための家も貸してもらってね。なんでも討伐隊で亡くなった男の持家だとかで、いまは空き家になっていたところをすんなり借り受けられた」

「どれぐらいいるんですか?」

「期間は決めてないな。一年でも二年でも。ついでにうちの世話係におまえと妹さんを指名しておいた」

「え?」


 なんで? そういうのやめてくれって言ったじゃないの。


「大丈夫だ」

「大丈夫って……何が大丈夫なんですか!」


 エド神官はそれ以上言わず、俺の肩に手を置いた。

 大きな手だった。

 熱くて、力強い。

 信じろってことだろうか?

 信じるままに大人についていって、端金で売られた記憶があるんですが?


 じっと目を見つめてくる。

 その目は真摯だ。

 微笑んで「神に誓って」とか抜かしてくれれば、安心して縁を切れるのに。

 聞いてみようか。


「信用しろってことですか? それを神に誓ってみせてくれないんですか?」

「神に誓うのは生涯の伴侶だけと決めてるからな」

「ぐ……」


 かっこいいじゃないか。

 渋さがいい味出してて、リスペクトしたくなるじゃないか。

 ふん。そんな簡単に騙せると思わないでよ!

 ちょろいんとは呼ばせないんだからね!


「アルとは神に誓わなくても十分だろ。友を信じるのに神様が必要か?」

「ぬああぁぁぁぁぁ……」


 俺は胸を撃ち抜かれた。

 そこまで言われて、信じられなきゃ男じゃないよ。

 こくりと頷いていた。


「安心しろ。私がちゃんと手を打ってある」

「……うん」

「それに、村長殿も了承済みだ。イラン君、きみも納得しているよな?」


 イランは舌打ちし、「ああそうだな」と頷いた。


「よし、アルを拾ったところで、早速新居に行ってみようか。エンヌがアルを抜きにして行くのは嫌だと散々駄々をこねてね」

「そんなこと言ってないじゃない! お父様はウソつきよ! アル、信じちゃだめだからね!」


 エド神官の腕を掴んで騒ぎだし、ファビエンヌは必死に俺に訴えかけてくる。

 それを生温かい目で見つめる俺と神官。

 その視線に気づいたのか、顔を真っ赤にして逃げるようにリエラの手を取って、さっさと丘を駆け下りてしまった。


「アル、話が済んだら行こうか。下で待っているよ」


 エド神官が手を挙げ、苦笑して娘を追いかけていった。


「どうしますか? まだやります?」


 俺はイランに向かって尋ねる。


「やらねーよ、バーカ」


 イランは背を見せ、あっさりと帰っていった。

 俺はその背中を見送る。

 きっと俺に一発も当てられなかったから、腹の中は煮えくり返っているだろう。

 だが、何度も言うが、イランは弱いわけではない。

 体に少しずつ魔力を纏ってきているのが俺にはわかる。

 ときどき鋭い剣筋があるのも、魔力によって身体強化を行っているからだ。

 だがそれもまだ無意識だろう。


 魔術師の家庭教師を得たイランは、十中八九身体強化の魔力操作を覚えさせられる。

 いずれ体はおろか、剣も体の一部として纏い、切れ味が段違いになる。

 そういう漫画を生前読んだ。

 イランはきっと強化系であろう。

 そういう俺は変化系か具現化系? 嘘つきだし秘匿癖もあるしな。


 もしイランが火魔術や後衛系の魔術を覚えさせられたとしたら、彼の才能を潰す無能教師ということになる。

 イランは後ろで指示を出すより、自ら前に出て場を荒らすタイプだ。


 俺としては、イランが才能を潰して無能になってくれたら、脅威が一つ減って安心できる。

 同時にイランの教師をした元宮廷魔術師の力量も底が見える。

 でも見た感じ、能無しには思えなかった。

 妹の着ている衣服を魔力の折り込まれた特殊仕様だと見抜いていたしな。

 きっと腹の中ではとんでもなく悪いことを考えているに違いない。

 俺はイランの家庭教師になる魔術師を警戒している。


 敵愾心があるわけではない。

 自分と妹にとって脅威的なものは、誰彼構わず警戒するだけだ。

 エド神官のことも一応警戒しているが、父娘揃って泣きながら抱き締められてしまっては、疑うこちらが小者に思えてしまう。

 よくない癖だなと思う。

 人を見たら疑ってかかれとは経験則だからなあ……。

 両親は行方不明で、いつまで経っても迎えに来ないし、ラインゴールド家のメイドには端金で売られてしまうし、引き取られた先では人権さえ認められないし。


 本当に信頼の置ける人物に出会い、裏切られてもいいとさえ思えたなら、きっと生前のような虚しい人生は繰り返さない。

 丘の下で待つ三人を、俺は可能な限り信頼したい。

 さっき肩を叩かれたとき、信頼してもいいかなと思ってしまった。

 こ、攻略されてなんかないんだからね!


 合流し、黄金の穂波の中を四人で歩く。

 ふたりの少女が駆け出していく。

 その光景はまるで、夕暮れの海原を無邪気にはしゃいで泳いでいるようだった。

 こんな光景を、俺は何度でも見たいと思った。

 横を見ると、俺と同じことを考えていそうなイイ歳したおっさんの顔があった。

 俺もすっかり思考がおっさんだなと、苦笑を漏らした。

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