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異世界旅行は落ち着かない  作者: 多真樹
第二部 少年時代 二章 大森林のエルフ
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第41話 ジェイドの魔宮① 第一階層

 地下迷宮へ踏み込む前に、鑑定を使ってみた。

 迷宮についてなにか情報があればと思ったのだ。


 ジェイドの魔宮

 全??階層


 もう一度目を凝らして見た。


 ジェイドの魔宮

 全??階層


「なんだこれ?」


 ふざけているのだろうか。

 生みの親がそのまま名前になっただけではないか。


「ジェイド……聞かない名前」


 ニニアンも同じものを見ているようだ。

 知らないのも無理ないでしょうね。

 魔術師の名前がそのまま迷宮に冠されている。

 いいご身分だな。

 ふざけるなと言いたい。


「こんな迷宮さっさと潰そう。百害あって一利なしだ」

「それどういう意味?」

「にゃにー?」


 ニニアンと猫ちゃんの両方から首を傾げられる。


「こんな迷宮、ないほうがみんなのためってこと!」


 入ってみればなんとかなるとちょっと前までの俺はそう思っていた。

 そんな自分が恥ずかしい。

 足を踏み入れてみれば、広がる迷宮のエリア。

 天井がドーム並みに高く、エリアは広大だった。

 地形は岩石の転がる場所もあれば、石柱が聳え、石畳が覗く場所もある。

 何かの遺跡をまるまる飲み込んで巨大になった迷宮みたいだ。


「下の方に力を感じる。深い場所」


 ニニアンの言うように足元から莫大な魔力を感じた。

 しかもかなり深い。

 迷宮は下へ向かって、何階層もあるようだ。

 俺の迷宮に対する知識は少ない。

 エリアごとに下に通じる階段が何か所かあって、そこには必ずエリアボスがいる、という認識だ。


「まさかこんなにでかいものだったなんて。予想外だわ」

「迷宮はこんなもの。同じ迷宮はひとつもない」


 ニニアンに寄ればそういうことらしい。

 三歩も進まないうちに、岩場の陰から魔物がにゅるりと現れた。

 タコの足を持つ、上半身が人間の魔物だ。

 一体を皮切りに何体も現れる。

 タコ人間は紫色の肌をしており、見たところ男性形しかいない。

 ステータスを覗くと、スキュラと出た。

 十……二十……三十……。

 途中から数えるのが馬鹿らしくなった。


「入り口からモンスターハウスかよ。こんなの無理ゲーだし」


 独り言を呟く。

 前世のテレビゲームの話なんて、ニニアンや猫ちゃんが聞いても理解できないだろうし。


「むりげーってなに?」

「にゃにー?」

「戦闘が大変ってこと!」


 囲まれつつあるのに、ふたりは随分と余裕そうだ。


「攻撃のときは気を付けて。魔力障壁は地上の魔物と違って分厚いから」

「蹴散らすだけ」

「やっつけるにゃ!」


 なんとも好戦的な返答が飛び交っている。


「連携」


 何やら呟きつつ、ニニアンが先行して連続で矢を放つ。

 うん、使いどころが違う。

 ニニアンの矢が貫いたのは先頭の一体のみで、魔力障壁に阻まれて矢が落とされている。


「やっぱり一筋縄ではいかなくなってるな」


 無双できたのも前回までのようだ。

 これからは一体一体、確実に仕留めないとこちらがやられる。

 しかし紫色の体色にタコの足って、リアルで気持ち悪いな。

 毒々しいと言うか、触れられたくはない。

 子供の頃流行った遊びで、「○○菌」といって標的の子から触れられないように逃げる、あるいは触れた人間が別の人間に触れるまで追いかけ合うと遊びがあったが、こいつらは冗談抜きでタッチされれば毒をもらいそうだ。

 俺がその手の遊びに興じたかって? もちろん答えはノーだ。

 そういう遊びの標的にされないよう、自己保身で手いっぱいだったさ。


「スキュラ、毒持ってる」

「それ早く言って! 猫ちゃん、接近戦禁止! マンティコラを相手にしたときの対処法を思い出して!」

「まんてぃこら?」


 振り返った猫ちゃんが一瞬キョトンとする。

 おいおい、忘れちまったのかい? 不用意に触れてあやうく君の指が腐り落ちるところだったのに。


「にゃあ!」


 思い出したのか、合点がいったような苦い顔をする。

 猫ちゃんは近場に転がっていた石を拾い出した。

 そして魔力を練り、石にまとうと、スキュラ目がけて投げ始めた。

 対毒持ち魔物用の戦法で、急ごしらえではあるが、猫ちゃんとマリノアにはこれを徹底的に叩き込んだのだ。

 不用意に近づくことの危険性と、距離を置いて隙を窺うことの重要性をきっと学んでくれただろう。


「にゃはは! えい、やー」

「…………」


 何も考えていなさそうな、笑顔で石を投げる猫ちゃんを横目に俺の心境は複雑だ。


「当たった当たったー! アルー、当たったー」


 理想と現実の違いに、ちょっと切なくなった。

 スキュラは猫ちゃんの石つぶてで怯んでいる。

 スキュラは防御力と毒攻撃が危険だが、その他の攻撃はあまり強くなかった。

 タコ足のひとつを鞭のように振るってきた。

 それは猫ちゃんでも易々と避けることができる。

 もともと好戦的な魔物ではないのかもしれない。

 攻撃はおざなりで、こちらの攻撃待ちだ。

 いや、食虫花のような近づくのを待つタイプの魔物もいる。

 横合いから新たな魔物が現れた。

 蜘蛛のような、多足の虫系魔物だった。

 こちらに向かってくるのかと思いきや、虫はスキュラの方に向かって行った。

 猫ちゃんが俺の方を向く。

 指示を仰ぎたいのかもしれない。


「猫ちゃん、おいで」


 猫ちゃんが傍に寄ってきて、頭を擦り付けてきた。

 俺は猫ちゃんの頭を撫でながら周囲を見渡した。

 スキュラを囲むように、虫系魔物が犇めいていた。

 弱肉強食という言葉が思い浮かんだ。

 虫系魔物が一斉にスキュラに襲い掛かる。

 しかしスキュラは、それをタコ足で搦め取ってぎゅっと絞め殺している。

 俺は手を開き、魔力を練る。

 高身体強化よりもさらに上、超身体強化と並ぶくらいの威力に仕上げねば、これからの魔物を倒すことは難しいだろう。


 魔力を練ればそれだけ魔力槽の残量は減っていく。

 精度、威力を一段階上げるのに、馬鹿にならない魔力を消費する。

 ここ数年、魔力が底を尽くまで魔力を絞り出すことをしてこなかったので、魔力槽はあまり大きくなっていない。

 いままでは猫ちゃんやマリノアの成長を促してきたが、俺も成長しなければならないときが来たのかもしれない。


「“雷矢”」


 手のひらから、電撃の矢を無数に打ち出した。

 それは光の速さで飛んでいき、すべてのスキュラの魔力障壁を突き破って、致命傷を与えていた。


「やるね」


 ニニアンが無表情のまま、ぽつりと言った。

 褒められたのだろうか。

 俺は魔力をごっそり奪われて、膝ががくがく小鹿のように震えている。

 雷矢を受けたスキュラは、感電死したり麻痺していたりと、個体によってダメージにばらつきがある。

 そんな弱ったスキュラに、虫系魔物が襲い掛かり始めた。

 折角の獲物を横取りされるのは面白くない。


「猫ちゃん、虫を全部始末して」

「にゃー!」


 尻尾をフリフリし、猫ちゃんが跳び出していった。

 猫ちゃんに任せても大丈夫なくらいには、虫系魔物は雑魚だった。

 俺がなんとか持ち直している間に、猫ちゃんは全身を虫系魔物の体液で汚しながら戻ってきた。

 いや! その汚れた格好で頬ずりするのやめて! あ、ああーっ!


 猫ちゃんを頭から足先まで浄化したが、俺の心には拭えない気持ち悪さが残ってしまった……。

 一階層の魔物は、スキュラが大半だった。

 あとは、毒蜘蛛や大蟷螂といった虫系が大半を占めている。

 スキュラさえなんとかなれば、猫ちゃんでも安全に渡り合える階層だ。

 毒に気をつけなければならないが、解毒はできる。

 毒は怖いが、それを恐れて猫ちゃんを引っ込めることなどしない。


 可愛さ余って猫ちゃんを箱に入れ、綺麗なおべべを着せて愛でるのは俺の教育方針ではない。

 甘ったれた子にしたいわけではないのだ。

 観賞用のお人形さんにしたいわけでもない。

 自由奔放なところは長所でもあるから、それを殺さず大きくなってもらいたい。


 猫ちゃんを鍛えるのと魔宮の様子見を兼ねて、丸一日マップを埋めることに専念する。

 スキュラとの戦闘は細心の注意を払い、俺かニニアンが殲滅。

 入り口のモンスターハウスを切り抜けると、不思議と遭遇するスキュラは数匹程度だった。

 おそらく、入り口に固まっているスキュラは、外からやってくる獲物を待ち伏せている。

 待っているだけで餌が口に入ってくるなら、それに越したことはないのだろう。

 広大な迷宮内での遭遇率がそれほど高くないのも、入り口に固まっているせいだとも考えられた。


 エンカウントする魔物が虫系魔物なら、身体強化で十分に対応できる。

 しかし今後を考えると、猫ちゃんに高身体強化術を覚えさせるのは急務になってきそうだ。

 俺のレベルアップと一緒に、猫ちゃんのレベルアップも図るべきだ。

 しかしこれが魔力や体力をごっそり使うので、猫ちゃんも後半になるとへろへろだった。


「もう歩きたくにゃい」


 そういって猫ちゃんが座り込んでしまったところで、俺たちは迷宮内で野営することにした。

 迷宮内は防寒着を脱いでも平気なほどに暖かい。

 夕飯を済ませると、猫ちゃんは俺の膝を枕にごろんと横になった。

 猫ちゃんは尻尾をゆっくりと振りながら、くわっと欠伸を漏らした。

 目がとろんとして、眠そうだ。


「迷宮と、迷宮の魔物について意見が聞きたい。スキュラについて何か知っていることは?」

「迷宮については何も知らない。階層がどれくらいあるのかもわからない。スキュラは、初見。でも毒を持ってるのはわかった」

「俺と同じってことか」


 落ち着いてステータスを視れば、毒攻撃は見抜くことは可能だった。


「いきなり、何の話?」

「今後のことも考えて、意見交換をしておこうと思ってね。連携のために」

「連携か」


 ニニアンがそれで納得だと言わんばかりに頷いた。

 いや、納得されても困るんだけどね。


「スキュラは俺の見た感じ、毒持ち、守備重視、受け身、移動力低め、上半身はほとんど動かさず、下半身の無数に存在するタコ足を主体として攻撃する中近距離タイプ。他に何かある?」

「障壁が固い。でも攻撃してきた足は、案外容易く斬れる」

「うん。猫ちゃんだと辛いけど、俺とニニアンなら問題ない」

「猫は役に立たない」

「にゃに?」


 眠い目をして、猫ちゃんが膝枕から頭を起こした。


「なんでもないよー」


 おーよしよしと、頭を撫でる。

 気持ちよさそうに目を細めると、太ももに沈んだ。

 新しい矢を作るため木を削っているニニアンが、もの欲しそうな目で見てくる。

 猫ちゃんは貸さないからな。


「基本は近づかず、獲物を引き寄せてのタコ足の毒攻撃がある。でも避けられるし、封じることもできる。つまり……」

「つまり?」


 意味ありげに言葉を溜めると、ニニアンが吊られて首を傾げた。


「ここは絶好の狩場、ってことだよ」

「狩場?」

「ここは最高の餌場だぜ」

「餌場?」

「冗談はほどほどにして、俺と猫ちゃんの身体強化を鍛えるにはちょうどいい階層だと思う。俺は急ぎではないから、ここでしっかり足場を作って下に降りようと思う」

「急がないのか?」

「ああ……」


 師匠の件でまたうるさく言われるだろうか。


「そうか」


 返事はそれっきりで、ニニアンは平静そのものだった。


「師匠の場所に早く案内しろって、また逆上するのかと思った」


 俺はあえて、触れなくてもいいものにざらりと触る。

 ニニアンが何を考えて付いてきているのかわからない。

 それを知る、いい機会だった。

 俺だって、さすがに譲歩する気持ちもある。

 迷宮攻略後にテレジアに向かうという指針は変わらないけど。


「いる場所がわかっているなら、急ぐことはないと思った。それだけ」

「最初に出会ったときは凄い剣幕だったのに」

「焦ってた。もう見つからないと思ってた。知っていると言って、本当は知らない人間に何度も騙された。嘘を吐いたら、死んでもしょうがない」

「騙した人間は殺してきたと」

「エルフを騙すとは、そういうこと」


 師匠は人間不信になったが、こちらはたくましく生きているようだ。

 お尋ね者になるのは時間の問題だったようだが。

 エルフは亜人族の中でも魔力が強く、怒らせれば危険な種族だと子どもでも知っている。

 しかし、ニニアンはこの美貌である。

 騙しても手に入れようと乱心する人間がいても不思議ではない。

 俺だって、これで正真正銘の女性なら師匠を知る縁を利用してなんとしてもお近づきになろうとしただろう。

 しかし男である。

 残念ながら股間にいちもつを持つ男なのだ。


「これまで何も見つからなかった。でもいまは、あの男に辿り着く方法が目の前にある。何も問題ない」


 ニニアンは作業の手を止め、俺の腕輪を見つめた。

 師匠から貰った、師弟の腕輪。

 師匠は他のエルフがこの腕輪を見れば、自分が渡したものだとわかると言っていた。

 俺にとっては師匠との絆の証で、ニニアンには師匠に繋がる確かな道なのだろう。

 時間をいくら掛けようが構わないという鷹揚な態度は、やはり長命のエルフだから至る結論だろう。

 俺なんか、師匠や妹に一日でも早く会いたいというのに。


「じゃあ俺が迷宮攻略に時間を掛けても、何も言わないわけだ」

「あの男のもとに連れて行ってくれるのなら、何も言わない」

「俺だって師匠に会いたいからね。この迷宮が片付いたら会いに行くけどさ」

「なら問題ない」


 実に簡潔なことで。

 ニニアンはナイフを手に、枝を削っている。

 不意に、うつらうつらしていた猫ちゃんが起き上がった。

 ふらふらと荷物を漁りだし、一冊の絵本を取り出した。


「アルー、絵本読んでー」


 眠たげに目をぐしぐしする猫ちゃんだが、絵本を聞きながら眠りたいのだろう。

 ディベートは中断し、読み聞かせになった。

 興味深そうに、ニニアンが覗き込んでくる。

 なんか緊張するな。

 俺は猫ちゃんが寝るまで、お気に入りの絵本を読み聞かせた。

 眠る猫ちゃんの額にキスをして、おやすみの言葉を掛ける。

 まるで欧米ママである。

 すぴーと眠る天使のような猫ちゃんの寝顔を見ていると、なんだか安心できた。

 父性愛なのだろうか。

 エロい気持ちは全く湧いてこないからな。

 エロいばかりの俺ではないのだ。

 時には深い愛情をもって接することだってできるのだよ。


 俺は猫ちゃんを愛していると断言できる。

 マリノアだってそうだ。

 妹に至っては、兄妹愛と父性愛が加算されている。

 メイドのナルシェには嫌われているかもしれないが、俺から嫌いになることはないだろう。

 ちょっと気恥ずかしいが、ファビエンヌだって好きだ。

 エド神官や師匠は、敬愛している。

 俺は基本、猜疑心の塊だが、一度信頼した人間は裏切らないと決めている。

 もしくは、裏切られても許すと決めている。

 第二の人生である。

 視野を狭くしたくはない。


 それに、だ。

 いつかアルシエル本人に身体を返す日がやってくる。

 その日までに、たくさんのつながりを作っておきたいのだ。

 敵から身を守るため、いつもより頑強なドームを張った。

 ニニアンはドームの外だった。

 そこが俺と彼の線引きとも言える。


 俺が彼を受け入れる日は来るだろうか?

 悪いエルフでないのは、短い付き合いで感じていた。

 ものを知らなすぎるので見当違いのことをやらかすが、ちゃんと成長している。

 ぶっきらぼうだが、気遣うことを前向きに理解しようとしている。

 俺も、頑なになっていてもしょうがないのかもしれない。

 お互いに理解し合えるなら、それに越したことはないのだ。

 ニニアンとのつながりだって、一応作っておいてもいいだろうし。


 眠気が一気に襲ってきた。

 超身体強化で、魔力を使い切っているので疲労が激しい。

 ドームで守っているとはいえ、外にニニアンがいるという安心感は確かにあった。

 そうやって、少しずつ信頼していけばいいと思う。

 猫ちゃんを抱き寄せつつ、深い眠りに落ちていった。


 攻略二日目の朝。

 ドームを壊して出てみると、ニニアンが何かを齧りながら出迎えてくれた。


「にゃに食べてるのー?」


 猫ちゃんがいちばんに興味を持った。


「ん? 虫だ」


 ニニアンが猫ちゃんに食べているものを見せ、俺も横から覗き込んだ。

 そして後悔した。

 節足動物の足を生で食べていた。

 ゲテモノをモザイクなしで食べるなんて!

 俺は一瞬にして気分が悪くなった……。


「ミィニャも! ミィニャも!」

「ん? ほら」


 ニニアンからびちびち動く虫の足を受け取り、猫ちゃんは迷わず口に入れた。


「んー! おいちー」

「……嘘でしょ?」


 猫ちゃんが耳をぴくぴくさせ、尻尾をふりふり機嫌良さそうに振るのが信じられなかった。


「君も食べるか?」

「……遠慮しておきます」

「そうか。ぷりぷりなのに」

「……うげ」


 新鮮であろうとなかろうと、虫は無理だ。

 人型魔物も食せるようになったが、虫は無理だよ。

 そんな朝のひとコマだった。


 順調に一階層のマップを埋めていると、人の気配がした。

 ひとりふたりではない。

 大人数のものだ。


「軍隊かな」


 ニニアンも気づいていたらしく、俺と同じ方に目をやっている。


「なんで軍隊を迂回したはずなのに、後ろじゃなくて前に気配を感じるんだろう」


 そんな疑問が涌いたが、ニニアンがあっさりと答えを出す。


「別の入り口から入ってきた」


 少し考えればわかることだった。

 彼らはどうやら、別の入り口から迷宮へ侵入したようだ。

 入り口がひとつだけというのは俺の思い込みだ。

 迷宮への進入口は幾つかあるのだろう。

 そうならそうで、彼らと鉢合わせるのは避けたい。

 いいところで二階層へ降りることも検討しなければならない。

 行き当たりばったりは否めないが、しょうがない。


「軍隊と鉢合わせたくないから、機を見て一階層を降りようと思う」

「下りるのー?」


 猫ちゃんが首を傾げる。


「心当たりがある」


 移動途中、なんとなく魔力が強い場所があった。

 あえて寄らなかったが、階下への道を塞ぐフロアボスだろう。

 フロアボスなんてものがいるのかどうかも俺の思い込みが強い。

 階下の魔力をこのフロアの魔物が独占しようとしたら、自然と階下への道を塞ぐようにフロア最強の魔物が居座るのではないか。

 要は、強い魔力を辿れば、比較的スムーズに下に降りられることになる。


 果たして俺の予測は的中し、階下への道を塞ぐように女形のスキュラが構えているのだった。

 横目に見ると、ニニアンと猫ちゃんは虫系魔物の足の肉を齧っていた。

 とてもげんなりした。

〈アルの迷宮メモメモ〉


 魔物は魔力の強いところに集まる習性がある。

 ひと階層にはだいたい1〜3種の魔物が徘徊している。

 魔物の性質として、基本的には同種を殺して食べることはないが、異種なら平然と餌にする。

 下層に行くほど魔力が濃く、魔物も強力。

 魔物は魔力を求めて下層へ移動するが、獲物を求める下層の魔物が階段前で待ちわびていることが多い。

 階層の下り口前には、大抵その階層の最強個体が陣取っている。


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