終章
「…で、何でわしの家に当たり前みたいに住んでんだ!?」
金蔵は、食事を囲む面々を見て渋い顔をする。
「金鬼、我とそなたの仲ではないか」
「おれは秀丸の要る所なら、鬼の居る所でも我慢する」
しれっとする隠形と、土蜘蛛にあきれつつ、秀丸に視線を向ければ、秀丸は申し訳なさそうな顔をする。
「ごめん、金蔵殿…」
すこしやつれた顔で項垂れる秀丸の膝を、宥める様に魑がポンポンと叩いている。
「…いや、秀丸にはもう帰る村もねえし、新しい家を見つけるまでは居ても良いと言ったけどよ…兄者も土蜘蛛も、タダ飯食ってんじゃねえよっ!」
住む代わりに、掃除や洗濯、料理を請け負う秀丸と違い、秀丸を挟んで座る他の二人は何をする訳でもない。金蔵の言葉も馬耳東風。
「…時に、秀丸」
「…なんだよ、隠形」
右にいる隠形を秀丸が見れば、清々しい表情で秀丸を見下ろしていた。
「そなた、魑を助けた際に、何でも言うことを聞くと言ったな?」
「あ…うん。確かにそう言ったけど…何させる気だよ…」
「なに、簡単なことぞ?」
耳元で周囲に聞こえぬ声で何事かを囁いた隠形に、秀丸が首を傾げる。
「毎日、まぐわいたい?」
金蔵が思わず口に含んだ米を勢いよく噴き出し、土蜘蛛は茶碗を落とした。
「あ、兄者っ!秀丸に何て事、言ってんだっ!」
「この助平野郎っ、ぶっ殺すっ!」
周囲から非難が出るよりも早く、意味の解っていない秀丸の身体を攫った隠形は得意の術で姿を消し、二体の妖が宣戦協定を結んで探しまわり、魑はおろおろとするばかり。
そうして一人の人間の娘は、数多の癖のある妖たちと長く暮らすことになる。
やがて都を席巻する妖を従える秀丸を、人は『百鬼天女』とよぶ。
これは、その少し前のお話。
-了-