エピローグ
八王子ダンジョン協会の建物、地下に区画化された厳重なセキュリティの奥に、『データ捜査部』が存在する。
新設されたその部署は主に警察や自衛隊、官庁のエリート官僚から構成されるいわゆる監査組織だ。
違法なスーツ改造で窮地に陥った者を救い、ダンジョン内での犯罪を捜査し、ダンジョン外で探索者が問題を起こすのを未然に防ぐ。
そして、『メンテの人』に関する情報を収集し、コンタクトを取ること、『メンテの人』を利用し、犯罪を引き起こす者を取り締まることを目的としている。
つまり、様々な専門機関から零れ落ちた厄介ごとを引き受ける、何でも屋だ。
「笠原部長、あの人がなんでここに?」
配属された者たちが真っ先に首を傾げるのはその多岐に渡る業務内容ではなく、部屋の隅を占領するワンマン。
「月本さんは現場仕事が長いので、至急のサポートを掛け持ちしてもらっています」
スーツのソフトが不具合を起こしたが、メーカーが対応できない。
スーツのアシストが働かなくなったが、メーカーが対応できない。
スーツの調整が不十分で、メーカーが担当できない。
など、緊急案件を引き受ける。
「大丈夫ですか? 如月弥生のこと……」
かん口令により、月本遊星がなぜ『データ捜査部』にいるのか、知らない者たちがほとんどだった。
「ええ、彼は毎日誰かを救っていますよ。それから、緋山探索員の専属サポートです」
「え!」
「そうですよ~」
お堅い役人出の者たちも、現れた瑠衣を見てドギマギしてしまう。
『最速B級昇級者』
『最速特派就任』
『探索界のアイドル』
『如月弥生の後継者』
そんなメディアに引っ張りだこの彼女が、冴えない部署にいることを皆不思議に思う。
「ありがたいことですが、いいのですか?」
「何が~?」
「もっと華やかな調査探索などありますのに」
「ここが一番いいよ。ウチの活躍を見せたい人はここにいるから」
「ああ、お父様ですか」
皆、電撃復帰を果たした緋山崇のことを知っている。
同じく、『データ捜査部』付きで契約している。
緋山崇だけでなく、芋づるで緋山瑠衣まで引っ張った笠原への信頼は厚い。
「部長、夕飯を受け取って来ます。みんなの分も」
「月本さん、あなたは御用聞きじゃありません」
「捜査権の無い民間人はおれだけですから、雑用はやりますよ」
部屋を出て行く遊星。
「おや、身の振り方はわかっているらしい」
しばらくすると不意にアラームが鳴った。
監視システムが感知。
オペレーターが状況を伝えた。
「小田原ダンジョンの最終階層にて、救助要請!」
LIVE配信が行われ、すでにすさまじい再生回数。
「相手は『天狗』か。これは呼びそうですね。できるだけデータを集めましょう」
LIVE配信、ネット情報、ニュース映像がモニターされる。
小田原ダンジョンで調査探索班が遭遇したのは支配者階級の『大天狗』。
オーガのような巨体に黒翼を有し、風魔法と剣術を駆使する。
さらに無数の『烏天狗』を指揮している。
映像では追いきれない高速戦闘と、人知を超えた魔法の応酬が繰り広げられた。
いずれの探索者も、連携の意表を突いて切り込んだが『大天狗』のスキルで動きを封じられ、風の魔法の直撃を受けた。
〈うわー!! チートだ!!!〉
〈視界に入ったら詰むぞ!!!〉
〈早く呼べ!!!〉
『ぐふっ……ス、スーツがぁ……あぅ』
〈呼んだよ!!!〉
〈頼む来てくれ!!〉
〈みんな死んじゃうよ!!〉
空を支配する黒翼の修験者が魔法を放つその時だった。
眩い光が空を覆った。
光の筋が降り注ぎ、黒い翼を射抜いていく。
『大天狗』はすぐに、空に現れた巨大な兵器を視認。
〈キター!!〉
〈なんじゃそりゃーww!!!〉
〈だから、そんなんどこで売ってるんだよwww!!!〉
『大天狗』は撃ち落される配下をよそに、一点をぎろりと見つめる。
その先にはグレーのフルフェイス型スーツを着こんだ男が一人、戦場に立っていた。
『毎度』
無数の『グレイブ』が傷ついた探索者を囲み、破損したスーツを解体し治療を施していく。
『大天狗』は唐傘を開き、降り注ぐ光の雨を防ぎ、地面に着地。
『メンテの人』と対峙し、見下ろす。
「こんな時に、月本さんはどこだよ!!」
「夕飯受け取りに行くのにいつまでかかってるのよ!!」
「ほんと間の悪い人だな、あの人はいつも……!!!」
データ部の職員たちが忙しなくデータ収集に動く。
「……ダンジョンの伝送システムを用いずこれだけの力を……一体何者なんだ?」
笠原はモニターに映るその姿をじっと見据えた。
瑠衣は『大天狗』が『グレイブ』のリンチに遭っている衝撃映像をよそに、スーツの修理に取り掛かる相棒をじっと見守っていた。
「……かっこいいんだから」




