赤髪天使編エピローグ 膨れっ面と度忘れにはご注意を
王都に戻ると
おかみさんにびっくりされた。
そりゃあね、
普通にいけば片道数日とかかるような道のりを
行って帰って休暇含め五日で往復したんだから。
そんなことできたら人間じゃないよ。
「こんな早く帰ってきてどうしたんだい?
ちゃんと届けてきたのかい?」
「はい、これが受け取りの証です。」
そうして見せた血印。
おかみさんは青い顔してた。
当たり前だよね、
今さら血で印を押す人なんていないもの。
「しっかり休暇は取れたのかい?」
セルの特訓含め北の都とエデンの園で過ごした五日間が休暇と言えるのかは分からないが
とりあえず「はい…」とだけ答えておいた。
セルのことだ。
休暇届のこともバレてる。
建前だけでも休暇だと言っておかないと後々厄介なことになりかねない。
「そうですかそうですか。それはとてもよかったですね、リリィ。
ところで私たちへのお土産はどうしましたか?
まさか自分だけ休暇を満喫しておいて、
その間働いていた私たちには何もないとは言いませんよね?
私は事前にお願いしておいたはずですが…」
五日前から何一つ様子が変わることなく、
ひたすらに黙々とこちらを見ることもなく作業を続けたままの
マギアの声が僕の体に悪寒を走らせた。
セルにマギアがご立腹だって話を聞いたから飛ぶようにして帰ってきたのに…
そのせいで大切なことは置いて来てしまったようだ。
「お、お土産はね…僕の旅の話、なんてどうかな…?」
「確かに私はお土産とは言いました。有形無形の指定はしていません。
ですがひそかに期待していました私の気持ち、
どう取り返してくれるのでしょうか?」
いや知らんて…
自分で勝手にハードルを上げたままこの数日過ごしたであろう彼女にとっては
どうやら僕のお土産話はいささか不服なようで。
彼女と出会って一緒に過ごすようになってから
以前のような機械みたいな硬い雰囲気は徐々になくなっていき、
少しずつ人間らしくなってきたように感じる。
それは嬉しいことだ。
でもね。
(こう言う人間らしさはいらないんだよなぁ…)
「あはは…実は忘れちゃってて。
その…ごめんね?」
ぷいっとそっぽを向いてしまった彼女から
後に僕が北の都に行ってた間の仕事が大量に回ってきたのはまた別の話。