表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第7章 狼おじさんと猫の少女
93/521

薬売りを追って

 事件が発覚した翌日、事態を把握したギルドマスターによって検問の厳重化が施行された。

 同時に俺たちクルセイダーは薬売りの行商人の情報収集、および捜索に集中することになった。

 これですぐにアシがつくだろう。


 ……と、思っていたんだが。


 「なぜだ……」


 なぜかまったく情報が集まらない。

 いや、正確には『情報量が多すぎてうまくまとまらない』と言った方がいいだろうか。

 ある人は『薬売りは痩せた男だった』と言い、またある人は『薬売りは背の高い女だった』とも言っていた。

 性別、出で立ち、何もかもが曖昧で人物像がさっぱり掴めない。


 もしかして、薬売りは複数人いるのだろうか?

 だとしたらこれは何らかの目的を持った組織的な行為かもしれない。

 

 それと気がかりなのが事件の発覚以降、誰も行商人の姿を見ていないということだ。

 俺たちの活動が本格化する前にここから撤退したのだろうか。

 だとしたら情報の回りが早すぎる。


 「男だったり女だったり、若かったり年寄りだったり、薬売りって何者なんだろうなー」


 アルも俺と同じことを考えているようだ。

 でも考えれば考えるほどさっぱりわけがわからない。


 「グルルルル……」

  

 さっきからグレイさんも低く唸り声を上げている。

 

 「それにしてもよぉ、こういう頭脳労働は俺たち機動隊のやることじゃねえよなぁ」

 

 頭脳労働がかなり苦手なアレンはすでにお手上げ状態だ。

 もっとも、言い分は理解できる。

 俺たちが主にやることは情報集めのために街を走り回り、犯人を追うことであってその情報をもとに犯人の正体を突き止めるのは別の部隊がやることだ。

 俺たちクルセイダーは警察のようなものだが決して刑事ではない。

 

 「しょうがねえだろ。今動けるのが俺たちぐらいなんだから」


 グレイさんの言う通り、クルセイダーも結構な数がアシオリギクの毒にやられてしまっている。

 むしろ俺たちいつもの面子が揃って活動できているのが奇跡だと思えるぐらいだ。


 結局、今日も有力な手掛かりは得られなかった。

 夜勤の奴らに交代して今日は上がりだ。


 「ただいまー」

 「おかえりー!」


 家に帰れば暖炉に暖められた家といつもと変わらないミラたちがいる。

 彼女たちが元気でいてくれることが今は何よりも安心することだ。

 そんな二人に迎えられながら俺は暖炉の近くのソファまで足を運んだ。


 「今日もダメだった?」

 「情報が多すぎて薬売りがどんな奴なのかさっぱりわからん」

 「ふーん……」


 事情を知っているオズは俺と一緒にため息をついた。


 「薬売りの人は今日も見つからなかったの?」

 「ああ、今日もダメだった」

 

 俺の隣に座りながらミラが訊ねてきた。

 ほぼ仕方のないこととは言え仕事の成果が出ないのを自分の口から報告するのはつらいものがある。


 「ミラは怪しい奴は見なかったか?」

 「ううん、見てないよ」

 「そうか。もし怪しい人に声をかけられてもついて行ったり物をもらったりしたらダメだぞ」

 「わかった。気を付けるね」


 そういえばもっと早く教えておくべきだった。

 『知らない人について行ってはいけない』

 昔はどうしてそんなわかりきったことを教えるのだろうと思っていたが今はその理由がわかる。

 

 「お腹すいたー」

 

 暖炉の側でくつろいでいたらミラに夕飯の催促を受けた。


 「なにも食べてないのか?」

 「理由もなくアンタ抜きで先に食べるわけないじゃん」


 オズ……お前本当に丸くなったよなぁ。


 「そういえばね、アタシ昼過ぎぐらいにギルドをうろついてたんだけどさ」

 

 台所で夕飯を作りながらオズが俺に話を持ち掛けてきた。


 「おう」

 「なんか変わった奴を見たわ」

 「どんな奴だ!?」


 状況が状況なだけについ食い気味になって反応してしまった。


 「えーっと……白い身体の獣人ってことぐらいしか覚えてないわ」

 「なんの獣人だったんだ?」

 「ゴメン、そこまでは分からない」


 それでもいい、かなり具体的な情報だ。


 「なんか通りすがりの人に声をかけて一緒に路地裏に入っていったわ。何をしてたんでしょうね?」


 どう考えても怪しい。

 というか事件の犯人ソイツじゃね?


 獣人か……

 グレイさんやアレン、アルは俺と同じ場所で仕事をしている以上犯人ではない。

 だがアシオリギクを扱える獣人となるとごく限られた存在なのではないだろうか。


 白い身体をしていたという具体的な情報も得られた。

 それが正しければかなり人物を絞れるはずだ。

 いや、複数犯の可能性もあるからそれも氷山の一角に過ぎないのかもしれない。


 やっぱりいくら考えてもわからん。

 考えられる可能性を一つ一つ潰していくしかないか。


 犯人の正体以外にも気がかりなことがある。

 毒にやられてしまった人の復帰だ。

 薬屋の婆さん曰く『完治には薬を処方しても数日はかかる』と言っていた。

 ギルドで薬を作れるのは彼女一人、これだと薬を作るのに時間がかかりすぎるし、処方が間に合わないかなりの人が一週間以上は寝た切りになってしまう。

 そうなるとギルドの商売にもかなりの悪影響が出る。


 もしかして事件の犯人は最初からこれを狙っていたのではないだろうか。

 だとするとすでにかなりヤバいところまで来ている。

 なんとかして足取りを掴んでこれ以上の展開を阻止しなければ。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ