過保護なおじさんたち
あれからというもの、俺たちは何かとアルのことを気にかけるようになった。
彼女は弟たちの面倒を見ながら仕事をしているが、俺と違って自分がいないときに下の子の面倒を見てくれる人物が存在しない。
そんな中、グレイさんが取った行動が……
俺たち機動隊の面々は訓練用の広場に集められた。
なんだか嫌な予感がする。
「今から一時間耐久鬼ごっこだ。俺より捕まった回数が多かったらそいつらにはメニュー追加するからな」
なんとルイ君とリリーちゃんに訓練に協力してもらうというものだった。
この前独り言のようにぼやいていたがまさか本当に実行するとは思わなかった。
「ルイ、リリー。本気出してもいいからな!」
「本当に!?」
「ああ、本当だとも!」
アルもルイ君たちを激励している。
彼女はたぶん捕まらないだろうけど俺たちからすれば何よりもきつい一時間になりそうでならない。
「それじゃあ始めるぞ!始めェ!」
グレイさんの号令と同時に俺たち機動隊員は一斉にルイ君たちから背を向けて全力疾走し始めた。
ルイ君とリリーちゃんの表情が一気に切り替わり、標的目がけて飛びついて行く。
今気が付いたことがある。
このメニュー、ルイ君たちと顔見知りの関係である俺はかなり不利なのではないだろうか。
「いいぞー!やれやれー!」
全力で逃げ回る俺たちのことを高所から傍観しながらアルが適当なエールを送っている。
一応お前も訓練対象になってるのを忘れんなよ。
とはいってもルイ君たちの姉である彼女が捕まるとは思えないが。
そういえばアレンはどうしているのだろう。
アイツ、身体がデカいから狙われやすそうだが。
「ほらよっ」
うわぁ……
踏み抜いてひっくり返した地面を即席の壁にしてリリーちゃんが正面から飛び込んでくるのを防いでいる。
いわゆる畳返しって奴だよな。
でもこういうところで機転が利く辺のは場数を踏んでいるアレンならではだ。
「たっちー!」
「あー、やられちまったかー!」
後ろのルイ君に触られてアレンは頭を掻いた。
これ、訓練してるというよりはじゃれついているだけに見える。
そんなこんなで俺たちの耐久鬼ごっこは続いた。
相変わらずルイ君たちはめちゃくちゃ速いしアルはそれ以上に速い。
おまけに壁蹴りなどを利用してひらりひらりと回避している。
元盗賊という経歴を持つ彼女の技術と身体能力、そして弟たちの行動を予測できるからこそできる芸当だろう。
「逃げるならもっと足場を利用した方がいいぜー。そこの壁とかさ」
アルからこんなアドバイスをもらったがそれを活かせるのは一部の獣人だけだと思うぞ。
少なくとも俺のような人間には壁蹴りで隣の足場に移るなんて無理だ。
「そこまで!」
グレイさんのその一言で俺は絶大な開放感を得た。
ああ、ようやく一時間経ったのか。
「鬼ごっこの結果だが俺は二回捕まった。三回以上捕まった奴は昼休みまで腹筋だ」
マジかよ。
俺四回捕まったからアウトだな。
「今日の訓練、遊びかと思ってたら今までで一番きつかったわ…」
昼休み、飯を食いながら俺はアレンたちと駄弁っていた。
「お前そんなに追い回されてたのか」
「すでに顔見知りだからどうしても意識されやすいんだろうなー」
「まあ俺も二回捕まってたからギリギリセーフだったけどな。アルはどうだったんだ?」
「ウチが捕まるわけないじゃん。二人がかりでも余裕だからな」
姉の威厳はこうして保たれているんだろうな。
「アル、お前は何か食べないのか?」
さっきからアルは何も口にしていない。
昼休みを逃すと退勤まで何も口にできないに等しいのだが大丈夫だろうか。
それともすでに昼食終えてるとか?
「節約だよ節約。給料日が来るまで外で飯を食べるのが難しいんだよな……」
憐れみを感じずにはいられない。
切り詰める必要があるっていうのはわかったんだがさすがに食費を削るのはよくないと思うぞ。
「なんか食えよ。適当なの奢ってやるからさ」
「マジでいいのか!?助かる!」
貧乏性はこじらせると本当にろくなことがない。
変にこじらせるぐらいなら俺たちを頼ってもらった方がいいだろう。
「おい見ろよ。雪が降り始めたぞ」
アレンの何気ない一言を受けて俺たちは窓の外を見た。
「うわマジかよ……」
「おー。確かに雪だな」
確かに雪が降り始めていた。
今は穏やかだが明日にはそこそこ積もっていそうだ。
「こりゃあ明日の業務は雪かきかもしれんな」
アレンは冗談めかして笑っているが雪かきはかなりの重労働だから正直笑い事ではない。
「雪かきってなんだ?」
コイツ、雪かきをしたことがないのか。
「積もった雪をどかして道を作る作業だ。寒いし雪が重いからかなりしんどい」
ギルドの道路は雪が積もりやすいから俺たちが除去しないと馬車が通れなくなったりして結構な弊害が出る。
面倒だが避けては通れない仕事だ。
そういえばグレイさんは何をしているんだろう。
ルイ君とリリーちゃんの行方も気になる。
「ルイ君たちは今日この後どうするんだ?」
「狼が何か飯食わせて家まで送るって言ってたぞ」
「甘やかしてるな」
「甘やかしてるわ」
アレンとほぼハモった。
間違いない、完全に甘やかしている。
「あの狼、なんだかんだで結構世話焼いてくれるんだよな」
知ってる。
俺もかなり世話を焼かれたし。
「昨日なんて弟たちに冬用の防寒具まで差し入れてくれたんだぞ」
過保護かよ。
流石に俺でもそこまではやらんわ。
「あしながおじさん……」
「なんだそれ」
ああ、こっちの世界にはそういうのがないのか。
「俺が住んでた国ではお前みたいなやつを無償で手助けしてくれる人のことをあしながおじさんって呼んでたんだよ」
「女でもおじさんなのか?」
「あくまで例えだよ」
「ふーん……」
「言ってお前も嫁とかマーリン家の娘には甘いんじゃねえの?」
アレンに茶化されてしまった。
でも、そう考えるとグレイさんがアルたちに甘いのがなんとなくわかる気がする。
「えっ、オッサンって結婚してたのか!?」
「タカノはこう見えても既婚者だぞ。しかも嫁はオズ家の当主様だ」
「マジか……」
アレンに事実を聞かされたアルは絶句した。
お前はこの前何を見ていたんだ。
「じゃあ、お前もあしながおじさんだな!」
おっしゃる通りです。
そんなこんなで今日の仕事は終わった。
雪が降り始めた影響で少し早めに切り上げることができたのはちょっとした幸いか。
「お疲れ様でーす」
「おう、お疲れ」
「どうっスか。アルたちの面倒を見るっていうのは」
「本ッ当に疲れるわ……」
でしょうね。
ミラと違ってあっちはかなり腕白でしかも二人だし。
「でも不思議と可愛く見えるもんっスよね」
「それは否定せん」
やっぱりな。
「グレイさんも親バカが出来上がりつつあるんじゃないスか?」
「馬鹿言ってんじゃねえ!」
やたら食い気味に否定された。
さては図星か。
「親バカ二号……フフッ」
「それ以上言うと喉を引き裂くぞ」
よし、これ以上言うのはやめよう。
意外なところでグレイさんをいじるネタを発見した。
これからマジギレされない程度にちょくちょくいじろう。




