義理の孫娘と魔法
その日の昼下がり。
ミラは親父にくっついて一緒に農作業の手伝いをしていた。
オズもアリスと一緒に農場の見学をしている。
今ぐらいの時期はちょうどかぼちゃの収穫シーズンだ。
俺は縁側の縁に腰を下ろし、お袋と一緒にミラたちの様子を見守っていた。
親父の仕事場である菜園は我が家の縁側から直に見ることができる。
話し声を聞くこともできるぐらいその距離は近い。
「これはなんていう野菜なの?」
「これはかぼちゃって言ってな。昨夜食べたコロッケの中に入ってたのがこれだ」
「へぇー」
「これが昨夜のアレの中身なのね」
興味津々に尋ねてくるミラに対して親父は得意げに答えている。
自分の育てた野菜に興味を持ってくれたのがよほど嬉しかったのだろう。
完全にデレッデレだ。
「かわいい子ねぇ。お母さん急に孫ができたみたい」
お袋はまだミラがどんな子なのかをよく知らない。
まさかとは思うがミラのことを本当に俺の子だと思ったりしてないよな。
「俺がこの家を飛び出してからの話なんだけどさ」
俺は隣に座っているお袋に話を切り出した。
結局昨日は親父とのしがらみを解決するだけで現状報告とかは何もできていなかった。
信じてもらえないかもしれないが、話す価値はあるはずだ。
「うんうん」
「実は俺さ、もうこっちの世界の人間じゃなくなったんだ」
「……はい?」
お袋は目を丸くしている。
そりゃそうだよな、傍から聞けば意味不明だし。
「ミラも、オズも、こっちの世界の人間じゃねえんだ。つまり異世界人ってこと」
「異世界って『あの世』的な?」
お袋の例えは言いえて妙だった。
実際俺は一度死んであっちの世界に行ったわけだし。
でもあそこが死後の世界かと言われるとそうでもないような気もするが。
「まあ、そんなもんだな」
「やだもうトモ君ったら。お盆だからってそんな冗談はやめてよ」
やっぱり信じられなかったか。
そういえば今はお盆のシーズンだったな、そういう冗談だと思われるのも無理はないか。
「嘘だと思うかもしれねえけど本当なんだ。その証拠に、ミラもオズも魔法が使える」
「魔法?」
「そう、二人は魔法使いなんだ」
お袋は俺のことを気が狂ったのかとでも言わんばかりの表情で見てきた。
現実でこんなファンタジーなこと言われても実感ないよな。
俺もお袋と同じ境遇ならまずそう思うし。
「トモ君ももういい年なんだから冗談はもっと上手くつかなきゃ」
やっぱり信じてもらえないか。
こうなりゃ実証してもらうしかないか。
「オズー!こっちまで魔法で移動してみてくれないか」
「なんで?これぐらいなら歩いて行けばよくない?」
ごもっともな返答が来た。
確かに農場と我が家の距離は目と鼻の先だ。
「ちょっとお袋に魔法を見せてやりたくてさ」
「はいはい」
事情を理解したオズは自分の正面に金色の魔法陣を展開した。
それと同時に、俺たちの目の前にも同じ魔法陣が現れる。
「はい、これでいい?」
自分の目の前の魔法陣から一瞬で転移してきたオズを見てお袋は口を開けて呆然としてしまった。
まさかさっきまで戯言だと思っていたことが現実に起こるとは思いもしていなかっただろう。
「あー、お義母様?」
オズはお袋の眼前で手を上下に振って反応を確かめた。
目の焦点が動いていない、完全に上の空だ。
「なんだありゃ……」
さっきの一瞬の出来事を見ていた親父も農作業の手が止まっていた。
魔法のある日常にすっかり慣れきっているミラはそんな親父の様子を見て首を傾げている。
そしてすぐにこの世界の魔法使い事情のことを思い出し、解説に回る。
「え、えっとね。お姉ちゃんは魔法使いだからああいうことができちゃうんだよ!」
「魔法使い……」
約六十年ほどの人生で初めて本物の魔法を見た親父とお袋は突然自分がファンタジーの世界に入り込んでしまったかのように困惑していた。
「ハッハッハ!トモユキよ、ずいぶんと面白いものを持ってきたじゃねえか!」
親父は吹っ切れたように大笑いをした。
どうやらこの非現実を受け入れることにしたらしい。
「オズ、クロを元の大きさに戻してくれ」
「え?本当に大丈夫?」
「まあ大丈夫だろ。ずっと縮め続けるのも窮屈だろうし」
オズは部屋をうろうろしていたクロを抱え上げると外に放し、指を鳴らした。
縮小化の魔法が解け、クロは再び数メートルの巨体を俺たちの前に見せた。
「グオオオオオオン!!」
クロは大きな翼を広げ、雄叫びを上げた。
音圧は俺たちの髪を後方へ靡かせ、おこぼれを狙っていたであろうカラスどもを一瞬で追い散らしていく。
「な?これで分かっただろ。俺たちはこっちの世界の人間じゃねえって」
「そう……信じるしかないのかしらね」
巨大なドラゴンを目の前にし、ようやくお袋もこのファンタジーな光景を受け入れることにしたらしい。
これで俺のしたかった現状報告は一通りすることができた。
あとはもうちょっとだけ、この余暇を楽しむことにしよう。




