一人の魔法使いとして
校門の外でミラを待ち続けること数十分が経ったか。
そろそろ受験終わったかな?
などと考えていたその時だった。
「ミラが出てきたわよ」
ちらりと門の向こうを覗き見たオズがミラの姿を見つけた。
脇に何かを抱えている。
入学試験の時も即時で結果が出てたし、合否の通知だろうか。
「あれっ、トモユキ?それにお姉ちゃんも、どうしてここにいるの?」
「いやー、どうしてもお前のことが心配でさ……」
「もー、二人とも心配しすぎだよー」
ミラは冗談めかして笑っている。
「で、結果は出たか?」
「うん、これ見て」
そう言ってミラは脇に抱えていた書類を両手で広げた。
「ほらっ!合格!」
広げられた紙面には合格した旨の内容が記されていた。
しかも成績優秀につき特待で学費免除!?
「いよっしゃあああああ!!」
「やったああああああ!!」
それを理解した瞬間、俺とオズは顔を見合わせ、歓喜の雄叫びを上げながらハイタッチを交わした。
「やったなミラ!今まで頑張ってきた甲斐があったってもんだ!」
「うん!春から中等部の生徒だよ!」
俺はミラを抱きかかえてぐるぐると振り回した。
ミラも中等部に進学できることを喜んでいる。
「お父さんにも知らせに行かないとね」
そうだな。
きっとレオナルドさんも喜ぶことだろう。
そしてオズの召喚魔法で直接図書館の三階へと飛び、再びいつもレオナルドさんのいるところへと訪れた。
しかしそこにレオナルドさんの姿はない。
「あれ?」
「まだ戻ってないの?」
おかしいなぁ、もうとっくに戻ってきていると思っていたんだが。
司書の人にも確認取ってみるか。
「いえ、レオナルド様はまだ戻ってきておりませんが……」
マジか、戻ってきてすらいないとは。
あれからさらに時間も経っているはずだ、別の用事でもあったのか。
「仕方ない、また明日にでも知らせに行くか」
「そうだね。ここで待っててもいつ戻ってくるかわからないし」
諦めて俺たちが引き返そうとしたその時だった。
「あっ、戻ってきた」
噂をすればなんとやらって奴か。
レオナルドさんが戻ってきた。
「お父さーん!」
手を振って合図をするミラに対してレオナルドさんは小さく手を振り返した。
「ミラ、結果は出たのかな?」
「うん。合格だよ」
ミラに合格通知を見せられたレオナルドさんはノーモーションでミラを抱き寄せた。
「よく頑張ったね」
「えへへ。ありがとう」
「頑張り屋さんのミラには私からご褒美をあげよう」
そういえばレオナルドさんってミラに対して何か物を与えたことって全くなかったんだよな。
何を与えるのか俺も気になる。
「何をくれるの?」
「ミラはもうすぐ十歳になるよね。って言えばわかるんじゃないかな」
「うーん……あっ!」
ミラはレオナルドさんにヒントを与えられ、少し考えてから思い出したように手を合わせた。
同時にオズもハッとしたような表情を見せる。
「礼装!」
「その通り」
レオナルドさんがいつも着ているアレか。
オズもしかるべき場所では着ているな。
「そっか!ミラももうすぐ十歳になるのか!」
「礼装っていうのはこれぐらいになってから用意するもんなのか?」
「魔法使いは十歳になって初めて自分の礼装を持つの。アタシもそうだったし、レオナルドもそうだったはずよ」
いろいろとわからないことの多い魔法使いの世界。
その一端をここで知ることになるとは。
「いいかい?礼装を持ったらミラはもう一人前の魔法使いだ。そこからは自分で魔法の道を切り拓いていくんだ」
「お父さんにはもう魔法は教われないの?」
ミラからの寂しげな質問にレオナルドさんは微笑みながら黙って首を横に振る。
そうか、礼装を持つということは魔法使いとして独り立ちをするっていうことなのか。
「そんなことはないよ。でも、ミラは自分で考える方がもっと成長できる」
「ミラ一人で大丈夫かな?」
「大丈夫。ミラにはタカノ君やクラリスちゃんもついているだろう?もしそれでも迷いが晴れなかったら、その時はお父さんのところにおいで」
レオナルドさんはミラの頭を撫でながら優しく諭す。
魔法に関することで俺が役に立てることなんてあるのだろうか。
俺たちは今日三度目の召喚魔法で家へと帰ってきた。
アリスのことをメリルにまかせっきりにしてたけど大丈夫だったかな。
「ただいまー!」
「おお!戻ったか」
俺の一声を耳にしたメリルが暖炉の側から振り向いた。
その腕の中にはアリスが抱かれている。
「メリル!ミラ春から中等部に進学するんだよ!」
「そうか、よかったじゃないか」
嬉々として報告するミラとは対照的にメリルの表情はどこか憂いを感じる。
なにかあったのだろうか。
「どうしたの?なんだか悲しそう……」
メリルの表情から何かを察知したミラが尋ねかける。
「いや、春になったら空に帰ろうと考えていたのでな」
その一言で俺たちは思い出した。
メリルは地上の人ではなかったということを。
「別にいつまでだっていてもいいんだぞ」
「気持ちはありがたく受け取ろう。だが私は空に戻ってこの地上のことをみんなに伝えたいのだ」
すでにメリルの意思は固まっているようだった。
短い間だったけど、いなくなったらなったで少し寂しくなるなぁ。
「う!あーあー!」
メリルの腕の中からアリスが何かをアピールしている。
視線の先にはミラがいる。
構ってほしいのだろうか。
「どうしたのアリス?」
目が合ったミラがアリスのすぐそばまで近寄った。
「う……みー!」
俺たちに激震が走った。
いままでア行しか発することができなかったアリスがマ行を口にした……だと!?
恐らくミラのことを呼んでいるのだろう。
まさか初めて名前を呼んだのがオズでも俺でもなくミラになるとは。
秋にオズと競い合っていた『誰が先に名前を呼んでもらえるか』競争は脇から現れた第三勢力にかっさらわれる結果に終わった。
ミラの中等部進学が決まり、十歳から魔法使いとして独り立ちすることになり、春になったらメリルは空へ帰ることがわかり、そしてアリスが初めて人の名前を呼ぶ声を発した。
俺の異世界生活五年目が激動の年になることは間違いなしだ。




