二人を止めるために
オズに声をかけて街中を飛び回った後、俺は図書館へと足を運んだ。
学校にも書店にもミラの姿はなかった。
一体どこに行ったのだろう。
仕方がない。
俺は一度図書館に足を運ぶことにした。
「遅かったわね。もう全員揃ってるわよ」
いつも通りに図書館の三階へ訪れると待ちくたびれていたかのようにオズがため息をついた。
奥の方を見るとミラとレオナルドさんもいる。
なんだ、すでに図書館にいたのか。
「話はクラリスちゃんから聞いたよ。あのドラゴンの子が暴れてるんだって?」
どうやら概要はすでにオズから知らされているみたいだ。
よかった、それなら話は早い。
「すぐに止めに行かなきゃ!」
ミラの目はかつてないほどにマジだ。
そういえば言ってたっけ、『二人が戦うことになったら自分が止める』って。
「オズたちはクロに乗って現場に向かってくれ。俺は自分の足で行く」
「わかった。さあ行くわよ!」
オズが先導し、魔法使い三人はクロへと乗り込んだ。
三人を乗せ、クロは地下闘技場目指して飛翔する。
それを追いかけ、俺は地上を走った。
「おいタカノ!あのドラゴンはどうした!」
道中、野次馬たちを抑え込んでいたアレンに声をかけられた。
どうやら闘技場で二人が戦っている音が地上まで聞こえているらしく、それが原因で人が寄り付いてきたらしい。
「オズたちに貸してる!通りたいからそこを開けさせてくれ!」
アレン他複数の機動隊員たちが侵入を防いでいるものの人が多くてこのままじゃ俺も通ることができない。
この人ごみをかき分けるのは骨が折れる。
「クルセイダーが通るぞォ!一般人は道を開けろォ!」
アレンはその剛腕で野次馬たち数十人をまとめて押し出して道を開けてくれた。
クルセイダー随一の怪力ならではの力技だ。
「助かった!このまま一般人が入らないように頼む!」
「任せろ!」
アレンが作った道を駆け抜け、俺は地下闘技場へと向かった。
ありがとよ、今度飯でも奢るからな。
「ここにメリルがいるのね」
「ああ、間違いない」
先に到着していたオズたちと合流し、俺たちは確認を取りあった。
「ミラ、今のメリルはお前の知っている彼女じゃないかもしれない。覚悟はしておけよ」
「……うん」
俺からの忠告にミラは息を飲んで頷いた。
事前に言っておかないと大きなショックを受けるかもしれない。
入り口の扉を開き、俺は再び闘技場の様子を覗き見ると、そこにはさっき覗き見たときよりも凄惨な光景が広がっていた。
観客席と思わしき場所すらも破壊しつくされ、もはやここが何をする場所だったのかすらもわからない状態に荒れていた。
「アアアアアアアアッ!!」
無尽蔵に再生を続けながら猛撃するメリルに対し、エリックさんは体力切れを起こしたのか急所を狙った攻撃だけを最低限の動きで防いでいた。
加護を受けた武具を付けているとはいえ中身は普通の人間、いくら鉄壁の防御があろうともスタミナの差でいずれはこうなることは明白だった。
「メリル!」
その光景を見たミラが咄嗟に俺の後ろから飛び出していった。
こんな状態で何を考えてるんだ。
「ミラ下がれ!今のメリルには言葉が通じねえぞ!」
「わかるもん!絶対に通じるもん!」
普段は一歩引いた視点で物事を考えられるはずのミラがかなり感情的になっている。
友人があんな状態になってしまったのをなんとしても助けたいのはわかるが、今のままじゃ絶対に手に負えない。
呼び声に反応してメリルがミラに目を付けた。
ヤバい、攻撃対象がエリックさんからミラに移ったんじゃねえのかこれ。
「ウオアアアアア!!」
案の定じゃねえか。
メリルはすさまじいスピードでミラに突っ込んできた。
それに対してミラは一歩も引こうとしない。
「ッ!?」
あわやミラにメリルの爪が襲い掛かろうとした刹那、メリルの動きが止まった。
その手足には金色の光の鎖が巻き付いている。
「何やってんの!すぐにメリルから離れなさい!」
オズの一声でふと我に返った俺はミラを抱きかかえて即座に離脱した。
次々に新たな鎖を召喚され、拘束の強度が上がっていく。
「グッ……!ウオオオオオオオッ!!」
鎖がクモの巣のように張り巡らされ、あらゆる行動を制限されてもなおメリルは力ずくでそれを引きちぎろうとしていた。
「ヤバッ……あんまり長くはもたないかも……」
オズの表情に焦りが見える。
俺たちも悠長に考えている余裕はないな。
「仕方がない、一度すべてを凍らせるしか……」
「それだけはダメ!」
レオナルドさんが選定の剣を抜こうとしたのをミラが鬼気迫る剣幕で引き留めた。
「しかしこうしなければエリック君が殺されてしまう。君の命だって」
「でも凍らせたらメリルが死んじゃうよ!ドラゴンが寒さに弱いのはお父さんも知ってるでしょ!」
レオナルドさんの言い分は理解できるし、ミラの言い分もまた理解できる。
初めてあの親子の意見が対立するのを見たかもしれない。
「メリルのことはミラがなんとかするよ。だから凍らせたりなんかしないで……!」
ミラは泣きそうな表情をしながら懸命にレオナルドさんに訴えかけた。
友達を助けたいという思いが伝わったのか、あるいは彼女の頑固さに折れたのか、レオナルドさんは選定の剣をミラへと託した。
「エリック君は私が回収する。メリルちゃんのことは頼んだよ」
レオナルドさんはそういうとエリックさんの元へと駆けていった。
あの人に任せればとりあえず助かるだろう。
「策はあるのか?」
「一つだけあるよ。成功するかはわからないけど……」
そう言ってミラは静かに選定の剣を抜いた。
剣によって引き出されたミラの魔力が青白い光になって彼女の全身から周囲一帯に放出される。
「お姉ちゃん。今から詠唱するからその間お願い!」
「わかった!」
ミラから依頼を受け、オズは絶えず光の鎖を錬成してはメリルの手足を拘束していった。
一本、また一本と力ずくで引きちぎられるが物量に勝る光の鎖は確実に時間を稼ぐ。
「その輝きは癒しの息吹……」
剣の柄をしっかりとを握り締め、ミラは詠唱を始めた。
「その輝きは万物を遮る盾……」
大魔法が起動をはじめ、ミラの髪が魔力の勢いで激しく逆巻く。
同時に周囲の魔力が仄かに輝き、薄暗い闘技場を照らし上げる。
「その輝きは根源へと至る道……」
ミラは静かに詠唱前の口上を述べきった。。
彼女にしか扱えない大魔法、その名は……
「発動せよ!ヘブンズ・アーク!」




