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初めての友達

会社の行事があって、更新までに少し日にちが空いてしまいました。

更新できて良かったです、一安心。

立派な社蓄だったせいで、友達付き合いなんてほとんどしていなかった前世。

寂しい人間だったから、新しい友達が出来た感動が凄まじいっす。

なんか、“ともだち”の響きだけで泣けちゃうってか、泣いた。




顔を出したのは、私と同じ年頃の子狼だった。

何だか、私より一回り身体が大きい。


だが一番目を引いたのは、両手靴下である。

そう、両手靴下!!

両手の部分だけ白い毛色でくっきり分かれて、靴下履いたみたいになってるのだ!

白いおててがめっちゃ可愛い!!


まだまだ丸い可愛らしい姿の子狼ちゃんに、更に可愛い要素が加わったらもう、何というか、最強無敵じゃない!?

この興奮をどう表せば良いの!?

はわわわ、ぎゃんかわ!




まあ、とりあえず。


『こんにちは!』


全ての興奮を内に押し込んで、ニパッと笑って挨拶をした。

挨拶は大事。


あまり興奮を前面に出して、こんなに可愛い子に引かれたら心に深い傷を負う。

悲しきかな、言いたいことを飲み込む事に慣れた社蓄生活の賜物である。


無駄なことに思えても、全てが人生の糧となるのだ。

ちょっと心を慰めてみたが、やっぱり社蓄は良くないね、社蓄反対。




『えっと・・・、こんにちは』


第一印象が“可愛い”で埋め尽くされた私は、もう、白いおてての靴下くんのやる事なす事全てが可愛い。


戸惑いながら、靴下くんは挨拶を返してくれた。


戸惑ってるのも可愛い。

声も可愛い。

モフモフの姿で立ってるだけで可愛い。

おててが一番可愛い!


前世はブラック企業に入社してしまって社蓄となってしまっただの、それまでの人生でも何だかんだ貧乏くじを引いただの変な騒ぎに巻き込まれただの、自覚できるほど不運だった私だが、今世はもしかして幸運に恵まれてたりする?

マジで?


思えば母さんに兄妹、加えて靴下くんと、数々のモフモフに出会うことが出来た。

魔狼は群れで住んでいるのだから、これからもっとたくさんのモフモフと出会えるだろう。

可愛いは正義である。




『お前、何でここに居るんだ?』


怪訝な顔も可愛いと思いながら、ここまで来た理由を思い出して、再び風船がプシューッ、ヒュルルルーゥとしぼんで、ポテンと落ちた。


幸せな気分は一瞬だけだった。

モフモフも可愛いも正義で天国だけど、臭いだとかノミだとかはそれを軽々と超越する酷い悪で地獄要素だったわ。


母さんのお腹にノミを見つけた時に全く同じことを思ったのに、すぐに舞い上がるんだから、もう。


何が今世では幸運に恵まれているかもしれない、だよ。

普通に不運だったわ。

私の不運は死んで生まれ変わっても治らないらしい。

うあー、マジかー・・・?




『ここは、他の狼はほとんど来ない。何で来た?』


何だか少し警戒した様子で聞かれる。

こんなに可愛い子が、一丁前に縄張り意識を発揮させているのが可愛い。


『水浴びをしたくて、大きな水たまりを探しに来たの。ちょっと前に雨が降ったでしょ?』


『水浴び? そんな事のために、こんな所まで登ってきたのか?』


他の狼からしても、水浴びは“そんな事”らしい。

理解されなくて悲しい。


『でもさ、自分の身体を見てみてよ! ノミが這ってるんだよ!? 気持ち悪くない!?』

『ノミ? この小さい虫のことか?』


靴下くんが自分の背を見て落ち着いた様子でそう返した。


『ええ!? 何でそんな平然としてるの!? ノミだよ!? 虫だよ!? 身体についてるのに気持ち悪くないの!?』

『いや、そんなには』


狼は虫を気持ち悪いと思わないのだろうか?

いや、そうなのかもしれない。


前世でも犬とかは虫が出ても大して何とも思ってなさそうだったし、猫とかは猫パンチで遊んでたりしてたわ。

こんな何の脅威もなさそうなちびっちゃい虫なんて、身体についてても特に何とも思わないのか。


マジか、獣ってすごいな。

信じられない。


『お前にとってはこんな所まで来るほどの事なのか・・・。あっちの方に大きな水たまりがある。案内してやる』

『本当に!?』


靴下くんはこの世に遣わされた天使なのかもしれない!

念願の水場の存在に私は飛び上がって喜んだ。


『ありがとう、ありがとう!! すごい嬉しい!!』

『そ、そんなにか?』


興奮のあまり飛びついたらちょっと引かれた。

反省。




『来い。こっちだ』


巣から出て来た靴下くんを止める声はなかった。

巣を覗き込むと親の姿はなく、ここには靴下くんだけしかいないようだった。


『巣に1匹でいるの?』

『ああ。父さんも母さんも、大事なお役目があって今はいないんだ』

『お役目?』

『俺もまだ詳しく知らないけど、とても大切なお役目なんだ。お役目でいない時は、よく1匹で留守番をしてる』

『そうなんだ』


話していると、靴下くんは随分としっかりしている事が分かる。

すごいなぁ、ロゥロとは比べ物にならない。


この年頃の子狼はこれくらいしっかりしているものなのだろうか。

ロゥロしか知らないから、ロゥロが子どもっぽいのか、靴下くんがしっかりしているのか分からない。


けれど、人間でいう幼児や小学生低学年くらいの年頃であることを考えると、やっぱり靴下くんが年の割にしっかりしているのだろう。

落ち着いた雰囲気で、クールな感じだ。


『ほら、行くぞ。俺と話すために来たんじゃないだろ』

『うん。でも、勝手に巣から出ちゃっても良いの? お母さんたちが心配しない?』

『巣からはいつも外に出て遊んでるし、そこまで遠くに行かなければ大丈夫だ』

『そうなの?』

『他の巣の子狼たちも、巣から出て遊んでいるところを見かけるけど。お前は違うのか?』

『え!?』


母さんはやっぱり、少し過保護過ぎやしないだろうか。

今度、靴下くんが言っていたことを伝えてまた交渉しよう。

今度巣を出る時に、1回水浴びをしたからもういいでしょって言われそうな気がするんだ。




靴下くんが案内のためにくるりと後ろを向いた。

そこであ、オスだ、と確認した。


子狼は人間の子どもと同じく大人より声が高いし、ほとんど性差が無いので、判別は難しい。

人間の子どもは髪型や顔つきから判別がまだ出来るけど、見慣れている人間と違って魔狼たちはみんな同じような顔に見えるし、毛の生え方だって同じだ。


そもそも、まだ声を出さなければラゥラとロゥロを判別が出来ないほど、容姿から個人の判別が出来ないほど、狼を見慣れていない状態なのだ。

オスメスなんて更に分からない。


性別は話している言葉だったり、こうやって股が見えた時にチラッと確認するしかない。

靴下くんは自分のことを“俺”と言っていたし、やはりオスで間違いなかった。


それにしても、私もこうやって判別されているのだろうか。

チラ見して、あ、こいつはメスだ、みたいな。

何それ恥ずかし!


どっかにパンツ落ちてないかな。

せめてパンツがあれば股チラをされることはないだろう。

でも真っ裸でパンツだけ履いてたら変態か。

世の中はままならない。




そのままひょいひょいと凹凸のある岩場を進んでいき、少しすると大きく浅く、きれいな水溜まりが姿を現した。


『うわぁ!!』


理想の水たまりにテンションが上がった。

うなぎ上りである!

さすが天使!!


凄い凄いと衝動のまま、また飛びついてしまったから驚かれた。

反省。




まずは水を飲んで喉の渇きを癒した。

すぅーっと身体に滲みて、生き返った気分である。

水分は本当に、生命の源だなぁと思う。

異世界でもそこは変わりないようだ


靴下くんも隣に並んで、一緒に水たまりの水を飲んだ。


『お前、変な飲み方をするんだな』


靴下くんが首を傾げてこちらを見る。


私は、水を飲む時に舌を上手く動かせないのだ。

これも、人間だった時にそうしていなかったからである。


飲めないこともないのだが、こう、舌先を丸めて上手いこと水をためて、それを顔を下向けたまま喉まで持ってきて飲み込むという動作が難しい。


そんなことしなくても、チューって吸えば良いんじゃない?と思った私は口を出来る限りすぼめて水につけて吸って飲んでいる。

家族以外の前で見せたことはないが、やはり傍目から見たら変なのだろう。


今はお乳を飲んでいるからまだ良いけど、その内に肉を食べるようになって、普通に水を飲むようになったら大変そうだ。

水面がちょっとでも波打ったら鼻に水が入るだろうし。

これも練習をしないといけないなぁ。




そして喉を潤したら、お待ちかねの水浴びタイムである。


『ぃやっほーぅ!!』


パッシャーンと水たまりに飛び込んだ。

顔は上げて、水がかからないように気を付けた。

雨の日みたいな思いをするのは、もう勘弁である。


浅瀬で、全力で背中をこすりつけて洗って、手が届くところは両手でゴシゴシした。

背中や首裏も足で掻いて洗う。

砂が舞い上がって周りの水は汚くなったが、きれいな水の方へ行ってブルブルと身震いすれば、その汚れも取れた。

大きな水たまり、万歳。


背中もお腹も手足も、確認をすればノミの姿はなく、無事に取れたようだ。

顔回りや頭は両手でゴシゴシ洗ったから、確認はできないけれどきっと取れているだろう。


さっぱりして、心も晴れやかである。

綺麗なのは気持ちが良い。


絶対に綺麗じゃないと!っていうほど潔癖ではないが、やはり度が過ぎるのは元人間として耐えられないものがある。


いつかは温かいお風呂にゆっくりと浸かりたいな。

出来れば石鹸とかで身体を洗えたら満足である。

でも前世では犬猫用のシャンプーとかがあったし、魔狼も肌が弱くて洗えなかったりするのだろうか。




ついでに靴下くんにも水浴びを勧めてみた。

だって、靴下くんにもノミがいるのだ!

こんなに可愛い靴下くんのモフモフの影に、ノミが!!


最初は乗り気じゃなかったが、あまりに私が推すものだから、根負けしたように水たまりに入ってきた。

ちょっとビクビクしていたのが最高に可愛かった。


『冷たいな』

『でも綺麗になるよ。身体についてるノミも取れるし。かゆくないの?』

『確かにかゆいけど』


かゆいのに何で放っておくのだろうか。


とりあえず、靴下くんの身体を両手でゴシゴシ洗ってあげた。


『わ、ちょ、何するんだ・・・!』

『洗ってるの、じっとしてて。こんなにノミがいて、汚いよ!』


以前に一通りノミを取った私と違って、結構な数のノミがいたらしい。

水たまりにふよふよと固まって漂っているのを見てゾッとする。

慌ててパシャパシャと、水面を波立たせて向こうの方へ追いやった。


『もう良いか・・・?』

『うん、良さそう。どう? さっぱりしたでしょ?』

『まあ、そうかな。あ、お前にもまたノミだったか? 付いてるぞ』

『ひぇ!! ど、どこ!? 取って取って!!』


水に浮いたノミが、陸を求めて私の身体に登って来たらしい!!

何てこったい!!


悲鳴を上げる私に、慌てた靴下くんはすぐに手でピピッと取ってくれた。

ありがたや。


そして白いおててで触られたことに少しだけテンションが上がった。

本当に可愛らしい、尊い。




そんなこんなで洗いっこを終えた私たちは、靴下くんの巣へ戻って行った。


綺麗になったし、靴下くんも綺麗に出来たし、大満足である。

ここまで頑張って登ってきたかいがあった。


それに、靴下くんとも出会えたしね。

ラゥラに続き、私の天使が増えた。

とても喜ばしいことである。


『あー、気持ち良かった! ありがとね、おかげで綺麗になったし、楽しかったよ!』

『そうだな、俺も楽しかった。こんなふうに、父さんたち以外の誰かと過ごすのは初めてだ』

『私も初めてだよ。巣から出たのがそもそも初めてだったしね』

『そうなのか。なら、お互いが初めての友達なんだな』

『・・・! そ、そうだね!!』


何と、靴下くんの中では私は友達になっていたようだ!!

ビックリした、驚いた、ヤバい何これ嬉しい!!


前世では、いい歳になったらわざわざ友達なんて宣言したり、確かめたりしなかった。

誰かと仲良くなって、ご飯に一緒に行ったり出かけたりもあったけど、関係はなんだか曖昧で。


大人同士は、“友達”という言葉は当てはまらないような関係になってしまうものなのだろうか。

暗黙の了解のように互いの関係の明言を避けて「仲は良い」「知ってる人」と表現していた。


社会人になって、上下関係や礼儀を重んじて、誰にでも「さん」付けで敬語を使って。

人と適切に距離を取るのが上手くなって。


無邪気に、対等な立場で、バカやって笑ったり喧嘩したり、そういうことが出来たのは学生時代までだった。


仕事が忙しくて、そんな学生時代の友達ともほとんど連絡は取らなかった。




“友達”という言葉を噛み締めてたらちょっと涙が出て来た。


新しい“友達”が出来たのだ。


それも、魔狼として、ルゥルとしての初めての友達だ。


『ど、どうした? どっか痛かったりするか?』

『ううん、違うよ。なんだか、友達が出来たのが嬉しくて。ありがとうね』


仕事に明け暮れて、厳しい人間関係に揉まれて、親しい人と会うこともほとんどなかった数年。

私は、人寂しかったのだろうか。


魔狼に生まれ変わって、温かい家族に恵まれた。

それはとても嬉しいことだけれど、私はきっと、仲の良い対等な他人・・・友達も恋しかったのだ。


『そうなのか。お前、変な奴だな』


そう言って、靴下くんは初めて、ふわりと笑った。




しんみりした気分が一瞬で吹き飛んだ。

可愛すぎてキャパを超えた。

ここに天使が降臨なされた。


はわわわ、ぎゃんかわ!!




靴下くんとの出会いに感謝だが、そうするとノミが私たちのキューピッドってことになるのだろうか。


うわぁ、ノミが天使の羽を生やして弓矢を持ってる姿を想像しちゃったけど、普通に気持ち悪かったわ。

ちょっとデフォルメされたノミがウィンクまで飛ばしてきた。


何その需要なさそうな設定、要らなすぎるでしょ。

却下却下。


普通に、頑張って岩山を登った私と、可愛い靴下くんに感謝しておこう。




靴下くんの巣につくと、体臭がなくなったと寝床の藁に転がっていた。

なるほど、匂いがなくなるのは鼻の良い魔狼にはあまり好ましくない事らしい。


確かにちょっと気になるが、私はそこまでじゃないかな。

むしろ臭う方が気になるや。

だって人間だもの。


それにしても、靴下くんの寝床はとてもボリューミーだった。

うちの巣と比べて量が多い。

飛び込んだら弾力で弾みそうだ。

何ともリッチである。


これだけあるなら、ちょっと分けてくれやしないだろうか。

そう思って聞いてみた。


『水溜まりの次は、寝床の藁が欲しいのか? これくらい、いくらでも持っていけば良い』


2つ返事でOKが出た。

首を傾げて『やっぱり変なやつだな』って言ってるが、その姿も可愛かった。




貰った藁は、うちの巣のよりきれいだった。

よく見れば、巣も広い気がする。


何だろうか、生活に差を感じた。

あれ、靴下くんって、偉かったりする?


『あれ、お前知っててここまで来たんじゃないのか? 俺の父さんは・・・』


『何をしている?』




声をかけられて、2匹して振り向く。


身体が大きくて、威圧感があるオスの魔狼が、そこにいた。

その姿には、見覚えがあった。




以前の魔鹿相手の狩りを思い出す。

母さんが言っていた。


『ほら、竜巻を起こした魔狼たちの中心にいるのが、私たちの群れのリーダーよ。よく見て覚えておきなさい』


群れのリーダーということは、一番偉い魔狼だということだ。

つまり、会社で言う社長と同じである。


その社長様が、私の目の前にいる。




『おかえりなさい、父さん』


靴下くんが、その足元へ歩み寄った。


嘘、父さんって、今呼んだ?


ここは靴下くんの巣だ。

ということは、だ。


つまり、リーダーである社長様のお家でもあるということだ。


そこに、平社員が上がりこんでいる現状。

雰囲気から、明らかに歓迎されていない。




『お前は、誰だ?』


迫力のある鋭い目が、私を見下ろしていた。




ヤバい、私、死んだかもしれない。

執筆速度が遅いのが悩みです。

1ページ書くのに平気で7、8時間くらいかかります。

仕事の勤務時間と同じくらいですね、笑えない。

筆が乗った時はすらすらーっと出来上がっていくんですけれど、なかなか・・・。

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