第33話 魔王と魔牛
【ズドンッ】
「クボォォッッッ!?」
前回、調子に乗った結果ミストの逆鱗に触れてしまったミノ兄ことアガレア。
現在、ミストの怒りの叫びと共に放たれた膨大な魔力により、扉を5枚程突き破って中庭に頭から突き刺さったところである。
「チクショォ!一体何が「【暴風雨】」グウゥ!?」
流石に先代魔王の配下であっただけはあり、直ぐさま頭を引き抜いて態勢を整える事に成功したアガレアの元へ、フリルの付いた可愛らしい傘をさしながらフヨフヨと降りてくるミスト。どうやら何かしらのスキルが付いた傘らしい。
2人のいる中庭には、ミストが中級魔法で起こした嵐が・・・通常の数十倍の魔力が込められた雨と風の刃が渦巻いている。
「う、ぐ、グァァァァ!!!」
「フフフ。ほらほら、防御力特化がこの程度の魔法でどうにかなる、何てことないよね?ねぇ、世界一硬いお牛さん?」
「な・・に・・・!?」
吹き荒れる風の中で話しかけてくるミストを視界に収め、驚愕に顔を染めるアガレア。
何故ならば、通常、一定の距離まで間合いを詰められた魔術士は大規模な攻撃魔法を使わない・・・否、使えない。この世界では、魔法を発動した本人には攻撃が通じない、なんて便利な話は無いのである。今のように【暴風雨】なんか使ってしまえば、使用者も巻き込まれるのは必至であった。
そしてそれはアガレアであっても常識として知っていた事である。故に
「な・・ん、で・・・・・」
「何で、無、傷なん、だ、よぉ!?」
そう、自身の放った魔法に晒されていながらも無傷のミストは、アガレアの目から見ても異常であった。そして、
「私が防御力特化の回復職だからだよ。」
凄みを帯びた瞳で微笑みを浮かべるミスト。アガレアから飛び散った血で頬を濡らすその様は、正しく【魔王】と呼ぶにふさわしい物であった。
「さてと、このままミンチにしてあげるよ【自称防御力特化】の牛さん?」
「あ、や、ちょまっ「待たない」」
そう言って魔法に込めた魔力を更に引き上げようとする・・・とどめを刺す気満々であった。正直言ってそろそろまずい。
「フフフ、死ーー【ガシッ】「落ち着け!!」わぁっ!?」
・・・危機一髪、アガンが間に合った。現在、ミストはアガンの肩に抱えられている。
「ん?アガン?どうしたのそんなに慌てて。何かあった?」
「いや何かあったも何も、殺さねぇで人間に戻すって決めたのはお前だろうが!?何やってんだよ本当!?」
「私が1番硬い。これは譲らない!」
「あぁ、そういう事か・・・。」
ミストに反省は無いようだが、気にしてはいけない。世の中、諦めも肝心だ。
何はともあれ、アガレアは一命を取り留めたのであった。
「あれ?俺、助かっ、た・・・?【バタムッ】」
「兄さぁぁぁん!!?」
牛さんは出血多量で瀕死だった。
・・・ついでに言うと、アガンもミスト同様に無傷であった。




