第12話 フォレストウルフとミストの危機
ユグドラシルの世界に来て2日目の早朝。ミストとアガンは冒険者ギルドの依頼ボードの前にいた。朝は混み合うので、本日のミストは、アガンに肩車されている状態だ。実年齢を知らなければ何とも微笑ましい光景である。・・・昨日の2人を見ていなかった者は固まった。リアちゃんの様に。
「ミスト、何かいい依頼見つかったか?」
「あれ!フォレストウルフの殲滅がいい!」
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フォレストウルフの群れを討伐:ランクD以上
【飛竜の森】の東にて発見された大規模なフォレストウルフの群れの殲滅。最低でも50匹はいると推測される。
決行日は3日後。20人以上が集まらなかった場合は中止となる。
成功報酬
1人銀貨4枚/素材は換金した後均等に分配/特別報酬有り
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「そーかそーか。そんじゃあそれでっって初っ端からキツイ依頼選んでんじゃねぇ!昨日パーティー組んだばっかなんだ。今回はもっと軽いのにしておけよ。」
「・・・わかった。じゃあ隣のブラックサーペント討伐に行こうよ。あれなら1体しか出ない。」
「ま、それならいいか。」
普通はブラックサーペントもアウトだ。
「ん?フォレストウルフの依頼って3日後に有志の冒険者全員でかかるんだ。アガン、やっぱあれも受けとこうよ。」
「なんだ、他の奴等も来んのか。なら大丈夫そうだな。」
「あれ、中止になったらどうすんの?ほっといたらモンスター増えるよね?」
「あー、そういう時は領主軍が討伐に出る。まぁ、その分だけ冒険者ギルドの影響力が削がれる事になるから、なるべくギルドでどうにかしようとするんだけどな。」
「高ランク冒険者に高値で依頼持ってったり?」
「ま、そんなとこだ。」
最終的に今日と明日は依頼を受けて、フォレストウルフ殲滅の前日は休む事になった。
ちなみに2人の会話を聞いていた他の冒険者達が、ミストに対する好奇心や、または実力を把握しておきたいといった理由で3日後の依頼を受け、20人の枠は速攻で埋まった。
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ブラックサーペントの討伐に関しては短く説明すると、ミストが魔法で牽制した後アガンが頭部を一刀のもとに切り落として終了した。翌日のホーンラビットもそんな感じであったので割愛する。
そんなこんなで3日後の早朝。ミスト達は門の前で討伐隊が出発するのを待っていた。集まったメンバーとしては、ランクC冒険者がミストを含めて6人、Dが13人、そして唯一のランクB冒険者のアガンである。皆ミストの方をある者は探る様な目で、ある者は純粋に興味本位に見てくる。いきなり表れた子供にしか見えない治癒士の冒険者ーーしかもランクB冒険者と一緒にいるーーが討伐隊に参加しているのだから当然だ。ついでにギルマスは説明し忘れていたが、冒険者ランクはA〜Eまである。
ミスト自身それには気づいていたが、面倒なので放っておいた。と、ついにギルドの職員らしき者が来る。30代くらいの屈強な男だ。
「全員揃ったな?馬車は3台用意してあるから乗り込め!すぐに出発するぞ!」
「馬車!」
「馬車も初めてなのかよ!?大丈夫かこれ・・・」
こうして討伐隊はこれといったトラブルも無く出発した。フォレストウルフの群れはかなり街に近づいていたらしく、その日の夜には目的地に到着した。そのまま野営をし、翌日に仕掛ける事となる。ちなみに、野営の時もミストがはしゃいだのでオカン・・・いや、アガンは大変だった。
そして翌朝、問題が発生する。
「おいおいおい、ありゃ50匹どころじゃねぇぞ。」
「倍はいるよね。」
これである。ランクDのフォレストウルフと言えども、これだけ集まってしまえば、ランクC未満の冒険者にとってーいや、多くのランクC冒険者にとっても討伐は難しいだろう。本来であれば1度アルカディアに戻って出直すところであった。が、今回はランクB冒険者がいる。故に
「アガン、あいつら何匹倒せそうだ?」
「半分なら行けるだろうな。だが、他のやつらのカバーは厳しいぞ。」
「わかった。それじゃあ半分は頼んだ。」
こうして戦闘が開始された。
「はぁっ!」
「ギャンッ!」
「キャウン」
「【火球】」
「グルゥ!」
「・・・」
ドガッ
ドゴォッ!
メキャ
アガンの存在と各々の奮戦により、戦況は予想していたものよりも遥かに良い。・・・無言でウルフを吹っ飛ばしているのはミストだ。
「・・・ねぇ、あの子って治癒士じゃなかった?何で杖でウルフ撲殺してんのよ。」
「知らん。アガンさんと一緒にいるんだから、ありえなくはないだろ。」
「まぁ、そういう事にしておきましょう・・・っか!」
「ギャン!」
もし自分が広範囲攻撃魔法を使用すれば、この程度の群れは一撃で壊滅させられるであろう。だが、それでは面白くないとミストは考えた。故に魔法を使わずにフォレストウルフを討伐する何てことをし始めたのだ。が、
「・・・飽きた。」
早い。
と、その時
「ミストぉ!後ろだ!」
「ん?」
アガンが叫ぶ。ミストの背後にはーーー今にも目の前にある頭を咬みちぎらんとする1体のフォレストウルフがいた。