表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

10

人間は天使でもなければ、獣でもない。

だが不幸なことに、人間は天使のようにふるまおうと思いながら、

まるで獣のように行動する。


       ブレーズ・パスカル

「早く会議を始めろ」


 先ほどの騒動から最初に話したのは大将であるアナトリーだ。冷静に物事を把握できる能力は大将に選ばれる者の所以か。


「しかし!」


「くどい。騎士ごときのために会議を遅らせるつもりか?」


 アナトリーの言葉に異を挟める者はこの戦場にはいなかった。これが良い悪いかはさて置き、ビショップ達には都合がよかった。

 

「今回の会議は何をするのでしょうか?」 


 イザークが空気を払拭するようにアナトリーに尋ねる。アナトリーは床に転がっている騎士達を、異を唱えていた幹部達を気に留めることも無く本題を語り始める。


「情報のだいたいが手に入っている。敵の陸軍も脆弱であり恐れる理由が見当たらない。さらに敵の指揮官も無能だ。実際最前線から送られてくる報告はそのほとんどが朗報だ」 


「それではなぜ我々を戦場に呼んだのでしょうか?」


「ほとんどに属さない報告が問題なのだ」


「お言葉ですが、それは局地的なものでしょう? それほどの問題とは思えないのですが」


「我らが局地的に敗北している戦場の全てにはある部隊が投入されていることが問題だ」


 この時点で、11隊の全員が察した。それと同時に全員が軽く顔を俯かせて強い拒絶感を含んだ表情を浮かべる。

 少しの沈黙の後、イザークが恐る恐る答えが分かっている問いを投げかける。


「……その部隊とは?」


「咎眼部隊だ」


(((((やっぱり)))))


 咎眼部隊について触れたアナトリーの表情も、11隊の全員と同じ表情をしている。よっぽど苦い出来事だったのだろうとビショップは推測する。


「近々、その部隊が少数精鋭で本陣に奇襲をかけるという情報を得た。まあ、本当に来る確率は五分五分だろう。お前たちのこの戦場での仕事はその部隊を撃滅することだ」


 そのまま彼は他の幹部に対してこれからの軍の進路、どこを攻め落とすか、どの部隊にどれだけの補給をするかを話した後、11隊を除いて解散させる。幹部と騎士の全員がテントから出て行ったあと、アナトリーはその表情を和らげる。


「それではお前達にとっての本題。咎眼部隊についての情報について話そう」


「何故、他の幹部達には聞かせないのですか?」


「情報とは広がれば広がるほど価値が下がるものだ」


「それでその情報とは!?」


 イザークとアナトリーとの会話に我慢が出来なかったアデレードが割り込む。大人の対応と言うべきか両方とも嫌な顔をせずにアナトリーは話し始める。


「まあ、そう急かすんじゃない。あーっと、たしか戦場に投入されていた咎眼部隊は五人構成だ。これを少ないと見るか多いと見るかはお前達次第だ」


「……少ないな」


「うん、少ない」


 トビアスの呟きにヨルクが乗っかる。少ないこと、それは多いよりはいいと思えるか? この場の皆は否と示した。

 

「たった五人で戦場を動かしたんだ。一人一人の武力が凄まじいということだろう」


「そいつ等の咎眼は分かりますか?」


「一人は火を操っていた。そいつが一番兵士を殺して、そして一番派手だったな。それ以外はいまいち分かっていないのが現状だ。あと勘違いしているかは分からんが咎眼部隊は兵士のほとんどを相手せずに指揮官だけを殺して後衛部隊をかき乱して撤退を繰り返している」


「うむむ、兵士の被害を考えると火の咎眼を最優先で潰さないとな」


「しかし、奇襲部隊を奇襲するんですよね? なら火を使用するのは躊躇うのでは?」


「つまり?」


「奇襲部隊はバレてはいけないから派手な火は使えないんじゃないかってこと」


 「なるほど」とようやく納得というゴールに辿り着いたヨルクをアデレードはため息で歓迎する。


「なら火以外の者を最初の奇襲で狙ってその後、数的有利で押すってことで」


「ちょっと雑だけどしょうがないね。相手の情報もあまり多いとは言えないんだし」


 そして最後まで残った五人は、二日後の夜の奇襲の奇襲に備えて各自、テントに戻る。ヨルクとビショップは貪るように夢の世界に費やす時間を大幅に増やす。いや、イザークもだ。トビアスは用意した瓶に自分の血を入れては休憩する。アデレードもよく考えたら惰眠を貪っていた。

 こうして安息といえる日々は過ぎていく。


 良い時間はすぐに過ぎ去っていくものだ。これは大昔から言われてきたことである。この戦場も例に漏れず、あっという間に二日後の夜だ。


「なにが五人か。八人もいるじゃないか」


 トビアスが木の上でぶつぶつと愚痴る。

 この森にはいくつかの獣道が存在する。その中で一番分かりにくく、通りにくい獣道。その道端に堂々と鎮座している木々の上で彼らは待っていた。狩るつもりで来た愚者どもを狩るために。

 時刻は3時24分。咎眼部隊の奇襲実行時間とともに、咎眼部隊の奇襲享受時間だ。

 

 トビアスが瓶に入った自分の血を空中に撒き散らす。空中でいくつもの槍に姿を変えたトビアスの血は篠突く槍の雨を降らす。

 槍達に見初められた者が二人、今まで大事に育てられた綺麗な命を散らす。


 奇襲を受けた咎眼部隊のうちの五人はとっさに上を確認しながらバックステップで後ろに下がる。

 少し行動が遅れた一人。その一秒の半分にも満たない時間。その時間をこの戦いでは大きすぎる隙と言う。

 その者の背後に突如現れたビショップが強襲。その者の首を刈る。

 

「散開!!」


 三人が脱落したとき咎眼部隊の隊長が憤激し、叫ぶ。その言葉で彼を含む五人が一斉に散らばる。

 ビショップのみが、そのうちの一人。一瞬で消え、一瞬で遠くの場所に降り立った敵を視界の端に捉えた。


「一人は私が担当する!」


 それだけを言うとビショップはその場から消える。


「各自追撃。必ず始末しろ」


 イザークの命令でそれぞれが単独で散開した敵を追う11隊。

 暗夜の鬼ごっこが始まる。


 残り五人





「あー、めんどいなぁ」


「もう逃げるのはお終いか?」


 ヨルクは逃亡者が自身で止まることでようやく追いつく。

 言動は格好つけているヨルクだったが追いかけている間はずっと逃げ切られないかひやひやしていた。


「お前を撒こうかと考えたがやっぱやめた。ここで殺して合流する」


 ヨルクはとっさに剣を抜いてヨルクと敵との間の空間を薙ぐ。その勢いのまま、振り抜いた剣を薙いだ空間に突き刺す。

 が、ヨルクがその瞳に収めたものは突き出した剣の上に立つ少女という光景だった。


「あー……。そういうことが出来ちゃう人だった?」


 その少女はそのまま剣の上をヨルクに向かって駆ける。少女は鍔の近くまで辿り着くと、スカートをはためかせながら右足を高く振り上げ、そのままヨルクの右手首を狙って落とす。所謂、踵落としだ

 ヨルクは咄嗟に右手首だけを影化させる。少女の踵が通った後に影化を戻して右腕を引っ込める。

 ヨルクの右手首を通り過ぎた少女の踵は地面を深く抉り、止まる。


(これは体重を操っているのかな?)


「白かな?」


「白が女の子らしいって教えられたからねっ」


 空中で身体を捻った少女は上から、下のヨルクに向かって蹴り抜く。それを上半身を反らして回避したヨルクは大きく振りかぶった剣を空中の少女に振り下ろす。


 少女は地面に降り立つやいなや体重を埃のように軽くする。これによってヨルクが剣を地面に叩きつけた衝撃で浮く。そのまま、風に吹かれた木葉のように後ろに飛んでヨルクから距離を取る。


「こっちも急いでいるんだ。悪く思うなよ」


 ヨルクは瞳を蒼に輝かせる。ヨルクはゆっくりと黒に侵食されていき、その蒼は闇夜に紛れる。一瞬のうちにヨルクの姿は視認出来なくなる。

 

(なんの能力? 姿を隠す系統かな?)


 少女はゆっくりと、耳に神経を集中させる。

 姿を隠す系統の弱点は音や気配を出すこと。それはこの業界の常識。


 だが憐れ。少女が耳に神経を集中させることで聞いた音。それは自分の首の骨が折れる音だ。

 

 ヨルクは悠々と少女の背面に廻って、手だけを実体化。そのまま少女の首を240°に回した。

 

 実際、少女の行動は適切だ。この行動で少女は今まで、姿を隠す系統の者達と渡り合っていた。ただ、ヨルクの能力は物体に干渉できない。つまりは地面と干渉も出来ないため足音は出ない。あえていうなら姿を隠す系統の能力ではない。

 ヨルクは苦い表情で自分の後頭部を掻きながらひとりごちた。


「やっぱ女の子を殺すのはまだ抵抗あるわ」


 残り四人



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ