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キミボク  作者: きつねさん
中立都市へ
36/51

キミボク   娼館で


「はー、今日の仕事終わったー。あのおにいさん、というかおねいさん?は体を使わなくていいから

 仕事が楽なんすよねー。まあ、その分、観察に頭を使わないと、っすけど。」


そんな独り言をつぶやきながら一人の女が宿舎の方に歩いていた。タリーである。

彼女は今、この頃よく指名してくれている男に、男としてふるまうにはどうしたらいいのか、

という授業を行い、それで仕事時間が終わったので帰っているところだった。


「あっ、タリー、お疲れさまー。」

「おー、お疲れさまっす。

 この頃、指名も増えてきたそうっすね。今度なんかおごってほしいすねー。」

「何言ってるの。あなたも固定客がついたって話、私も知ってるわよ。」

「あー、知られてたっすかー。じゃあ、後輩に何かおごってほしいっす。」

「はいはい、そのうちね。」


などと、すれ違った娼婦仲間に対して今度おごってもらう約束をしつつ自分の部屋に戻っている。

基本的にこの娼館の者達は娼館に併設されている宿舎に住んでおり、こうしてすれ違う事が多いのだ。

まあ、朝まで客と一緒に寝る、という事もあるのでその限りではないが。


先輩に何をおごってもらおうか、と考えながら、鍵を開けガチャリ、とドアを開けてタリーが部屋に入る。


その瞬間、タリーの意識は切り替わっていた。

そして注意深く部屋を見回す。

タリーは自分の部屋に何らかの異変をドアを開けた時の一瞬で感じていた。

取りあえず、身に迫った危険がない、と判断し、とりあえずドアを閉める。

場合によっては他の娼婦仲間たちには見せられないような事態になるかもしれないので。


そしてもう一度部屋を見回したタリーだが、その視線はベッドに固定される。

何かがいる。

タリーは身に着けている暗器の位置を頭の中で確認しながらベッドに近づいていく。。


そしてある程度ベッドに近づいたところで、すー、すー、という寝息がかすかに聞こえてきたので。

それである程度警戒は薄まったのだが、今度は疑問が頭に思い浮かぶ。

いったい誰が?と。


娼館の仲間たちであればそのベッドのふくらみは小さすぎる。

裏の方の仲間にこれぐらいの者もいるが、こうして無防備に寝ていることはありえない。


とまあ、いろいろ考えたが、見てみればいいだろう、と楽観的に考え、

タリーは完全にベッドに近づき、枕に頭をのせている存在を上から覗き込んだ。


銀色の髪とおでこ辺りが見えるが、布団を深くかぶっているのでその顔は見えない。

ある予想を立てながらもタリーはそっと布団をずらして顔を見る。

予想通りだった。


「なんでお嬢がここにいるんすかね?」


眠っているから別に触ってもいいだろう、という欲求と、いやいや、寝ている時にとかやめないと、

という理性を戦わせながらもなんでここにいるのかと考えるがまとまらない。

頭を撫でるぐらいなら、と欲求に理性が負け、そーっと手をのばしたところで少女が身じろぎした。

びくっ、と跳ねるタリー。


触ってるときにお嬢が起きて、嫌われてはたまらない、とやっぱりやめておくべきだ、

という理性が勢いを盛り返し、触るかどうかしばらく迷っていると、少女が薄目を開けてこちらを見た。


「りーさん?」

寝ぼけているのかタリーの事を娼館の主であるリーと間違えている少女。

リーがそばにいてくれた、と思いタリーに向けてふにゃ、っとほほえむ。

リーやフォンが魅了されている理由がそれだけで分かるような微笑み。


見た事のないようなお嬢のやわらかな微笑みを見れた反面、そんな表情を向けられるリーに嫉妬しつつ

取りあえずなんでここに、しかもタリーのベッドで寝ていたのか聞き出すためにお嬢に声をかける。


「お嬢、おはようっす。

 リーじゃなくてタリーっすよ。それと、なんでベッドで寝てたんすか?」


そんなタリーに少女はしばらく首をかしげていたが、目が覚めてきたのか辺りをきょろきょろ見回す。

辺りを見回していた少女は自分の中でなんらかの結論をつけたのかタリーの方を見て言う。


『ゆうかい?』

「・・・・・・ちがうっす。」


お嬢の方からもぐりこんできたのだろうにそれはないだろう、と思いながら返答するタリー。

ん?、と返答してから違和感を感じたタリー。


『ごめんなさい。だまし討ちするような形になってしまいました。

 とりあえずタリーが日本語が分かる事を認めてもらわないと話すのが少し厳しいので。』

「えーっと、お嬢?それ、なに語っすか?」

『分かってます。タリーが日本語を話せるのは部外秘なのですよね。

 それを押してもタリーに聞きたいことがあったので。』


取りあえず、ごまかしてみようとしてみるもどうもお嬢はタリーが話せるのを知っている様子。

・・・・・・どうやって知ったのかとか、あとで聞きださないといけないが向こうは話をお望みの様子。

という事でお嬢の話に乗る。


「むー、わかったっす。けど、他の人には内緒っすよ。マル秘なんで。」

『はい、わかってます』


お嬢は聞き分けもいい。

しかしこうして話をしに来ている以上今までのかわいがる対象であるお嬢のイメージのままではいけない。

なにしろ、お嬢の話している言語は日本語なのだから。


「あ、けど、私の方はこっちの公用語のヴィダ語で話させてもらうっすよ。

 日本語は発音の方は練習してないんすよ。とっさに出てもダメなんで。」

『はい、どちらででも構いません。ただ、ヴィダ語で話すのでしたらゆっくりお願いします。

 ヒアリングはある程度できるようになったのですが、完全にはできていないので。』

「了解っす。」


お互いがお互いの言語に対してある程度聞き取ることはできるが、話すことまではできない様子。

ここにそれぞれ違う言語で話し合う、という少し変わった会話が成立した。


『それで、タリー。まずこちらがある程度情報を開示しますので、その後こちらが質問します。

 そちらの質問は適宜挟んでください。または、こちらが質問をした後で時間を取りますのでその時で

 お願いします。そういった感じでいいですか?』

「いいっすよ。」


タリーが少女の提案を全面的に受ける形で話を続けていくという取り決め交わし、話は進む。


『さて、ではまず私の立場ですね。

 もうある程度お察しでしょうけど『血みどろ失楽園』というゲームのプレイヤーです。

 ゲーム時代の二つ名は『孤軍』。ゲーム時代での性能としては正面戦闘でしたらトップレベルでした。

 また、様々な局面への対応力もなかなかのものだったと自負しています。

 基本的、というより唯一の戦闘方法は召喚術によって召喚したモノを使役する事。

 といったところですね。ここまでで何か質問は?』

「はいっ。先生、そもそもゲームやプレイヤーがどうこう、といったところから分からないっす。」

『先生って・・・・・。はあ、まあ、タリーですからね。タリーが生徒となると私は女教師ですね。』

「女教師、というか少女先生っすけどね。」


と、こんな感じにタリーはちゃちゃも入れながらも情報を収集していく。

タリーのお嬢に対する印象はとても繊細な幼子、だった。

タリーの意識は半分ぐらい裏の情報収集の方に切り替えていたが、

そっちに行き過ぎると少女に与えるショックが強くなりすぎる。

少女を気遣ってか、それともスムーズに情報を収集するためかタリーは今までと態度を変えずにいた。


『まあ、ゲームやプレイヤーという言葉はそれほど重要な言葉ではないのでそのうちにしましょう。

 とりあえずプレイヤーの事は素人が突然大きな力を持って、今まで想像上にしかなかった世界に

 やってきて、しかも夢見がちで楽観的な傾向がある平和ボケしてる人達、と思っておけば大丈夫です。』

「うわあ、それってかなりたちわるいっすね。何するか分からないじゃないっすか。」


うわあ、と嫌そうにしながらもどこか納得したような顔を浮かべるタリー。

イレギュラープレイヤーの行動はどこかふわふわして、芯がないように感じていたのだ。

そんなタリーの顔を見ながら少女は説明を付け足す。


『そうですね。それと同時にこっちの人に何されるか分からないです。

 戦争が久しくなく、安全で、誰かにだまされてみぐるみをはがされる事などほとんどない世界から

 来たのでちょっと危機管理能力が欠けてるんです。

 タリーが今、相手しているチヨダ、っていうプレイヤーを見ても分かりますよね。』

「あー、あのおにいさんすか。確かにいろいろ苦労しそうっすね。

 性転換したらしいっすけどいろいろとちぐはぐで・・・・・ってお嬢、なんで知ってるんすか?」


自分がプレイヤーと接触しているのを知っている程度ならまだしも、なんでお嬢が名前まで知ってるのか。

ふとそんな疑問がわいたタリー。そして、どういう結論に至ったか、にやっ、と笑う。


「お嬢、もしかするといろいろな部屋の情事覗いてたんっしょ。

 ネタは上がってるし、恥ずかしがらずに白状するっすよ。」


そんなタリーをあきれたような目で見るお嬢。


『はあ、そもそも私の体はあまり性欲を感じないですよ。私の肉体年齢を考えてから物を言って下さい。』


そうやって見てのとおり、と、手を広げて、自分の体を見せる少女。

確かに、そういう方面のネタをふるには少し肉体年齢が足りない。

しかし、そんな風に主張するお嬢に対し、タリーは甘い、とばかりに反論する。


「いやー、お嬢ぐらいの年だったらもう十分に女っすよ。

 うちらのテクにかかればお手のものっす。何ならお嬢も受けてみないっすか?」


そう言ってお嬢の体をなぞるように視線をやり、手をワキワキさせるタリー。

タリーにとってはもちろん冗談で、ちょっとしたおふざけのつもりだった。

しかし、それを受け取る側が、正確にそう受け取ることができるとは限らないわけで、

ましてや少女はそっち関係にトラウマがあるので、


『いやっ!!』


タリーは壁にたたきつけられていた。


「ごふっ」


訓練のたまもので、何とか腕の所に仕込んである金属板の所で受けることができたからよかったものの、

下手な当たり方をしていれば戦闘不能にもつながりかねないような勢いだった。

ぶつかった時に頭が揺れたのか、どうもうまく頭が回らないなか、 タリーは必死に状況の把握に努める。


「つっ!」


何かを感じてとっさに右に身を投げ出す。

ぶんっ、という鋭い音がタリーの体すれすれの位置でなる。

先ほどの攻撃から察するに鈍器系だと思われるが、何しろ相手が見えないので間合いがとりづらい。

当たればただでは済まないだろう。


目に見えない何かに攻撃を受けている。

その後も何とか避けているものの、かろうじて、という所。

タリーの戦闘技術がもともと回避特化ともいえるようなものでなければすでに死んでいた。


「おじょう、やめてほしいっす!!」


タリーはお嬢に止めるように訴えかけるが、返事がない。

少女はベッドの上にうずくまって耳をふさぎ、外界からの情報をシャットアウトしていた。

少女はタリーの声に返事を返さないのではなく、そもそも耳にすら入っていないようだ。


どうすればこの状況を脱せるのか。

お嬢が召喚魔法、と言っていたことからおそらく、お嬢を倒せば今自分を攻撃しているモノは消える。

イレギュラー達の技能は摩訶不思議なものも多いが、こちらと似てはいる。だからそう推測できる。

しかし、この状況下でお嬢が気を失う程度、という力加減をする余裕がない。

後衛という紙装甲なお嬢だと死にかねない。

そしてお嬢はこの娼館の主であるリーのお気に入り、というより大切な人だ。殺すわけにはいかない。

だから、タリーは解法を考える。


考えれたのは一瞬。

考えだした時の戦闘に対する集中力の途切れを察し、見えない何かが頭を割りに来る。

しかし、それはどうにか直感でかわし切る。タリーの髪が数本ちぎれとぶ。


そして、タリーは意識の外から襲ってきた第()の見えない何かに胸をバッサリと切り捨てられた。




騒動の後、部屋に残ったのは大量の血を流して瀕死のタリーと、

ベッドの上でうずくまって震えている少女。



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