イレギュラーの対応
「ですから代表は今所要で出てまして、お会いになることはできません。」
「んなわけあるかっ!今、ここに、いる事は分かってんだよ!」
一人の腰に刀を差した男が一人の女性にクレーマーよろしく怒鳴り散らしていた。
時刻は夕方。夕日をを見るには少し早いくらいで娼館は準備で何かと忙しい時間だった。
そんな時間であるにもかかわらず女性は嫌な顔一つ浮かべずに対応していた。浮かべていないだけだが。
男には連れがるのだが、その連れはやり取りの様子をただ笑って後ろから見ているだけだった。
「っざけんな、さっきからのらりくらりとかわしやがって!
毎回そうじゃねーか。なんだ、あれか?おたくの代表さんはいつ来ても外出中ってか?」
「申し訳ありません。代表は何かと多忙の身でありますので。」
話は一生つきそうにない。
刀を差した男の言うように何度来てもこうやって追い返されるのだ。男が怒っているのも頷けよう。
その後も話し合い(かた方が怒鳴り、片方が躱す)を続け、らちが明かないと思った男は引く。
「おい、佐藤。こんな感じだ。何度来ても会いやがらねえ。
お前が交渉しろ。役に立たないお前をわざわざ連れてきたんだ。成功させろよ。」
「はい、分かりました。」
役に立たないとまで言われたのだが、連れの男性、佐藤は笑顔を崩さない。こたえてないのだろう。
佐藤は今まで対応していた女性の前に立つと頭を下げた。
「こんにちは。まず非礼をわびさせていただきたい。
アポもなしにこの忙しいであろう夕方に訪ねてしまい、申し訳ありません。」
「いえ、そちらにも事情があるのでしょう。
そうであるというならわざわざこの時間帯に訪ねてくるというのも致し方ありません。
どうか頭をお上げください。そんなに丁寧にされるとこちらが恐縮してしまいます。」
先ほどの男と違い丁寧な対応に女性も対応を変える。
「非礼かと存じますがこのような時間帯ですので早速要件に入らせていただきます。
私は王国軍特別部隊に所属しております佐藤と申します。
この娼館の頭であり、この西町の代表であるリー様にお返事をもらいたい件があります。
ひいてはリー様と話しあいの席を設けたく、こうして予定を窺いにまいった次第であります。」
前置きなどいわずに佐藤が一息に話す。
「まあ、王国軍の方でしたの。そうとは知らずに何度も追い返してしまって申し訳ありません。」
非礼をわびる、という形をとって女性が一回話をそらす。
「いいえ、知らなかったのでしたら問題ありません。それでいつ頃会う事が出来るでしょうか?」
佐藤は知らなかったのでしたら、の部分を強調していった。
知ったのだからそれなりの対応を求める、という意味だ。
そして話を戻した。
「申し訳ありません。私ではそういった事には対応できないのです。」
躱す。
「では、あなたより上の人物を連れてきていただけますか?」
戻す。
最初の荒っぽい刀の男がのらりくらり、と評したのも分かる対応だ。
「連れてきてもよろしいのですがおそらくリー様のご予定は分からないかと。」
「どういう意味ですか?」
「いえ、そのままの意味でリー様のご予定を知っている者自体が少ないのです。
安全面を考えると知っている者は少ない方がいいので。
ですのでリー様のご予定をすべて把握している者となると・・・・・。」
「では、結局私ではアポを取ることはできない、と?」
佐藤が少し苛立った口調を作って言う。
「いえ、そうは申しません。
ただ、リー様のご予定を存じている者となるとアポを取っていただかなければならなくてですね。」
「アポを取るためにアポを取るですか。馬鹿らしいですね。」
佐藤が苛立った顔を作る。交渉のために作った顔だがもう一人の男は本当に苛立った顔をしている。
もはやそれは周りへの威圧となっており、それすらも利用して佐藤は話を続ける。
「はあ、それで、その代表にアポを取るために、
代表の予定を知っている人に私達がアポを取ることはできるのですよね。」
かなりの威圧になっているのだが対応している女はさすがと言おうか、まったく態度は変わらない。
「本当に申し訳ありません。
ただいま確認してまいりますのでお待ちください。」
そう言って女は奥に去って行った。
二人は待っていた。
長い間待っていた。
本当に長く待っていた。
どれぐらい長く待っていたかと言うとクレーマーをつけていた男が待ちきれずに
そこら辺で働いていた女にまだなのかと怒鳴りつけていたぐらい待っていた。
娼館も準備が終わりもう営業が始まっていたのでとても迷惑であった。
「おいっ、いつまで待たせてんだっ!」
対応していた女が戻ってきて早速刀の男が怒鳴りつける。
その後もいろいろ怒鳴っていたが話が進まなかったため佐藤がなだめる。
「それで、これだけ待たせたんです。予定は分かったんですね。いつですか。」
「それが・・・・・・」
女が言いよどむ。
「分からなかったのですか?」
「はい、本当に申し訳ありません。」
刀の男が怒鳴ろうとしたが佐藤に手で制されてしぶしぶやめた。
「理由ぐらい説明していただけますよね。」
「はい、それは確認しようとしたら運悪く営業が始まってしまいまして。
ただ今、リー様のご予定を把握しておられる方の予定を把握している者が皆客を取ってしまってまして。
それで確認が取れなくなってしまったのです。」
「それで?」
「はい、もしお待ちいただけるというなら予定を確認いたします。
もしくは明日、いえ、明後日お越しいただければお伝えすることが可能です。」
女の対応はそれはもうものすごくなめた態度であった。
これまでさんざん待たせたというのにさらに待てというのだ。
もしくはもう一回出直して来い、と。
佐藤が話を続けようとしたが、それを遮ってもう刀の男が叫んだ。
「おい、佐藤!
ここまでコケにされてちゃ話になんねえっ!
交渉は決裂っていう事でいいだろっ!そもそも穏便にやれっていうのが訳分かんねえんだ!
今までさんざん武力をひけらかして従わせて来たんだ。ここもそれでいいだろっ!」
その瞬間、今まで話し声などが響いていたホールがしん、となった。
このホールは誰を指名するか選ぶためだったり、ここでゆっくりしてから個室に行ったりと
お酒と軽食を食べる事が出来るスペースになっており、
先ほどまでは当然お客とその対応をしている者達の話し声が聞こえていたのだがそれがなくなった。
その原因は娼婦たちにある。
先ほどまでにこやかに客と話していたり、忙しいながら走ったりせず優雅に準備をしていたすべての者が
一斉に動きを止め男たちの方を見たのだ。
じー、っと。
その視線を背に女が真顔で話し出す。
「もし、もしですが、もし本当に我々と全面戦争をする気があるというのなら」
そこでいったん言葉を切りとびっきりの笑顔を浮かべ続ける。
「戦闘職であるあなた方の力とは違った我々の力で持って全力でお相手いたします。」
その一種異様な場の様子に男たちは気おされる。
もう刀の男と違い一足先に我に返った佐藤は慌てて話す。
「うちの者が失礼しました。後日正式に謝罪しにまいります。
それでですが、今のそちら側の発言もまずいのでは?
こちらと全面戦争する準備がある、準備している、と取ることもできる発言ですし。」
佐藤の発言の意味はこうだ。
王国と敵対する準備をすでにしていた。
つまり中立であるこの都市で王国と敵対するという立場を取る用意をしていた、と取ることもできる、と。
もちろんこれは男の失言を受けての発言なのでそれで正式に抗議することも言及することもできない。
だが、そういう発言を噂として流すことはできる。
そしてそういう噂が流れると王国とはっきり敵対する意思があると思われ、
そうなるとそう言った危ない娼館に来る者は減るだろう。
ほとんど言いがかりに近いし、内容も全く持って身勝手なものだがそういう事だ。
そしてそういった事を佐藤が意味して言っている事を女も理解している。
「そうですね。少し言い方が過激であったかもしれません。では、謝罪は必要ありません。」
女が微笑んで続ける。
「今日の所はお帰りください。
あなた方は今日ここには来なかった。したがって私達は今日何も話さなかった。
そういう事で構いませんか?」
「ええ、そうしていただけると私共の方としても助かります。」
形としては痛み分けとなるのだが、もちろん実際にはそうではない。
先に武力で潰すぞ、圧力かけるぞ、と言った男たちの方が弱みを握られた、という形だ。
それを佐藤の切り返しで何とか持たせた、と言ったところだろう。
男たちが帰って行ったのを女たちはだまって見送る。
見送りの言葉をかけたりはしない。
それまでは男たちの事を邪魔な存在、と言った感じにしか思ってなかったが、
今回の事ではっきりと彼ら、そして王国は敵として認識された。
ただ、向こうがアクションを起こさないからこちらからアクションを起こす必要は今はないというだけで。
対応していた女はホール内を見渡す。
さすがにあれだけ騒いだから場の雰囲気が白けてしまっている。
このまま返してしまっては高級店の名折れであろう。
女は各テーブルで出されている酒類、スナック類を見渡し、把握して、考える。
そして解決策をはじき出す。
そして各所にその策を伝え、用意させる。
その準備が終わったことを部下より報告を受けた女は拡声の魔法を使って伝えた。
「皆々様、お楽しみの所大変お騒がせしました。
私どもとしてはこのまま皆様が当店で嫌な思い出を残して帰ってしまわれては名折れでございます。
そこで本日の入店から今まで、そしてただいまより二時間の間にオーダーされた
B1ランクまでの酒類を当店よりのサービスとさせていただきます。
これより当店きっての舞娘達による踊りを披露いたします。あわせてお楽しみください。」
女がそう言い終ると同時に奥に設けられたステージに次々舞娘たちが出てくる。
そしてどこからかゆったりとした音楽が流れだし舞娘達がその音楽に合わせ踊り出す。
その踊りは煽情的なものではなく美しく、リラックスさせるものだった。
娼館、と聞いて想像させるような悪く言えば下品な、よく言えば?情欲を誘うようなものではなく、
純粋にそれを見て楽しむものだ。
もちろん、この店の者たちなのでスタイルは良いが、
その服装、踊りの所作が相まって情欲を全く誘わない不思議な物だった。
ちなみに酒類のランクはA~Eとあって更に1~5まで別れており、B1というのはランク的には二番手だが、
さすがにこの高級店で出されるものだけあって普通に頼むと値段が跳ね上がる、そんな代物である。
お酒にはランク外という超絶高級な物もあるのだが金額も超絶高いうえに
超絶VIPのお客様でないと頼むことも出されることもないため今回の件には関係ない。
このようなサービスもあってその場にいた者達は普段飲まないレベルの酒を飲んだり、
普段あまり行われていないステージでの踊りを見たりと、満足して帰って行った。
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報告書NO11
イレギュラー、個体呼称「刀の男」が8度目の来店
容姿、正確などについては以前の報告書NO3にて
推定イレギュラー、個体呼称「佐藤」も同道し来店
容姿、性格などについてはNo12にて
作戦名称「stranger」の通りアポを拒否
推定イレギュラー、個体呼称「佐藤」より王国軍特別部隊所属という立場の提示を確認
それを受けて作戦名称「irritate」に移行
アポを取るためのアポを取るために長く待たせる
その間の観察報告はNO13にて
長く待たせたところイレギュラー、個体呼称「刀の男」が敵対的発現
作戦名称「irritate」を中断、作戦名称「reset」へ移行
作戦通り今回の接触はなかった事になったのでまた最初からの交渉となり、さらに時間が稼げます
作戦後、その場にいた客にB1ランクまでの酒類の無料化、ステージの開演でご機嫌をとりました
次回は作戦名称「irritate」の後に「stranger2」を実行予定です
王国軍特別部隊内での立ち位置の説明がない限り下級兵として扱う事でアポを拒否します
これによってまた時間が稼げると推測されます
PS,お嬢と触れ合う機会がもっと欲しいので表向きの休憩時間の増加、もしくは時間の調整を願います。




