娼館での生活2
「イヤぁぁぁ------」
少女の悲鳴で目が覚めた。
西町の歓楽街の顔役であり、ファミリーの頭領であるリーは
知らぬうちに寝ていたことにはっとして飛び起き、目の前の光景に驚いた。
少女が起きていた。それはいい。喜ばしいことだ。
だが、その少女の様子が尋常ではない。
あらん限り、喉の潰れんばかりに声を上げているのだ。
リーの部屋は防音であるため外に声がもれることはないが、
そうでなければここら一体に響くほどの声だった。
「どっどうした?」
部下やファミリーの存在であれば強く出ることもできるリーであったが、この少女の様子にはたじたじだ。
「よしよし?えーっと、なんで泣いてるのか教えてくれるとありがたい。」
取りあえず理由を聞いてみるがそんな事で泣き止むはずもなく、叫びが止まることもない。
歓楽街は治安も悪く、たまに捨て子などが泣いていることもあり、それには動じないリーであったが、
情がわいてしまった少女の泣き叫ぶ様子には動揺しずにはいられない。
「え、えーっと、こうでいいのかな?」
恐る恐るといった様子で少女を抱き寄せる。
しかし少女の悲鳴は収まらない。
「あー、もう、どうすればいいのか分からない。男の扱いなら知ってるのに。
こんな事なら子持ちの子にもっといろいろ聞いておけばよかった。
えーっと、背中を撫でてげっぷを促すだっけ?」
リーは少女の背中に手をまわして背中を撫でる。
それでも泣き止まずおろおろしながら背中を撫でていると少女はやがて泣き止んだ。
安心したというよりは泣き叫び疲れて寝たようだ。
「ふぅ」
リーも一安心といった様子だ。
「とりあえず起きたようで安心。」
ひと月程眠ったままだったのだ。
その上代謝もなかったというありえない状況だったので起きるかも分からなかった。
でも先ほどの泣き叫んでいる様子を見るに体の方は大丈夫なようだ。
少なくともすぐにどうこうという事はないだろう。
ただ、心の傷か何かあるのかもしれない、そうリーは考える。
クレーターの所でぼろぼろの女と少女を見つけた時少女は裸だった。
爆発で服がとんだのだと思ったが、少し離れた所で少女の服と思しき白いワンピースは回収済みだ。
そうなると西町のはずれのはずれというかなり治安の悪い場所で、
あのなんら無害で無力そうな少女が裸になるという状況があった、という事になる。
それにリーは少女の様に泣き叫ぶ者を見たことがある。
大抵そういう時の原因は過去に受けた暴力、暴行などのフラッシュバックだ。
少女の身に何が起きたのか、そう考えると不憫んでならなかった。
すっかり眠りについた少女の髪を撫でながらそんな事を考える。
と、ドアのベルが鳴った。
娼館の奥まったところにあるリーの生活兼、執務室は完全防音なため、
リーの部屋に用事がある人がドアをノックしたらドアの裏にかけてあるベルが振動で鳴る仕組みだ。
完全防音なのも娼館という場所柄そういう機能がないと寝るのが大変だという事もある。
リーはベッドの近くにあるスイッチを押した。
すると部屋にはられていた結界が薄れて声が通るようになる。
そしてドアの外から若い女の声がした。
「リー様、お早い所失礼します。」
「フォンか。なんだい?」
フォンと呼ばれた声は続ける。
「はい、リー様に来客があります。例の者です。普段通り追い返しますか?」
「ああ、そうしとくれ。用事はそれだけかい?」
「はい、リー様に何も用事がないようであれば私はこれで下がります。」
「ああ、・・・・・・」
用事はないと返事をしようとしたところでリーは少女を見る。
今までは何かと時間をやりくりしていたため少女の様子を見るのも可能だった。
少女が寝たきりという条件があっての事だが。
それが少女が起きるとあっては変わってくる。
多忙なリーががんばって調整しようが面倒を見られなくなることがでてくるだろう。
となると少女の面倒を見る人員を探さなければいけない。
娼館では力仕事や、護衛のため男はいるが、
さっきのフラッシュバッグを見るに避けといたほうがいいだろう。
となれば女、は娼館なので勿論たくさんいるが、
少女の立場がどういうものか分からないため口の硬い者、それも信用が置ける者を選ぶしかない。
その点フォンは最適だ。
リーの部屋の前に直接来れるほどの地位や信用があり、
さらにリーはフォンの人となりを知っているため安心だと知っている。
リーの腹心であると言ってもいい。
もちろんリーの部屋の前に直接来れるほどの地位があるためそこそこ多忙だが、
フォンの仕事には他の人員でもできるものがいくらか含まれている。
やはりフォンが少女の世話を見させるのに最適だろう。
問題はフォンほどの役職のものに子守をさせるという事だが、フォンなら説明すれば重要性を分かってくれるだろう。いや、説明しずともフォンならリーから直接言われるという事で重要性を察するだろうが。
「フォン、少し待て。今鍵を開ける。私の部屋に入ることを許可する。
私より仕事を与える。」
リーは説明した。
クレーターの所で見たことを含めて。
そして想像通りフォンは子守の仕事も受け持つことになった。




