中立都市ロータスまでの旅路
俺の目の前には本当の雇い主がいる。
フードとかで隠れてるから分かりにくいが、人形のようにもかわいいとも綺麗とも取れそうな容姿だ。
ちっさいけど。
その顔が俺のすぐ近くに目の前に。ほんとにすぐ近くに。
もう鼻がくっつくんじゃないかってほどに。
しかもなぜが雇い主によって俺の体は動かないようにがっちりと固定されている。
じーっと本当の雇い主に見つめられる。
少しドギマギする。
『うん、大丈夫そうかな。ネルヴァもう離していいよ。』
本当の雇い主が何事か言った。難聴だろうか?俺には聞き取れなかった。
『はい、分かりました』
俺の拘束がとかれた。
どうやら難聴というより知らない言語で話しているみたいだ。音の響きとか違うし。
ピットゥ語もよく分からない響きだけどこれはなんか違うような気がするけど。
いや、俺が知らないだけでピットゥ語にはこういう響きの言葉もあるのかも。
そうやって考え込んでいるうちに雇い主の方が俺に話しかける。
「では、馬車を出してください。」
「あっ、はいわかりました。」
本当の雇い主が馬車に乗る前に俺に向けてぴょこっ、と頭を下げたのが見えた。
うん、これ良いかも。かわいらしい。
「ああ、それから」
「はい」
「ご主人様に手を出したら殺しますから。」
「・・・・了解しました。」
むっさ怖い。
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準備をしてから思った。
馬車に乗って行くのは良いけど、私が人族っていうのどうしよう?って。
今人族と戦争中だし、その行商人さんと合流したらまずいんじゃないだろうかと。
それをネルヴァに相談したらそれも大丈夫だったみたい。
なんか国王に入国許可証というのをもらってるらしい。
特別に、というよりかは実験的な感じらしい。
他のプレイヤーが現れた時にどう対応すればいいのか、
話し合ってとりあえず私に、とネルヴァがもらったらしい。
やはりネルヴァは有能。私が言う前に問題を解決してるなんて。
それで、一応入国許可証はもらってるけど、普段はフードつきの外套で頭とかを隠すらしい。
いちいち説明してられないから。
という訳で馬車での旅は何の問題もないと分かり、久々に森から出てきました。
「ご主人様、こちらが前言っていた行商人です。」
ネルヴァがこれまでいろいろと日用品とか、
中立都市ロータスの会場とか手配してくれた人を紹介してくれました。
ネルヴァに行商人が万が一にも私を害すことができない状態にしてもらってじっくりと見定めました。
じーっと目を見てたぶん大丈夫だと思ったのでネルヴァに解放してもらいました。
人間不信は収まっていないのです。
とっさにこちらの言葉が出なかったため、頭を下げました。
拘束してごめんなさい、という意味とこれからよろしくお願いします、という意味で。
中に乗り込んでみて分かったのですが、馬車というのはあまり広くないようです。
最初のうちは我慢していました。最初のうちは。これもファンタジーな世界の移動手段の醍醐味だと。
しかし途中から面倒になりました。
ですから荷物は全てインベントリに入れてしまいました。
幸い量こそ多かったものの個々の荷物の大きさはそれほどではなかったので全てをインベントリに入れることが出来ました。おかげで馬車の荷台は結構広いスペースになりました。
さて、次の問題です。
クッションや毛布が敷き詰めてあったのですが、それでも振動が結構つらいです。
オブラートに包まずに言うとお尻が痛いです。
「ネルヴァはお尻痛くないの?」
「はい、大丈夫ですが。ああ、膝の上に乗りますか?」
うーん、それはそれで魅力的だけど馬車の乗り心地を改善しないと。
・・・・・・ふむ、試してみようか。
「【召喚、ビックスライム】」
ビックスライムを召喚してカーペット状に。
おお、快適快適。揺れもほとんど伝わってこない。
窓もない馬車だったけど、私は馬車に乗ってるという事に満足感を得ます。
ただ・・・・・・・飽きます。ものすごっく暇です。
トランプ(こっちに来てから作った)で遊ぼうにも二人では出来ることが限られます。
途中、木を(ネルヴァが)削って作った将棋とか、チェス、リバーシで遊んでみるも
ネルヴァがすべて圧勝するので面白くありません。有能すぎるのも考え物です。
花札もやってみようかと思いましたが、札と遊び方を中途半端にしか覚えてなかったので諦めました。
遊ぶ方法があらかた思いつかなくなった時に前の方から声が聞こえました。
「ネルヴァ、なんて言ってたの?」
「もうそろそろお昼にしないかと。」
「ああ、いいね。お昼ご飯にしようか。ネルヴァご飯作るの上手だからね。」
「お褒めに預かり光栄です。」
それからしばらくして馬車が止まった。
行商人さんが馬車の中をのぞいて仰天してる。何だろう?
ネルヴァに聞いたら馬車に積んでた荷物がなくなってびっくりしていたみたい。
インベントリの事隠すの忘れてた。
「ネルヴァ、適当にごまかしといて。」
「分かりました。〈詮索無用です、余計なことをしたら・・・・分かりますよね〉」
「〈はっはいーー〉」
ヴィダ語の発音覚えて早く会話できるようにならないと。
お昼ご飯は野菜とかさまざまな具材を細かく刻んで溶けるまで煮込んだスープに、
カレー風味の野菜炒め。それからナン。
「美味しいっ。ネルヴァいいお嫁さんになれるよ。」
「なることはありませんけどね。」
苦笑が返ってくる。
確かにネルヴァの第一順位は私だし、お嫁さんになるとは思えないね。
私がお嫁さんになってー、とか言ったら二つ返事で了承しそうだけど。
「それに旅の途中ですからスープは作り置きのですけど。
本来なら私がいるのに作り置きというのはどうかと思うのですが旅の途中ですしご辛抱を。」
「おいしくて飽きないから別に謝るほどの事じゃないけどね。
けどまあ、確かにご飯の度に作ってもらった方が嬉しいかもね。」
「申し訳ありません。」
「だから謝ってもらう事じゃないってば。」
ネルヴァの生真面目さに苦笑しながら思う。
こういう昼食も楽しいなあ、と。辺りは草原で一面に何もない。
こういった広々としたところでのんびりとするのも悪くない。
今まで主な生活空間は森だったからね。
外にいてもこんな解放感はなかったね。周りには木とかがたくさんあって自然は満喫できたけど。
ご飯を食べ終わって馬車でゴトゴトと。
おなかがたまったので眠気がわいてきた。
子供の体だからなのかなんなのか知らないけど、この体は結構な睡眠時間を必要としてるように思える。
「ねるヴぁ」
眠気に少し負けかけながらネルヴァを呼べばすぐそばに来て添い寝をしてくれる。
幸いビックスライムの敷布団に、馬車の振動を和らげるために用意されていたクッションや毛布。
寝るための環境は万全にそろってる。
「おやすみ」
「お休みなさいませ。」




