行商人さん
おなじみの女騎士さんが倉庫に案内してくれる。たぶんまだ見習いだろうけど。
「ではこちらが今回の空の魔石になります。」
箱の数だけ確認する。
中身については国側が偽るわけはない、という信頼と、
もしほかの商品が入っていても確実に空の魔石よりかは高価なのだから確認しない。
「はい、確かに。ではいつも通り順次運搬しますので運び終わるまで監視お願いします。」
俺は馬車に箱に入った空の魔石を運び込んでいく。
俺が運び込む間何もすることがないので暇なのだろう。騎士さんが話しかけてくる。
「それにしても空の魔石なんて何に使うんです?ただの黒い小石じゃないですか。」
「さあ、分かりません。」
「むっ。」
あっ、これ絶対隠してるって思われてる。
これだから商人は、金になる事は外に言わないんだから、とか絶対思われてる。
「私はただの雇われの身ですから。詳しいことは教えられてないんですよ。」
目の前の騎士さんも美しい(というよりかわいい?)が、
それとは比べ物にならないほどの美しさを誇る雇い主を思い出す。
正確には本当の雇い主の使用人らしいけど、その本当の雇い主は見たことないしもう雇い主と言ってもいいだろう。別に誰が困るという訳でもないのだし。
きびしい目つきと言動が玉に傷だが。
その雇い主には及ばない別嬪さんな騎士さんがしゃべる。
「そうか、雇われの身というのも何かと面倒だしな。」
「そうですね。色々とよくしては頂いてますが面倒と思う事もありますね。」
絶対これ俺に話を合わせたというより騎士さん自身の感想だよなあ。
騎士といえ雇われの身にかわりはないんだし。
「では、また戻ってきます。」
「ああ、早く戻ってこいよ。一人だから話し相手もいやしない。」
空の魔石など奪おうとする人はいないから一人なんだろう。
というより国と取引する雇い主は何者なんだろう?
いや、その取引するものは無価値ともいえる空の魔石だし、ほとんどの値段は送料なんだけど。
「ええ、分かりました。」
馬車に詰め込めるだけ詰め込んだ後、雇い主が指定した借し倉庫にまで運ぶ。
お金はあるようなんだが、本当の雇い主の身元でも隠したいのか、
一般の借し倉庫を使うように指定されている。
そういえば雇い主がどうやって物を運んでるかも謎だな。
指定された借し倉庫に馬車とかが入って行ったのを見たことないんだけど。
まあ、四六時中借し倉庫にいるわけでもないしすれ違いになる事もあるか。
借し倉庫につく。
荷物を置く。
また騎士さんのとこに行って荷物を受け取る。
貸し倉庫に荷物を置く。
これの繰り返しで今日の基本業務は終わりだ。
まだまだ若い俺の持っている馬車は小さく、何回にも分けて荷物を運ばなければいけない。
それが少しめんどくさいが、こうするだけで給料がもらえるのはいいことだ。
後今日は言われてないからいいが、日用品とか、食料とか、水とか、調味料とか、娯楽品とか、本とか、
それはもう色々と仕入れて貸し倉庫に置いておかないといけない。
本当の雇い主はほんとに謎だ。
たまによく分からない物を仕入れるように言われるし。
しかも見当たらなかった場合は細工師とかにオーダーメイドするように言われたり。
こっちは顔を広げることができるからいいけど。
かなり変わったものだと中立都市ロータスで部屋を借りろとかいうのもあった。
安くて広くて、という条件だったから郊外の所に借りたけど、あれでよかったのか?
何のために使うのかとか言われてなかったから少し心配だ。
そんな事を考えながら馬車を走らせてると家につく。まあ、貸し部屋だが。
貸し家は高いのだ。
しがない行商人の俺は普段は木賃宿とかに泊まることが多いのだが、
今回はそれなりにここに留まるというのと、報酬がよかったから思い切って部屋を借りたのだ。
簡素なところだが悪くはない。
その部屋の前についたのだが、今日はいつもと違うところがある。
雇い主が部屋の前で待っていたのだ。
「あっ、すっすみません。お待たせしましたか?」
「待ちましたが問題ありません。それよりこれを読みなさい。質問があれば聞きます。」
渡された紙を読む。
「ええっと、お・・・私の馬車に本当の雇い主を乗せるのですか?」
「本当の?」
言い間違えた。
「ああ、いや、雇い主様を乗せるのですか?」
「何か問題でも?」
「いえ、こちらには問題はないのですが、お・・私の馬車は少し、いやかなり乗り心地が悪くてですね。
雇い主様がどう思うか。」
私という一人称に慣れない。
一応雇い主の前だというのだから俺というのはまずいだろう、
と思って変えようとしているのだが言い間違えそうになってしまう。
「問題ありません。
ああ、いえ追加でクッションと毛布を買って詰め込んでおきなさい数買っておきなさい。」
「分かりました。」
正直それだけで何とかなるとは思えないんだが、雇い主がそう言うならそれでいいか。
「それからこの案内役というのですが、どういった方を案内したらよろしいのでしょうか?」
「基本的には看板を見て寄ってきた者のみです。詳しいことはまた後日伝えます。他には?」
「いいえ、ありません。」
「では明後日出発するので正門から出てすぐの広場で待っておきなさい。」
「分かりました。」
雇い主が去って行った。
「ふぅ」
雇い主と話すときはどうも緊張する。
相手にはそんな気はないんだろうが、威圧されるようなそんな感じが。
俺は今まで護衛も雇わずに一人で行商してきた。
俺が強かったからだ。
魔物を狩ったりしても生計をたてられただろう。
そんな俺だが、どうしてもあの雇い主には勝てる気がしない。
いや、戦える気がしない。もし戦うとなれば戦いにもならず一瞬で殺される気がする。
その場面を思わず想像してしまい、ぶるりと震える。
頭を振り払って思考を振り払う。
中立都市ロータスまではどれぐらいだったか。
一週間程か。予定外の事も含めて十日ほど見ておくか。
途中村によって食料を仕入れるとしても最低四日分ほどは食料を詰んでおきたいな。
それが俺と雇主と本当の雇い主の三人分で。うわ、これはそれなりの量の食糧を積まなきゃいかん。
それに旅にはいろいろとモノが必要だし、
これ馬車の後ろに乗る本当の雇い主と雇い主はそれなりに狭い思いをするんじゃ。
うぬぬ、荷物をに減らすべきか、減らさないべきか。




