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陰で育てる少女たちのチート冒険譚~奴隷少女たちを最強に育てる陰の策略~  作者: spichat
第3章 転生勇者と奴隷少女

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第71話

朝の空気がまだ残る室内では、既に数人の刑事が慌ただしく動き始めていた。

そんな中、鴨志田を連れて昨日もらった資料からまずは男子高校生から調べることにした。

当時は行方不明としてご両親から情報をもらっている。

生活安全課としても調査は行っていたようだが、すでに三年も月日が流れてしまっている。


「……さて、どこから聞き込みを開始するか」


思わず小さく呟く。

すると、鴨志田は飲み終わった缶コーヒーを捨てるゴミ箱を探しつつ、提案してくる。


「とりあえずは当時の管轄署に行ってみません?蔵前っすよね?」

「……情報は全てもらっているだろう?今更行っても何も出てこないぞ?」

「俺が捜査一課に来る前、どこの署にいたか思い出せません?」

「……そういうことか。お前の元所属か」

「そういうことっす。しかも、三年前だと、俺、、いたんすよね」

「……おいおい。まさか、関わってないよな?」


鴨志田は一度考え込むようなしぐさをしたが、次の瞬間には両の掌を上にして笑っていた。

三年も前のことを覚えているとしたら、それこそ印象にでも残っていなければ無理な話だ。

しかしーー


「なんとなく聞き覚えのある名前ではあるっすよ。当時の上司はまだいるはずっすから聞きたいんよね」


鴨志田には、転生以外でも引っかかっているところがあるようだ。

もちろん、鴨志田が推察しているように怪しい点は多い人物であることは間違いない。


「……分かった。とりあえず行くぞ」

「了解っす」



蔵前署で分かったことは二つ。

一つは彼が正義感の本当に強い人であったということ。

鴨志田の元上司に話を聞いたところ、二度、警察から表彰された経験があるようだ。

一回は商店街でのひったくり犯を現行犯逮捕したことによる表彰。

もう一つは、通学中のバスで痴漢されている同学の女子生徒を助けたことによる表彰。

二つ目は失踪したと思われる場所。

当時は失踪事件として、何かしらの事件に巻きこまれたと仮定され、、強行班でも捜査していた。

鴨志田が覚えていたのはそのためだろう。

しかし、失踪した場所の特定までは至らず、結局、ご両親からの行方不明届を受理する形で事件は幕を閉じた。

そして、今いるのは彼が通っていた高校――

都立の高校ではあるが、校内への入るためには入口で身分証を提示する必要性がある。

関係のないものが気軽に入れるような警備はしていないことから、当時も彼は学校の外で失踪したと考えられていた。

校内に入れた頃には、二時間目が始まっていた。

校舎から聞こえてくる授業の声。

都内には珍しくグラウンドも完備しており、外で体育をしている生徒。

どこにでもある普通の学校風景。

職員室へ案内され、応接スペースへ通される。

しばらくして現れたのは、中年の男性教師だった。


「失踪当時の担任だった佐伯です」


名刺交換を済ませ、簡単に事情を説明する。

もちろん、異世界だの勇者だのは言わない。

あくまで当時の話を聞きに来ただけ。

再捜査というわけではないので、その辺りはきちんと伝えておかないと後々軋轢が生じる可能性もある。


「……三年前の件ですか」


佐伯先生は少し懐かしそうに目を細めた。


「正直、未だに信じられていません」

「というと?」

「彼が突然いなくなる理由がなかったんです」


優等生であり、模範的な生徒であったと聞くと至極真っ当な返答だ。


「学校生活も問題なし。成績優秀。友人関係も良好。剣道部でも真面目でした」

「トラブルとかは?」

「聞いたことありません」


即答だった。


「むしろ、人助けをよくする子でしたよ」

「警察からも表彰されるほどでしたね。学校でもそうだったのですか?」

「ええ。後輩の面倒もよく見ていましたし、揉め事があると止めに入るタイプでした」


これだけを聞くと何事にも優秀なのだろう。


「……失踪が発覚してから、クラスはどうでしたか?変わったことはありませんんでしたか?」

「失踪したのが高校三年の秋口でしたので、最初はクラスの雰囲気も落ち込んだものですが、大学受験が控えていましたので、気にするものは少なくなっていきましたね」


担任は苦笑する。


「……気になるといえば、当時仲良くしていた友人は”明誠大学”に進学しましたね」


鴨志田が小さくこちらを見る。

その情報は初耳だった。

まさか、こんなところで”明誠大学”の名前が出てくるとは思いもしなかった。


「……そのご友人は剣道部ですか?」

「いえ、全員というわけではありません。特に仲の良かったものは当校在学中は帰宅部でした」

「もし、差支えなければお名前をお伺いしても構いませんか?」

「……タカハシトモノリ、と記憶しています」


ここで繋がるとは思いもしなかった。

高橋と海藤が高校時代の同級生であり、先に海藤が失踪していた。

仲の良い友達であれば、危険を顧みない行動をしたのであれば、失踪の原因を探っていた可能性もある。


「その高橋くんとは、連絡が取れますか?」

「いえ。私は連絡先を知らないので」


佐伯先生が申し訳なさそうにしているので、畏まらないよう促す。

この件の発端となった事件に近づけそうなだけに、ここで引いてしまうのは惜しい。


「……では、失踪当日は?何か覚えていることはありませんか?」

「警察から聞いた日付の日は部活動があった日と記憶しています」


話の流れを再度、海藤くんの話に戻すと佐伯先生の会話もスラスラと続く。


「その日は剣道部の練習後、普通に帰宅したはずです」

「……その後、塾に行くとかいうことはなかったのですか?」

「彼は推薦での進学がほぼ決まっていましたので。特段、学校以外で勉強することはないと記憶しています」

「……その、推薦先の大学は?」

「大学名は控えさせてください。ただ、大阪の方の大学になります」

「それはまた。東京ではなく大阪ですか」

「彼は幼少期から剣道を続けていたみたいで。当校に在学中、インターハイに出れたのも彼のお陰なんです。中学時代には個人で全国区の選手だったみたいですが、高校では団体戦のみの出場でした」


佐伯先生が当時を思い出しながら静かに続ける。


「剣道部のコーチからは”個人戦に出てみないか”と打診されていたみたいですが、拒否していたみたいですね」

「……なるほど」

「”仲間と一緒に全国へ”。彼が掲げた当時の部の目標です」


佐伯先生は笑顔でそう答えた。

彼の性格は十分に把握できた。

そこまで聞いたところで、鴨志田からも質問が飛ぶ。


「当時、俺も捜査に加わっていいたっす。それで聞きたいんすけど、先生はどこで彼が失踪したと思いますっすか?」

「……」


佐伯先生に聞くのは酷なことであるにも関わらず鴨志田は意見を聞きたいようだ。

腕を組み、真剣に考えてくれた答えーー


「……これは当時の生徒から聞いた曖昧な証言からですが、学校内だと思っています」

「それはなぜっすか?」

「彼が帰宅した姿を誰も見ていないのです」


学校内が怪しいという推察は警察でも行われていたが、厳重な警備のため切り捨てられたものだ。

ここでその意見が出てくることにも驚きだが……

すると、唐突に部屋の扉がノックされ、佐伯先生が入室を許可し入ってきたのは男子生徒だった。


「ご紹介します。彼は眞鍋翔くん。海藤くんが通っていた剣道教室の後輩なんです」

「どうもっす」


鴨志田が軽く手を挙げる。

佐伯先生は男子生徒に座るよう促し、少し緊張しながら椅子へ座った。


「先輩、どんな人だった?」

「……優しかったです」


迷いなく返ってくる。


「俺、小学生の頃かなり弱くて。よく自主練付き合ってもらってました」

「厳しかった?」

「いや、全然。むしろ褒めてくれるタイプでした」


少し笑う。


「“才能なくても続ければ強くなる”って」

「当時を思い出だすと辛いと思うっすけど、失踪する前、変わったところはあったっすか?」

「変わったこと……?」


眞鍋くんは暗い顔をしたものの、少し考え込み、思い出したことを口に出してくれた。


「あ、そういえば」

「ん?」

「失踪する少し前、変な本持ってました」


その瞬間、俺と鴨志田の視線が合う。


「本?」

「はい。なんでも友達と一緒にもらった本らしくて。大切な友情の証って言ってましたね」

「どんな本だったっすか?」

「……見せてもらってないんで分からないです。でも、読めないって言ってましたね」


鴨志田の口元が僅かに緩む。

捜査中は表情を顔に出すなとあれほど言っているのだが、まったく直っていない。

だが、高橋の件といい、かなり近づいた感覚はある。

眞鍋くんはさらに続けた。


「あと、先輩。その頃から、時々面白いこと言ってました」

「例えば?」

「“もし別の世界があったら”とか、“誰かを救える力が欲しい”とか。先輩って案外アニメオタクでもあるんで、当時、異世界アニメとか流行ってましたし」


静かに息を吐く。

もし、本当に異世界へ渡ったのなら。

もし、本当に勇者だったのなら。

その願いは――叶ってしまったのかもしれない。

聞き込みを終え、校舎を出る。

夕方の風が少し冷たかった。

鴨志田が隣で口を開く。


「いやぁ……もう完全に勇者候補っすね」

「……お前は。聞き込みしているときに笑うやつがあるか。でも、色々と繋がりつつあるな」

「警部、次どうします?」


俺は少し考えた後、静かに言った。


「夕方だが、もう少し情報がほしい。本人の家へ行くぞ」

「了解っす」


高校を振り返る。

そこには、普通の日常があった。

だが、その日常から突然消えた人間がいる。

そして今、その行方不明者が異世界で戦っている可能性がある。

そう考えると、妙な感覚だった。

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