第19話
奴隷商の店を出ると、昼の光が通りを照らしていた。
蛭間になっても人の往来は多く、荷車の音はそこかしこから聞こえる。
日常の中に、四人だけ少し浮いているような感覚がしている。
三人は、少し距離を空けて後ろをついてくる。
(……まずは、ここからだな)
振り返る。
擦り切れた布。汚れの残る服。明らかに奴隷とわかる服装だ。
「まずは服だな」
三人が顔を上げる。
「俺の奴隷になった以上、綺麗な服装でいてもらう」
一拍。
「……きっと似合うから、整えたほうがいい」
沈黙。
ミアが自分の服をつまむ。
「……いいの?」
「問題ない」
それだけ言って歩き出す。
少し遅れて、三人がついてくる。
通りを進み、一軒の店へ。
服屋。
扉を開けると、整った衣服が並んでいた。
布の質、縫製、どれも丁寧だ。
三人の足が止まる。
「いらっしゃいませ。お洋服をお探しですか?」
「この3人に服をお願いしたい。代金は問題ない」
店員に案資してもらうため、きちんと代金が払えることを示すため金貨の入った袋を見せる。
店の女性店員が明るく対応をしてくれる。
3人とも汚い服装だから、予め代金を払えることを言っておけば邪険にはされないだろう。
「……ここは、新品を扱うお店、ですね」
エレナが呟く。
「あの、旦那様?一般的には、中古を選ぶ者が多いです。新品は……余裕のある者が選ぶものです。私たちのような奴隷がこのようなものは着れません」
(……そういうものか)
だが、迷わない。
「気にするな。というより、俺にとってはこれが普通なんだが。慣れてくれ」
三人は動かない。
「……そのようなもの、私たちには――」
「気にするな」
即座に遮る。
「これから一緒に生活するなら、それなりの見た目でいろ」
沈黙。
ミアが、恐る恐る一歩前へ。
服に触れる。
「……ほんとに、いいの?」
「いい」
リリアがエレナの袖を握る。
エレナは目を閉じ、小さく息を吐いた。
「……分かりました」
その一言で、空気が変わる。
三人はそれぞれ服を選び始めた。
――しばらく後。
カーテンが開く。
三人が出てくる。
思わず視線が止まる。
ミア。
体に沿う軽装。
無駄がなく、動きやすさがそのまま形になっている。
エレナ。
黒を基調にした装い。
金の刺繍が控えめに光る。
立っているだけで整って見える。
リリア。
少し大きめの服。
袖が余り、未完成さがそのまま残っている。
三人が並ぶ。
「いかがでしょうか?それぞれのお好みに合わせて、動きやすさも考えセレクト致しました。」
(……問題ないな)
「これでいい。あと、この靴もお願いしたい」
冒険者ギルドで試験を受ける時に借りた靴を履いたままだったので、いい機会と俺も靴を新調しておく。
と、スタッフが会計のため店の奥に引っ込んだタイミングでエレナが目を伏せる。
「……似合っていますか?」
「問題ない」
簡潔に返す。
だが、エレナの表情が、わずかに緩んだ。
ミアが一回だけ回る。
「……動きやすい」
リリアは袖をつまむ。
「……これ、すき」
会計も終わり店を出る。
奴隷服は服屋で処分してくれるそうだ。
次は食事処へ入る。
木のテーブル。焼ける肉の音。香草の香り。
席に着く。
三人は立ったまま。
「なぜ立っている?座ったらどうだ?」
沈黙。
エレナが口を開く。
「……申し訳ありません。一般的に、奴隷は主人と同席して食事を取りません。別で与えられるのが普通です」
一瞬、考える。
(……そういうルールか)
「なら、変える」
短く言う。
「一緒に生活するなら、同じテーブルに座れ」
沈黙。
エレナが迷う。
そして。
「……分かりました」
座る。
ミアも座る。リリアも続く。
そこに店員が来る。
「注文は?」
メニューを見る。
「香草焼きの肉と、野菜の煮込みスープ。あとパン」
店員が三人を見る。
「お前らは?好きなもの頼め。遠慮は無しだ」
ミアが少し考える。
「……ご主人様と同じものを」
エレナ。
「同じものでお願いします」
リリアも小さく頷く。
料理が運ばれる。
香ばしく焼かれた肉。
香草の香り。
湯気の立つスープ。
三人は手をつけない。
「食べる前に言うことがある」
三人が顔を上げる。
「“いただきます”だ。食う前に、それを言う。これからのルールだ。あと、冷める前に食え」
沈黙。
エレナが静かに言う。
「……いただきます」
ミア。
「……いただきます」
リリア。
「……いただきます」
「いただきます」
食事が始まる。
ミアが肉をかじる。
目を見開く。
「……すごい」
リリアも食べる。
驚いたように表情が変わる。
エレナはゆっくり味わう。
ほんの一瞬、動きが止まる。
(……ちゃんと味わってるな)
「この後は冒険者ギルドに向かう。3人には冒険者になって俺を手伝ってもらう。」
食事を終えた後は、今日の本題の場所に向かう。
冒険者ギルドへ。
「いらっしゃいませ。後ろの御三方は?」
「この三人を冒険者登録がしたい」
受付嬢が三人を見る。
「通常はテストが必要ですが……」
エレナが一歩前へ。
「最低ランクで構いません。確か補助要員とし登録が出来たはずです。お願いします」
少しの沈黙。
「……Gランクからであれば可能です。でも、よろしいので?」
手続きが進む。
「では、この用紙にご記入ください」
3人が記入している間に、
「…それと、お借りしていた靴をお返しします」
「わざわざありがとうございます。武器はまだお持ちじゃないようですが、何かお貸ししておきますか?」
「では、短剣を3本、お願いします」
掲示板の前。
依頼を確認する。
【ホーンラビット討伐(2体)】
「これを受けるか…」
「登録完了しましたので、御三方にはプレートと短剣をお渡ししておきました。そちらの依頼、受注されますか?」
「お願いします」
草原へ向かう。
風が草を揺らす。
やがてホーンラビットが現れる。
ミアが固まる。
リリアも動けない。
エレナが状況を見る。
「ミア、右から」
「え……」
「ちょっと…」
短く言う。
ミアが動く。
ぎこちない。
だが、確かに動く。
リリアが一歩踏み出す。
震えている。
それでも、前へ。
戦闘は短く終わる。
ミアが息を吐く。
「……やった」
リリアが小さく頷く。
エレナが周囲を確認する。
「……問題ありません」
三人を見る。
まだ未熟。
だが――
(……ここからだな)
歩き出す。
三人がついてくる。
(……まずは1歩ずつ、焦らずに)
世界を救う方法は、一つじゃない。
その一つを、選んだだけだ。
静かに、前へ進む。
2026.04.26 文章を修正しました




