第七話:初のモンスター討伐(後編)
「ところで俺達は今、ゴブリンの討伐依頼を受けているんだ」
「この近くの洞窟に十数匹の群れがいるみたいなんです」
ゼイルとメニイはミリィーに伝えると
「じゃあ、さっきのゴブリンも洞窟の奴らなのかしら?」
「恐らくは」
ミリィーの質問にゼイルが返答し、続ける。
「今から洞窟に向かうけど、一緒に行くかい?」
尋ねられたミリィーはハッキリ答える。
「そうね、もちろん行くわ!」
三人は立ち上がるとゴブリンの巣窟へと向かった。
更にしばらく西へ進むと、切り立った岩の壁が見えてきた。
ミリィーは近くの岩陰に身を隠すと呟く。
「あそこの穴の前・・・ゴブリンが二匹いるわね」
メニイとゼイルも後に続く。
「巣の見張りのようですね」
「そうだね。ここは俺とメニイで対応するから、ミリィーは周囲を警戒して
おいてくれないかな? 」
「了解!」
小声で相談を終えると、メニイが魔術行使の準備を整えた。
するとゼイルが俊足で飛び出し、あっという間に十メートル程の間合いを詰める。
「アイシクルステイク!」
メニイの声を聴き、ゴブリン二匹が岩の方に視線を向ける。
直後岩から離れた位置に立っていた方の個体に、空中から発生した五十センチメートル程の氷杭が突き刺さり、氷漬けになる。
他方は、ゼイルが間近に迫っていることを認識したが、その時には袈裟切りにされていた。
メニイが詠唱を始めてから、モンスター二体を退治するのに十秒もかからなかった。
洞窟の入り口で三人が合流すると、ミリィーが口を開く。
「・・・二人とも凄いわね。よく連携も取れているし」
「そうですね。なんといっても私達は相性がいいので!」
メニイは胸を張って、勝ち誇ったように言った。
「何度目かの戦闘だけど、メニイのアシストはかなり上手くなってるよね?
状況判断力が凄いんだろうね 」
ゼイルに褒められるとメニイは満面の笑顔になった。
ミリィーはふとゼイルの剣に目を止めると、あることに気付く。
「それにしても、ゼイルの剣は片手用にしては随分柄が長いわね?」
「お、良い着眼点を持ってるね。実はこの剣の柄は約二十五センチなんだよね」
ゼイルが説明するとメニイが
「へぇ~、そうなんですね」
と少し合点がいかないような顔で頷く。
「見張りも倒したし、中の奴らも片付けよう」
ゼイルは少し緊張感を漂わせて言った。
「そうね」
「はいっ、行きましょう」
二人も返答するとゼイルを先頭に、ミリィー、メニイという順で洞窟に入ってゆく。
洞窟の中は人間二人が横に並べる程の狭さで、側面に設置された大きなロウソクで照らされているだけけなので、薄暗かった。
進み始めて数十秒のところで、ミリィーが数メートル前方を指差しながら小声でゼイルを呼び止める。
「あそこ、罠があるわ。解除するから待って」
そう言うとその位置まで行き、何やら’カチャカチャ’と作業する。
そうして三秒程すると
「解除できたわ」
「もうできたの? さすが、早いね」
ゼイルは感心したように言う。
「ゴブリンの作る罠は単純なのよ。先に進みましょう」
再びゼイルを先頭に奥へと進む。
そんなことを何度か繰り返していると、奥の方に今までよりも明るく、ひらけた場所が見えてきた。
するとミリィーが二人を岩陰に隠れるよう促す。
「モンスターの声が聞こえる。十匹以上いるわね」
「最深部のようですね?」
メニイが呟き、岩の陰から中を覗く。
「確かに十体以上いますね。私が魔術で前方から敵を倒すので、後は
ゼイルさん、よろしくお願いします 」
「そうだね。その作戦で行こう。ミリィーは状況によって適当な行動を」
「・・・了解」
相談が終わると、戦闘態勢に入る。
そしてゼイルのダッシュを合図にメニイが’アイシクルステイク ’を無詠唱で発動する。
すると三人が待機していた側から、モンスターに空中で発生した氷杭が刺さっていく。
「「「ギッ、ギギィ・・・ギギ!?」」」
ゴブリンたちは騒ぎ始めた。
一体目が氷漬けになると二体目という具合に、次々とモンスターに杭が撃ち込まれる。
その光景を見たミリィーは少し声を上げてしまう。
「えっ! もしかして連続で・・・無詠唱で魔術行使しているの!?」
驚くのも当然だ。
通常、魔術行使は一工程が終わるまでに五秒はかかるのだ。
しかしメニイの場合は詠唱が必要ないので、連射が可能になっている。
ゼイルは心の中で”さっすがメニイ!”と思いながら、氷塊を避けつつ走り抜ける。
次々と氷漬けになっていく仲間を見て混乱している敵を、ゼイルも簡単に切り捨てていく。
そうして一分もかからずに全滅させてしまった。
敵のいなくなった、ひらけた空間の中央部に三人が集まる。
「二人とも凄いわね・・・私、何も出来なかった」
ミリィーが呟くように言った。
「ミリィーはシーフなんだから、そんなこと気にすることないよ
それより奥に倉庫らしき洞穴を見つけたから、見てくるよ 」
ゼイルは「気にしなくていいんだよ」と優しく声をかけると、奥へと進んでいく。
彼がいなくなるとミリィーは俯いてしまう。
「ミリィーさんはシーフです。通路で罠を解除してくれたじゃないですか?
索敵も的確にしてくれました。これからもよろしくお願いします
・・・・ってゼイルさんは考えてると思いますけどね 」
素っ気なくメニイが言うと
「メニイって、凄く可愛いわね?」
と言って、ミリィーはメニイを優しく抱きしめて頭を撫でる。
するとメニイは少し赤面して言った。
「ちょっと何するんですか? ・・・私は猫じゃないんですよ」
「いいえっ、猫よりずっと可愛いわ」
「仲良きことは素晴らしきかな」
いつの間にかゼイルが遠い目をした様な、笑顔を浮かべている様な表情で、女子二人の様子を見ていた。洞穴にあった毛皮などの戦利品を抱えて。
「あのっ、ゼイルさん、これは違うんです! ミリィーさんが急に・・・」
「うふふっ、メニイはウブで可愛いわね」
メニイが焦ったように言い訳したが、ミリィーは動じずに離れようとしなかった。
「ちょっとゼイルさん、助けてください!」
メニイは赤面しながら言ったが
「・・・仲良きことは素晴らしきかな」
ゼイルはこのとき合掌し、’悟りを開きかけた ’と後に語ったという。
しばらくして皆が落ち着くと、洞窟を出た。
「いや~、今回の依頼はとてもいい経験が出来たね? 恐らく一生忘れないよ」
ゼイルが口を開くとメニイは言った。
「確かに討伐は初めてでしたけど、そこまでの凄い収穫は無かったと思います
けど・・・ 」
「もうメニイったら、つれないわね~。抱きしめ合った仲じゃない?」
ミリィーは少し恥らう様な、からかう様な表情で言う。
「合ってないですよ! 一方的にされてただけです!」
メニイが少し語気を強めるとミリィーはおどけたように言う。
「ごめんなさい。つい、メニイは可愛いから・・・」
「もう、ミリィーさんたら・・・」
すると沈黙を保っていたゼイルが口を開いた。
「仲良きことは・・・」
「もう、それはいいです!」
メニイはパーティー初突っ込みを披露した。
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