第三話:冒険初日の終わり(前編)
新米冒険者二人は初戦闘を切り抜け、少しリラックスした様子で、歩きながら身の上を話していた。
「無詠唱で魔術行使できる人ってそう多くないよね? 俺と同じ歳でやってのけるなんて、メニイはすごいな~。優秀なんだね」
「いえ、私なんてまだまだです。ゼイルさんこそ剣を扱っている時の身のこなしは、素晴らしかったです。どこで習ったんですか?」
「コードン学院でアルバルト流剣術の修業をしたんだ。まあ運動神経には少し自信あるよ」
「アルバルト流!? それって現代剣術では最強とされてるのにあまり使い手がいない?」
「うん、そうだね。魔術も学院で勉強したよ。メニイはどこで魔術と法術を習得したんだい?」
「私はハイフィールド学院卒です。いい学校でした」
メニイが思い耽って話すと、ゼイルは少し驚いた様な感心した様な表情になった。
「そうか、ハイフィールドってことはメニイはお嬢様なんだね? なんか納得だわ。」
「えっ、そうですか?」
「ああ、メニイにぴったりだ」
ゼイルは合点がいったと言わんばかりに頷く。
会話をしている内に空はオレンジ色になって、集落が見えてきた。
「あそこっ、標識がありますね」
メニイは小走りで近づきながら言う。
ゼイルも続いて、返答した。
「クスイ・・・って書いてあるね」
目を合わせると二人とも笑顔になり・・・
「「到着~」」
仲良く手を取り合い、軽く飛びはねた。
しかし、しばらくするとお互いに赤面して身を離した。
「・・・えっと、じゃあ酒場に行こうか?」
相手から顔を逸らしてゼイルが問う。
「・・・そうですね、行きましょう」
メニイも同じように答える。
村なので店数は多くなく、すぐに目的地は見つかった。
キィッと扉を開けると、懐かしいような料理の匂いが漂ってくる。
「いらっしゃい」
中年の女店主がカウンターから声をかけてきた。
「随分若いお二人さんだね。こんな村に観光かい?」
するとメニイは首を振って答える。
「コンハからお届け物です。私たち今年で十八になるんです」
そして冒険者証を提示した。
「あら、そうかい。じゃあこれから二年間は旅人だね?」
「はい、そうなんです」
店主から問われると、メニイは返事をする。
ゼイルは小包を荷袋から取り出して店主に手渡す。
「これで依頼は完了だね?」
「うん、特に品物にも問題無いみたいだし、ご苦労さん」
店主はそう言うと、報酬の入った布袋を差しだす。
ゼイルは受け取ると早速中身を見る。
「おお、労働って素晴らしいね」
実家で貰っていた小遣いとは比較にならない額のお金を見て、テンションが上がった。
「良かったら夕飯食べていったら?」
女店主はウインクをして二人に話す。
「うちは宿もやってるし、サービスするよ」
「ゼイルさん、折角ですし食事にしませんか?」
「そうしようか」
そうして二人の冒険者は旅の疲れを癒すことにした。
「先に宿泊の手続きをしておかない? 部屋に荷物も置けるしさ」
ゼイルはメニイに提案する。
「そうですね、そうしましょう」
彼女は笑顔で同意した。
店主は少し真顔になって二人に尋ねる。
「・・・一部屋のご利用ですか?」
すると
「「二部屋で!!」」
冒険者デュオはハモった。
「あのっ、ゼイルさんと一緒が嫌っていうことではないんですよ!」
メニイは顔を赤くして焦ったように言う。
「うん、わかってるから!大丈夫だよ」
対してゼイルは赤面していたが彼女を落ち着かせるように言った。
女店主は声を出して笑う。
「はっはっはっ・・・。こめんね~、つい息子たちと近い年頃だから」
冒険者ペアはしばらく、お互いの顔を見られなくなった。
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次話は来週の土曜日(2025/11/8)お昼ごろに投稿する予定です。
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