第二話:旅立ち
「しかし、クスイとはなぁ~。結構、距離あるよな」
「そうですね。夜になる前に届けたいですね」
コンハを出た二人は他愛無い話をしながら、クスイへ向かっていた。
「そう言えば、メニイは法術と魔術のどちらの方が得意なの? 俺は剣が得意だけど・・・」
ゼイルは少し真剣な表情で尋ねる。
「私は法術の方が得意ですね」
メニイは笑顔で返す。
すると数メートル先にある草むらが突然 ’ガサッガサッ’っと揺れる。
「なんだ?」
ゼイルは呟くと同時に、すかさずメニイの前に出て刀身が約一メートルの片手剣を抜き、中段の構えをとる。
「えっ?」
少し戸惑ったメニイも一拍遅れて、一メートル程のステッキを構える。
草の揺れが収まった。
そう感じた瞬間
「グォガーッ!」
’ビュン ’とオオカミのようなモンスターが二人に向かって飛び掛かる。
「下がってて!」
ゼイルはメニイに声をかけながら、モンスターに対して剣を握った右側を前に半身になった。
踏み込むと同時に剣の切っ先を少し下げた直後、素早く振り上げる。
「ふんっ」
「グォ・・・ガ・・・」
’ザシュッ ’と胸を切り裂かれたモンスターが呻く。
修練で何度も繰り返されたその動きは、とても滑らかで美しいものであった。
メニイは戦闘中にも拘らず一瞬見惚れてしまった。
と思ったのも束の間。
「グォガーッ!」
’ビュン ’と今度はゼイルの左側からモンスターが飛び出す。
「ちっ、他にもいたのか」
今度はカウンターの姿勢をとろうとした刹那
’バリ バリィッ!! ’
辺りの空気を揺るがす程の音が響いた。
モンスターが煙を上げながら地面に倒れこむ。
ゼイルは心臓が ’ドクンッドクンッ ’と鼓動しているのを感じた。
緊張が解けると共に、驚いていたのだ。
「今のはライトニングだよね? メニイは魔術の無詠唱発動ができるんだね! まだ若いのに凄いじゃないか!!」
「いえっ。・・・ゼイルさんこそ素晴らしい剣技です! 感動しました」
メニイは目を輝かせて答える。
’ガサッ ’ゼイルの背後の草むらから物音がしている。
「まだいるのか」
すると彼は精神を集中して体内で魔力を練り、炎をイメージする。
そして背後に向かって左手を差し出し、
「ファイアーボール!」
呪文を唱えるとバレーボール程度の炎の球が発生し、飛び出した。
魔術は元来、体内で魔力を練ってイメージしてから呪文を詠唱し、行使するものである。
’ボンッ ’と鳴って球が目標に直撃する。
「ぐっ・・・」
呻くと地面に倒れた。
’ゴォオオオオオ・・・ ’
「うぎゃー!!」
「えっ、ひっ人!?」
ゼイルが火球を直撃させた相手は人・・・酒場で二人に声をかけてきた紳士?であった。
「ウォーターボール!」
すかさずメニイが魔術を詠唱し、消火する。
魔術はイメージが重要な術で、詠唱を伴う方がより緻密な制御が可能であった。
ゼイルは鎮火した紳士?の肩を揺すって声をかける。
「おいっ、大丈・・・」
すると上を向いていた紳士?の顔が力無く’カクンッ ’と横を向いた。
「「・・・しっ、死んだ!!?」」
ゼイルとメニイは絶句した。
が、メニイは紳士?が呼吸していることに気づく。
「ヒール!」
彼女は紳士?に向かって両手を広げると、回復系法術 ’ヒール ’を行使する。
すると紳士?の顔色がよくなってゆき、傷が完治した。
= 法術も魔術と同様の手順で行使する。
その違いは操っているエネルギーが異なることである。
すなわち法術は霊力、魔術は魔力を操る術であった。 =
「よしっ!大丈夫だね。これで問題ないな!」
ゼイルは戦闘時とは別物の冷汗を拭いながら、喋り出す。
「じゃあ行こうか、メニイ?」
「えっ、良いんですか?この人はこのままで・・・」
メニイは紳士?を心配そうにチラチラ見ながら、ゼイルに質問した。
「この状況で意識が戻ると余計ややこしくなると思うよ。これ以上は何もできないよ」
彼はそう答えると「仕方がないよ」と呟き、速足で歩きだす。
「ちょっと待って下さいよ~」
そう言ってメニイも後に続く。
初心冒険者二人が去って五分程度後。戦闘場所でムクッっと起き上がる影があった。
「やはり思った通りだ。・・・いやっ、想像以上だ」
左手を胸の前で握りしめて呟く。
「必ず彼らを我が力とするぞ。・・・あと、メニイちゃん可愛い」
「くちゅんっ」
メニイはクシャミをしていた。
「可愛いクシャミだね・・・な~んつって」
ゼイルが言うと
「もう、からかわないで下さい!」
彼女は僅かに頬を膨らませた。
「えっ、風邪じゃないよね? 大丈夫?」
心配して尋ねるゼイルに、メニイは「違いますよ」と苦笑いして答えた。
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次話は明日(2025/11/2)の13時ごろに投稿する予定です。
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