第一話:出会い
まだ成人と呼ぶには幼い顔つきの彼は、布袋に何かを詰めこむ。
「よしっ」
そう呟くと自室を出た。
「準備はできたのかい?」
部屋を出ると、自身と同じ黒髪の少し小柄な女性から、穏やかな声で問われる。
青年は緑色の瞳に期待感を忍ばせて、感意気揚々と返事をした。
「ああ!」
実年齢よりも若干若く見える女性・・・母親は少し寂しそうに、語りかける。
「頑張り過ぎないようにね。疲れたら帰ってきていいんだからね」
「うん、分かった。ありがとう。早く家を出ないと日が暮れちまうしな。母さん、元気でね」
彼は答えると、ダークグレーの服の上にダークレッドのマントを羽織って、玄関のドアを開ける。
旅に出るには打ってつけのいい天気だ。
母の「体に気をつけるんだよ」という言葉を背に、十八年間暮らした実家を後にする。
「まずは酒場に行かないとな」
そう言うと彼は町の市場に向かって歩きだした。
心地の良い春風が頬を撫ぜる。
朝の市場はそれなりに賑わっていた。
程なくして、料理のいい匂いのする店に到着した。扉を開けると・・・
「おー、いるいる」
酒場では旅支度をした若者達が雑談をしている。皆、成人前といった風である。
「うーん・・・。どいつがいいかな?」
そうして若者達を物色していると、綺麗な青い瞳の白いローブを纏った女子に声をかけられる。
「あのぉ~・・・。私 今年で十八になるので、一緒に旅をしてくれる人を探してるんですけど・・・」
紺のリボンで結んだ淡い桜色のポニーテールを揺らして、首を傾げた。
彼は小柄な女の子の所作を見て、心臓がドキッとした。
「あのっ、私 法術と魔術を使えるんですけど・・・。駄目ですか?」
彼女は涙目で問う。
青年は自覚していなかったが、一瞬固まってしまっていた。
「いやっ! いい いい。丁度俺も仲間を探してたんだよ。俺が得意なのは剣で、魔術も使えるんだけど、大丈夫?」
少し焦りながら返答した。
すると、女の子のかわいらしい顔が ’パァッ’っと明るくなる。
「じゃあ、いいんですね。よかった~」
「それはこっちのセリフさ。これからよろしくね。あっ そういえば俺は ゼイル・クレイン っていう名前なんだけど・・・」
彼はうれしさが込み上げるのを抑えながら、自己紹介をした。
「私は メニイ・フォーカルス です。こちらこそ、よろしくお願いします」
メニイはそう言ってお辞儀する。
花のようないい香りが、微かに漂った。
”いい旅になりそうだ”
ゼイルは掛け値なしにそう思った。
「ほかに一緒に旅をする人は見つけましたか? あと一人くらいいると安心なんですけどね」
メニイはゼイルに問いかける。
「いやっ、メニイだけなんだ」
彼は少し熱量が落ちた声で答えた。
「って、あれ? ・・・もうみんないませんね」
確かに、いつの間にか二人以外には若者たちは居なくなっていた。
「みんな旅に出たみたいだね。二人でもなんとかなるさ!」
「そうですね」とテンション高めのゼイルにメニイが呟くと、不意に声をかけられる。
「私などいかがですかな?なかなかの ’切れ者 ’と評判でねぇ・・・。・・・私はとても・・・ ”強い”んですがねぇ~・・・。ふっふっふっ・・・ふっはっはっはっ!!」
長髪頭に ’私は紳士ざます!! ’と書かれたシルクハットを被り、一つ目の絵が プリントされたランニングを着た、少し怪し・・・個性的な男が二の腕に小さな力コブを作って佇んでいた。
「じゃあマスターから仕事を紹介して貰おうか、メニイ」
”確かにありゃあキレてるな”
ゼイルはそう思うとカウンターの方へ颯爽と移動していく。
「・・・あっ、はい」
”でもあの人ちょっとかわいそう”
メニイはそう思うとゼイルの後をトコトコとついていく。
「ぐぬっ・・・」
”私は紳士だ。しかし人間でもある。大概の事なら笑って流すが・・・
無視をするとは、少々やり過ぎでは?
どうやら君は私を本気で怒らせてしまったようだ
’切れ者 ’のこの私をね・・・ ”
’紳士? ’はそう思うと、自身の筋肉を増大させて、ビリビリとランニングを破く。
これが彼らのファーストコンタクトであった。
「マスター、仕事を紹介して欲しいんだけど」
ゼイルが声をかけると威勢のいい声が返ってくる。
「おうっ。ほー、二人パーティーか。残ってる依頼はこれだけだな」
そう言うと体格のいいオールバックのマスターは、ビギナー冒険者用の依頼表に一つだけ残っていた仕事を紹介した。
「荷物を届ける仕事か・・・。これでいいよね?」
ゼイルがメニイにも依頼表を見せる。
「はいっ。マスター、仕事の詳細を説明していただけますか?」
「今いる ’コンハ ’の南東にある ’クスイ ’という村に荷物を届けて欲しいんだ。今から発てば夜には着けるだろう。報酬は向こうで受け取ってくれ。これが荷物だ」
マスターはそう言うと トンッ と小さな包みをカウンターに置いた。
「あと、忘れちゃいけねぇのがこれだ」
加えてポケットに丁度収まる大きさのカードを二枚差し出す。
「ビギナーレベルの冒険者証だ。これは世界中で身分証明に使えるからな。絶対に無くさないようにな」
「「ありがとうございます」」
二人は冒険者証を受け取ると、ゼイルは財布に、メニイはカードケースにしまった。
「じゃあ荷物は俺が持つね」
ゼイルは小包みを荷袋に丁寧に詰めこむ。
「行きましょうか?」
メニイからそう促されると酒場を出ることにした。
「包みの中は見るなよ」
マスターにからかわれたゼイルは少しムッとして、メニイは軽く微笑みながら店を出る。
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次話は来週の土曜日(2025/11/1)に投稿する予定です。
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