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第30話 終わらない戦い

第30話 終わらない戦い

■青山の教会——密葬の日


東京・青山。小雨の降る静かな朝、木造の礼拝堂で、タカタ・ユナの密葬が執り行われていた。


棺はなく、壇上にはユナが最後まで使い続けた黒いノートと、父・ヒサシの舞台衣装が丁寧に畳まれて置かれていた。


参列者はわずか十数人。母・ヨシコ、カワサキ・レイナ、ウメダ・ショウ、モリヤマ・ケンジ、シミズ・アユミ。彼女の“戦い”を間近で見届けた者たちだけだった。


誰一人、言葉を発しなかった。祈りも賛美歌もなかった。ただ、彼女の人生を物語る“沈黙”が、そこに満ちていた。


■ノートの最後のページ


式の終わり、レイナがノートを開き、最後のページを静かに読み上げた。


——「私は、報道によって命を壊された家族の一員です。復讐という形でしか“正義”を得られなかった私は、他人を裁き、傷つけ、そして自分自身を壊しました」


——「でも、それは“同じことをした”のではなく、“報道とは違う方法で責任を取る”という意志でした」


——「私は、他人の人生を壊した責任を、命で引き受けます。これが、“報道の免罪符”に対する、私の答えです」


誰もが目を伏せたまま、声を上げることはなかった。だが確かにそこに、彼女の“覚悟”は刻まれていた。


■最終動画:《これは、終わらない戦いです》


数日後、ユナが生前に予約投稿していた最後の動画が、YouTubeに公開された。


画面の中の彼女は、黒いシャツ姿で静かに語り始めた。


「皆さん、これが私の最後の言葉です」


「私が望んでいたのは、“誰かが責任を取る社会”です。報道が人生を壊すなら、報道もまた人生を差し出すべきだと思った」


「私はその思いを、父から受け取りました。そして、復讐ではなく、“問いかけ”として返しました」


「この動画が、皆さんにとって“怒り”ではなく、“考える”きっかけになりますように」


■手書きのテロップ


画面が暗転し、ユナの手書きの文字が浮かび上がる。


——「命で責任を取る社会ではなく、言葉で対話できる社会でありますように」


——「これは、終わらない戦い。だけど、私の役目はここで終わりです。ありがとう」


■世界の反応


動画は瞬く間に世界中でシェアされ、英語、韓国語、フランス語など複数言語に翻訳された。国際的な報道倫理フォーラムでも紹介され、「報道被害の象徴」としてユナの名は語り継がれるようになった。


日本のテレビ局では、過去のヒサシ報道を振り返る特集番組が組まれ、記者・コメンテーターが生放送で反省と謝罪を口にした。


■YUNA’S LIGHT(ユナの灯)


レイナは小さなウェブサイトを立ち上げた。


【YUNA’S LIGHT】

——「怒りではなく、笑いを」

——報道被害・名誉毀損に関する記録と、支援活動のための資料館


トップページには、ユナの写真とともに一文が添えられている。


——「怒ってもいい。だけど、その怒りが誰かを殺さないように。私はその境界を守りたかった」


■人々の声


【私はユナに救われた】【ユナを忘れない】【私は、ユナの問いに答え続ける】


動画のコメント欄、SNS、ブログ、新聞の投書——無数の“問い”と“祈り”が、今日も世界のどこかで生まれている。



この戦いは、もはやユナひとりのものではない。


「第30話 終わらない戦い」完。


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