第15話 金で壊す人生
第15話 金で壊す人生
■ユナ 視点
昼下がりの都心、高級ホテルのラウンジ。白いソファに沈み込むように座ったユナの前で、レイナがノートPCを広げている。
「ユナ、炎上中でも案件殺到。総額で1億2000万。数字さえあれば、“倫理”は問わないらしいよ」
「金って、すごいよね。“正義”がなくても、人は買える」
ユナはため息混じりに笑った。バッグから取り出したのは、ブンゲイ社の広告収益明細。内部告発者から手に入れたものだった。
「この記事一本。父の名誉を壊しただけで、広告は7800万。でも支払われた慰謝料はたった600万」
レイナは眉をひそめる。
「人生を壊すコストが、たったそれだけ?」
「うん。だから私も、同じ方法で壊す。“金で人生を壊す”って、マスコミが教えてくれた“公式”だから」
■ヨコイ・サトシ 視点
出版社「ブンゲイ社」の編集長室。ヨコイは、無言でデスクに並ぶ書類を睨みつけていた。
秘書が駆け寄る。
「編集長、ユナが動画を投稿しました。タイトルは——《報道編集長の“本当の生活”に潜入してみた》」
画面に映るのは、自宅周辺、行きつけのジム、バーで笑う自分の姿——家族の顔まで映っていた。
「これは……やりすぎだろ……!」
だが口調には焦燥よりも、明らかに“見覚え”のある罪悪感が滲んでいた。
■ユナ 視点
「あなたたちは“公人ではない”と守ってきた。けど私の父は、“公人じゃない”のに“社会的制裁”を受けた。公平でしょ?」
配信中のユナの語りは冷徹だった。
「“報道は公益のためにある”。ならば、あなたの私生活も“公益の対象”よ。だって、あなたが作った論理だから」
コメント欄は瞬く間に荒れる。
【これって報復じゃないの?】【報道の鏡写しすぎて怖い】【それでも彼女を責められない】
■ウメダ・ショウ 視点
ユナの弁護士、ウメダ・ショウは、届いた訴状を見てため息をついた。
原告:ヨコイ・サトシ
訴因:名誉毀損、業務妨害、慰謝料請求
「来たか……。彼女が敷いた“報道の倫理の境界線”が、今度は彼女を裁こうとしてる」
彼はユナに報告する。
「始まったね。“あんたが作ったルール”で、あんたが訴えられる。これが、本当の勝負だ」
ユナは笑った。
「上等。“報道の正義”が、本当に正しいのか——白黒つけてあげる」
■レイナ 視点
レイナはモニターに映るユナを見つめていた。かつての笑顔は、もうどこにもない。
「金で壊せる人生。それを証明して、何になるの?」
ユナは答えなかった。ただ、画面の奥で、一人きりで闘うように何かを打ち込んでいた。
「誰も助けてくれなかった父を、私は“金”で守る。——逆説的にね」
■ヨコイ・サトシ 視点
その夜、ヨコイは一人、自宅の書斎で旧い記事のスクラップをめくっていた。
ヒサシの報道特集——彼が編集を許可した企画の原稿。
“芸人の裏の顔”と大書された見出し。中身の薄さをカバーするため、過去の曖昧な発言や表情を膨らませた演出。
——「あの時も、“数字が取れる”が判断基準だった」
——「今さら、誰が悲しんでくれる?」
彼は一つため息を吐いて、静かに目を閉じた。
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