第14話 記者家族への突撃
第14話 記者家族への突撃
■ヨネザワ・リク 視点
早朝六時。静まり返る住宅街。黒いワンボックスカーの中で、三人の若手YouTuberがカメラとマイクの準備を進めていた。
「ターゲットは間もなく通学路を通る。顔は出すな。でも泣かせるのが最優先だ」
リーダー格のヨネザワ・リクが、スマホのGPSを見ながら確認する。
彼らは、かつての炎上系YouTuberアリマ・トウマの“後継者”として、ユナに加担するようになった新兵たちだ。
倫理も正義も、彼らの辞書にはなかった。ただ“再生数”と“バズ”——それだけだった。
■カワサキ・レイナ 視点
渋谷のコワーキングスペース。ユナの作業場では、レイナとウメダ・ショウがPCモニターに向かっていた。
「……今日の突撃、止められませんでした。連中、完全に暴走モードです。“ユナの指示だ”って匂わせてます」
レイナは苦々しく口を結ぶ。
「SNSの告知ツイート、すでに誹謗中傷と脅迫が交じってる。“報道”じゃなく“見世物”だと認識され始めてる」
ユナは長く息を吐いた。
「止めようとしても、もう止まらない。これは私の意志じゃなく、構造の連鎖よ」
■現場:通学路
キタ・カナエの弟、小学4年生。ランドセルを背負って歩く彼の前に、カメラとマイクが突きつけられる。
「お父さん、記者なんだよね? 人の人生を壊して楽しい?」
「君が泣いたら、視聴数どれだけ伸びるか知ってる?」
男児の目に涙が滲む。唇が震え、言葉にならない声が漏れる。
「やめてください!」
近所の住民が駆け寄り、怒声を浴びせた。
「子供に何してるんだ、警察呼ぶぞ!」
YouTuberたちは撮影機材を手に逃げ去った。
■ユナ 視点
その映像を見ながら、ユナはただ画面を見つめていた。
「……止めるべきだった?」
レイナは目をそらしながら答える。
「“正義”を語るには、もう遅すぎる気がする。でも、“責任”を取るべき立場は、まだある」
■動画:限定公開
タイトル:《“報道被害”の代償を子どもたちに——キタ記者の家族、涙の真相》
コメント欄には苛烈な批判が並ぶ。
【これはやりすぎ】【正義を語る資格ない】【ただの私刑】
ユナは深夜、生配信を開始した。
「……今日、ある子供が泣きました。多くの人が“やりすぎ”だと批判しました。“子供に罪はない”と」
カメラのレンズをじっと見つめる。
「でも、私の父が報道に潰されたとき、誰が“この家族に罪はない”って守ってくれた?」
■ウメダ・ショウ 視点
その日の夜、ウメダは急ぎスタジオに駆けつけた。
「ユナ、これは法的に完全アウトだ。未成年の映像公開は親告罪だが、訴えられたら終わるぞ」
ユナは静かに言った。
「じゃあ終わればいい。誰かが潰されるなら、それが私でいい。父が潰されたとき、誰も手を差し伸べなかった。なら、私の責任で終わらせる」
「……それでも、父は“潰すこと”を望んでなかったと思う」
「“沈黙”は何も守らない。私は、父の代わりに叫ぶ」
■翌朝:記者会見
キタ・タロウの自宅前。記者と警察、そしてカナエの母親が涙ながらに言葉を発していた。
「娘は、学校に行けないと言っています。弟も、怯えて外に出られません。……お願いです、終わりにしてください」
タロウは小さく呟いた。
「……これは、私が始めた報道の、報いなのか……?」
■SNSの揺れ
【ユナも被害者だけど、これは違う】【正義と私刑は紙一重】【彼女の言葉、どこへ向かってるの?】
だが、こうした声も少なくなかった。
【記者がやってきたことと、何が違う?】【“目には目を”じゃなければ変わらなかった】
■ユナ 視点
ユナは静かに独白した。
「私は、あの家族を“見せ物”にした。でも、それは私たちがされてきたことだ。“報道の正義”の名の下で」
「痛みを知ってもらうことでしか、伝わらないのなら——それすら、私は選ぶ」
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