第13話 情報屋の告白
第13話 情報屋の告白
■シミズ・アユミ 視点
都内の築30年の団地、その4階の一室。防音シートで覆われた小さな部屋のなか、アユミは暗がりのなかに浮かぶモニターを睨んでいた。
画面には、整理されたフォルダが無数に並ぶ——「記者家族_行動記録」「塾_通学経路」「SNS_過去発言ログ」。
1年前、彼女は父の死後初めて、メディアに対して“情報で対抗する”と決めた。
「黙ってたら、また殺される」
そう感じたあの日から、彼女の生活は“収集”と“記録”で成り立っていた。
だが今夜、初めて“手が止まった”。
画面に映るのは、報道記者・キタ・タロウの息子——カナエの弟。小学生が登下校する姿を捉えた防犯カメラの映像だ。
アユミは目を閉じ、イヤホンを外した。
「ここまでやって、何になる……?」
■ユナ 視点
「やりすぎ、かもしれない。でも、ここまで来なきゃ“誰も傷つかない世界”なんて実現しない」
ユナは静かに答えた。アユミが持ち寄った映像と記録を受け取りながら、その一つ一つに“意味”を付けていく作業をしていた。
「構造を壊すには、犠牲が必要なんだ。私がそれを背負う。……あなただけは、戻っていい」
アユミは首を振った。
「無理だよ。もう、誰にも“普通の人生”なんて、戻れないところまで来ちゃってる」
■アユミの記憶(回想)
7年前。地方テレビ局で働いていた父が報じたニュース——それは冤罪事件だった。証拠不十分で不起訴になったが、報道は“レイプ擁護”と断定的に煽り、家族は一夜にして崩壊した。
「——お前の父親、レイプ犯を庇ったんだろ?」
学校で浴びたその言葉に、教室を飛び出した自分。
「誰にも謝られなかった。誰も、真実なんて気にしなかった」
■ウメダ・ショウ 視点
翌朝、弁護士ウメダはユナから託された一通の資料を手にしていた。
《記者家族の私的領域に関する情報開示について》
記載されていたのは、住所、SNSアカウント、職場情報……公人ではない“記者の家族”にまで及ぶデータ。
「これを公表すれば、訴訟どころじゃ済まない。だけど——」
彼の脳裏に浮かぶのは、かつてのヒサシ。黙って誹謗中傷に耐え、真実を伝えられないまま崩れた姿だった。
「正しさと、正義の重さ……秤にかけるなら、俺は“彼女の覚悟”を信じるしかない」
■動画配信『報道被害の裏側——声なき者たちの証言』
タイトルに添えられたのは、アユミの実名と顔を隠した証言。
「私は、ただ“謝罪がほしかった”だけ。でも報道は、人間じゃなく“素材”としてしか私たちを見なかった」
映像の最後、ユナがカメラに向かって語る。
「報道には責任がある。そして、その“責任”を問う者がいなければ、誰も変わらない」
■SNSの反響
【アユミさんの勇気に拍手】【これは個人情報の晒しじゃ?】【でも誰かがやらなきゃ、報道は止まらない】
一方、報道業界内部からも反応が出る。
【現役記者として思う。“自分が書いた記事が誰かを壊す”感覚、持たないといけない】
【メディアの沈黙が、また一人の人間を壊すことを防げなかった】
■アユミ 視点
その夜、アユミはPCを閉じて深く息を吐いた。
「……やっと、“私の言葉”で語れた気がする」
彼女の目には涙が浮かんでいた。だが、それは後悔の涙ではなく、静かな“区切り”の涙だった。
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