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なぜそんなに落ち着いているのか

 フェジュが泣きやみ、私たちは連れ立ってメンテリオの家に顔を出した。


 ヤーデ姫にはリベルロ王国に戻ることを提案したのだが、姫は、リベルロ王国に戻ることは拒んだ。それは私がフェジュのことを責めたからだとかそういったことが理由なのではなく、いわく「叔母上が信用ならないから」ということらしい。

 ヤーデ姫の叔母、つまりアダマーサが信用ならない、とヤーデ姫はキッパリとそう言った。


 信用、か。結局、バマリーン様のお屋敷を襲った犯人にも、ヤーデ姫とメンテリオは思い当たる節はないらしく、目下あやしいのは帝国とアダマーサということになった。その後、私はメンテリオを殴ったことを謝り、ミリアにも、ヤーデ姫を叩いたことを姫本人に謝らせた。

 夫婦は終始気まずそうにしていたが、家を出ていくフェジュには何も言わなかった。


 そして私とフェジュ、ミリアは今、王国に戻る帰路にいる。


「ローリー帝国がフェジュを狙ったのはリベルロ王家の血を引いているからだ、ミリア」


 夜更けごろ、私は就寝したフェジュの前でミリアに語りかけていた。最近はすっかり野宿が定番化したもので、今も焚き火がぱちぱちと音を立てながら燃えている。


「だから奴らはおそらく、私やアダマーサ、それからシュタとトパジーも手にかけるつもりなのだろう」

「まあ、そうですね。王族といったら、殿下たちと、あとはヤーデ姫、それからバマリーン様くらいですから」

「ああ許せん。私たちはともかく、子どもたちまで狙っているであろうことが本当に許せん。ローリー帝国はリベルロ王国をふたたび取り込もうとしているのだろうか?」

「うーん、どうでしょう。それもあるでしょうが、魔法使いの血筋を絶やしたい、と考えている可能性もあります。そもそもアダマーサ一世陛下が魔法使いでなければ、ローリー帝国は独立戦争に負けることもなかったんですし」

「なるほどな」


 私は夜食用に拾ってきた木の実をかじった。


「ともかく私たちはこれから王国に戻り、アダマーサに事の真相をたしかめる。アダマーサがバマリーン様のお屋敷襲撃事件に関わっているのか否かをな」

「……あのぅ、殿下」

「なんだ、あらたまって?」


 ミリアが珍しくおずおずとした様子で話を切り出してきたので、私は少々驚きつつも応じる。


「殿下。殿下はアダマーサ陛下に操られているっていうのに、なんでそんなに冷静なんです?」


 というのがミリアからの質問だった。


「冷静なんかじゃないぞ」


 私は答える。


「以前ヤーデ姫がバマリーン様から聞き出したと言っていた情報だと、私は六、七年前からアダマーサに操られているという話ではないか」


 そうなのだ。

 あの家を去る際、ヤーデ姫とメンテリオが語った話によると私はシュタとトパジーが産まれる前からすでに操られていたらしいのだ。それを聞き、私はそりゃもう驚愕した。


「しかも、その魔法を解く方法はわからんのだろう? メンテリオめ、研究するならそのあたりもちゃんと解明しておけというんだ、まったく!」


 私はもう目の前にはいないメンテリオ相手に愚痴を言った。


「でも、アダマーサ陛下が殿下にかけた操りの魔法が今も効いているのなら……殿下がフェジュを助けるはずはない、ですよね」

「そうだ、ミリア、そうなのだ」


 察しのよい秘書に、私は大いに頷いた。


「そもそもアダマーサはフェジュを殺したがっていたのだからな、キャムと一緒になって」

「とすると、今は魔法の効果は切れていると考えてよさげ、というか、あたしたちはそう信じるしかないですね」

「うむ。私も信じる」

「ま、そうウマくいってる話はないかもですが」

「おまえはどっちの味方なんだ! ……ともかく」


 私は背筋を正す。


「今はアダマーサのことと、シュタとトパジーを帝国の手から守ること……そしてフェジュのことを、一番に考えたい」

「……ナルホド」


 ミリアが膝を抱えながら頬杖をつく。


「『だから』冷静なように見えてたんですね。ふふふっ」

「なんだミリア、その含み笑いは?」

「いえ、殿下に拾われたときのことを思い出しただけです。あたしを拾ってくれたときも、考えてみれば殿下、今とおんなじような目をしてたなぁって」

「よくわからんが。そういえばミリア、おまえ近ごろ私に力試しをしてこないが、あれはもういいのか?」

「今はいいです。あたしもフェジュのことを一番に考えたいです、今は」


 これまた珍しく屈託なく笑うミリアは、もしかすると、かつての自分とフェジュの姿を重ねて見ているのかもしれない。





「……で、どうしてテメェらはまた性懲りもなくアタシらのアジトにノコノコ足を伸ばしてきてんだ?」


 メンテリオの家を去って数日後、私たちは王国に戻る前にエグオンスのアジトを訪れていた。

 出迎えてくれたルーグは仏頂面で私を見上げている。小人のデュク族の女性であるルーグは、まっすぐ立っても頭のてっぺんは私の膝に届くかどうかくらいの身長だ。


「ルーグ、あなたがたにも知らせておこうと思ってな」

「あん? 知らせるって、何を?」


 私たちはアジトの玄関で立ち話をしている。


「私が生きていることがローリー帝国にバレたことをだ」

「……あー?」


 ルーグは黒髪をがしがしと掻くと、その直後、これまでの仏頂面を一変させ目を白黒させた。


「バッ……バカーッ! このバカァーッ!」

「うわ、このババアうるせえ」

「しっ。フェジュ、ババアだなんてホントのことは言っちゃダメです!」

「聞こえてっぞ、緑のクソガキにグレ族のアホ女! つーか、バレたってどういうことだ、ヴィクトロ、おい!」


 私は怒り狂ったルーグに詰め寄られる。


「帝国兵がフェジュを狙ってきたので相手をしてやったら、私の素性がバレたのだ」

「さてはテメェ自ら名乗ったな! このポンコツ王配、どうしてくれるんだ、ウチがニセの情報を流したと知れ渡っちまうじゃねーか帝国に!」

「うむ。その帝国兵は『エグオンスにはお仕置きが必要だ』とかなんとか言っていた」

「くっそォォ、アタシが長年かけて築き上げてきたエグオンスの地位と名誉が水の泡にっ……テメェ、マジで絶対許さねえ……」


 ルーグは頭を抱え始めた。


「まあ落ち着け、ルーグ」

「いや馬鹿か! 落ち着いてられるかってんだ! ていうかなんでテメェが一番落ち着いてんだよ、ヴィクトロ!」

「今日はその件の報告と、それから提案をしに立ち寄ったのだ」

「は? 提案?」


 ルーグは眉根を寄せて私を見た。

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