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自由を求めて

ここからは三人称です。

「僕のスキルは暗示。僕を信じた者を操り人形に出来るのさ」


 魔王が自慢げに能力を説明する。下にいる二人は一瞬理解できない顔を浮かべていたがすぐに状況を理解した。


「もしかして、リュウお前」

「やっちまった」

「はあ、仕方ない。やるしかないか」


 その会話の中には余裕が含まれていた。


「クソ。目の前の奴を殺せ!」


 リュウの体が動き出すと同時にマクロがため息を吐いた。


「あ! あいつ先生に殴りかかった奴じゃないか」

「は!? そんな事で僕の能力が崩れるはずないだろ。ハハハ」


 演技っぽさ満載の言葉と共に指を向けられた魔王は嘲笑った。その余裕が次の瞬間青ざめる事になるとは知らなかった。


「そうか。なら話は早い。俺がお前を殴る」


 リュウの首が音を立てながら反対側にいる魔王に向いた。そして次第に体も魔王の方を向き一歩一歩と進み始めた。


「なぜだ? 僕の指示に従う事しか出来ないはずなのに!」

「そうか。お前は知らないよな」


 魔王はあり得ない未知の事に対して恐怖していた。それは自分の能力(スキル)を過信仕切っていたからこそ来る恐怖だった。


「あいつは狂信者だ」

「狂信者?」

「ああ、宗教はあまり甘く見ない方がいい」


 訳も分からぬ概念。根性論や精神論ならまだ納得がいったかもしれない。しかし、己にとって関係性の薄い何かを『信仰する』という行為に理解が追い付いていない。

 魔王は知っている。もしあの男に本気で殴られればいくら魔王であっても死ぬ可能性が高い事を。


「クソ! こうなったら。行け! 歴代最強の魔王」


 本当はもっと相手が追い詰めてから出す予定だった人物を出した。

 命令された人物は音を置き去りにし、リュウの元まで移動していた。


「うちの()に手を出さないでくれる?」


 バランスを崩されリュウが押し倒された。当然、その程度では大したダメージになることはない。


「お久ぶりです……ね!」


 リュウは片腕だけを振り上げた。魔力の感知が出来るマクロ以外には何のための行動か分からなかった。


 ワンテンポ遅れてから魔王のいる場所の地面が変形し、一本の棒が伸びた。


「なっ。顔を狙って」


わずか数センチの所で回避行動をした魔王に狙い通りの一撃が入る事は無かった。しかし、その攻撃は魔王の頬を掠り血を流させた。


 ただの掠り傷だったのだが、それが魔王の自尊心を大きく傷つけた。


「クソ! なぜ、僕のスキルが通用しない!? こうなったら、本気でやるしかない」

「残念。本気を出す前にお前は終わりだ」


 転移で移動したリュウが目の前の魔王を殴り飛ばした。しかし、手加減をしていた事により顔が痛む程度の軽傷で済んだ。


「それじゃあ、俺たちはこの辺で逃げるからな」


 リュウとマクロはお互いにアイコンタクトをした後に魔王城を出て行った。


 城に残された魔王はすぐに追いかけようとしたものの体が前に進むことは無かった。


「はあ、これも魔王の定めというやつか」


 魔王は魔王城の内部にしか存在が許されない。神によって作られた王座に座った者が魔族の王となり、特殊な力を得る。しかし、その代わりに魔王城の外に出ることが出来ない。しかも意志を抱くことすら許されない。


「これ。どうしようか……」


 魔王が手に持ったのは気絶しているラマだった。残虐性を見せつける為に二人の目の前で殺してやろうと思っていたが完全に破綻してしまっていた。


「姉ちゃん。これを町の外に……」


 魔王としての能力は『五百年前の魔王を召喚する』というものだ。本当の魔王は今のマクロだという事を知らない者からしてみれば彼女の力は十分歴代最強を名乗れるほど。

 彼女からは弟として扱われる事に自尊心が傷つくことななかった。


「ごめん。ちょっと思い出したいことがあるの。少し外の様子を見てくるわ」

「待って。ってもう行っちゃった」


 その場に残され、やる気を失った魔王はラマを抱え、部屋まで戻っていった。


 一方、魔王城を出たリュウとマクロは。


「聖剣持ってるか?」

「いや、今は持っていない。それがどうした」

「そうか、ならこれを使え」


 リュウは真っ黒い剣を虚空から出し、マクロに渡した。


「これは?」

「魔剣ボールト。チートマシマシの剣だ」

「で? これでどうしろと?」

「ちょっとあいつ等の喧嘩止めるの手伝ってくれるよな」


 それは目の前で繰り広げられている現実離れした光景の事を言っているのかとマクロは確信しつつも心の奥底で否定した。


「俺はあっちの弟子たち六人と大罪の憤怒と傲慢をやる」

「じゃあ、私は大罪の五人をやってやるよ。やればいいんだろ!」


 マクロは転移で消えるリュウを見ながら、黒い刀身の剣を見つめる。リュウはチートな剣と言っていたが本当に信じてもいいものなのか? 実はただそれらしい剣なだけもしてきていた。


「ねえ、あなた」


 突然声を掛けられて振り向いた。


「なんだ? あ……」

「もしかして」

「なんでもないです。私はただの勇者です」


 マクロは嫌な事を思い出し、剣を振り回しながら逃げるように戦場に向かって歩き出した。


「その誤魔化し方。若い頃の……」

「あーあー! 人違いです!」


 滅多に上げない大声を出した。


「ねえ、少し手伝ってあげようかしら?」

「え?」

「あれを鎮めに行くんでしょだから手伝ってあげる」


 マクロにはチートがない。魔王拳を使ったとしても攻撃が掠りでもしただけで簡単に死んでしまう。それに比べ目の前の少女はリュウを転ばせるほどの力を持っている。

 マクロは非常に嬉しい提案に思案顔になった。


「ほら弟を助けるのは姉の役目でしょ! だから一緒に行きましょ」

「ちょっと待て。そのことは……」


 少女はマクロの話を無視し、戦場に向かって行った。


「はあ、仕方ない」


 続くようにしてマクロも走り出した。


 ――――――


 魔法や銃弾が飛び交う戦場に巨大な壁が作られた。その壁は土を分厚い氷で挟み頑丈さが目に見えて分かる代物だった。


「おい! お前ら六人攻撃止めろ」


 片方の攻撃がピタッと止んだ。戦いが始まる前からコンを通じてリュウの正体は知られていたお陰だろう。


 そして、リュウはある人物の前に転移をした。


「シュウ。久しぶりだな」

「もしかして、兄さん!?」


 一瞬の戸惑いの後に高揚の表情を浮かべたシュウは魔剣オーデウスをリュウに突き出した。


「姿が変わっても兄さんが生きていちゃ駄目です! 僕が頂点じゃなくなってしまう!」

「変わったなお前も」

「な!?」


 哀れみの感情が詰まった言葉を投げかけつつ、攻撃を避ける。そして、シュウの手首を強く握る。


「ステータスに物を言わせた決着になるのは謝っておく」

「あ。ああ!」


 僅かな悲鳴の跡に骨の折れる音が響いた。握力いや「レベルの暴力」ともいえるその攻撃は剣士の腕を確実に破壊した。


「次はっと」


 次に転移したのは憤怒のドクの場所だった。


「へえ、君がリュウね。でも、手加減はしない」


 猛毒が一瞬で辺りに充満する。範囲を指定した超高濃度の毒は地面すら溶かしていた。


「ベトナム戦争って知ってるか?」

「何それ?」

「まあ、言いたい事だけ言うと……」


 リュウが地面を触った。


「その後の土地の事も考えようなってことだよ」


 毒に侵された地面の表面が空中に集まり球となった。そしてついでとも言わんばかりに毒の霧も吹き飛んだ。


「あばよ」


 毒された地面がドクの周りに集まり、すぐに体を覆うほどの土で拘束された。殺す気はないらしく顔だけは外気に触れていた。


「あとの五人を倒す手伝いを……って要らないか」


 大罪を冠した残りの五人は魔王城にいた少女が倒していた。マクロに頼んだはずなのにどうして彼女が出てくるのかリュウは理解することが出来なかったもののこれで周りを巻き込んだ戦いに終わりが来たことは間違いない。


「ありがとう。これで何とかなりそうだ」

「ふん。私は弟の為に頑張っただけであんたの為じゃないんだからね」

「それでマクロはどこにいるんだ?」

「あの子なら」


 答える前に真っ黒い剣が回転しながらリュウの元に落ちて来た。


「ふう。やっと追いついた。後でその転移の能力分けてくれよ」

「あ。ちょっと」

「そうだ。リュウ。あそこ辺りで話でもしようか」


 リュウの手を半ば強引に掴んだマクロは焦ったようにその場から離れた。


「どうしたんだ?」

「五人を倒した奴は私の前世での姉なんだ」

「は? 前世ってあの魔王の時のか?」

「ああ。勇者のリュウが来る前に死んだはずなのに魔王の能力で復活しているとはな」


 五百年前の人間と今の人間では戦闘力に力の差が大きくある。その差はチートを渡されて転生する人間と現地の村人(モブ)と同じほど。五百年前に魔王軍に所属していた彼女は今の時代なら大抵の相手は倒せるのである。


 つまり、現魔王が勘違いをしてしまったのはある意味当然だったのかもしれない。


「私はあいつと関わりたくない。だから、こっそり魔王を倒して元の世界に帰るぞ」

「それはいいんだが、ここでの俺の存在はどうなるんだ?」

「お前はそういう性格なんだったな。永遠に来る必要のない世界の事を気にするお人好しだな」


 リュウがこの世界を去るということはこれまでに関わった人達から死んだ扱いになる。マクロはリュウが転生してからこれまでに関わって来た人について知っている。

 魔王城に行くまでに「リュウの為に」とサポートしてくれた人達がいることで身をもって実感していた。


「はあ、分かった。一週間待つからそれで知り合いに挨拶してこい」

「別に帰る必要はなくないか。あっちでは俺は死んだことになっているんだろ?」

「は!?」

「ほらさ。こっちの方が可愛い子もいるしお金とかも楽だしさ。マクロだけが帰ればいいんじゃないか?」


 せっかくここまで来ておいて一番大切な部分で詰まってしまった。しかし、マクロは責任を感じてリュウを連れ帰しに来ただけであり、別に本人が帰る気が無ければ連れて帰る必要はないと思っている。


「じゃあ、私は帰る……って駄目じゃないか」

「なんでだ?」

「美菜ちゃんに頼まれるんだった」


 マクロ自身はリュウの意志に任せたかったが元の世界に連れ帰る事は初恋の相手から頼まれた事を優先させたかった。


「やっぱり帰らないか? ほら、家族だって悲しんでいるしさ」

「いやもう死んでいるんだからどうしようもないだろ」


 二人の意見が対立した。


「マクロと言い争いと終わらないしな。はあ、面倒くさいな」

「じゃあ、殴り合うか」

「ああ。そうしようか」


 いつの間にか二人だけが真っ白い空間に移動していた。


「ステータスはこいつで平等にしてからやるか」


 リュウはとある腕輪を巻いた。ロリババア賢者が作った≪レベル一≫相当のステータスにする魔道具レベルワンだった。友との喧嘩に大きな実力差を出さないためというそんな浪漫溢れる理由から自ら力を封印した。


「じゃあ、私はリュウに教えていない魔王拳は使わないでおこう」

「あの攻撃はもう食らいたくないな。じゃあ行くぞ」


 二人が大きく踏み込み、拳を振り上げた。



今年中に完結まで持って行きたかったです(反省)

来年中には絶対に完結しています(予告)

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