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箱舟旅団冒険記  作者: 月也青威
8/30

第一章:不純すぎる訪問者

※第三者視点です。


今回主人公sは出ません。




星核(ケアン)”と精霊の恩恵により、生命と自然に満ちた世界、エレオス。


複数の大陸が存在する中でも最大の規模を持つのが、世界の中心から西側にあるエレンホス大陸である。


千と数百年前に勃発した人魔戦争の折、かの地は魔王の居城を抱えた魔族の領土であった。


終戦後、人類(ヒト)の領土となった大陸の3分の2程を、現在メティオール王国が支配している。

残りの土地と南部にあるフィデス諸島を含めた領土を、新興国であるフィンブル連合国が治めている。


その国境を跨ぎ、大陸西側に南北に長く伸びる形で、世界でも有数の広大にして古き森が存在する。


アーリアス大森林。


大陸西側の海沿いに壁のように連なるアーリアス山脈の麓に広がる、清廉にして美しい森である。


深き森でありながら清涼とし、心地よい清籟(せいらい)と共になだらかな風が梢を揺らし細波を鳴らす。

けれど、どこか近寄り難い、侵し難い空気を纏ってもいた。


それはかつて、この森が魔に属するモノに冒されていたためだろう。


エレンホス大陸はかつて魔族に支配されていた地であり、人魔戦争の折この地は戦場となり、数多の命がここで尽きた。


それが更なる魔のモノを呼び起こしたのだが、森は本来、神聖なる地を守る場所だった。


アーリアス山脈は険しい岩山が連なっており、古の時代には霊峰として人々の信仰を集めていた。

その建造物は、その時代に作られたものだ。


それは岩山を直接掘り込んで造られたとされているが、その手法や製造行程など、一切解明されていない遺跡である。


その建造物の名は、アーリアス山岳岩窟神殿。

かつては信者達が霊峰への祈りを捧げていた神殿である。


この神殿が遺跡として謎に包まれたままなのは、これまでにただの一度も調査の手が入っていないからだ。


最大の理由は、周囲の森が長い年月魔に沈んでいた事が上げられる。

人魔戦争を経て魔を退けた頃には、神殿そのものに強力且つ複雑で難解な封印が施されていた。


その結果、神殿はただの一人の侵入を許さない、不可侵の場とされ、次第にその存在すらも忘れられていく。

その地に眠る“彼”の存在と共に…。


しかし、人の欲と言うものは、どこまでも尽きる事がない。

強欲である事が“人”の証であるかのように…。


人々から、或いは歴史からも忘れられていた筈の岩窟神殿内部に、本来ならばあり得ない音が響く。


それは、重い扉がゆっくりと開かれる音だった。



「う……おぉぉぉぉお…!開いた…。開いたっスよ!姐さん!!」



静寂に包まれていた厳粛な回廊に、男の変に高い声が興奮で更に上擦って響き渡る。

それと同時にドタンバタンと少々見苦しい様子で飛び跳ねて、張り詰めたような神殿の静寂をぶち壊していく。


ここが信仰を失い忘れられた神殿でなかったら、即座に全員揃って摘まみ出されていた事だろう。

それほどまでに、この場の雰囲気をぶち壊すような、無粋な集団だった。



「流石は姐さんっス!!痺れるっスぅ!!」



興奮冷めやらぬ様子でそう声を上げたのは、異様にずんぐりむっくりした体型の男だった。


どう見ても成人した男の顔なのに、その身の丈は子供といって差し支えない。

短めの手足に若干横に広い躯を、古めかしいブレストプレートで覆っている。


背中に帯びた大振りの斧から、重戦士だとは解る。

が、その体型のせいか、どうにも迫力にかけていた。

どう見ても育ちすぎた小人族(ピグミー)か、色の白いドワーフと言ったところだ。


そんな小人族もどきが褒めそやしているのは、随分と派手な出で立ちの背の高い女だった。


150cmもないだろう小人族もどきと比べて高いのは当然として、それでもすらりとした躯はそれなりに良いスタイルのようだ。


赤茶色の腰まである髪をお下げにしたその頭には、時代遅れも甚だしい大きな三角帽子を被っている。

おまけに耳やら首やら指やら手首、腰のベルトに髪留め、ブーツに至るまで、色彩豊かな石の着いたアクセサリーで飾り立てている。

解る者ならそれが何であるか、何のためにあるかを理解するだろうし警戒もするだろう。

…が、解らない者の目には、装飾過多の派手好きにしか見えない。


そんなちょっと残念な風体の女は、褒めそやされて自信満々に胸を張った。



「ふっふ〜ん!このエイダ様に掛かれば、この程度の封印朝飯前よぉ!」

「その割りに最後の扉の解除に二週間以上もかかったじゃないですか」



踏ん反り返った上に鼻も伸びに伸びているらしい女の言葉に、即座に別の方角から呆れを多分に含んだ男の声が届く。

小人もどきとで女を挟む位置にもう一人、長身の男がいた。


背中に盾剣を帯びた軽装の男は、やれやれと言うように薄い灰色の髪をわしわしと掻き上げる。

その都度、髪の一部がピクピクと浮き沈みを繰り返していた。



「その前の、神殿の至る所にかけられてた封印も含めりゃ、今日で丸っと一月半…。

その間街とここをほぼ毎日往復。

金は尽きるし大した実入りはないし、こっちはやる事ないしで…。

別の意味できつかっキャイン!?」

「良い年した男がグチグチ言うんじゃないよ!!キャンキャン騒がしい小型種じゃあるまいし、犬は犬らしくお座りしてな!!」



実に理不尽な物言いである。


しかし、長年彼女と旅をしてその性格を熟知している長身の男は、蹴られた尻を擦りつつ、「ふぇい…」と半泣きで頷いた。



その尻の尾てい骨辺りから、ふさふさとした短めの尻尾が生えている。

蹴られた拍子か、灰色の髪から先端が少し垂れた耳がピンと立ち上がっていた。


獣の耳と尻尾を持ち、犬と呼ばれたその男は、犬の獣人…亜人種の獣人犬族(けんぞく)だった。

忠義に厚く忠誠心の強い性質の犬族は、一度主を決めると生涯その相手に仕え忠義を尽くす特性を持つ。

…筈なのだが、その男はよよ…と泣きながら、



「仕える人間間違えた…」



と呟いた。彼の口癖でもあるのだが…。



「ダメっスよ、兄貴。ここは嘘でも姐さんを立ててやんないと。ホントの事言ったって聞きゃしないんっスから」



ススス…と女の背後を通って犬族の男の傍らに立つと、小人族もどきは耳打ちするように小声で指摘する。


犬族は人間より聴覚も優れているので耳打ちしなくても聞こえるのだが、内容が内容なだけにこっそり話したらしい。


が、彼らが今いる場所は、何十年も人々から忘れられ、500年以上封鎖され一切生命が存在しない神殿。

この場で音を発する存在は彼ら三人だけであり、周囲は完全なる静寂に包まれている。


つまり、小声で話そうが耳打ちしようが、僅かも離れていない距離では筒抜けなのである。


その証拠に、女の片眉がピクリと吊り上がった。



「聞こえてんだよ、この小人族もどきの色白ドワーフ!」

「違うっス!!おいら人間っス!!純血の人間っスよぉ!!」



少し童顔だが十分美人だと言える顔を鬼の形相に変え、派手な女は大きな石が嵌まった杖を振り上げる。

それを見た、人間だと豪語する小人族もどきは、キャーッと悲鳴を上げながら頭を庇いつつ逃げ出した。


厳粛な神殿の回廊に、ギャンギャンと騒がしい声が響き渡る。

どたばたと逃げる小人族もどきを、杖をぶん回して追い回す女。そしてそれを犬族の男が宥めようとして、二次災害を引き起こす。


それは彼らにとって、正に日常茶飯事的光景に他ならなかった。



「あぁもう!馬鹿共相手にしてる時じゃないんだよ、こっちは!漸く最後の扉が開いたんだ!」

「良いだけボコしておいてそりゃないですぜ、姐さん…」

「うぅ、おいら人間なのに…」



一頻り馬鹿騒ぎを繰り広げた後、女は若干ボロボロになった男二人を放置して、扉に向き直った。

やはり理不尽だが訴えたところで再び一方的制裁の餌食になるだけ。

二人はゲンナリしながらも、いつもの位置に並び立った。


長身の犬族男と低身長の小人族もどきが、丁度中間の身長(三角帽子込み)である女を挟んで並ぶ。

これが彼らの定位置。実に見事なバランスの段差が出来ている。

階段トリオと呼ぶに相応しい身長差であった。


そんな階段トリオの目の前には、観音開きの重厚そうな扉がある。

表面にびっしりと複雑な幾何学模様が描かれており、それはつい数分前まである役目を担っていた。

この神殿に封印されている、“彼”の揺り籠を守る、という役目を…。


しかし、扉の封印術式が解除された今、それはただの重い扉に成り下がっている。

重戦士(パワーファイター)である小人族もどきの力で、容易く開かれてしまった。



「うっふっふっふ…。漸くここまで来たわ。この先に伝説の魔剣があるのね…!」



姐さん口調変わってます。


…なんて事も彼女からすればいつもの事なので、男二人は特に突っ込みもしない。

すれば殴られるだけ。どこまでも理不尽なお人なのだ、この姐さんは。



「さぁ下僕共行くわよ!ここからこの私、エイダ・ワーズワースの華麗なる一流大魔導師伝説が始まるのよ!!」

「「おー!」」



手にした魔法の杖(鈍器)を高らかに掲げ、腰に手を当てて宣言する姐さん事エイダ・ワーズワース。

そんな彼女に下僕呼ばわりされた男二人は、呆れと諦め100%な完成と共に、やる気0%な拍手を送る。


長年彼女と共に冒険者として旅をし、彼女を姐さんと呼んで慕ってきた二人だが、どうにもこのノリにはついていけなかった。

…否、ついていってはいけない気がした。



「さぁ、スヴェン、ヤン!あたしのために栄光への扉を今こそ開くんだよ!

この私が、一流大魔導師への第一歩を進むためにね!」

「「アイアイサー」」



姐さんキャラとっちらかり過ぎです。 せめて一人称くらいは統一してくださいめんどくさい。


なんて突っ込みもしてはならない。

彼女のどこかイタイ発言も、慈愛と慈悲の心でそっと聞き流してあげるのだ。


その内「私の中に眠る力が云々」とか言い出しても、そっとしておいてあげなければいけないのである。


犬族の男、スヴェン・オーバリーと小人族もどきな人間、ヤン・リーグルは、なんとも複雑な心境で扉の前に移動する。

そして二人同時に扉に手をつけると、ゆっくりと押し開いていった。


ゴゴゴという音が静寂を切り裂く。

途端にヒヤリとした空気が流れ出て、白い煙がふわりと足元から舞い上がった。


それは単なる砂埃なのだが、彼女には栄光への道が開いた、その演出に見えた事だろう。

その表情には、ありありと恍惚が浮かんでいた。


その横で男二人が「砂埃スゲェ」とゲホゴホやっていても、眼中にないくらいには酔っている。

せめてちょっとは気にしてあげてほしい。



「あぁ…。ついにこの時が来たのね…。長い間私の中で眠り続けていた大魔導師の血が目覚める瞬間が…!!」



本当に言っちゃったよこの人。

しかし突っ込み不在…というより、放棄により彼女の暴走は続く。

因みに苦節ウン十年だ。その間ずっと拗らせていて、現在進行形だ。

実に痛い。


これぞ正しく、某白靄な人魂さん曰くの“厨二全開”だ。

直視する方の身にもなって欲しいものである。



「やっぱ仕える人間間違えた…」



実はこれ、本日五回目である。




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