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箱舟旅団冒険記  作者: 月也青威
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第一章:そこで眠るモノ達

※第三者視点



「さぁ、行くわよ下僕共!

貴方達は幸せよ。私の才能が開花し一流大魔導師への道を歩み始める、その奇跡の瞬間を目の当たりに出来るのだから…」

「「…ハハーアリガタキシアワセー」」



めっちゃ棒読みでも気にする事なく、エイダは勿体つけた足取りで扉を潜った。


彼女が一流大魔導師と言う肩書きにこれ程執着するのは、当然理由がある。

無論、伝説の魔剣、とやらを狙うのもこれに起因するのだが、はっきり言ってしまえば他力本願もイイトコロである。


簡単に言えば、自力では大魔導師どころか腕利きの魔術師にもなれないので、魔剣の力に頼ったと言うことである。


別段、彼女に魔術師の才能が全くないわけではない。

礼拝堂より更に奥に設けられた、かつては軍議場だった場所を“寝所”とし、そこに至るまでの扉一枚一枚に強力な封印術式を施した。


そう、最強にして最恐であり最凶たる意思ある剣、魔剣クラルヴァインを封印するために…。


だが、今の世にここが魔剣クラルヴァインの封印場所である、とは知られていない。

それと言うのも封印を施した魔導師が、その場所を誰にも教えず記録にも残さなかったためだ。


強い力を求める人間は後を絶たない。

再び魔剣クラルヴァインが世に出でて、多くの血が流れ魂が食われるのを防ぐためにも、魔導師はその情報を抱えたまま星に還り、その記憶を浄化したのだ。


それでも、強力な封印が施されていれば、誰だって何が封印されているのかと色々勘繰ってしまうもの。

そして記録と言うものは、本人が意図しない所、形で残されていたりするものである。


その結果、ここに伝説の魔剣が封印されているのでは?…という噂が、真しやかに囁かれたのだ。


しかし、それは今となっては当たらずとも遠からず、と言ったところ。


斯くして、彼女は残酷な現実を目の当たりにする事となる。


何しろ、厳重に封印されていた神殿の最深部、封印の中心である魂の寝所には、剣と呼べる代物などないのだから…。



「「「─────────は?」」」



広い広い、最初に見た礼拝堂よりも広い空間はがらんとしており、目立ったものは何一つ見当たらない。


奥にあるのは無惨に破壊された、戦女神の像。

…魔族の軍事拠点、その軍議場に戦女神の彫像と言うのも変な話である。


床一面に広がる術式は、既に効力を失っていたらしく、飛び込むようにエイダが駆け込んできても、何にも弾かれる事はなかった。


その封印術式の中心には、明らかに剣と思しき何かが刺さっていた後があり、エイダは目敏くそれに気付く。

しかし、その回りを見回しても、目的の剣は影も形もなかった。



「な…………ない。……何もない………。がらんどうだ」

「見事に何もないっスねぇ。やっぱガセネタだったってことっスか?」



そんな気はしてたんスよね〜、と続けるヤンに嘘つけ、と内心で突っ込みつつスヴェンは肩を落とす。

完全な空振りだと解って、ここ一月半の苦労と疲労が一気に来て、本気でへこたれていた。


目的の魔剣がなかったとしても、この神殿は古の時代に造られた遺跡である。

その上、ただの一度も調査の手が入っていない場所だ。


それは正に歴史的大発見になるのだが、それは彼らが正規の手続きをとって調査に乗り出した場合にのみ、その功績が讃えられる。


だが、残念ながら彼らは無許可で神殿を調査し、勝手に封印を解き侵入した。

言ってしまえば盗掘者である。


これでは世紀の大発見と声高に謳っても、犯罪者扱いされて即牢獄行きである。


…と言っても、彼らはただの冒険者。

たとえ手続きを取った正式な調査だったとしても、調査権限や発掘品の所有権、及び今後の調査、発掘、発見によって生じる利益などは、全て調査団体に帰属する。

冒険者に支払われるのは調査、発見への成功報酬のみ。

はっきり言って割りに合わない。


それ以前に、彼らの目的は伝説の魔剣か、或いは遺跡にありがちなお宝と実に即物的だ。

従って、歴史的発見をしようが、彼らは端から眼中になかったのである。


これで完全にスカだったのだ、ショックは大きい。


しかし、彼らの姐さんは実に諦めの悪い性分だった。



「だから言ったんですよ、姐さん。こんな眉唾な情報丸っと信じちゃダメだってぎゃわんっ!?」

「お黙りよ、このグチ犬!!」



姐さんの溜め無しフルスイングが、スヴェンを狙い、人間以上の危機回避力を持つ彼は、間一髪でそれを避けた。

杖が高速で犬耳の真上を通り過ぎていく。

姐さんの目はマジで撲殺する一歩手前だ。怖すぎる。


大きくしゃがみ込んだスヴェンのふさふさ尻尾が、股の下に入って震えていたのは言うまでもない。



「あれだけ厳重に封印が施されていたんだよ!?このあたしが解除するのに一月以上かかるような代物だ!!何もないなんてある筈ないんだよ!!」



いやそれ他の術士だったらもうちょっと早かったかも、というヤンの意見は口に出る前に喉奥に飲み込まされた。

エイダの杖(鈍器)は、次の獲物(ヤン)に狙いを定めている。大変危険だ。



「つべこべ言ってないで徹底的に調べるんだよ!モタモタすんじゃないよ!!」

「「あ、アイアイサー!!」」



杖を二人に突きつけたままとんでもない剣幕で捲し立てるエイダに、男達は同時に勢いよく背筋を伸ばした。


エイダの双眸は怒りに満ち満ちている。こうなった時の彼女には、逆らってはならない。

彼らパーティーの暗黙のルールである。


スヴェンとヤンは逃げるようにその場から駆け出すと、寝所の奥まで一直線に向かって行った。



「と、とにかく隠し部屋とか探せっ。意地でもなんか見つけねぇと、姐さんの雷が文字通り(・・・・)落ちるぞ!!」

「り、了解っスぅぅぅ!!」



ヒィィィィ…っ、という悲鳴すらあげそうな形相で、ヤンが彫像付近の壁に張り付く。

どこかにスイッチがないか、扉のようなものはないかを探っていく。

それを確認して、スヴェンもヤンとは別の場所を調べ始めた。


とはいえ、そんな都合の良いものが本当にあるとは思えない。

それに魔剣の封印場所という情報も、所詮は誰かの宛推量でしかなく、自分達はそれに踊らされているだけ。

三人の中でも現実的な物の考え方をするスヴェンは、ずっとそう考えていた。


だが、エイダの言うことにも一理はある、とも思っている。

何もないのに強力な封印を幾重にもかける理由など、どこにあると言うのか…。


柱やら壁やらを調べながら、スヴェンは眉を(ひそ)めつつ考える。


しかし、元来犬族という獣人は、知能はあっても考えるという行為が苦手な種族である。

例に漏れずスヴェンも考え事が苦手で、あっさりと解らん…と考え事を投げ捨てた。



「おぎゃあぁぁぁぁあッ!!」

「ッ!?ヤ、ヤン!?」



やめヤメ、と何かを投げ捨てるように右手を振った直後、あらぬ方からヤンの悲鳴が聞こえてきた。


すわ、何事か!?と声が聞こえてきた方を見て、思わず口をあんぐりさせてしまった。



「……マヂであったよ、隠し部屋」



女神像の台座の後ろ。丁度その台座で隠れるサイズの入り口が一つ、ぽっかりと口を開けていた。

ついでに、仰向けに倒れたらしい、ヤンの短い足も辛うじて見える。



「おい、ヤン!大丈夫か……」



一向に立ち上がる気配を見せないヤンに、慌てて駆け寄ったスヴェンの言葉が、しりすぼみに消えていく。


ヤンは仰向けに倒れたまま、首を大きく仰け反らせて部屋の奥を見ている。

そしてスヴェンも、隠し部屋の入り口に立って、見事にアホ面をさらしていた。


そんな二人を、目映い黄金の光が照らす。

あまりの眩しさに、目が眩みそうだった。



「す……すんげぇぇぇぇ…!!お宝!お宝の山っスよ、兄貴!!」

「こりゃ…、マジですげぇ…!!魔剣探しててこんなお宝見つけるなんて…」



二人の視線の先、隠し扉の奥で眠っていたのは、まさに金銀財宝の山だった。


金細工のネックレス、大粒の宝石が散りばめられた王冠、黄金の杯に巨大な彫像。

床を埋め尽くすの大量の金貨に、積み上げられた金のインゴット。

そのどれもが価値の高い代物ばかりだと、素人目にも十分理解でき、男達は歓喜した。

これだけあれば一生遊んで暮らせる…と。


何故、元魔族の軍事拠点であり、信仰のための神殿にこんな財宝の山があるのか。


その点を考えると怪しい財宝に思えてくるのだが、即物的な彼らの頭にそんな疑問は微塵も浮かばない。

何より神殿が何のために建てられ、どのような目的で使われたのか等、彼らは知る由もないのだ。

見たこともない宝の山に、浮かれまくっていた。


しかし、いち早く違和感に気づいたのはスヴェンの方だった。


それは財宝に対して、ではなく、これだけ騒いでいるのに一番金にがめついエイダが来ていない事に、だった。


いつもなら金の匂いを嗅ぎ付けて、あっという間にすっ飛んでくるのに、未だにこちらに来る気配がない。

そればかりか非常に静かで、逆にそれが不気味だった。



「…おい、ヤン、ヤン!」

「ぅいっ!?な、ななな、何スか!?」



少し強めに呼ばれて、ヤンは盛大に動揺しつつ返事をする。

その姿を見たスヴェンは、流石に呆れた。


手が早いと言うか何と言うか…。


頭の上から首元、服の中に鎧の中、腰のベルト、指、手首、ズボンのポケット。

至るところから宝飾品を溢れさせておきながら、振り返りつつ尚も金貨をズボンのポケットに捩じ込んでいる。


流石は欲深な人間。

そんな浅ましい姿で平静を装うヤンに、スヴェンの拳骨が炸裂した。

おかげで少し冷静になれたスヴェンである。



「姐さんの様子がおかしい。これだけ騒いでんのに、宝って言葉に反応がない」



そういったスヴェンの言葉と拳骨で、ヤンも一応の冷静さを取り戻す。

しかし、服の中に隠した財宝を取り出そうとはしなかった。



「とりあえず様子見に行くぞ。お前はそれ全部元に戻しとけ。勝手に手ェつけたなんてあとで姐さんに知られてみろ。どうなるか…」

「は、はははははいぃぃぃぃぃ!!戻すっス!戻しますっス!!雷怖い、生き埋め怖い、水攻め怖い氷漬け怖い!」



そこからのヤンの行動は実に素早かった。


バタバタと慌てて、捩じ込んだ財宝を取り出していく。

慌てていても宝物を放り出さずに、丁寧に置いている辺り、冷静さはあるらしい。


ヤンがここまで慌てるのは、当然理由がある。

彼が怖いと青褪め怯えている事柄は全て、エイダの『お仕置き』によるものだ。


怒り狂ったエイダのお仕置きが、杖(鈍器)でフルボッコならまだ軽い方である。

もっと酷ければ、文字通り雷が落ち穴に落とされ、水に沈められ氷付けにされる。

もっと悪けりゃ火炙りだ。まさに拷問。


それは全て魔術によるもの。

幸い、エイダの魔術は総じて威力が低く、それが大怪我に繋がる事はない。

雷は軽い感電程度だし、氷付けにされても軽い霜焼けが出来るだけ。


だからと言って痛くも苦しくもない訳ではないので、回避できるものならしたいのだ。


斯くして姐さんの調教済みなヤンは、隠した宝を全て戻し終える。

それをきっちり見届けてから、スヴェンは安堵の溜め息を雫して隠し部屋を出た。


エイダの機嫌が最大にまで悪化すると、仕置きの余波が己にも飛んでくるのだ。

スヴェンとしても、やはりそれは御免被るものである。



「姐さーん、あねさーん?」



寝所に戻ってエイダを探す。

壊れた女神像以外目立ったものはないのに、ただ広いだけの場所なのに、見える範囲にエイダの姿はなかった。


柱の影にでもいるのだろうが、それにしては返事もなく足音もしない。


しかし、程なくしてエイダの姿を、予想した通り柱の影で発見する。

が、やはり様子がおかしかった。


地べたにべったりと腰を下ろし、こちらの声に一切耳も傾けず、一心不乱に“何か”を凝視している。

耳を傾けない、というよりは、周りの様子が一切目に入らず、何も聞こえていないようにも見えた。



「姐さん?そんなトコで何してんですか?」

「姐さん、姐さん!!おいら隠し部屋見つけたんっスよ!!すんごいお宝が一杯で……ッ」



興奮気味に報告したヤンの言葉は、途中で息を呑む形で止まる。

思わずヤンの背筋が伸びて、表情が強張ったのは仕方のない事だった。


スヴェンかヤンか、どちらの声に反応したのかは解らない。

何かに完全に意識を奪われていたエイダが、ゆっくりと二人に振り返る。

その表情がいつもと違い感情がなく、無表情なのが非常に不気味だった。



「あ、姐さん…?」

「な、何かあったんっスか……?」



先程の大激怒の様子から一変し、不気味な程静かなエイダは、ややあって笑い出した。



「んふふふふふふふぅ」

「「ひぃっ!?」」



確かに笑った。

それもとてつもなく上機嫌で、何とも気味の悪い声と表情で…。


機嫌が悪いのも恐ろしいが、良いのも不気味で怖い姐さんの笑顔に、弟分二人は揃って悲鳴をあげた。


しかし、エイダの機嫌は上限を突破しているらしい。

化け物でも見たかのような二人の反応を見ても、キレる事なく尚も上機嫌に笑っている。

それはもう不気味な程…。



「ねぇねぇ、これ見てよぉ〜!これぇ〜!!」



その上普段絶対自分達には向けない猫撫で声で言うと、これこれ、と先程まで見ていた方角を指し示す。

その表情は好みの色男を見つけた時並みの、…否、それ以上のデレデレ顔になっていた。


あまりの変わりように若干怯えながらも、二人はエイダが指したものへと目を向ける。

“それ”を見た瞬間、男二人は揃って呆然とした表情で思考が停止した。


“それ”は、お互いに寄り添い合って眠る、白銀と黒銀の髪を持つ二体の美しい人形だった。


長い髪は見ただけで手触りが良い絹糸のようだと解り、光を受けて美しい艶を放っている。


滑らかな曲線を描く頬は柔らかそうで、ほんのりと桃色に色付いてその磁器のように白い肌をより引き立てている。


きゅっと閉じた小さな唇も桃色に彩られ、閉じられた目蓋も長い睫毛で縁取られている。


頭の先から爪先まで、神が丹精込めて作り上げた芸術品のように美麗で、引き込まれるような魅力を持つ、そんな人形だ。


芸術品には疎いスヴェン達でも、その美しさが並大抵の美術品を凌駕するものだと理解出来る。

心を奪われると言うのがどのようなものなのか、彼らは今正にそれを体感していた。


この世のものとは思えない美しい人形を前に、エイダは蕩けるような顔でうっとりした。



「まさかこんな所に、こぉんなにも可愛らしくて美しい人形がある何て思わなかったよ。あぁもう。ホント何て綺麗なんだろうねぇ」



エイダの声で我に返ったのはスヴェンだけだった。


ヤンを見れば、彼もまた地べたに座り込み、食い入るように人形を見つめて無言で頷いている。


二人はすっかり、この双子の人形の虜になっているらしい。

確かに見たこともない美しさと精巧さを持つ人形達には、スヴェンも魅了された。


しかし、獣人族としての、人間は持ち合わせていない感性が、その人形達がただの人形ではないと告げていた。


正直なところ、それが何なのかは残念ながら勘の鋭くないスヴェンには解らない。

もしかしたらこの人形達は、先程見つけた財宝よりも価値の高い代物かも知れない。


解らないまでも、その人形が“普通”でない事は理解出来ていた。



「いやいやいや、姐さんちょっと待って下さいよ。

何かおかしくないですか?大体こんな所に人形がある何て、何か変ッつーか…」

「何言ってんだい、この子達はあたしと出会うためにここにいてくれてたんじゃないか。

ここであたしが来るのを待っててくれてたんだよ!」

「いやそれ、その認識からして間違、痛いっ!!」



上機嫌だろうと陶酔していようと、制裁はかますらしい。

エイダは視線を人形に注いだまま、杖(鈍器)を鋭く突き出す。

正論を言ったスヴェンの脛を強襲した。



「長い事待たせてごめんねぇ。でも、もう大丈夫だよ。これからはずーっと一緒だからねぇ」



勇猛な豪傑でも泣いてしまう場所を強打されて悶絶する弟分を余所に、エイダは猫撫で声全開で人形に語りかける。

「ぐおおぉぉぉ…」という呻き声も丸っと無視だ。


人形に見蕩れていたヤンも我に返り、顔を蒼褪めさせる程の、無情な所業であった。



「ちっくしょおぉぉぉぉぉぉ!!仕える人、間違えたぁぁぁぁぁぁあ!!」



本日六回目となる口癖には、絶叫と豪泣が加算されたのだった…。




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