百合という名の少女
私、どうしたらよかったんだろう。
呆然と道を歩きながら自分の人生を振り返った。
親からは愛されずに育った。
香水とタバコの匂いがする部屋で、あんたのせいで、あんたなんか生まれなければ、が口癖だった母親から。痛みと恐怖を教えられた。
私の唯一の楽しみはテレビから垂れ流されている。
音楽を聴くこと。
それを聴いている時だけは痛みも悲しみも忘れられる気がした。
母親の育児放棄が発覚してから、私は遠い親戚の家に預けられることとなった。
母方の親戚と言うこともあり身構えていたのだが、予想は良い方に裏切られた。
「いらっしゃい、もう大丈夫だよ」
そう声をかけてくれた時は自然と涙が溢れた。
それと同時にこんな感情が自分にあったのかとも驚いたのを今でも覚えている。
それからは本当に夢のような生活を送った。
ある時、私はテレビで流れていた懐かしい曲をふと口ずさんだ。
「まぁ!百合ちゃん歌上手ね。おばさんなんだか感動しちゃった。」
母はそう言って微笑む。
「その曲ね、おばさんも大好きなのよ。歌っている人は急にどこかへ行ってしまったんだけどね。記憶には残るのね。ふふ、なんだか百合ちゃん歌い方もそっくり。将来は歌手かしら」
「歌手?」
「ええ、皆の前で歌ったりする人よ」
「それになったらお母さんは嬉しい?」
「そうね、百合ちゃんの歌が聞けるのはすごく嬉しいわ」
「じゃあ歌手になる!」
きっかけは母に褒めてもらったことだが、元来私は歌を聴くことが好きだったため、成長するにつれ私はより一層歌手になりたいという思いが強くなっていった。
「お前、歌手になれると思うよ。根拠もなんもないけど」
幼馴染の啓太はそう呟いた。
「え?」
「なんか、なれそうってより、なれるって気がするんだよな」
「何それ」
「まあ、歌手になれたら俺が隣でギター引いてやるよ」
そしてそれは二年後現実となる。
私たちが路上で歌っていたのを応援してくれていた子がネットにアップしそれがバズって各方面の人から認知されるようになった。
それが事務所やらお偉いさんやらの目に入り私たちはデビューすることになった。
「、、、え?いまなんて?」
喉に違和感を覚えて病院を受診することにした。
「、、、ですから、喉に腫瘍があって今取り除かないと転移して命に関わることも。」
「でも、声を出せなくなるって、、」
「声帯が近いので、その可能性は高いと言うことです。もちろん我々も全力を尽くしますが、、」
その後の言葉は続かなかった。いや、私が聞こえなかっただけかもしれない。
歌手になりたくて、やっとその夢が叶って。そうしたらこれか。
私の人生ってなんなんだろう。
空が返事をするように雨を降らせ雷鳴まで轟かせる。
「はっ、ははは。ははははっ!、、ぐすっ」
両親にはなんと言ったものか、心配してくれるだろうか。優しい二人だきっとしてくれるだろう。
でも私如きが一丁前にそんなものをかけて良いのか。
もううろ覚えの、産みの親の顔が頭に浮かぶ。
「あんたなんか産まれなければ」
あぁ、そうだ。いっそ私なんて生まれなければ。
そう思わずにはいられなかった。
ピカッと一面真っ白になる。
考える暇もなく身体が痺れた。
そして私は意識を失った。




