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石の記憶 過去編 由紀ちゃんの旅路 後編

由紀ちゃんの旅路 後編

神戸の一店舗目には、水入り水晶はなかった。

透明度の高いポイントや、小さなクラスターは並んでいる。

けれど、由紀が探している“あの石”は見つからない。

二店舗目も同じだった。

少し疲れ始めた頃、店員が思い出したように言った。

「あと一店舗ありますよ。山の方ですけど」

山?

由紀は少し不思議に思った。

神戸といえば海の街、という印象しかなかったからだ。

教えられた駅へ向かい、初めて神戸の地下鉄へ乗る。

電車は街を抜け、ゆっくり山側へ向かっていく。

窓の外には住宅街が広がっていた。

「神戸って、こんな感じなんだ」

由紀はぼんやり思った。

須磨区。

海のイメージしかなかった場所に、坂道と団地が続いている。

地下鉄を降り、坂を登る。

その先に、小さなショッピングセンターがあった。

少し古い建物だった。

食品売り場。

薬局。

衣料品店。

その一角に、鉱物屋は静かに入っていた。

店へ入った瞬間、由紀は少し驚く。

水晶がごろごろ置かれている。

ヒマラヤ水晶。

クラスター。

ポイント。

磨き石。

その頃はまだ、ヒマラヤ水晶も今ほど特別な扱いではなかった。

小さなポイントなら百円で買える時代ですらあった。

店の棚には、

「マスタークリスタル」 「レコードキーパー」

なんて名前を書かれた石も並んでいる。

宝探しみたいに、自分だけの一本を探す人達がいた時代だった。

アクセサリーは、その間に点々と置かれていた。

今みたいに、

“天然石ブレスレット専門店”

という空気ではない。

石そのものを扱う店だった。

店の隅には、お香や風水グッズ。

小さな天球。

オカルト雑貨まで混ざっている。

神秘と鉱物と雑貨が、まだ全部一緒に並んでいた。

由紀はしばらく店内を歩いた。

けれど、探していた水入り水晶は見つからない。

少し肩を落としながらアクセサリーケースを眺めていた時だった。

ひとつだけ、妙に形の違う石が目に入る。

ルチルクォーツ。

ケースの中で半分しか見えない。

なのに、それだけ妙に気になった。

当時、ルチルは今ほど高価な石ではなかった。

「何か入ってる水晶」

くらいの扱いだった。

由紀はそのペンダントを取り出してもらう。

透明な水晶の中に、細い緑色のものが入っていた。

苔みたいだ、と由紀は思った。

それが何なのか、その時は知らなかった。

ただ、

「なんか変わってる」

と思った。

結局、由紀はその石を買った。

帰りの地下鉄で、何度も光に透かしてみる。

緑色は、光の加減で少し揺れて見えた。

数日後。

由紀は駅前の風水系の店へ入った。

龍の置物。

中国茶。

開運グッズ。

そんなものが並ぶ店だった。

商品を見ていた店員が、ふと由紀の胸元を見る。

「あれ?」

もう一人の店員も近づいてきた。

「それ、ちょっと見せてもらっていいですか?」

由紀は少し驚きながらペンダントを外した。

店員達は小声で何か話している。

その奥から、華僑らしい店長が出てきた。

石を覗き込み、少したどたどしい日本語で言った。

「コレ、グリーンルチルネ。珍シイヨ」

由紀は思わず、

「えっ?」

と声を漏らした。

初めて、自分の石に名前があることを知った。

けれど、それで人生が変わるわけではない。

不思議な力が宿ることもなかった。

ただ時々、由紀は思い出す。

神戸の地下鉄。

坂道の街。

小さなショッピングセンター。

そして、水晶がごろごろ並ぶ店の片隅で見つけた、あの緑色の石を。

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