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石の記憶 過去編 由紀ちゃんの旅路 前編


2000年代の初め頃だった。

雑誌では、少しずつパワーストーン特集が増え始めていた。

東京には新しい天然石ショップができ、

原宿や渋谷の店が誌面に載る。

ヒーリング。

癒し。

開運。

そんな言葉と一緒に、水晶やルチルクォーツの写真が並んでいた。

けれど由紀からすれば、それは少し遠い世界の話だった。

大阪や神戸にも石屋はある。

だが、今みたいに駅前へ何軒も並んでいるわけではない。

鉱物屋。

風水系の店。

雑貨屋の一角。

まだそんな時代だった。

由紀が水入り水晶を見つけたのは、大阪の小さな鉱物屋だった。

雑居ビルの二階。

細い階段を上がった先に店はある。

扉を開けると、少し冷たい空気と石の匂いがした。

水晶のポイント。

ヒマラヤ産のクラスター。

磨き石。

小さな天球。

アクセサリーもあるが、今みたいにブレスレットばかりではない。

ペンダントや置物の方が多かった。

店の奥には、お香やオカルト雑貨まで並んでいる。

まだパワーストーンが、アクセサリーと神秘の間にいた時代だった。

由紀はガラスケースの中で、その石を見つけた。

透明な水晶。

その中に、小さな気泡が浮かんで見える。

角度を変えると、気泡がゆっくり動いた。

「水、入ってる……」

思わず声が漏れた。

本当にこんな石があるんだ、と由紀は少し感動した。

欲しかった。

けれど、当時の由紀には少し高かった。

数千円。

今ならもっと高いのかもしれない。

それでも当時は、簡単に買える値段ではなかった。

由紀はしばらく迷い、

「また今度にしよう」

と思って店を出た。

だが帰宅してからも、水入り水晶が頭から離れなかった。

気泡の揺れ方まで覚えている。

数日後、やはり忘れられず店へ戻った。

けれど、水入り水晶はもうなかった。

売れてしまったのだ。

由紀は思った以上に落ち込んだ。

たかが石なのに、と自分でも思う。

それでも、一度逃したものは妙に記憶へ残る。

店員へ聞くと、

「神戸の系列店なら、似たのあるかもしれませんよ」

と言われた。

しかも二店舗あるらしい。

由紀は少し迷ったあと、

「行ってみようかな」

と思った。

その頃の神戸は、震災から立ち直り、新しい街へ変わろうとしている時代だった。

綺麗になった駅。

新しい建物。

その一方で、昔ながらの商店街や古いショッピングセンターもまだ残っている。

その混ざり方が、どこか神戸らしかった。

休日、由紀は電車へ乗った。

小さな旅みたいな気分だった。

雑誌で見る東京とは違う。

大阪や神戸は、まだ“石の街”ではなかった。

だからこそ、店を探して歩くしかない。

それが少し楽しかった。

由紀ちゃんはどうなるんでしょう

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