第三十八話「自分に出来る事を」
【10月6日 火曜日】
渕上はベッドの上で眠っていたがゆっくりと目を覚ますと身体を起こした。狭いながらも個室の部屋はベッドとフックとトイレしかなかった。そんな狭い部屋でパイロットスーツを着用した渕上はベッドに座ると手記を開いた。
【〇四二五
机すら無い個室で手記を書く事になるとはな....
あの後イータは来なかった。今は加瀬少尉と今野隊長が見張りに付いている筈だ。
このまま何事も無く、と言うのは難しいだろう。
だがやれるのは俺達だけだ。さっきの戦闘で改めて思ったがアメリカはアテにならん。自分達日本の力で乗り切るしか無い。
さっ、飯食って加瀬少尉と交代しよう】
手記はパイロットスーツのポケットに収めた渕上はアーマードベスト等を着用するとヘルメットを手にしたのち部屋から出て行った。
部屋から出て廊下を暫く歩いた渕上は後ろから声を掛けられた。
「渕上さーん」
「あっ、雨宮さん」
「渕上さんもご飯ですか」
「はい。加瀬少尉と交代する前に」
「なら、私もご一緒して良いですか?」
(まっ、断る理由も無いし良いか)
「良いですよ」
「やった!」
妙に喜ぶ雨宮を見て渕上は軽くハテナを浮かべると食堂へ入った。配膳員から糧食を受け取った渕上と雨宮は机にトレーを置き、椅子に座った。
「いただきます」
「いただきまーす♪」
妙にテンションの高い雨宮。渕上は相変わらずハテナだった。
(あ〜、渕上さんと一緒にご飯食べられるだけでこんなに幸せなんだな〜。・・・気持ち、伝えなきゃな)
雨宮は笑顔で糧食を食べ続けた。渕上は一旦箸を置くと雨宮にとある疑問をぶつけた。
「なぁ、どうしたらそんなに笑顔で居られるんだ?」
「え?」
「いつ敵が現れるか分からないこの現状で、なんでそんなに笑って居られる?」
「渕上さんだって、昨日コクピット内で鼻歌歌ってたじゃないですか」
「なんて言うかな〜、今とそれとは違うんだよ」
「と、言うと?」
「コクピット内では、敵に備えていつでも動ける様になってるから良いんだよ。でも今は違う。下手すれば機体に乗る前に御陀仏だ」
「あ〜....」
雨宮は返答に困った。それに追い討ちを掛ける様に渕上は言葉を続けた。
「アメリカ軍は宛にならない。自分達で切り抜けるしかない。そんな状況で何故笑ってられる?」
「それは....」
雨宮は一旦箸を置いた。
「渕上さんと一緒だからです」
「え?」
「安心出来る人と一緒に居たら、そりゃ笑顔にもなりますよ」
「俺がか?」
「はい」
渕上は思わず苦笑いを浮かべた。
「・・・変な話題降って悪かったな。食べよう」
「はい」
※
その頃日本では、
「またタイムがよくなってるな。新しいセッティングに、慣れてきたってところか?」
柊木はホログラムストップウォッチを見ながらサーキットを走る姫浦のロードスターを見つめた。
「キレがいいんですよね。衣奈さんは」
「“チームデミオのロードスターはドリフト”。そんな常識を壊してくれる様なブレーキングとグリップ走行だよ」
「総一郎さんとは違った意味で人を魅了するものがありますよね」
柊木と洲崎はそんな事を話しながら姫浦の運転するロードスターを見つめた。
「・・・」
ブレーキペダルをリリースして、アクセルを踏み込む姫浦。その表情は渕上には見せた事のないものでキレがあり、鋭いものだった。
(やって行くんだ。自分に出来る事を。一つ一つクリアして行くんだ。私の課題を。このロードスターで)
“自分に出来る事をやる”。そんな心情を抱えながら姫浦はコーナーを攻めた。
最終コーナーを立ち上がり、ストレートを攻め、ゴールした姫浦はコースから外れ、車を停めると、ロードスターから降りた。
「いい感じだわ。踏める」
「タイムもいい感じになってきたな。これなら、明後日のグループデルタも問題ないだろう」
「はい!」
「衣奈さん、お疲れ様です」
姫浦は洲崎からボトルを受け取るとヘルメットを外したのち、中身を数口飲んだ。
「セッティング変えてから不安だったけど、こっちの方が私好みかも」
「それはよかったです」
姫浦はロードスターの屋根にゆっくり手を置くとそっと撫でた。
※
関東は平和でも、中部は平和ではなかった。
鳥海は今日も翔鶴改を操り、日本海側から迫るイータ人型機動兵器群を迎え撃って居た。
鳥海にとっては単調な作業だった。左手に構えるラーミナメイスブレイドでコクピットを損傷させ、右手に構えるラーミナメイスブレイドでコクピットを突き潰す。それでも生きてるなら腕部170ミリ単発砲を至近距離で撃ち込む。鳥海にとって、戦闘は作業に近かった。なんの躊躇もなく撃ってくる奴を殺る。躊躇したらどうなるか、それを一番よく知っているのは鳥海でもあった。
「・・・」
目の色一つ変えず、表情一つ変えずに次々と撃ち落として行く鳥海。そんな鳥海機の元に1機のイータ隊長機が殴り掛かった。
鳥海機は隊長機のラーミナビームブレイドをラーミナメイスブレイドで受け止めると隊長機を蹴り飛ばしたのち腕部170ミリ単発砲を撃ちながら距離を詰めると両肩を3回ずつ殴ったのち腕部170ミリ単発砲でコクピットを破壊した。
イータは悟った。“隊長クラスすら瞬殺する此奴は化け物だ”と。
そんな事も知らない鳥海は次の標的を捉えると腕部170ミリ単発砲を撃ちながら距離を詰めるとラーミナメイスブレイドで殴り掛かった。
その頃、1機の矢矧改が戦場に殴り込んで来た。ラーミナツインレールガンからレールガンを撃ち、ラーミナソードの刃を展開し、ソードモードにした機体は、次々とイータ人型機動兵器を斬り裂きながら鳥海機に向かって突っ込んだ。
「諏訪部か」
『援護する』
「じゃあお願い」
鳥海は上唇を軽く舐めると操縦桿を動かし、イータ人型機動兵器群に突っ込んだ。
イータは思った。“此奴には勝てない”と。
イータは撤退を始めた。
「逃す訳ないだろ」
鳥海はすぐさま追撃した。だがお決まりの台詞が鳥海の耳に入り込んだ。
『追うな鳥海。追撃は禁止』
「・・・」
鳥海は機体の前進を止めると機体を反転させ、引き返した。
『俺、来た意味なかったかもな』
諏訪部は悔し紛れに吐き捨てる様にそう言った。
※
日本海側が撤退をしても、太平洋側はまだ撤退してなかった。
神尾率いる第三守備隊も、中々退かないイータ相手に苛立ちを覚え始めた。
「日本海側は撤退したのに、こっちはしぶといな〜」
呟く様にそう言った神尾はラーミナツインビームサブマシンガンのトリガーを引いた。
『良い加減、撤退して欲しいですね』
六角はそう言うとラーミナツインビームサブマシンガンを撃ちまくった。
「隊長機さえ潰せば退く筈だ。と、言いつつも、隊長が見当たらないがな」
神尾はラーミナツインビームサブマシンガンでイータ人型機動兵器を蜂の巣にしながら隊長機を探した。
『隊長機を探すより、打撃を与えた方が早そうな気もしますね』
岩動からの発言を聞いた神尾は表情を鋭くすると考えた。何が最適か、何が最善か。それは瞬時に考えなければならない事だった。
「虹羽田・片岡、俺の側に付け。敵を倒しながら隊長機を探す。他は岩動の指揮のもと、敵を潰せ。石堂、狙撃しながらで良いから隊長機を探せ」
『了解』
『了解です』
『了解』
『了解した』
神尾機は機動力を武器にラーミナツインビームサブマシンガンを撃ちながら只管立ち回った。
『隊長機らしき機影を確認。神尾隊長、近いです』
神崎からの通信を聞いた神尾は微かに口角を挙げた。
その間にも岩動機はラーミナソードで次々とイータ人型機動兵器を斬り裂いて行った。周囲のイータの数が減ると100ミリロングレンジマシンガンでイータ人型機動兵器のコクピットを撃ち抜いた。
一方の神尾は神崎がスポットした対象を見つけた。
「護るって事は、あいつか」
神尾機はラーミナツインビームサブマシンガンをホルスターにしまい、ラーミナビームブレイドを抜刀したのちホルスターから100ミリサブマシンガンを引き抜き左手に構えるとそれを撃ちながら隊長機に迫った。
すると虹羽田機が肩部マイクロミサイルランチャーを一斉射すると大型スパイクシールドでイータ人型機動兵器を押し飛ばした。
『こっちは抑えます。隊長機を』
「了解だ」
神尾機は100ミリサブマシンガンを撃ちながらイータ隊長機と距離を詰めるとラーミナビームブレイドを振り下ろした。イータ隊長機もラーミナビームブレイドを引き抜くと神尾機の斬撃を受け止めた。
「・・・」
神尾機は鍔迫り合い状態で100ミリサブマシンガンの銃口をイータ隊長機に向けた。するとイータ隊長機はライフルを捨て、開いた手でラーミナビームブレイドを引き抜くと神尾機の100ミリサブマシンガンを斬り裂いた。
「ッ」
破損した100ミリサブマシンガンを投げ捨てながら後ろに下がった神尾機は左手でラーミナビームブレイドを抜刀し、二刀流の構えを取るとイータ隊長機に斬り掛かった。
ぶつかり合うラーミナビームブレイドとラーミナビームブレイド。一進一退が続く中、石堂機の放ったラーミナビームがイータ隊長機の左腕を吹き飛ばした。神尾はその隙を見逃さなかった。神尾機は左手に構えるラーミナビームブレイドでイータ隊長機の頭部ユニットを斬り飛ばすと右手に構えるラーミナビームブレイドでコクピットを貫いた。
「石堂、ナイス援護だ」
『ありがとうございます』
隊長機を失ったのと、岩動らの攻撃で、打撃を受けたイータは撤退を始めた。
「全機追撃は禁止。・・・帰ろう」
※
〜北大西洋〜
交代して2時間がたった頃、渕上は静かに目を開いたのちライフル型コントローラーを構えた。
(中井さんは機内で瞑想中か。多分まだ気が付いてないな)
『・・・来るか?』
(おっ、気が付いた)
『北より敵機接近。数60』
「おいでなすったな〜」
渕上はライフル型コントローラーで目標を捉えるとトリガーを引いた。目標手前で拡散したラーミナビームは一気に8機のイータ人型機動兵器を撃墜した。続けて渕上はトリガーを引き、8機のイータ人型機動兵器を撃墜した。するとイータは編隊飛行を辞め、散開した。
渕上はビームを収束に切り替えるとそのまま狙撃した。
(行けるか)
「“デミオイェーガー”」
ヴェヒターが朱色の光に包まれると渕上は表情を鋭くした。
「パド。全ラーミナエネルギーをライフルに。ラーミナをケチるな」
「リョーカイ・リョーカイ」
ヴェヒターが構えるアルファモデルチューン型ラーミナビームスナイパーライフルIIから放たれるラーミナビームの色が変わった。すると変色したラーミナビームは4機のイータ人型機動兵器を貫いた。
(予想通りだ。あとはライフルとラーミナドライブ次第だな)
射速・貫通力の上がったラーミナビームで次々とイータ人型機動兵器を仕留める渕上。イータは射程圏内に入る前に殲滅された。
「デミオイェーガー、解除」
渕上はデミオイェーガーを解除したのち背凭れに寄り掛かった。
『こうなって来ると、敵は海中から攻めて来るだろうな』
「一番厄介なのは、海中を使って俺達を迂回し、輸送船団を襲撃するってところですね」
『そこまで頭の回る連中ではない事を祈るよ』
中井の発言を前に渕上は苦笑いを浮かべた。
「まっ、俺達は自分に出来る事をやるだけ、ですよ」
『だな』
中井はシートベルトを外すと再び坐禅を組み、瞑想を始めた。渕上は背凭れに寄り掛かると長めに息を吐いた。
数分後、
『ソナーに感!スラスター音多数』
(早いな。もう来たか)
渕上はライフル型コントローラーを構えるとイータ人型機動兵器を海中越しに捉えるとトリガーを引いた。するとイータ人型機動兵器は海中で1機爆散したのを合図にする様に無数のイータ人型機動兵器が海中から飛び出した。
「多過ぎる。捌きキレねぇ」
『俺が行く』
中井機はスラスターを吹かし、甲板上から飛び上がるとイータ人型機動兵器群の中に突っ込んだ。
「狙撃じゃ埒があかねぇ」
渕上はライフル型コントローラーを格納すると操縦桿を握った。アルファモデルチューン型ラーミナビームスナイパーライフルIIを甲板上に置いた渕上機はライフルモードのデルタモデルラーミナビームスナイパーライフルIIを構えると甲板上から中井機を援護する様に射撃した。
するとそこへ加瀬機が起動。甲板上から飛び上がると中井機を狙うイータ人型機動兵器を大型ラーミナツインレールガンのレールガンで撃墜したのちラーミナソードを構えるとイータ人型機動兵器群に突っ込んだ。
(さっきの襲撃後、すぐ来ると思って備えていたかいがあったぜ)
そう思いながら加瀬機は次々とイータ人型機動兵器を斬り裂いていった。
(中井と加瀬の連携力は高い。此処は突っ込まず、支援に徹しよう)
渕上はそう思いながらトリガーを引いた。
するとそこへ倉又と風間がやって来た。
『ソナーに感!我が艦の真下を、イータ人型機動兵器が複数通過!』
「倉又!風間!」
『『了解!』』
倉又機と風間機は甲板上から飛び立つと信長の真下を通過したイータ人型機動兵器群を追尾。海中から飛び出したところを迎え撃った。
『なんとか輸送船に近付く前に顔を出してくれましたね』
『一気に撃ち落とすわよ』
『渕上。こっちは良い。突破した方を頼む』
「了解だ」
渕上機は180度回頭するとスラスターを吹かして飛び上がると倉又機・風間機と交戦するイータ人型機動兵器群の背後を突いた。
風間機は100ミリロングレンジマシンガンをバースト射撃すると次々とイータ人型機動兵器のコクピットを撃ち抜き、確実に潰した。数はそんなに多くない為、渕上機が本格的な交戦を始める前にイータ人型機動兵器は殲滅された。
(残すは、)
その頃、中井機はイータ人型機動兵器のコクピットを貫くと後ろを振り向くと同時にイータ人型機動兵器の頭部ユニットを斬り飛ばし、コクピットを貫いた。ラーミナ太刀の機動力を生かした素早い攻撃で確実にイータ人型機動兵器を撃墜する中、加瀬機はイータ人型機動兵器を次々と上下真っ二つに斬り裂きながら大型ラーミナツインレールガンのラーミナビームマシンガンでイータ人型機動兵器を穴だらけにした。
「ッ!」
加瀬機は振り向くと同時に大型ラーミナツインレールガン下部のスパイクブレイドでイータ人型機動兵器の胴体部を殴るとそれを蹴り飛ばしたのちラーミナビームマシンガンで蜂の巣にした。
2人の連携を前にイータ人型機動兵器は、殲滅された。
「流石は加瀬と中井だな」
渕上はそう呟くと長めに息を吐いた。
それで終わりかの様に思われたが、
『レーダーに感。北よりおよそ80機接近』
『ソナーに感。海中を多数のイータ人型機動兵器が侵攻中』
「今回はしぶといな」
『これは持久戦になりそうですね』
渕上は微かに操縦桿を強く握った。




